公開日:2024/11/08
「プレゼンティーズム」という言葉をご存知でしょうか。
プレゼンティーズムとは、出勤しているにもかかわらず、体調不良や精神的な問題により、生産性が著しく低下している状態を指します。実は、プレゼンティーズムは企業と従業員双方にとって大きな損失をもたらす深刻な問題なのです。
本記事では、プレゼンティーズムの定義や現状、具体的な例を挙げながら、アブセンティーズムとの違いをわかりやすく解説します。そして、プレゼンティーズムによって企業と従業員が被る損失を明らかにします。プレゼンティーズムの発生原因から、企業と従業員それぞれがとるべき対策もご紹介します。
生産性向上やウェルビーイング経営に関心のある方はぜひ本記事をお役立てください。
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プレゼンティーズム(presenteeism)とは、調子が悪く本来であれば休むべき状態であるにもかかわらず、出勤して仕事をすることを指します。疾病就業(working while sick)と言われることもあります。
病気やけが、精神的な不調を抱えているにもかかわらず職場にいる状態を指し、生産性の低下や健康状態のさらなる悪化につながる可能性があります。体調不良でも出勤している状態をイメージするとわかりやすいでしょう。
プレゼンティーズムは、従業員が心身の不調を抱えながらも職場に出勤し、業務を続ける状態です。明確な定義は確立されていませんが、一般的には以下のいずれかの状態が含まれます。
上記のような状態では体力・判断力の低下をきたしやすく、無理に働き続けることで業務のスピード・精度ともに低下するリスクを抱えていると言えます。
プレゼンティーズムの具体例をいくつか紹介します。
状態 | 例 |
---|---|
病気やけが | 高熱があるにもかかわらず出勤する、強い痛みや処置を要する負傷があるにもかかわらず出勤する |
精神的な不調 | 強い不安や抑うつ感を感じているにもかかわらず出勤する、不眠症で睡眠不足の状態でも出勤する |
慢性的な疲労やストレス | 過労で疲労が蓄積しているにもかかわらず出勤する、職場の人間関係にストレスを感じているにもかかわらず出勤する |
これらの例以外にも、さまざまな状況がプレゼンティーズムに該当する可能性があります。
重要なのは、客観的な症状の重さだけでなく、従業員が心身の不調を悪化させ、本人や周囲の生産性を低下させる可能性がある状態で業務を続けているかどうかです。風邪のような軽度の体調不良でも、無理をして出勤することで症状が悪化したり、周囲に感染を広げたりする可能性があるため、プレゼンティーズムのひとつと考えることもできます。また、精神的な不調を抱えている場合、無理に出勤することで症状が悪化し、より深刻な状態に陥る可能性も懸念されます。
一人ひとりが自身の体調と向き合い、適切な判断をすることと職場内での配慮が重要です。
プレゼンティーズムと対比されることが多い「アブセンティーズム」について確認しましょう。
アブセンティーズム(absenteeism)とは、従業員が心身の不調により出勤できず、業務を行えない状態を指します。欠勤や休職に加え、不調による遅刻や早退も含まれます。
プレゼンティーズムとアブセンティーズムは外観上「出勤しているかどうか」が大きな違いですが、いずれも企業にとって生産性低下の要因となり、密接に関係しています。両者を比較してみましょう。
項目 | プレゼンティーズム | アブセンティーズム |
---|---|---|
状態 | 体調不良でも出勤している | 出勤していない |
可視性 |
・体調不良の訴えがなければ見えにくい ・業務上のエラーやミス、明確な遅延がなければ気づかれにくい |
・休んでいる状態が目に見える ・客観的にマンパワーの不足がわかる |
影響 |
・生産性低下 ・周囲への感染リスク ・本人の健康悪化 ・周囲への間接的な影響 など |
・業務の遅延 ・人手不足 |
対策 |
・休暇取得の推奨 ・労働環境改善 ・メンタルヘルス対策 ・セルフケア |
・勤怠管理の徹底 ・原因究明 ・早期対応 ・プレゼンティーズムの予防・改善 |
プレゼンティーズムは表面化しにくいため、問題の発見と対策が難しいという特徴があります。一方、アブセンティーズムは欠勤という形で目に見えるものであり、マンパワーの不足などに対応せざるを得ない状況です。
具体例で考えてみましょう。
【例:腹痛や食欲低下があるAさん】
ここのところ腹痛や食欲低下の自覚があるが、なんとか毎日出勤している。
<プレゼンティーズム>
▼
お腹が痛いので、集中力が続かない。しかし、期限の迫った仕事があるので気が抜けない。本調子ではないのでなかなか業務が進まないが、ミスが起きないか心配で、確認に時間がかかってしまった。残業をして間に合わせよう。
<潜在的な生産性低下>
▼
今回の締め切りには間に合ったが、体調は悪いままだ。締め切り直前までかかったために次の仕事に取り掛かるのが遅くなった。微熱があるが、まだ気が抜けない。明日もたくさん業務をこなさなければならない。
<体調不良の進行>
▼
上司に質問をされたが、体調も悪く不機嫌な返答をしてしまった。締め切りのために待たせてしまった業務の催促もされている。周囲からの風当たりがきつくなった。
<周囲への間接的な影響>
▼
腹痛が激しく、トイレから出られない。仕事を休むしかない。
<アブセンティーズム>
▼
Aさんが休んでいるので、他のメンバーで業務を分担することになった。
<人手不足・業務の遅延>
急な事故や負傷が起きることもありますが、多くの場合体調不良の初期にはプレゼンティーズムが起き、プレゼンティーズムの状態が続くことでアブセンティーズムに陥ると考えられます。最悪の場合、離職につながる場合もあります。
生産性の高い組織をつくるためには、プレゼンティーズムにいち早く気づいて対処することや、プレゼンティーズムを予防することが企業に求められています。
【関連記事:使用者側弁護士が解説!人事労務担当者が現場で抱える社員のメンタルヘルス問題と実務対応 第1回<休職前対応>新入社員が欠勤しがちになった。】
プレゼンティーズムを客観的に把握するためには、適切な方法を用いて測定してみることが重要です。測定方法として以下の6つがよく知られています。
日本においてよく用いられているSPQ(東大1項目版)について、さらにくわしく見てみましょう。SPQ(東大1項目版)は、以下のような質問に答えることでプレゼンティーズムを測定します。
病気やけががないときに発揮できる仕事の出来を100%として、過去4週間の自身の仕事を評価してください。
このような質問に対する回答から、従業員のプレゼンティーズムの状態を把握することができます。自己評価であるものの数値で表現されるためわかりやすく、簡便な方法です。
ストレスチェックツール「ORIZIN」では、年1回のストレスチェックの機会を活用してプレゼンティーズムの測定・把握が可能です。くわしい資料をお配りしております。
プレゼンティーズムは、企業と従業員双方に深刻な損失をもたらします。目に見えにくい損失だからこそ、その影響を正しく理解し、対策を講じる必要があります。
企業にとって、プレゼンティーズムは生産性低下、医療費増加、組織全体の士気低下など、さまざまな形で損失をもたらします。
【生産性の低下】
体調不良を抱えながら働くことで、集中力の低下やミス増加につながり、生産性が低下します。また、周囲の従業員への感染リスクも高まり、さらなる生産性低下を招く可能性があります。結果として、企業全体の業績悪化につながるおそれがあります。
【医療費の増加】
プレゼンティーズムは、従業員の健康状態を悪化させる可能性があり、結果として医療費の増加につながります。健康保険組合への負担が増加するだけでなく、企業が負担する健康診断や医療費補助などの福利厚生に関する費用も増加する可能性があります。
【組織全体の士気低下】
体調不良の従業員が無理して出社することで、周囲の従業員に負担がかかり、士気が低下する可能性があります。また、「体調が悪くても出社しなければならない」という雰囲気が蔓延すると、より深刻なプレゼンティーズムを招く悪循環に陥る可能性があります。
従業員にとって、プレゼンティーズムは健康状態の悪化、キャリアへの悪影響、私生活への影響など、さまざまな損失をもたらします。
【健康状態の悪化】
無理して出勤することで体調が悪化し、さまざまな不調を引き起こす可能性があります。初期の段階で適切な休息をとらずに働き続けると症状が悪化し、長期的な療養が必要になる場合もあります。
【キャリアへの悪影響】
体調不良により、仕事のパフォーマンスが低下し、評価に悪影響を及ぼす可能性があります。昇進や昇給の機会を逃したり、最悪の場合、解雇につながったりする可能性も否定できません。
【私生活への影響】
体調不良は、私生活にも影響を及ぼします。家族や友人との時間を楽しめなくなったり、趣味に取り組むことができなくなるなど、生活の質が低下する可能性があります。
従業員の健康状態の悪化やモチベーションの低下は、結果的に企業の生産性低下や業績悪化につながります。企業は、従業員の損失を自社の損失と捉え、プレゼンティーズム対策に積極的に取り組む必要があります。
プレゼンティーズムはさまざまな要因が複雑に絡み合って発生します。大きくは企業側の問題と従業員側の問題に分けられますが、多くの場合、これらの要因が相互に影響し合っています。
長時間労働はプレゼンティーズムの大きな要因の一つです。
長時間労働を強いられることで、従業員は十分な休息をとることができず、体調不良を抱えながらも出社せざるを得ない状況に陥ります。また、慢性的な疲労は集中力の低下やミスを誘発し、結果的に生産性の低下にもつながります。
休暇を取得しづらい企業風土もプレゼンティーズムを助長します。
有給休暇を取得しづらい雰囲気や、休暇を取得することへの罪悪感などが、体調不良でも出社せざるを得ない状況を生み出します。十分な休養がとれないことで、心身ともに疲弊し、結果的にパフォーマンスの低下につながります。
極端に成果のみを重視する評価制度は、従業員に過度なプレッシャーを与え、体調不良でも出社せざるを得ない状況を生み出す場合があります。
成果が出なければ評価が下がるという不安から、無理をして出社し、結果的に健康を損なうケースも少なくありません。
職場の人間関係の悪化もプレゼンティーズムの要因となります。同僚とのコミュニケーション不足や上司・顧客からの圧力などは、精神的なストレスとなり、体調不良を引き起こす可能性があります。また、職場に相談できる相手がいない場合、ひとりで問題を抱え込み、状況が悪化するケースも考えられます。
パワーハラスメントやセクシャルハラスメントなどのハラスメントは、従業員の精神的な健康を著しく損ない、プレゼンティーズムの大きな要因となります。
ハラスメントを受けた従業員は、出社すること自体に強い抵抗を感じ、心身に不調をきたす可能性があります。
プレゼンティーズムが起きやすい要因は組織の体制や風土以外にも存在します。
一時的な業務量の増減や急激な変化、災害・市場変動などの外部環境に加え、一人ひとりの従業員の性格・特性や従業員間の人間関係もプレゼンティーズムの発生要因になることがあります。
以下、プレゼンティーズムの発生要因の例を企業側・従業員側に分けて見てみましょう。
企業側の要因 | 従業員側の要因 |
---|---|
長時間労働の常態化 | 真面目すぎる性格 |
休暇取得の難しさ | 責任感の強さ |
過度な成果主義 | 他者への配慮 |
職場環境の悪化 | 現状を変えられないという諦め |
ハラスメント | 助けを求めることが苦手 |
これらの要因が複雑に絡み合い、プレゼンティーズムを発生させます。
職場と従業員がともに問題意識を持ち、改善に取り組むことが重要です。
プレゼンティーズムの対策は、企業と従業員が協力して行うことが重要です。企業は職場環境の改善に努め、従業員は自身の健康管理を適切に行う必要があります。
企業側は、以下の対策を実施することで、プレゼンティーズムを予防・改善し、生産性向上や従業員の健康維持をサポートしましょう。
長時間労働はプレゼンティーズムの大きな要因の一つです。労働時間の適切な管理は、従業員の健康と生産性を守るうえで不可欠です。具体的には、以下の対策が有効です。
労働時間については、定例のチェックを取り入れることでハイリスクな状況を早期発見しやすくなります。残業時間や出退勤の時間の推移・変動を部署単位や個人単位で月次モニタリングすることは、法令遵守の観点からも欠かせないものです。
休暇を取得しやすい環境を整備することで、従業員の心身の疲労を回復させ、プレゼンティーズムを予防できます。具体的には、以下の対策が有効です。
従業員側の休息のとり方については後述します。
従業員に過度なプレッシャーを与える評価制度は、プレゼンティーズムを助長する可能性があります。プロセスや勤務態度も評価対象に含めることで、無理な出勤を抑止したり、成果の捉え方を変えたりすることで前向きに取り組みやすくなります。具体的には、以下の対策が有効です。
評価制度を刷新する場合は、十分な検討とトライアル、従業員への説明を経て慎重に行う必要があります。短期間で行おうとせず、計画的に検討を進めましょう。
メンタルヘルスの不調は、プレゼンティーズムの大きな原因となります。従業員のメンタルヘルスをサポートするための体制を構築することが重要です。
従業員が悩みや不安を相談しやすい環境をつくることは、プレゼンティーズムの早期発見・対応につながります。以下の対策が有効です。
パワハラ防止法でも相談窓口の設置が義務化されています。社内に相談窓口を置くことが難しい場合は外部サービスの導入も視野に入れましょう。
従業員自身も、自身の健康管理に責任を持つ必要があります。以下の4つの対策について、職場からもセルフケアを促す訴えかけができると良いでしょう。
日頃から自身の体調に気を配り、異変を感じたら早めに対応することが重要です。意識しやすいのは以下の2点です。
毎日の慌ただしさによって、自分自身の健康状態にかまっていられないということもあるかもしれません。職場でも「体調はどう?」「食事は楽しめている?」など、日常的な声掛けから意識づけを行うことができます。
心身の疲労を回復させるためには、適切な休息が不可欠です。休暇を積極的に取得し、リフレッシュしましょう。休暇を活用してウェルビーイングを目指すうえでのポイントは以下のとおりです。
「落ち着いたら休もう」ではなく、休暇の計画を立てておくことで仕事にメリハリが生まれることもあります。リフレッシュする機会を大切にすることで、仕事のパフォーマンスが上がると捉え、前向きに休暇を活用しましょう。
仕事上の悩みや体調不良などは、一人で抱え込まずに上司や同僚に相談しましょう。周りのサポートを受けることで、問題解決の糸口が見つかるかもしれません。
職場内で相談する文化を醸成するきっかけとして、面談やメンター制度を活用できます。組織として「相談する仕組み」を構築することも重要です。
必要に応じて、外部の相談窓口を利用することも有効です。専門家のアドバイスを受けることで、客観的な視点から問題を捉え直すことができます。
業務のことや社内の人間関係について、同僚や上司に相談しづらいこともあるかもしれません。その場合に活用できるEAPを取り入れるのもおすすめです。
ストレスチェックは、プレゼンティーズム対策において非常に有効なツールです。
年1回必ず行うストレスチェックを活用することで、従業員のメンタルヘルス状態を早期に把握し、適切な対策を講じることが可能になります。
ストレスチェックでは、以下の項目について評価を行います。
評価項目 | 内容 |
---|---|
仕事のストレス要因 | 仕事の量、質、人間関係など、仕事に関連するストレス要因を評価します。 |
心身のストレス反応 | イライラ、不安、疲労感、身体の不調など、ストレスによる心身の反応を評価します。 |
周囲のサポート | 上司や同僚、家族などからのサポート状況を評価します。 |
ストレスチェックの目的は「高ストレス者を発見する」ことだけではありません。もちろん、高ストレス者がいる場合は早急に対応する必要がありますが、高ストレス状態に陥る前の段階の対応や組織全体の改善を後押しする目的ももっています。
プレゼンティーズムは潜在的な生産性低下のリスクをはらんだ状態のこと。定型的なストレスチェックの項目とあわせて、前述のプレゼンティーズムの測定ができる質問を行うことで、ストレスチェックの機会にプレゼンティーズムの発見ができる方法を用いるのもおすすめです。
ストレスチェックの基礎知識については、以下の記事や資料をご活用ください。
ストレスチェックツール「ORIZIN」は、80問または57問の通常のストレスチェックに加え、独自にプレゼンティーズムの測定・把握できる機能を備えています。
数値で簡単に解答できる設問を通じて、従業員のプレゼンティーズムを測定。回答の負担が少なく、従業員自身の振り返りにも有効です。
担当者画面から定量的にプレゼンティーズムの計測結果を把握でき、CSV形式での出力も可能なので、結果に応じた対策や職場改善にも役立てられます。
未受検者への勧奨も簡単にでき、社内に実施者がいなくても実施者業務が代行され、労働基準監督署への実施報告書もすぐに作成できる点から、ストレスチェックの円滑化ができる点も好評です。
ORIZINを活用すれば、着実に職場改善が進むストレスチェックの集団分析も可能になります。ORIZINでストレスチェックを実施した後、集団分析の結果が図示される「ドリームホップ心理相関図®」を用いれば、ストレスの存在や要因分析だけでなく、組織全体のストレスの相関関係や関係の度合いを可視化できる点が特長です。
ドリームホップ心理相関図®では、職場で起きている事象(ストレス反応)に影響力のある因子(ストレス原因)を明確化できます。心理学や統計学などの理論が分からなくても、グラフや数値で見やすく表示され、ダウンロードして関係者で共有できます。
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プレゼンティーズムは、企業と従業員双方に大きな損失をもたらします。
プレゼンティーズムはアブセンティーズムとは異なり、目に見えにくいため対策が遅れがちです。しかし、長時間労働や休暇取得の難しさ、職場の人間関係の悪化、ハラスメントなどが原因で発生し、従業員の健康悪化やキャリアへの悪影響だけでなく、企業全体の士気低下にもつながります。
企業側・従業員側がともに対策を行うことで、働きやすく生産性の高い組織が育ちます。定例のストレスチェックの機会も活用しながら、欠勤や離職などの望まない結果を招く前にプレゼンティーズムへの対策を行いましょう。