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第1回<休職前対応>新入社員が欠勤しがちになった。

使用者側弁護士が解説!人事労務担当者が現場で抱える社員のメンタルヘルス問題と実務対応

公開日:2023/10/31

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私傷病休職(メンタルヘルス)に関する就業規則のコラム20214月に公開しましたが、今でも、多くの方に閲覧いただいているようです。

最近の調査(厚労省令和4年「労働安全衛生調査(実態調査)」)によると、過去1年間にメンタルヘルス不調により連続1か月以上休業した労働者がいた事業所の割合は10.6%(令和3年調査8.8%)、退職した労働者がいた事業所の割合は5.9%(同4.1%)とのことです。

このデータからすると、経営者・人事労務担当者の多くは、日頃から従業員のメンタルヘルス不調の問題に頭を抱えているのではないでしょうか。

そして、メンタルヘルス不調の問題は、その従業員の体調等に十分に配慮しながら慎重に対応していく必要がある点に、難しさや頭を抱えるポイントがあります。

そこで、今回は、上記コラムの深掘り記事として、【休職前】・【休職中】・【休職期間満了時】・【まとめ】を全4回に分けて、悩ましい具体例を想定した上で、その対応策を検討します(各回の最後に特典書式を用意しています)。

1 会社の悩み<休職前>:新入社員が欠勤しがちになった

202X年4月に、Aさんが新卒の正社員として入社しましたが、同年5月のGW明け頃から欠勤しがちになり、現在に至ります(本コラムでは5月末を想定します)。

Aさんからは、メールで、体調不良なので休みますという連絡がありますが、当社はAさんの詳細な健康状態を把握していません。

同僚によると、出勤時は顔色が悪く、普段はしないようなケアレスミスが目立ってきていたとのことでした。他方で、一部の同僚からは、Aさんの穴埋めをしなければならないので困るという不満の声も上がってきています。

当社として、どのように対応をしたら良いでしょうか。

2 確認事項

⑴ ❶欠勤理由の確認

まずは、当該社員の勤怠を確認することによって、いつ頃から欠勤しがちになっているのかを正確に把握します。

次に、当該社員の体調面に配慮しつつ、欠勤理由を把握することが重要です。

具体的には、当該社員から欠勤理由を聞いた上で、(メンタルヘルス不調が疑われる場合)医師の診察を受けているかを確認します。診察を受けている場合には診断書の任意提出を求め、診断を受けていない場合には医師の受診を促すことや産業医面談を提案することが考えられます。

これらの提案に際して、例えば、就業規則上、「欠勤が○日以上となった場合、会社は従業員に対して医師の診断書を提出するよう求めることがある。」という規定がある場合、この規定の存在を説明して、診断書の提出を説得することも考えられます。

ただし、社員の診断書は、「要配慮個人情報」(個人情報保護法23項)に該当することから、社員の同意がなければ、会社はこれを取得することができません(そのため、業務命令として診断書の提出を命じることは難しいと考えます。)。

⑵ ❷就業規則等の確認

就業規則及び雇用契約書等(以下「就業規則等」といいます。)に、(a)試用期間の規定があるか、(b)(あるとして)その期間、(c)試用期間の延長規定があるかを確認します。

また、就業規則に休職規定があるかを確認した上で、試用期間中の社員に適用があるかを確認します。

なお、各条項例は、別コラムをご参照ください。

試用期間規定例:https://pca.jp/p-tips/articles/tit201201.html

私傷病休職規定例:https://pca.jp/p-tips/articles/tit210301.html

3 確認事項を踏まえた対応方針の決定

⑴ ❶欠勤理由を踏まえた対応

ア 一定期間の療養の要否

社員から医師の診断書を提出してもらうことによって、労務提供ができない理由や療養の要否・その期間を確認します。

もし、上記診断書の記載内容に疑問点がある場合、当該社員に対して、(A)会社担当者と主治医との間で面談をすることの同意を求めたり、(B)当該社員と産業医との間で面談をすることを求めたりすることも考えられます。

これらの確認を経た結果、一定期間、当該社員が労務提供できる状態にはないと判断した場合、後述する休職規定の適用の有無(3⑵イ)によって、対応を検討していきます。

 

イ 労災認定・安全配慮義務違反の可能性の検討

医師の診断書等に基づいて、欠勤理由(体調不良の理由)を確認することによって、労災認定や安全配慮義務違反の可能性があるか否かを検討します。

その際、同時並行的に、当該社員の残業時間数、担当業務のストレス(負荷)の程度、パワハラ等の有無を確認します。

もし、体調不良の原因が会社側にある場合、労災認定(安全配慮義務違反)の可能性を念頭に、別の対応が必要になります。

⑵ ❷就業規則等を踏まえた対応

ア 試用期間の有無・その期間・延長規定の有無

就業規則等を確認した結果、本ケースでは、試用期間が3か月であったと仮定します。

この場合、試用期間満了日は、6月末となりますので、判断資料を収集した上で、その期間までに本採用を行うかどうかを決定することが基本対応になります。

もっとも、本採用するかを見極めるためのやむを得ない事情がある場合、就業規則等の試用期間の延長規定に基づいて、延長することが考えられます。

なお、試用期間の延長規定がない場合、社員の同意に基づいて対応することが考えられますが、就業規則で定める基準を下回るものとして無効になる可能性がある(労基法12条)ことに、留意が必要です。

例えば、明治機械事件(東京地判令和2928日)では、当該事件における試用期間延長は、退職勧奨目的であり、職務能力や適格性について更に調査を尽くして適切な配属部署があるかを検討するものといえず、無効であると判断しています。

 

イ 休職規定の適用の有無

就業規則上、試用期間中の社員に休職規定が適用される場合と、適用されない場合とで、対応が変わってきます。

まず、試用期間中の社員にも休職規定が適用される場合、当該規定に従い、休職を命じるか否かを検討することになります(本採用後の正社員の場合、こちらの対応が基本になると思われます。)。

※本コラム特典として、「休職命令書(例)」(ワード)の無料DLを用意しています(詳細は後述)。

これに対して、試用期間中の社員には休職規定が適用されない場合、休職とはせずに、試用期間満了日までに本採用とするか否かを検討します。

なお、試用期間は適格性判断のための期間であるため、就業規則上、試用期間中の社員に休職規定が適用されるような規定にするべきではなく、適用対象外であることを明示すべきと考えます。

⑶ 対応方針の決定

上記⑴及び⑵を踏まえた結果、休職規定の適用がないことを前提に、例えば、試用期間満了日が迫った時点において、医師の診断書等に基づけば、当該社員は欠勤・療養中であり、それ以降も就労できる状態(債務の本旨に従った労務提供ができる状態)にはなく、これまでの勤務内容等を踏まえると、本採用は難しいと判断した場合、雇用契約を終了させる方向で対応を検討することになります。

その方法は、大きく分けて、本採用拒否と②退職勧奨が考えられます。

ただし、実際に判断を行う際には、訴訟リスクの分析を含め、弁護士・社労士の専門家に相談することを推奨します。

4 対応(①本採用拒否と②退職勧奨)

⑴ ①本採用拒否

三菱樹脂事件(最判昭和481212日)は、試用中の勤務状態等により、当初知ることができず、また知ることが期待できないような事実を知るに至った場合において、そのような事実に照らしその者を引き続き当該企業に雇傭しておくのが適当でないと判断することが、解約権留保の趣旨、目的に徴して、客観的に相当であると認められる場合に、本採用拒否が許されると判示しています。

なお、本採用拒否をする場合、30日前の解雇予告または解雇予告手当の支払いが必要になります(労基法20条)。

⑵ ②退職勧奨

上記のとおり、本採用拒否をするためには、客観的合理的な理由等が必要となるため、高いハードルであることに変わりありません。

そのため、本採用拒否が無効になるリスクを回避するため、実務上、本採用拒否前に、退職勧奨を行うことがあります。

もっとも、メンタルヘルス不調を抱えている社員の場合、退職勧奨によって体調が悪化しないよう慎重に行うべきです。

例えば、エム・シー・アンド・ピー事件(京都地判平成26227日)では、退職の意思がないことを表明しているにもかかわらず、執拗に退職勧奨を行ったことにより、うつ病が悪化したのであるから、精神障害の悪化について業務起因性が認められるとして、労働者からの慰謝料請求、退職扱いの無効による地位確認請求等が認められています。

そのため、実務上、退職勧奨を行う際には、事前に主治医や産業医から、(当該社員の健康状態を前提に)退職勧奨の可否及びその態様について、助言を得た上で実施することが穏当です。

また、社員から退職同意を取得する際には、その意思表示に瑕疵(錯誤、詐欺等)が生じないように説明することも重要です。

⑶ その他:同僚社員からのハラスメントの防止

本ケースのように、当該社員が断続的に休むことで、同僚社員の業務負担が増えることによって、同僚社員の不満が溜まる可能性があります。

このような状況下で、当該社員の出勤時に、同僚社員が心無い言葉や安易な励ましの言葉を掛けた場合、体調悪化による労災認定や安全配慮義務違反を問われる可能性が生じます。

このようなリスクを回避する観点から、同僚社員に対しては、日頃の研修等も通じて、言動には特に注意するよう説明しておくことが重要です。

5 まとめ

本ケースに即した場合の対応のイメージは、次のとおりです。

会社担当者としては、事実関係(現状把握)から「問題点」を洗い出し、そこから「課題」を設定した上で、複数の選択肢から「解決策」を選んで実践することが求められます。

進捗状況によっては、当初の事実関係が変化することにより、問題点➡課題➡解決策の内容が変わる可能性があります。例えば、上記の「現在」の位置が前倒しまたは後ろ倒しに変わることによって、その時々に検討すべき課題等が変わることもあり得ます(ただし、具体的対応が後ろ倒しになればなるほど、取りうる選択肢が狭まり後手の対応になってしまいます。)。

したがって、会社担当者は、臨機応変に、何をすべきか(何をすべきではないか)、何を優先事項として取り組むべきかを整理しながら、対応をしてくことが求められます。

※上記から必要事項を入力した後に登録メールが届きます。同メールのDLリンクをクリックした後に、次のパスワードをご入力下さい。

パスワード:notebook77 有効期限:2025年7月31日(木)

この記事の執筆者
飯島 潤
飯島 潤(いいじま じゅん)
弁護士 

多湖・岩田・田村法律事務所。第一東京弁護士会所属。
第一東京弁護士会労働法制委員会委員(基礎研究部会副部会長)。
経営法曹会議会員。
使用者側から労働問題を取り扱う。労働法務に関するセミナー講師も務める。

著書に、『詳解 働き方改革関連法』(共著、労働開発研究会、2019年)、『Q&A労働時間・休日・休暇・休業トラブル予防・対応の実務と書式』(共著、新日本法規、2020年)、『新しい働き方に伴う非正規社員の処遇-適法性判断と見直しのチェックポイント-』(共著、新日本法規、2021年)、『複雑化するトラブルに対応 懲戒をめぐる諸問題と法律実務』(共著、労働開発研究会、2021年)、『改訂版 実用会社規程大全』(共著、日本法令、2022年)、『対応ミスで起こる 人事労務トラブル回避のポイント』(共著、新日本法規、2022年)。

URL:http://www.tamura-law.com/