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弁護士が解説!5分で分かる、私傷病休職(メンタルヘルス)の基礎知識と実務対応(就業規則例を含む)

公開日:2021/04/23

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2023年1月19日(木)【医療業・福祉業向け】弁護士が教える!判例から読み解くハラスメント対策の勘所2023

この記事の執筆をした飯島先生が講師を務めるセミナーのご紹介。労働訴訟専門の弁護士の視点から、医療業・福祉業におけるハラスメント対策の勘所について最新の情報提供をさせていただきます。

「休職から休職期間満了日まで、本人から何も連絡がない場合、自動退職となるのは当然である」
このような企業担当者の姿勢に問題はないでしょうか。このコラムでは、企業側労働法弁護士が、私傷病休職(メンタルヘルス)の基礎知識と実務上の運用ポイント(就業規則例)を分かりやすく解説します。


1 私傷病休職(メンタルヘルス)の基礎知識

(1) 私傷病休職(メンタルヘルス)制度とは

ア 内容・種類
休職制度は、一般的に、休職期間中の就労を免除し、解雇を猶予しつつ、病気の回復を待つ制度です。平成25年のJILPTの調査によると、病気休職制度を就業規則等で規定している企業は、77.7%(慣行を含めると約90%)です。
休職の種類には、出向休職や留学等の私用休職等もありますが、本コラムでは私傷病(メンタルヘルス)に絞って解説します。

(2) 実務対応のイメージ

私傷病休職(メンタルヘルス)の実務対応のイメージは、次の図表のとおりです。

(3) 業務上災害との違い

仮に、メンタル不調が業務上の原因(例えば、長時間労働やパワハラ)に基づく場合、解雇制限(労基法19条)等、私傷病休職とは別の対応が必要です。

2 実務上の対応①:正社員就業規則例

(1) 正社員就業規則例

例えば、一案として、次の正社員就業規則例が考えられます(便宜上、1条から条文番号を付しています)。
なお、別途、いわゆる日本版同一労働同一賃金(パート・有期法8条・9条)の問題もあります。


第1条(休職)
会社は、従業員(試用期間中の者は除く)が次の各号の一つに該当する場合、休職を命ずることがある。
①業務外の傷病により欠勤し、欠勤日より●か月経過しても、その傷病が治癒しないとき
②業務外の傷病により通常の労務提供ができず、その回復に一定の期間を要するとき
③(省略)
④その他前各号に準ずる事由があり、会社が休職させる必要があると認めたとき

第2条(休職命令に先立ち会社が取りうる事項)
会社は従業員に対し、従業員の安全を配慮し、または休職制度を適切に運用するため、前条の休職命令に先立ち、次の事項を求め又は命じることができる。
①医師への受診
②上記①の医師作成の診断書の提出
③会社(産業医、会社指定医を含む)が上記①の医師から、面談、書面照会等により医療情報の提供を受けるための一切の協力
④産業医、会社指定医との面談
⑤産業医、会社指定医への受診
⑥上記④⑤の医師作成の診断書の提出
⑦会社が上記④⑤の医師から、面談、書面照会等により医療情報の提供を受けるための一切の協力
⑧会社が家族等の関係者から、面談、書面照会等により医療情報の提供を受けるための一切の協力
⑨その他、会社が従業員の安全を配慮し、または休職制度を適切に運用するために必要な行為

第3条(休職期間)
休職期間は、次の期間を限度として、会社が決定する。
①前条1号及び2号の事由による場合
勤続●年(or勤続●か月)以上●年未満の者 ●か月(or●年)
勤続●年以上●年未満の者 ●年
②前条●号による場合 会社が必要と認めた期間

第4条(休職期間中の取扱い)
1 休職期間中は、無給とする。
2 休職期間は、原則として勤続年数に算入しない。ただし、第●条●号の休職による場合、勤続年数に算入する。
3 従業員は、休職期間中、療養に専念しなければならない。
4 従業員は、休職期間中、会社の指示に基づき、連絡、報告、及び復職に向けた面談、診断等を行わなければならない。
5 会社は従業員に対し、第2条各号に定める事項を求め又は命じることができる。

第5条(復職)
1 従業員は、休職期間満了日までに、第1条各号の休職事由が消滅したとして復職を申し出る場合、復職願とともに、医師の治癒証明書(診断書)を提出しなければならない。
2 前項の復職の判断等にあたり、会社は従業員に対し、第2条各号に定める事項を求め又は命じることができる。
3 会社は、休職期間満了時までに休職事由が消滅したと認めた場合、原則として原職に復帰させる。但し、会社の業務の都合その他必要に応じて原職と異なる職務に配置することがある。

第6条(自動退職)
休職期間満了日までに休職事由が消滅しない場合、自動退職とする。

第7条(復職の取消し・再休職)
復職後●か月以内に同一又は類似の傷病により欠勤するときは、欠勤開始日より休職とし、休職期間は復職前の休職期間の残期間とする。但し、残期間が●か月に満たない場合は、●か月とする。

第8条(試し出勤、プライバシー保護等)
(適宜加筆修正を検討)

(2) 解説

第1条について、休職を命ずる「ことがある」旨規定しています。休職期間を経ても治癒が見込めない場合、休職を命じない可能性を留保しています(この旨を就業規則で明確にすることも考えられます)。

第2条について、休職命令を検討するにあたり、医師(主治医、産業医、会社指定医)への受診とその診断書の入手が重要です。この重要性は、休職期間中、及び休職期間満了時でも同様ですので、各規定で準用しています。

第3条について、勤続年数に応じた休職期間ではなく、休職期間を一律にすることも考えられます。また、例えば、復職可否の判断に時間的余裕がない場合等に備え、休職期間の延長規定を設けることも考えられます。

第4条について、休職期間中も従業員の療養状況を把握できるよう、第3項と第4項を置いています。

第5条について、復職を希望する場合、復職願と診断書を提出すべきこと等を定めています。また、従業員の療養状況を把握できるよう第2項を置いています。

第6条について、復職できない場合、自動退職となる規定です。他方、解雇する規定の場合、解雇の意思表示が必要です。

第7条について、メンタル不調が一定期間で再発した場合、前回休職した際の休職期間をリセットすることが適切ではないことがありますので、再休職のルールを定めています。

以上は参考例ですが、休職規定は、就業規則の中でもバリエーションのある分野の印象があります。各社の考え方や企業規模等に応じて、適宜加筆修正することが重要です。


3 実務上の対応②:適切な運用

(1) 休職前・休職時の対応

ア メンタル不調を認知するきっかけ
メンタル不調の実務対応は、現場の同僚や上司が、その社員の異変に気づくことから始まることが多いです。例えば、欠勤や遅刻が目立つ、普段はないようなミスが増える、同僚や取引先に対する言動が乱暴になる、被害妄想的な発言をするなどです。
上司や人事担当者は、産業医や専門医と相談の上、医師の受診が必要との助言を得た場合、本人に対して、医師(主治医、産業医、会社指定医)の受診を勧めます。

医師ではない上司等が、メンタル不調を断定することはできませんし、本人もその自覚がない場合もあります。本人のプライバシー等に配慮して対応することが重要です。

仮に、本人が医師の受診に応じない場合、受診命令を検討します(正社員就業規則例第2条各号参照)。もっとも、可能な限り、自発的に受診してもらうよう粘り強い対応が重要です。

イ 休職命令
会社は、医師の診断書等に基づいて休職の要否を判断します。
休職命令をする場合、休職期間の開始日と満了日を明示した通知書を交付することが重要です。


(2) 休職期間中の対応

休職期間中は、本人の体調に配慮しつつ、定期的に診断書等を提出してもらいながら、療養状況を把握します(正社員就業規則例第4条4項5項参照)。
医師が従業員への連絡を禁止している場合を除いて、従業員と連絡を取らないことは望ましくありません。


(3) 休職満了時の対応

ア 事前に診断書等を提出してもらう
休職期間満了日が近づいてきた段階で、会社は従業員に対して、復職を希望する場合、期限までに、復職願と医師の診断書を提出するよう書面等にて通知します。

イ 復職可否の検討
復職可否の基準は、職務限定者でない場合、以下のとおりに考えられています。
裁判ではここの「イ」と次の「ウ」が主要な争点になることが多いです。


【原則】:従前の職務を通常程度に行える健康状態になったこと
【例外1】:当初は軽易な作業に就かせれば、程なく従前の職務を通常に行うことができると予測できる場合(➡️時間的な例外)
(エール・フランス事件=東京地判昭和59年1月27日)
【例外2】:配置する現実的可能性があると認められる他の業務について労務の提供をすることができ、かつ、その提供を申し出ている(➡️業務内容の例外)
(片山組事件=最判平成10年4月9日)

例外があることから分かるとおり、「休職期間満了時までに、休職前の業務を行えなければ自動退職」という、単純な話ではありません。

ウ 復職可否の判断
会社は、診断書等に基づいて、最終的な判断をしますが、実務では、主治医と産業医の意見が異なることがあります。
この場合、医師の専門性や従業員への関与の程度等を踏まえ、総合的に判断することになりますが、どちらを採用すべきか、非常に難しい判断が求められます。
理想的には、休職前・休職時の段階から、企業側弁護士等の外部専門家に相談することが望ましいです。


(4) 復職後

復職可能と判断して、復職させた場合も、従業員のプライバシー等に配慮しつつ、定期的なフォローが重要です。

メンタル不調を未然に防ぐ観点からは、(実施の法的義務の有無にかかわらず)全従業員を対象にストレスチェックを実施することも検討に値します。

なお、メンタル不調が再発した場合、原則として、上記⑴と同じフローになりますが、休職期間を通算する可能性があります(正社員就業規則例第7条参照)。

まとめ

ここまでお読みになった方は、一言で「自動退職」といっても、「休職後は放置で構わない」という姿勢に問題があることが分かったと思います。

メンタル不調の疑いのある従業員の場合、周囲と上手くコミュニケーションが取れない等、対応に困ってしまうケースが多くあります。
このような場合、早めに産業医や弁護士等と連携を取りながら、対応していくことが重要です。


この記事の執筆者
飯島 潤
飯島 潤(いいじま じゅん)
弁護士 

多湖・岩田・田村法律事務所。第一東京弁護士会所属。
第一東京弁護士会労働法制委員会委員(基礎研究部会副部会長)。
経営法曹会議会員。
使用者側から労働問題を取り扱う。労働法務に関するセミナー講師も務める。

著書に、『詳解 働き方改革関連法』(共著、労働開発研究会、2019年)、『Q&A労働時間・休日・休暇・休業トラブル予防・対応の実務と書式』(共著、新日本法規、2020年)、『新しい働き方に伴う非正規社員の処遇-適法性判断と見直しのチェックポイント-』(共著、新日本法規、2021年)、『複雑化するトラブルに対応 懲戒をめぐる諸問題と法律実務』(共著、労働開発研究会、2021年)、『改訂版 実用会社規程大全』(共著、日本法令、2022年)、『対応ミスで起こる 人事労務トラブル回避のポイント』(共著、新日本法規、2022年)。

URL:http://www.tamura-law.com/