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弁護士が解説!5分で分かる、懲戒処分の基礎知識と実務対応(就業規則例を含む)

公開日:2021/06/11

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2023年1月19日(木)【医療業・福祉業向け】弁護士が教える!判例から読み解くハラスメント対策の勘所2023

この記事の執筆をした飯島先生が講師を務めるセミナーのご紹介。労働訴訟専門の弁護士の視点から、医療業・福祉業におけるハラスメント対策の勘所について最新の情報提供をさせていただきます。

「会社に迷惑をかけた以上、懲戒処分(始末書を提出するの)は当然だ」
企業担当者として、このような考え方で問題ないでしょうか。

このコラムでは、企業側労働法弁護士が、懲戒処分の基礎知識と実務上の運用ポイント(就業規則例)を分かりやすく解説します。

1 懲戒処分の基礎知識

(1) 懲戒処分とは

懲戒処分とは、労働者の企業秩序違反行為に対する制裁罰であることが明確な、労働関係上の不利益な措置のことをいいます。

そのため、私生活上の非違行為が判明したとしても、企業秩序に違反していない場合や企業の社会的信用を棄損していない場合には、懲戒事由に該当しないこともありえます。そのため、私生活上の非違行為が企業秩序に違反したといえるかは、別途検討する必要があります。
懲戒処分の種類は、けん責、戒告、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇などがあります。


(2) 懲戒処分の根拠

企業が労働者に懲戒処分を課すためには、判例上、就業規則に懲戒の種類と事由を明定し、かつ、これを周知する必要があると解されています。

したがって、就業規則等に懲戒事由が定められていない企業は、そもそも懲戒処分をすることができません。
この意味において、就業規則の作成義務のない使用者(労働者が常時10人未満)も、就業規則を作成し、懲戒事由等を定めるメリットがあります。


(3) 懲戒処分の有効性の判断

ア 根拠規定の存在

上記⑵のとおりです。

イ 懲戒事由該当性

労働者の行為が就業規則に定める懲戒事由に該当することが必要です。
時々、企業担当者から、懲戒処分後に判明した事実を懲戒処分の理由に追加できるかという質問を受けることがあります。
判例は、特段の事情のない限り、懲戒処分時に使用者が認識していない事実を理由にすることはできないとしています。
したがって、懲戒処分をするにあたっては、他に非違行為がないかを含め、事実関係を確認することが重要です。

ウ 懲戒権濫用ではないこと(相当性)

上記アとイを満たしたとしても、その行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、懲戒権の濫用として、無効になります(労契法15条)。

例えば、従来、黙認してきた行為(例えば、出張経費や旅費交通費の精算の不正やハラスメント行為)を理由に懲戒処分をすることは、相当性に欠けると判断される可能性があります。そのため、実務上、今後は厳密に運用していく旨を社内に周知した上で、以後、ルールに反した労働者に対し、懲戒処分(程度によっては厳重注意)を検討していくことが考えられます。
なお、懲戒処分を課すにあたり、弁明の機会を付与しているかどうかが問題になることがあります(仮に就業規則にその旨の規定がある場合、これを付与することが必要です)。

したがって、手続面も含め、懲戒処分までのスケジュール(目安)をあらかじめ立てることが重要です。


2 実務上の対応①:正社員就業規則例

(1) 正社員就業規則例

例えば、一案として、次のような正社員就業規則例が考えられます。

(懲戒の事由)

第●条 労働者が次のいずれかに該当するときは、情状に応じ、けん責、減給又は出勤停止とする。

① 会社の指揮命令に従わなかったとき。
② 正当な理由なく無断欠勤が●日以上に及ぶとき。
③ 正当な理由なく欠勤、遅刻、早退をしたとき。
④ 過失により会社に損害を与えたとき。
⑤ 会社の秩序及び風紀を乱したとき。
⑥ 会社の名誉・信用を棄損したとき。
⑦ 第●条のハラスメント等の禁止に違反したとき。
⑧ 第●条の服務規律の規定に違反したとき。
⑨ 業務以外の目的で会社の車両、事務機器、商品等を使用し、又は持ち出したとき。
⑩ 経費の不正な処理をしたとき。
⑪ (省略)
⑫ その他この規則に違反し又は前各号に準ずる不都合な行為があったとき。

2 労働者が次のいずれかに該当するときは、懲戒解雇とする。ただし、平素の服務態度その他情状によっては、第●条に定める普通解雇、前条に定める減給又は出勤停止とすることがある。

① (以下省略)

第●条(懲戒の種類と程度等の規定は省略)

(2) 解説

第1項は、けん責、減給、出勤停止という軽めの懲戒事由を定めたものです。

懲戒事由は、可能な限り列挙することが望ましいですが、全てを網羅することは困難です。そのため、「その他この規則に違反し又は前各号に準ずる不都合な行為があったとき」という包括条項を入れることにより、懲戒処分に値する非違行為であるが、懲戒事由に該当しないため、懲戒処分できないという事態を回避します。

そして、実務上、問題になるのは、第4号の「会社の秩序及び風紀を乱したとき。」や第5号の「会社の名誉・信用を棄損したとき。」の該当性です。

次からは、懲戒処分を検討する際の実務上の留意点を解説します。


3 実務上の対応②:懲戒処分までの検討手順(就業規則の運用)

(1) 非違行為の事実認定

まずは、企業が労働者の非違行為を把握した場合、客観証拠を収集(書面、メール等の保存)したり、目撃者からヒアリングしたりした上で、当該労働者に事実確認をしていきます。

これらの事実確認(事実認定)をしていく際のポイントは、「評価」ではなく、「事実」を把握することです。

「企業に迷惑をかける行為をした」、「企業として看過できない」といった評価(先入観)が先行してしまうと、客観的事実を見落とすおそれがあります。

そのため、企業担当者は、5W1Hを意識した事実確認を心掛けることが重要です。


(2) 懲戒処分の検討

次に、事実関係を整理した上で、就業規則のどの懲戒事由(第X条Y項Z号)に該当するかを検討します。

懲戒事由該当性の検討の際には、上記の他に、①過去の同種事案の有無、②弁明の機会を付与する規定の有無及び③懲戒委員会を設置する規定の有無、などを確認します。

事実認定とその評価のイメージは、次のとおりです。


(3) 懲戒処分の通知

上記検討を経た上で、懲戒処分を課すことになった場合、労働者に対して、懲戒処分通知書を交付することにより、懲戒処分を行います。
なお、労働契約を解消する前提の懲戒処分(諭旨退職や懲戒解雇)の場合、これが無効となった場合、賃金のバックペイリスクや損害賠償請求を受けるリスクがありますので、これらの場合、特に慎重に判断する必要があります(事案によっては、普通解雇とする、退職勧奨により合意退職を目指すことも選択肢としてありえます。ただし、退職勧奨をする場合、錯誤や強迫にならないよう、企業担当者として言動には注意が必要です)。


4 実務上の対応③:懲戒処分の活用

企業担当者によっては、懲戒処分イコール懲戒解雇、という理解をしている方もいますが、上記のとおり、懲戒処分には軽重の種類があります。

また、軽微な非違行為については目をつむり(黙認し)、労働者が相応の非違行為をした場合に「鬼の首を取ったように」懲戒解雇をしようとするケースがあります。しかし、このように、懲戒処分歴がない労働者をいきなり懲戒解雇しようとしても、(非違行為の内容にもよりますが)裁判では相当性に欠け、無効になる可能性があります。

そのため、問題社員に対しては、けん責などの軽い懲戒処分を積み重ねていくことにより、改善の機会を与えたことを証拠化することが重要です(ただし、当該問題社員にのみ厳しい対応をするのではなく、他の社員と同様に取り扱うことが必要です)。


5 まとめ

ここまでお読みになった方は、「会社に迷惑をかけたから、懲戒処分(始末書を提出するの)は当然」、「懲戒処分イコール懲戒解雇」という考え方は、適切ではないことを理解いただけたのではないでしょうか。

また、直感的に「懲戒処分に値する非違行為である」と考えたとしても、本当に懲戒事由に該当するか、相当性に反しないかの検討が不可欠であることをご理解いただけたと思います。

企業担当者としては、適切に懲戒処分を活用することにより企業秩序を維持できるよう(無効な懲戒処分を行なった結果、労使紛争とならないよう)、対応を心掛けていただけますと幸いです。


この記事の執筆者
飯島 潤
飯島 潤(いいじま じゅん)
弁護士 

多湖・岩田・田村法律事務所。第一東京弁護士会所属。
第一東京弁護士会労働法制委員会委員(基礎研究部会副部会長)。
経営法曹会議会員。
使用者側から労働問題を取り扱う。労働法務に関するセミナー講師も務める。

著書に、『詳解 働き方改革関連法』(共著、労働開発研究会、2019年)、『Q&A労働時間・休日・休暇・休業トラブル予防・対応の実務と書式』(共著、新日本法規、2020年)、『新しい働き方に伴う非正規社員の処遇-適法性判断と見直しのチェックポイント-』(共著、新日本法規、2021年)、『複雑化するトラブルに対応 懲戒をめぐる諸問題と法律実務』(共著、労働開発研究会、2021年)、『改訂版 実用会社規程大全』(共著、日本法令、2022年)、『対応ミスで起こる 人事労務トラブル回避のポイント』(共著、新日本法規、2022年)。

URL:http://www.tamura-law.com/