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弁護士が解説!5分で分かる、配転・出向・転籍の基礎知識と実務対応(就業規則例を含む)

公開日:2021/09/24

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2023年1月19日(木)【医療業・福祉業向け】弁護士が教える!判例から読み解くハラスメント対策の勘所2023

この記事の執筆をした飯島先生が講師を務めるセミナーのご紹介。労働訴訟専門の弁護士の視点から、医療業・福祉業におけるハラスメント対策の勘所について最新の情報提供をさせていただきます。

配転の打診をしたところ、「親の介護があるので、転居を伴う配転には応じられない」との回答があった場合、企業担当者として、どのように対応すれば良いでしょうか。

このコラムでは、企業側労働法弁護士が、配転・出向・転籍の基礎知識と実務上の運用ポイント(就業規則例)をわかりやすく解説します。


1 配転・出向・転籍の基礎知識

(1) 配転

配転とは、労働者の配置の変更であって、職務内容または勤務場所が相当の長期間にわたって変更されるものをいいます。
用語の区別として、次のように使い分ける場合もあります。

【配置転換】:同一勤務地(事業所)内の勤務場所(所属場所)の変更
【転勤】:勤務地の変更


(2)出向

出向とは、労働者が自己の雇用先の企業に在籍したまま、他企業の労働者となって相当長期間にわたって当該他企業の業務に従事することをいいます(在籍出向という場合もあります)。

(3)転籍

転籍とは、労働者が自己の雇用先の企業から他の企業へ籍を移して当該他企業の業務に従事することをいいます。

(4) 特徴

特徴をまとめると以下のとおりです。

種類  A社との労働契約 指揮命令権
配転 存続 A社
出向 存続(B社とも労働契約を締結) B社(出向先)
転籍 終了 B社(転籍先)

2 実務上の対応①:正社員就業規則例

(1)正社員就業規則例

例えば、一案として、次のような正社員就業規則例が考えられます。なお、非正規社員については、労働契約上、配転等を予定していないケースが多いので、ここでは検討対象から除外しています。

(配転)
第●条
会社は、業務上の必要がある場合、従業員に対して、配置転換(同一事業場内での担当業務等の変更)、転勤(勤務地の変更を伴う所属部門の変更)、職種変更を命じることがある。

2 前項の場合、従業員は正当な理由なくこれを拒むことはできない。

(出向)
第●条
会社は、業務上の必要がある場合、従業員を在籍のまま他社(関係会社以外を含む)に出向を命じることがある。ただし、出向先での労働条件、出向期間、復職条件等は、別に定める出向規程による。
2 前項の場合、従業員は正当な理由なくこれを拒むことはできない。

(転籍)
第●条

会社は、従業員に対し、他社(関係会社以外を含む)への転籍を求める場合、原則として本人の同意を得て行うものとする。

(2)解説Ⅰ:配転

ア 就業規則等の根拠規定

(ア)就業規則の確認

就業規則に定められている労働条件が合理的であり、かつ、その就業規則が周知されている場合、当該内容は労働契約の内容になります。
これを前提に、上記正社員就業規則例は、会社が配転命令権を有する根拠規定になります。

(イ)職種・勤務地限定合意の確認

ただし、労働者との間で、職務・勤務地・労働時間などの限定合意がある場合、個別の合意がない限り、当該限定の範囲を超えて配転を命じることはできません(労契法7条但書)。

(ウ)労働協約の確認

労働協約に、配転に際して事前協議または事前同意を必要とする規定がある場合、これを履行する必要があります。


イ 不利益取扱い・差別的取扱いの禁止法令の確認

配転命令権を有しているとしても、次のとおり、一定の事由を理由とする不利益取扱い等に該当する場合、当該配転命令は無効になります。

不当労働行為(労組法7条)

性別(男女雇用機会均等法6条)、妊娠・出産・産前産後休業(同法9条3項)

育児介護休業(育児介護休業法10条、16条)

公益通報(公益通報者保護法5条)

など

ウ 配転命令の権利濫用

(ア)配転命令の有効性の判断基準

配転命令権を有しているとしても、その配転命令が権利濫用となる場合、無効になります。
権利濫用となる判断基準は、次のとおりです(東亜ペイント事件(最二小判昭61・7・14))。


①業務上の必要性がない場合

②不当な動機・目的をもってなされたものであるとき

若しくは

③労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき

等、特段の事情がある場合

業務上の必要性(①)と労働者の不利益(②③)は、相関的に比較衡量して判断するのが相当と考えられています。

また、「等、特段の事情がある場合」とありますので、労働者の不利益以外の事情(例えば、手続きの履践や説明内容が不十分であることなど)も考慮されると考えられています。

(イ)本コラム冒頭の設例の場合

本コラム冒頭の設例の場合、主に「労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益」を負わせるものとして、配転命令をした場合に権利濫用と認められるかが問題となります。

この点、例えば、ネスレ日本事件(大阪高判平18・4・14)では、精神病に罹患した妻又は介護を要する母親を有する労働者に対する遠隔地への配転命令(兵庫県から茨城県)が配転命令権の濫用として無効になっています。

したがって、事実関係を考慮した上で、どうするかを判断することが重要です。
なお、育児介護休業法26条では、転勤に際し子の養育又は家族の介護を行うことが困難とならないよう配慮することを求めていることに留意が必要です。


(3)解説Ⅱ:出向

新日本製鐵(日鐵運輸)事件(最二小判平15・4・18)は、(a)就業規則に業務上の必要によって社外勤務をさせることがある旨の規定があり、(b)労働協約である社外勤務協定に、出向の定義、出向期間、出向中の社員の地位、賃金、退職金その他の労働条件の処遇等に関して出向労働者の利益に配慮した詳細な規定があるという事情を前提に、使用者は労働者の個別同意を得ずに出向命令ができると判断しています。

そのため、正社員就業規則例の場合、別途、出向規程において、出向労働者の利益に配慮した規定を定めておくことが必要です。


(4)解説Ⅲ:転籍

転籍の法的構成について、(a)転籍元との労働契約を合意解約するとともに転籍先と新たな労働契約を締結するという構成、または、(b)労働契約上の地位を包括的に譲渡する(民法625条1項)という構成が考えられます。

しかし、いずれの考え方も、当該労働者の同意が必要であることに違いはありません。
そして、労働者の個別的同意を都度必要と解するのが一般的な考え方とされています。
したがって、原則として、一方的に転籍命令をすることはできません。


3 実務上の対応②:配転までの流れ

配転を念頭に手続的な流れを一例として説明します。
実務的なポイントは、業務上の必要性の有無・程度と人選の合理性を、十分に検討し、説明できるようにしておくことです。


⑴ 人事異動(人員配置)の計画・立案

⑵ 就業規則等の根拠規定の確認

⑶ 面談①~X回:ヒアリング~内示

面談の際には、主に次の内容を説明できるよう、事前に会社側で準備し、質問に答えられるようにしておくことが重要です。
例えば、(a)配転の理由(業務上の必要性人選の理由を含む)、(b)職務の内容・勤務場所、(c)賃金・労働時間、(d)その他労働条件に関する説明が重要です。

なお、面談内容によっては、配転を見送ることもあり得ます。


⑷ 配転命令・同意

ア 同意に基づく場合

上記面談を経て、労働者の同意を得られる場合には、同意書に署名してもらうなどして、配転に応じてもらうことになります。
労働者の同意は、自由な意思に基づくことが必要ですが、同意に至るプロセスにおいて、会社が労働者に十分な情報を提供しておくことが重要になります。

(「配転命令書兼合意書(例)」(書式)は当事務所のHPからダウンロードできます(後述参照))


イ 同意に基づかない場合

(ア)労働者が配転命令に応じた場合

この場合でも、労働者が配転命令には不同意であるとの立場を取り、配転先で就労しつつ、仮処分や労働審判等にて配転命令の有効性を争う(=新部署等における就労義務不存在確認請求をする)ことがあります。

(イ)労働者が配転命令に応じない場合

確かに、配転命令は業務命令ですので、適法な配転命令に従わない場合、就業規則が整備されていることを前提に、業務命令違反として、懲戒解雇(懲戒処分)の対象になり得ますが、懲戒解雇の有効性は、配転命令の有効性とは別途問題になります(メレスグリオ事件(東京高判平12・11・29)参照)。

そのため、労働者が配転命令に応じなかったとしても、(すぐに懲戒処分を行うのではなく)相当期間にわたり、何度も労働者に対して配転の必要性、人選の合理性等を説明し、懇切丁寧に説得を重ねることが重要です。

つまり、懲戒解雇を検討するにしても、何度も説明・説得を尽くし、それでもなお労働者がこれ応じなかった場合の最終手段であることを念頭に置くべきです(外形的には欠勤状態と似ている側面があります)。


4 まとめ:多様な正社員の可能性

これまで我が国では、長期雇用制度の下で、職種、職務内容又は勤務場所を限定して正社員を採用する例は多くありませんでした。
しかし、企業によっては、限定正社員から正社員への転換制度だけではなく、ライフプランにあわせる形で、正社員から限定正社員への転換制度を設けている例があります。

これからの人口減少社会において、配転などを予定する正社員のみではなく、多様な正社員を前提にした制度設計をすることの重要性が増すかもしれません。


この記事の執筆者
飯島 潤
飯島 潤(いいじま じゅん)
弁護士 

多湖・岩田・田村法律事務所。第一東京弁護士会所属。
第一東京弁護士会労働法制委員会委員(基礎研究部会副部会長)。
経営法曹会議会員。
使用者側から労働問題を取り扱う。労働法務に関するセミナー講師も務める。

著書に、『詳解 働き方改革関連法』(共著、労働開発研究会、2019年)、『Q&A労働時間・休日・休暇・休業トラブル予防・対応の実務と書式』(共著、新日本法規、2020年)、『新しい働き方に伴う非正規社員の処遇-適法性判断と見直しのチェックポイント-』(共著、新日本法規、2021年)、『複雑化するトラブルに対応 懲戒をめぐる諸問題と法律実務』(共著、労働開発研究会、2021年)、『改訂版 実用会社規程大全』(共著、日本法令、2022年)、『対応ミスで起こる 人事労務トラブル回避のポイント』(共著、新日本法規、2022年)。

URL:http://www.tamura-law.com/