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弁護士が解説!5分で分かる、年次有給休暇の基礎知識と実務対応(就業規則例を含む)

公開日:2021/02/19

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2023年1月19日(木)【医療業・福祉業向け】弁護士が教える!判例から読み解くハラスメント対策の勘所2023

この記事の執筆をした飯島先生が講師を務めるセミナーのご紹介。労働訴訟専門の弁護士の視点から、医療業・福祉業におけるハラスメント対策の勘所について最新の情報提供をさせていただきます。

「当社には年次有給休暇がない」、「パート労働者には年次有給休暇がない」

このように、会社が年休を付与するかを自由に決められるのでしょうか。

このコラムでは、企業側労働法弁護士が、年次有給休暇の基礎知識と実務上の運用ポイント(就業規則例)を分かりやすく解説します。

1 年次有給休暇の基礎知識

(1)年休のイメージ

年次有給休暇(以下、「年休」といいます)のイメージは、次の図のとおりです。

(2)趣旨・要件・効果

ア 趣旨
年休の趣旨は、労働者の心身の疲労回復(リフレッシュ)を図り、また、今日ではゆとりある生活の実現にも資する点にあります。
この趣旨の下、週休日の保障(例えば、週休二日制の場合、通常は、土曜日、日曜日)の他に、毎年一定日数の有給休暇が与えられます。

イ 要件
年休権が発生する要件は、次の2つです。

①6か月の継続勤務(その後は1年ごと)

②上記①の出勤率が8割以上であること

上記②について、(a)業務上の傷病による療養のための休業期間、(b)育児休業期間、(c)介護休業期間、(d)産前産後休業を取得した期間、(e)年休を取得した日の年休の出勤率の算定にあたっては、出勤したものとみなす必要があります(労基法39条10項、昭22・9・13基発17号、平6・3・31基発181号)。

ウ 効果
①②の要件を満たした場合、次のとおり、年休権が法律上当然に発生します。
労働日数が少ないパート労働者には、比例付与されます。

【表1】正社員(通常の労働者)の付与日数

勤続期間(年) 0.5 1.5 2.5 3.5 4.5 5.5 6.5以上
年休付与日数 10日 11日 12日 14日 16日 18日 20日

【表2】週所定労働日数が4日以下かつ週所定労働時間が30時間未満の労働者の付与日数

  週所定
労働日数
1年間の所定
労働日数(※)
継続勤務年数(年)
0.5 1.5 2.5 3.5 4.5 5.5 6.5
付与日数 (日) 4日 169日~216日 7 8 9 10 12 13 15
3日 121日~168日 5 6 6 8 9 10 11
2日 73日~120日 3 4 4 5 6 6 7
1日 48日~72日 1 2 2 2 3 3 3

※週以外の期間によって労働日数が定められている場合

(3)半日単位年休・時間単位年休

年休の取得は、1日単位が原則ですが、例外的に、(a)半日単位(使用者がこれを認める場合)、(b)時間単位(労使協定が必要、年5日を限度)で取得してもらうこともできます。

(4)年休の取得方法と時季変更権等

原則として、労働者が年休の取得時期を特定して、時季指定権を行使します。労働者による年休申請に対して、会社側が「承認」(=許可)しないと行使できないわけではありません。

ただし、次の3つの場合、例外的に、使用者が年休の時期を指定できます。

  • (a)使用者による時季変更権(事業の正常な運営を妨げる場合)
  • (b)労使協定による計画年休制度
  • (c)使用者の時季指定義務による場合

(5)時季指定義務

ア 内容

働き方改革による労基法改正により、2019年4月以後、使用者は、年間10労働日以上の年休を付与する労働者に対して、基準日から1年以内に、5日の年休について、時季を定めて与えなければなりません(労基法39条7項)。
5日については、(ⅰ)労働者自らが時季指定により取得した場合、及び(ⅱ)計画年休付与により取得した場合、その日数を控除できます。
年5日の年休が取得できなかった労働者が1名でもいた場合、30万円以下の罰金に科せられる可能性があります。

イ 時季指定義務の対象労働者

「正社員だけではなく、パート労働者にも5日の時季指定をする必要がありますか」という質問を受けることがあります。
時季指定義務の対象者は、前述のとおり「年間10労働日以上」付与された労働者です。
そのため、上記表2のうち、黄色部分に該当するパート労働者は、「年間10労働日以上」付与された労働者ですので、時季指定義務が生じます。それ以外のパート労働者に対しては、時季指定義務は生じません。

2「当社に年次有給休暇はない」は正しいか?

これまで説明したとおり、年休権は、要件を充たせば法律上当然に発生しますし、パート労働者にも比例付与されます。

そのため、冒頭の「当社に年次有給休暇はない」等の認識は、誤りと言わざるを得ません。
そうすると、就業規則に年休のルールを定めた上で、運用していくことが重要です。


3 実務対応①:正社員就業規則例と実務上の留意点

(1)正社員就業規則例

例えば、一案として、次のような正社員就業規則例が考えられます。
就業規則は、業種、従業員規模、雇用形態、業務内容等を考慮して、会社ごとの実情に合わせてオーダーメードしていくことが重要ですので、参考程度にご参照下さい。
なお、パート・有期社員(嘱託社員)用の就業規則も、別途、作る必要があります。


第●条(年次有給休暇)

会社は、雇い入れの日から6か月継続勤務し、かつ、労働日の8割以上出勤した従業員に対して、10日間の年次有給休暇を与える。

2 会社は、前項以降、1年間継続勤務し、かつ、労働日の8割以上出勤した従業員に対して、次の表に基づき、年次有給休暇を与える。

勤続期間(年) 1.5 2.5 3.5 4.5 5.5 6.5以上
年休付与日数 11日 12日 14日 16日 18日 20日

3 従業員は、年次有給休暇を申請する場合、指定する最初の休暇の2日前までに、会社に対して、書面または所定の方法により届け出なければならない。ただし、会社は、指定された日に年次有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合、他の時季にこれを与えることができる。

4 従業員は、半日単位で年次有給休暇を取得することができる。この場合の始業・終業時刻は、以下のとおりとする。

①午前半休:午後1時〜午後6時(年休部分:午前9時〜午後0時)
②午後半休:午前9時〜午後0時(年休部分:午後1時〜午後6時)

5 第1項の年次有給休暇が付与された従業員に対して、付与日から1年以内に、当該従業員の有する年次有給休暇日数のうち5日について、会社が従業員の意見を聴取したうえで、あらかじめ時季を指定して取得させることがある。ただし、従業員が第3項または第●条の規定に基づき年次有給休暇を取得した場合、その日数分を5日から控除する。

6 ●●(省略)

(2)実務上の留意点

第1項と第2項は、法律の規定を就業規則に反映したものです。

第3項は、従業員に年休申請すべき期限を定めたものです。この規定の有効性が問題となり得ますが、判例はそのような定めは合理的なものである限り有効としています(日本電信電話公社事件(此花電報電話局事件上告審判決)最一小昭和57年3月18日民集36巻3号366頁)。同事件では、就業規則上、休暇日の前々日までに年休を請求しなければならない旨定められていました。規定例は、これを参考にしています。第3項ただし書は時季変更権に関する条項例です。

第4項は、半日単位での年休取得を認める場合の条項例です。半日単位で取得できる上限日数を定めることも考えられます。

第5項は、時季指定義務に関する条項例です。休暇に関する事項は、就業規則の絶対的必要記載事項ですので、時季指定を行う場合、時季指定の対象となる労働者の範囲及び時季指定の方法等について、就業規則に定める必要があります。

第6項、または次条以降に、(a)時間単位年休を認める規定や(b)計画年休に関する規定、(c)(賃金規程に)賃金の支払方法に関する規定等を定めることが考えられます。


4 実務対応②:退職予定者と年休

(1) 退職間近に年休の一括消化

退職予定者の中には、退職日まで、残っている全ての年休を取得申請することがあります。

退職予定者の場合、退職日が決まっている以上、他の年休取得日を想定できないことから、時季変更権を行使することは難しいです。そのため、企業としては、引き継ぎを期待していることが多いため、対応に困ってしまいます。

そこで、実務上、次の対応をすることがあります。


(2)退職時の未消化年休の買い上げ

年休の買い上げを予約し、予約された日数について年休を認めないことは、労基法39条に反します(昭30・11・30基収4718号)。

これに対して、結果的に、未消化の年休日数に応じて手当を支給することは、違法ではないとされています。そのため、当該退職予定者との間で調整を行い、年休の買い上げ予約ではなく、退職時に残った年休を買い取ることを合意することが考えられます。

そして、既に退職予定者が年休申請をしている場合、申請の全部または一部を取り下げてもらった上で、出勤してもらうことになります。


5 年休×ワーク・ライフ・バランス×企業の採用力

(1)年休取得率

令和2年就労条件総合調査によると、平成31年・令和元年(又は平成30会計年度)に企業が付与した年次有給休暇日数(繰越日数を除く。)は、次のとおりです。

  • 労働者1人平均付与日数:18.0(平成31年調査18.0日)
  • 労働者1人平均取得日数:10.1日(同9.4日)
  • 取得率:56.3%(52.4%)


(2)企業の採用力

雑誌などで目にする、「就職したい企業のランキング」には、平均年収の他に年休取得率も掲載されていることがあります。

求職者の視点から見ると、年休取得率は、ワーク・ライフ・バランスを踏まえた、会社選びの重要な指標になります。

これを機に、一度、自社の(a)年休ルール(例えば、年休管理簿の保存方法(紙媒体、または勤怠管理システム)の適切性・効率性、(b)年休取得率を再確認してみてはどうでしょうか。


この記事の執筆者
飯島 潤
飯島 潤(いいじま じゅん)
弁護士 

多湖・岩田・田村法律事務所。第一東京弁護士会所属。
第一東京弁護士会労働法制委員会委員(基礎研究部会副部会長)。
経営法曹会議会員。
使用者側から労働問題を取り扱う。労働法務に関するセミナー講師も務める。

著書に、『詳解 働き方改革関連法』(共著、労働開発研究会、2019年)、『Q&A労働時間・休日・休暇・休業トラブル予防・対応の実務と書式』(共著、新日本法規、2020年)、『新しい働き方に伴う非正規社員の処遇-適法性判断と見直しのチェックポイント-』(共著、新日本法規、2021年)、『複雑化するトラブルに対応 懲戒をめぐる諸問題と法律実務』(共著、労働開発研究会、2021年)、『改訂版 実用会社規程大全』(共著、日本法令、2022年)、『対応ミスで起こる 人事労務トラブル回避のポイント』(共著、新日本法規、2022年)。

URL:http://www.tamura-law.com/