公開日:2021/01/15
振替休日と代休の違いは何かと聞かれたら、答えられますか?
両者を明確に区別して運用しないと、知らないうちに、残業代未払い等の労基法違反になっている可能性があります。
このコラムでは、企業側労働法弁護士が、両者の違いを分かりやすく説明するとともに、実務上の運用ポイント(就業規則例)を解説します。
前提知識として、休日に関する労基法上の規定を説明します。
「休日」とは、労働者が労働契約において労働義務を負わない日をいいます。
そして、労基法上、使用者は、(少なくとも)①週一日、または、②4週4日の休日を与えなければなりません(同法35条)。
上記①が原則であり、上記②の変形休日制は例外です(昭和22年9月13日・基発第17号参照)。
仮に、上記②をとる場合、4日以上の休日を与える4週間の起算日を就業規則等に定めることが必要です(労基法施行規則12条の2)。
上記の労基法上の休日のことを「法定休日」といい、それ以外の休日のことを「法定外休日」といいます。
一週間とは、「就業規則等において別段の定めがない場合は、日曜から土曜までの暦週」(昭和63年1月1日・基発第1号・婦発第1号)のことをいいます。
そのため、就業規則に一週間の起算点を(日曜日以外に)定めることもできます。
法定休日は、「必ずしも休日を特定すべきことを要求していないが、特定することがまた法の趣旨に沿うもの」(昭和23年5月5日・基発第682号、昭和63年3月14日・基発第150号)とされています。
そのため、就業規則に特定の曜日(日曜日でない曜日)を法定休日と定めることもできます。
なお、厚生労働省「改正労働基準法に係る質疑応答」によると、「法定休日が特定されていない場合で、暦週(日〜土)の日曜日及び土曜日の両方に労働した場合は、当該暦週において後順に位置する土曜日における労働が法定休日労働」となります。
「休日」と似た概念である、「休暇」は、労働者が労働日において権利として労働から離れることができる日を指し、休日とは区別されています。
本コラムでは、(a)上記①の原則的な休日制度、(b)日曜日を週の起算点とし、(c)法定休日は特定していない(週休2日制)ことを前提に、次から解説していきます。
「振替休日」とは、あらかじめ休日と定められている日を労働日とし、労働日となったその休日を他の日に移すことをいいます。
もっとも、振替休日によって(法定)休日労働ではなくなったとしても、当該労働が時間外労働(週40時間超、1日8時間超)に該当する場合、36協定の締結を前提に、割増賃金を支払う必要があります。
代休とは、法定休日労働等が行われた場合、その代償措置として、以後の特定の労働日の労働義務を免除するものをいいます。
代休は、現に行われた法定休日労働等に対する代償措置として与えることから、法定休日労働等の事実がなくなるわけではありません(上記図の「8日」について、振替休日の場合は「黒字」(労働日)に変わりますが、代休の場合は「赤字」(休日)のままです)。
したがって、代休の場合、法定休日労働等に対する割増賃金を支払う必要があります(本コラムの前提の場合、14日(土)に休日を与えているのであれば、週1日の法定休日を確保できますので、8日は法定休日労働には該当しませんが、時間外労働に該当する可能性があります)。
振替休日を行うために必要な要件は、次のとおりです。
①就業規則等に振替休日の規定を設けること
②あらかじめ振り替える日を特定して通知すること
③振り替えた結果、1週1日(または4週4日)の休日規制(労基法35条)に反しないこと
第●条
会社は、業務の都合上、必要と認める場合、第●条の休日を他の日に振り替えることができる。
2 前項の場合、会社は社員に対して、その振替の対象となる休日の前日、または、その振替の対象となる労働日の前日までに通知を行う。
(ア)第1項
上記3①のとおり、休日を振り替える場合、根拠規定が必要になりますので、その旨定めています。
(イ)第2項
上記3②のとおり、あらかじめ振替休日を特定するための規定です。
また、休日を振り替えた結果、上記3③の休日規制に反しないようにすることが重要です。
この点、法定休日を特定していない週休2日制(日、土)の場合、仮に、一方の所定休日(例:日)を翌週に振り替えたとしても、同じ週の他方(例:土)が法定休日になるため、この休日が確保されている限り、労基法上の休日規制には反しません(もっとも、振替により労働日となった日曜日が時間外労働に該当する可能性があります)。
第●条
会社は、社員が第●条の休日に労働した場合、会社の業務上の判断により、代休を付与する場合がある。
2 前項の代休は、原則として当該休日の属する給与計算期間中に与える。ただし、前項の代休は無給とする。
(ア)第1項
代休を付与する場合があることを定めています。
(イ)第2項
A 代休は同一給与計算期間中に付与すること
当初、代休を付与することを計画して、休日に労働させたにもかかわらず、実際には、多忙のため、後日、代休を付与できないケースがあり得ます(この場合、次のBの処理が必要です)。
このようなルーズな管理にならないよう、原則的なルールを記載しています。
B 同一給与計算期間中に代休を付与できなかった場合
仮に、同一給与計算期間中に代休が付与されない場合、いったんは、
㋐法定休日労働の場合:1.35倍
㋑法定外休日労働ではあるが、時間外労働(週40時間超または1日8時間超)の場合:1.25倍
の支払が必要です。
これを行わないと、労基法24条(全額払いの原則)違反になってしまうからです。
なお、1か月の時間外労働の合計が60時間を超えた時間について、割増率は1.25倍ではなく、1.5倍になります(2023年4月からは中小事業主にも適用されます)。
C 代休付与日は無給とすること
代休は、前述の定義のとおり、特定の労働日の労働義務を免除するものであるから、代休を付与するのみでは、法律上、当然に当該代休日は無給になりません。そのため、代休日は無給であることを明確に定めておく必要があります。
ただし、この場合でも、割増賃金部分(0.35倍、0.25倍、または0.5倍)の支払義務はあります(なお、この説明は休日労働時間数が所定労働時間(例:8時間)と同じであることを前提にしています)。
よくある誤解として、「代休を付与すれば、割増賃金部分も含め当該休日労働の賃金をゼロにできる」というものがありますが、これは労基法(24条1項ないし37条1項)違反ですので、注意したいところです。
厚労省は、米国の研究結果を引用し、睡眠時間が毎日6時間の場合、その状態が6日継続しただけで一晩徹夜したのと同じくらいの遅延反応が生じることを紹介しています(「ワーク・ライフ・バランスの実現のためには、労使の自主的な取組が重要です」9頁参照)。
「休む技術」西田昌規(だいた文庫)は、
と指摘しています。
上記5⑴⑵のとおり、働くことは、十分に休んでいること(休日に余暇を楽しみリフレッシュしていること)が前提であると思います。
さらに、近年、テレワーク、ワーケーションといった新しい働き方や、ダイバーシティ経営といった考え方が注目されていることから、今後益々働くことの価値観が多様化していくものと思われます。
働く・休日とは何かを改めて考える機会かもしれません。
多湖・岩田・田村法律事務所。第一東京弁護士会所属。
第一東京弁護士会労働法制委員会委員(基礎研究部会副部会長)。
経営法曹会議会員。
使用者側から労働問題を取り扱う。労働法務に関するセミナー講師も務める。
著書に、『詳解 働き方改革関連法』(共著、労働開発研究会、2019年)、『Q&A労働時間・休日・休暇・休業トラブル予防・対応の実務と書式』(共著、新日本法規、2020年)、『新しい働き方に伴う非正規社員の処遇-適法性判断と見直しのチェックポイント-』(共著、新日本法規、2021年)、『複雑化するトラブルに対応 懲戒をめぐる諸問題と法律実務』(共著、労働開発研究会、2021年)、『改訂版 実用会社規程大全』(共著、日本法令、2022年)、『対応ミスで起こる 人事労務トラブル回避のポイント』(共著、新日本法規、2022年)。
URL:http://www.tamura-law.com/