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弁護士が解説!5分で分かる、試用期間の基礎知識と実務対応(就業規則例を含む)

公開日:2020/12/11

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2023年1月19日(木)【医療業・福祉業向け】弁護士が教える!判例から読み解くハラスメント対策の勘所2023

この記事の執筆をした飯島先生が講師を務めるセミナーのご紹介。労働訴訟専門の弁護士の視点から、医療業・福祉業におけるハラスメント対策の勘所について最新の情報提供をさせていただきます。

「試用期間中であれば本採用するかは企業が自由に決められる?」
このような理解は、正しいのでしょうか?

このコラムでは、企業側労働法弁護士が、このような疑問に対し、基礎知識に基づいて解説するとともに、企業担当者として知っておきたい実務対応の視点を解説します。

1 試用期間とは何か

多くの企業では、正社員(新卒、中途)を採用するにあたって、入社後の一定期間を試用期間と定め、人物・能力を評価して本採用するかを決めています。

一般的に、正社員が入社し本採用に至るまでに、次のような段階を経ます。


2 企業担当者等から受けることのある質問

試用期間に関し、中小企業の経営者や企業担当者から、次の質問を受けることがあります。

A) 試用期間中であれば本採用するかを自由に決められますか?

B) 試用期間として雇い入れ後、14日以内であれば、自由に、本採用拒否(解雇)できますか?

上記質問は、正しい理解と言えるのでしょうか?
次から、法律知識の説明とともに考えていきたいと思います。

3 知っておきたい、試用期間の知識

試用期間に関するリーディングケースである、三菱樹脂最高裁判決(最高裁昭和48年12月12日)によると、①試用期間中の契約関係の法的性質について、解約権留保付き労働契約であると解した上で、②試用期間の趣旨は、後日における調査や観察に基づく最終的決定を留保することにあるから、③通常の解雇よりも広い範囲における解雇の自由が認められるとしつつも、④留保解約権の行使(本採用拒否)は、解約権留保の趣旨・目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し、社会通念上相当として是認される場合にのみ許される、としています。

具体的には、本採用拒否は、採用決定後における調査の結果、または試用中の勤務状態等により、当初知ることができず、また知ることが期待できないような事実を知った場合に、そのような事実に基づき本採用を拒否することが、解約権留保の趣旨・目的に照らして、客観的に相当であると認められる場合に限られることになります。

類型としては、㋐経歴詐称、㋑試用期間中の勤務成績の不良、㋒業務遂行能力の不足、㋓勤務態度の不良、㋔非協調性等が挙げられます。


4 質問に対する回答

以上をもとに、質問に対し回答します。

まず、質問Aについて、解約権の行使(本採用拒否)は、上記④のとおり、客観的に合理的な理由であること、及び社会通念上相当であることが求められることから、本採用拒否の全てが有効になるわけではありません。つまり、本採用拒否を自由に(必ず有効に)できるわけではありません。

次に、質問Bについては、労基法21条の誤解に、その原因があります。すなわち、同条は、試用期間14日目までは解雇予告(労基法20条)を不要としているのみであり、「試用期間14日目までであれば自由に解雇できる」、という規定ではありません。本採用拒否の有効性は、上記④のとおり、別途、検討しなければなりません。

したがって、質問ABは正しい理解とは言えませんので、誤解のないよう注意したいところです。

次からは、実務対応に関し、2点紹介します。


5 実務対応①:就業規則の整備

⑴ 正社員就業規則例

試用期間を設定するということは、労働契約の内容となることを意味しますので、あらかじめ就業規則に定めておくことが重要です。

例えば、正社員就業規則例として、次のものが考えられます。

第●条(試用期間)

第●条に基づき採用された無期雇用社員については、入社日から●か月間を試用期間とする。但し、正社員としての適格性等を判定するために会社が必要と認める場合、●か月間を限度として試用期間を延長することがある。

2 本採用の有無は、試用期間中又は試用期間満了日に、正社員としての適格性等を総合的に判断して行う。

3 本採用を決定した場合、試用期間は勤続年数に通算する。

⑵ 解説

ア 対象者
一般的に、試用期間は長期雇用を前提としますので、無期雇用社員(正社員)になじむ制度といえます。
そのため、正社員就業規則を例にしています。

イ 試用「期間」の定め
(ア)試用「期間」を明確にすること

試用期間は、社員の側から見ると、本採用に至っていない段階であることから、試用期間中の社員は、不安定な地位に置かれていると評価できます。
そのため、試用「期間」を明確にする必要があります。

(イ)裁判例

期間の長さに関する労基法等の定めはありませんが、あまりにも長期間の場合には、公序良俗違反により無効となり得ます。
この点、ブラザー工業事件(名古屋地判昭和59年3月23日・労判439号64頁)では、見習期間(6か月ないし1年3か月)に加えて、試用社員として6か月ないし1年の試用期間を設けていることに合理的な必要性はないとして、試用社員として試用期間を定めた部分を公序良俗に反し無効であるとしています。

(ウ)試用期間の長さ
なお、多くの企業では、試用期間を3か月から6か月の間で設定しているようです。
もっとも、仮に3か月とした場合、冒頭の図のとおり、労基法20条(30日前解雇予告又は解雇予告手当)の規制がありますので、実質的には3か月よりも前の段階で、本採用するかの判断をする必要があることが分かります。
企業担当者としては、時間に余裕をもった対応を計画することが求められます。

ウ 試用期間の延長規定
(ア)延長規定と延長の合理的理由

当初設定した試用期間において、本採用の有無の判断がつかない場合(例えば、一応、本採用するには不適格と思われるが、もう少し本人の能力を見極める場合など)に備え、延長規定を設けることが考えられます。
ただし、前述のとおり、試用期間は、社員の地位を不安定にしますので、延長規定を設けた場合でも、延長するための合理的な理由が必要ですし、あくまでも例外的な対応であると位置付けるべきです。

(イ)延長の通知時期と方法

延長の通知は、試用期間が終了する時までに行う必要があります。
仮に、試用期間を延長する場合、当該従業員に対し、(a)現段階において本採用に至らない理由(問題点)、及び(b)試用期間延長後の課題や目標を設定し、(c)改善がない場合には本採用できないことを書面で伝えておくことが重要です。
また、本人の納得を得る観点、紛争防止の観点から、本人に対して書面で説明の上、明確な同意を得ておくことが重要です。


6 実務対応②:実は採用段階がポイント

ア 採用の自由

ここまで、試用期間に関する説明をしてきましたが、そもそも試用期間を巡る労務トラブルは、企業と労働者のミスマッチが原因である場合があります。

すなわち、本来であれば、採用選考段階において、当該応募者が当該企業とミスマッチであると判断できたにもかかわらず、この段階を重視していなかった(例えば、選考書類を十分に精査していない、役職者が採否に実質的に関わっていない等)と思われる企業があります。

この点、企業には、誰を雇い入れるかにつき、法律その他による特別の制限がない限り、原則として自由に決定できるとされています(三菱樹脂最高裁判決)。

イ 法律その他による特別の制限

法律その他による特別の制限は、以下のとおりです。

  1. 性別を理由とする差別禁止(雇用機会均等法5条~7条、同法施行規則2条)
  2. 募集・採用における年齢制限禁止(雇用対策法10条)
  3. 黄犬契約の禁止(労組法7条1項本文後段):労働組合非加入を雇用条件とすること
  4. 障害者雇用促進法による法定雇用率の設定等

企業、労働者ともにミスマッチをなくすことが重要

企業には、原則として採用の自由が認められますので、(ⅰ)求める人材像を明確にした上で、(ⅱ)それをどのように選考するかが重要になります(ミスマッチは、労働者、企業の双方にとって、好ましくありません)。

他方、労働者目線から見ると、(他社ではなく)当該企業で働きたいと思ってもらうことが重要です。

そのため、企業としても、自社のことを(魅力的であると)知ってもらうために、積極的にアピール(情報を開示)していくことも検討に値します(企業は、選ぶ側でもあり、選ばれる側でもあるといえます)。

なお、応募者の個人情報の取扱いにつき、職安法5条の4(個人情報の収集・保管・使用は目的の達成に必要な範囲内で行う必要があること等)等に注意すべきです。


7 まとめ

試用期間中の社員につき、正社員の適格性をしっかりと見極めることは重要ですが、それと同等以上に、採用実務(冒頭の図でいうと、採用決定前の段階)も重要であることがお分かりいただけたかと思います。

各社におかれましては、試用期間の知識を得た上で、これを適切に運用するとともに、今一度、求める人材像等を社内で再確認することも有用ではないでしょうか。


この記事の執筆者
飯島 潤
飯島 潤(いいじま じゅん)
弁護士 

多湖・岩田・田村法律事務所。第一東京弁護士会所属。
第一東京弁護士会労働法制委員会委員(基礎研究部会副部会長)。
経営法曹会議会員。
使用者側から労働問題を取り扱う。労働法務に関するセミナー講師も務める。

著書に、『詳解 働き方改革関連法』(共著、労働開発研究会、2019年)、『Q&A労働時間・休日・休暇・休業トラブル予防・対応の実務と書式』(共著、新日本法規、2020年)、『新しい働き方に伴う非正規社員の処遇-適法性判断と見直しのチェックポイント-』(共著、新日本法規、2021年)、『複雑化するトラブルに対応 懲戒をめぐる諸問題と法律実務』(共著、労働開発研究会、2021年)、『改訂版 実用会社規程大全』(共著、日本法令、2022年)、『対応ミスで起こる 人事労務トラブル回避のポイント』(共著、新日本法規、2022年)。

URL:http://www.tamura-law.com/