更新日:2025/12/09
健康経営®の重要性は理解しているものの、「具体的にどんな目標(KPI)を立てれば良いかわからない」「設定したKPIが本当に効果測定につながるのか不安」といった悩みを抱えていませんか。健康経営を成功させる鍵は、自社の健康課題に合わせた適切なKPIを設定し、PDCAサイクルを回して継続的に改善していくことにあります。
本記事では、健康診断受診率やストレスチェック結果といった基本的な指標から、アブセンティーイズム、プレゼンティーイズムの改善まで、すぐに使える健康経営のKPI具体例を網羅的に紹介します。効果測定につながるKPIの決め方を3つのステップでわかりやすく解説し、失敗しないためのポイントや国内企業の成功事例もあわせてご紹介。自社の取り組みの成果を可視化し、経営層や従業員の理解を得ながら、実効性のある健康経営を推進するための具体的な方法がすべてわかります。
※「健康経営®」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。
健康経営を戦略的に推進し、その効果を最大化するためには、具体的な目標設定が不可欠です。そこで重要となるのがKPI(重要業績評価指標)です。この章では、健康経営に取り組むうえで必ず知っておきたいKPIの基本的な考え方と、その重要性について解説します。
健康経営の目標設定について考える際、KPIとKGIという2つの指標を理解しておく必要があります。これらは目標達成までのプロセスを管理するうえで重要な役割を果たします。
KGI(Key Goal Indicator:重要目標達成指標)は、企業が最終的に目指すゴールを定量的に示した指標です。一方、KPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)は、KGIを達成するための中間的な目標を具体的に示した指標を指します。つまり、日々の活動が最終目標であるKGI達成にどれだけ貢献しているかを測る「ものさし」がKPIです。
両者の関係性を以下の表にまとめました。
| 指標 | 名称 | 役割 | 健康経営における例 |
|---|---|---|---|
| KGI | 重要目標達成指標 | 最終的に達成すべきゴール | 生産性の向上(前年比5%アップ)、従業員離職率の低下(前年比10%減) |
| KPI | 重要業績評価指標 | KGI達成に向けた中間目標 | アブセンティーイズム率の低下、ストレスチェック高ストレス者率の改善 |
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なぜ、健康経営の実践においてKPIの設定がこれほどまでに重要視されるのでしょうか。その理由は大きく3つあります。
健康経営の取り組みは、その成果がすぐには現れにくいものが多くあります。KPIを設定することで、施策の進捗状況や効果を客観的な数値で把握できるようになります。「なんとなく改善した」という曖昧な評価ではなく、「健康診断の有所見者率が3%改善した」といった具体的なデータで成果を示すことが可能になります。
健康経営を推進するには、経営層の投資判断や従業員の協力が不可欠です。KPIを用いて具体的な数値目標と成果を示すことで、取り組みの意義や投資対効果(ROI)をわかりやすく説明できます。経営層にはコストではなく未来への投資であることを、従業員には会社が目指す方向性や目的を明確に伝えられ、組織全体で納得感を持って取り組む土壌が生まれます。
KPIは、Plan(計画)・Do(実行)・Check(評価)・Action(改善)というPDCAサイクルを効果的に回すための重要な要素です。設定したKPIの達成度を定期的に「Check(評価)」することで、施策が計画通りに進んでいるか、効果が出ているかを判断できます。もし目標値に達していなければ、その原因を分析し、施策を「Action(改善)」するきっかけとなり、健康経営の取り組みが形骸化するのを防ぎます。
健康経営のKPIは、大きく分けて「従業員の健康状態」「働き方や職場環境」「健康への取り組み」の3つのカテゴリーに分類できます。ここでは、それぞれのカテゴリーにおける具体的なKPIの例を、目標設定のポイントとあわせて一覧で解説します。
従業員の心身の健康状態を直接的に示す、最も基本的な指標群です。健康診断やストレスチェックの結果など、客観的なデータに基づいているため、多くの企業で導入されています。
健康経営の土台となるのが、従業員の健康状態を正確に把握することです。健康診断受診率は、その第一歩となります。法定の受診率100%は当然の目標ですが、さらに婦人科検診や各種がん検診などの受診率向上も重要なKPIとなります。有所見者率(何らかの異常所見があった従業員の割合)は、従業員の健康課題を特定し、改善度合いを測るための重要な指標です。
| KPI項目 | 目標設定の例 |
|---|---|
| 定期健康診断受診率 | 100%を維持する |
| 二次検査受診率 | 80%以上 |
| 有所見者率 | 前年度比5%低下 |
メンタルヘルス対策の第一歩として、ストレスチェックの実施は不可欠です。受検率を高めることで、職場全体のストレス状況をより正確に把握できます。高ストレス者率(高ストレスと判定された従業員の割合)をKPIに設定し、その推移を追うことで、職場環境の改善策やメンタルヘルス不調の予防策の効果を測定できます。また、集団分析結果から特定の部署や職場の課題を抽出し、具体的な改善アクションにつなげることも重要です。
| KPI項目 | 目標設定の例 |
|---|---|
| ストレスチェック受検率 | 90%以上 |
| 高ストレス者率 | 前年度比3%低下 |
| 集団分析結果に基づく職場改善の実施部署数 | 全事業所の50%以上 |
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特定保健指導は、健康診断の結果、生活習慣病のリスクが高いと判断された従業員に対して行われる専門家によるサポートです。対象者が指導を受けることで、生活習慣の改善と将来の重症化予防につながります。そのため、特定保健指導の対象者数と、実際に指導を受けた従業員の割合(実施率)は、生活習慣病対策の効果を測るうえで重要なKPIとなります。
従業員の健康は、日々の働き方や職場の環境に大きく影響されます。ワークライフバランスの実現や、働きがいのある職場づくりに関する指標も健康経営の重要なKPIです。
長時間労働は、心身の健康に悪影響を及ぼす主要な要因のひとつです。月平均の時間外労働時間や、特定の基準(例:月45時間)を超える従業員の割合をKPIとし、その削減を目指します。また、心身のリフレッシュを促す有給休暇の取得率も、ワークライフバランスを示す重要な指標です。
従業員が仕事や職場に対してどれだけ満足しているかを示す従業員満足度や、企業への貢献意欲を示すエンゲージメントスコアも、健康経営の成果を測るうえで有効なKPIです。これらのスコアが高い職場は、従業員のメンタルヘルスが良好で、生産性も高い傾向にあります。定期的なサーベイを実施し、スコアの推移を観測することで、組織の活性度や職場環境の健全性を評価できます。
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アブセンティーイズムは、傷病による欠勤や休職など、仕事を行えない状態を指します。一方、プレゼンティーイズムは、出勤はしているものの、心身の不調によって本来のパフォーマンスが発揮できない状態のことです。とくにプレゼンティーイズムによる企業の損失は、アブセンティーイズムよりもはるかに大きいと言われています。これらを定量的に測定し、改善を目指すことは、生産性向上に直結する重要な取り組みです。
| 指標 | 名称 | KPI設定の例 |
|---|---|---|
| アブセンティーイズム | 傷病による欠勤日数や休職者数 | 一人当たりの平均傷病欠勤日数を前年度比10%削減 |
| プレゼンティーイズム | 心身の不調による労働生産性の損失 | プレゼンティーイズム損失割合を前年度比5%改善 |
企業が実施する健康増進施策への従業員の参加度や、従業員自身の健康意識・行動の変化を測る指標です。施策の効果を評価し、改善していくために設定します。
食生活改善セミナー、運動イベント、メンタルヘルス研修など、企業が提供する健康関連の施策への参加率は、従業員の健康への関心度を示すわかりやすい指標です。単に参加率を測るだけでなく、参加後のアンケートで満足度や行動変容の意欲を確認することも、施策の質を高めるうえで重要です。
従業員の生活習慣の改善は、健康経営の大きな目的のひとつです。定期的なアンケート調査などを通じて、「運動習慣のある従業員の割合」や「朝食を毎日食べる従業員の割合」などを測定します。これらの指標をKPIとして設定し、改善に向けた啓発活動や機会提供を行うことで、従業員の健康リテラシー向上と行動変容を促進します。
喫煙は多くの疾病リスクを高めるため、禁煙支援は多くの企業が取り組むテーマです。喫煙率そのものをKPIとすることも有効ですが、より具体的な施策の効果を測るために、企業が提供する禁煙プログラムへの参加者数や、その中での禁煙成功率をKPIに設定します。これにより、プログラムの内容やサポート体制の有効性を評価し、改善につなげられます。
やみくもに健康施策を実施しても、その効果を測定できなければ改善につながりません。ここでは、企業の健康経営を成功に導くための効果的なKPIの決め方を3つのステップで具体的に解説します。
効果的なKPI設定の第一歩は、自社の従業員が抱える健康課題を正確に把握することです。まずは客観的なデータを用いて、現状を可視化することから始めましょう。
主に以下のようなデータを分析することで、自社の課題が明らかになります。
| データソース | 把握できる健康課題の例 |
|---|---|
| 定期健康診断・特定健診の結果 | 生活習慣病(高血圧、脂質異常症、糖尿病など)の有所見者率、肥満者の割合、喫煙率など |
| ストレスチェックの集団分析結果 | 高ストレス者率が高い部署の特定、職場環境におけるストレス要因(仕事の量・質、人間関係など) |
| 勤怠データ | 部署ごとの時間外労働時間、年次有給休暇の取得率、休職者数・休職期間 |
| 従業員アンケート | 運動習慣や食生活の実態、睡眠の質、自覚している心身の不調、仕事への満足度やエンゲージメント |
これらのデータを部署別、年齢別、職種別などで多角的に分析することで、とくにアプローチすべき課題の優先順位が見えてきます。
次に、健康経営を通じて最終的に達成したいゴール、すなわちKGI(重要目標達成指標)を設定します。KGIは、企業の経営課題と密接に連動していることが重要です。なぜなら、健康経営は単なる福利厚生ではなく、企業の持続的な成長を実現するための「経営戦略」だからです。
たとえば、以下のように経営課題とKGIを紐づけて設定します。
| 経営課題 | KGI(最終目標)の具体例 |
|---|---|
| 生産性の向上 | アブセンティーイズム(病欠)率を〇%低減する プレゼンティーイズム(出勤しているが不調で生産性が低い状態)による損失額を〇%削減する |
| 人材の確保と定着 | 従業員エンゲージメントスコアを〇ポイント向上させる 離職率を〇%低減する |
| 企業価値の向上 | 健康経営優良法人の認定を取得する 従業員の医療費を適正化する |
KGIは、企業のトップがコミットメントを示すうえでも重要な指標となります。経営層を巻き込み、全社的な目標として設定しましょう。
最後に、設定したKGIを達成するための中間目標としてKPI(重要業績評価指標)を設定します。KPIは、ステップ1で明確にした健康課題の解決につながり、かつKGI達成への貢献度が明確なものを選ぶことが成功の鍵です。
KGIとKPIは、以下のように因果関係で結びついている必要があります。
| KGI(最終目標) | 関連する健康課題 | KPI(中間目標)の具体例 |
|---|---|---|
| プレゼンティーイズム損失額を10%削減する | 肩こりや腰痛の有訴者率が高い |
|
| 離職率を5%低減する | メンタルヘルス不調による休職者が多い |
|
| 従業員の医療費を適正化する | 生活習慣病の有所見者率が高い |
|
このように、自社の課題からKGI、そしてKPIへと一気通貫で設計することで、施策の目的が明確になり、効果測定と改善のPDCAサイクルを回しやすくなります。
健康経営のKPIを設定する際には、目標が形骸化したり、効果測定が曖昧になったりするのを防ぐためのポイントがあります。ここでは、具体的で実用的なKPIを設定し、着実に成果へつなげるための3つの重要なポイントを解説します。
KPIを設定する際に広く用いられるフレームワークが「SMARTの法則」です。具体的で、誰が見ても達成状況を客観的に判断できる目標を立てるために、以下の5つの要素を意識することが重要です。
| 要素 | 意味 | 健康経営KPIにおける具体例 |
|---|---|---|
| Specific(具体的) | 誰が読んでも明確に理解できる、具体的な内容か | (悪い例)従業員の健康を増進する (良い例)ウォーキングイベントへの参加率を向上させる |
| Measurable(測定可能) | 目標の達成度合いを定量的に測定できるか | (悪い例)運動習慣を定着させる (良い例)1日8,000歩以上歩く従業員の割合を50%にする |
| Achievable(達成可能) | 現実的に達成可能な目標か | (悪い例)全従業員の残業時間をゼロにする (良い例)月平均残業時間を前年比で10%削減する |
| Relevant(関連性) | KGI(最終目標)の達成と関連しているか | (悪い例)社内サークルの参加率を上げる (良い例)生活習慣病リスクの低減のため、特定保健指導の実施率を80%にする |
| Time-bound(期限) | いつまでに達成するのか、明確な期限が設定されているか | (悪い例)いつか有給休暇取得率を上げる (良い例)2026年度末までに有給休暇取得率を75%にする |
KPIには、取り組みのプロセスを測る「先行指標」と、取り組みの結果を測る「結果指標」の2種類があります。健康経営を継続的に推進し、最終的な成果につなげるためには、この両方をバランス良く設定することが不可欠です。
| 指標の種類 | 特徴 | KPI具体例 |
|---|---|---|
| 先行指標 | 施策の実施状況や従業員の行動変容を測る |
|
| 結果指標 | 施策によって得られた最終的な成果を測る |
|
たとえば、「健康セミナーの参加率(先行指標)」が高まれば、将来的に「有所見者率(結果指標)」が低下するといった因果関係を意識してKPIを組み合わせることで、施策の効果を多角的に評価できます。
KPIを何に設定すれば良いか迷った場合、経済産業省が毎年実施している「健康経営度調査」の項目が非常に参考になります。この調査は、「健康経営優良法人」の認定制度にも活用されており、企業の健康経営の取り組みを評価するための網羅的な視点が盛り込まれています。
健康経営度調査の評価項目は、大きく分けて「経営理念・方針」「組織体制」「制度・施策実行」「評価・改善」の4つの側面から構成されています。これらの項目を参考にすることで、自社に不足している視点に気づき、体系的で効果的なKPIを設定するヒントを得ることができます。
【関連記事:ストレスチェックで職場改善を成功させる!データ活用の具体的なステップとポイント】
健康経営の取り組みを具体化するためには、他社の成功事例から学ぶことが近道です。ここでは、とくに課題として挙げられやすい「メンタルヘルス対策」と「生活習慣病予防」に焦点を当て、KPI設定事例を2つ紹介します。
長時間労働が常態化しやすいというIT業界を中心に、従業員の心身の健康維持、とくにメンタルヘルス対策を重視した健康経営を推進する企業が増えています。従業員のワーク・エンゲイジメント(仕事への熱意・活力)向上をKGI(最終目標)に掲げ、その達成度を測るためのKPIを多角的に設定しましょう。
具体的な取り組みとして、ストレスチェックの実施はもちろんのこと、その結果に基づいた職場環境の改善や、管理職向けのラインケア研修などを通じて、メンタルヘルス不調の未然防止が可能です。
KPIの具体例は以下のとおりです。
| 指標の種類 | KPI項目 | 具体的な目標値(例) |
|---|---|---|
| 結果指標 | ストレスチェック高ストレス者率 | 10%未満を維持 |
| 結果指標 | ワーク・エンゲイジメントスコア | 前年比5%向上 |
| 先行指標 | ストレスチェック受検率 | 95%以上 |
| 先行指標 | 有給休暇取得率 | 80%以上を継続 |
| 先行指標 | 月平均時間外労働時間 | 20時間未満 |
これらのKPIを定期的にモニタリングし、PDCAサイクルを回すことで、従業員一人ひとりが心身ともに健康で、いきいきと働ける職場環境の実現を目指すことができます。
従業員にパフォーマンスを保って働いてもらえるよう、セルフケア能力向上をKGI(最終目標)とし、健康診断結果の改善や健康的な生活習慣の定着を目指すケースもあります。
健康診断後の全従業員面談の実施や栄養指導、ウォーキングイベントの開催など、従業員が主体的に健康づくりに取り組むための支援などが考えられます。
KPIの具体例を見てみましょう。
| 指標の種類 | KPI項目 | 具体的な目標値(例) |
|---|---|---|
| 結果指標 | 健康診断有所見者率の低下 | 前年比3%減 |
| 結果指標 | 適正体重維持者率 | 60%以上 |
| 先行指標 | 特定保健指導の実施率 | 70%以上 |
| 先行指標 | 運動習慣者率 | 35%以上 |
| 先行指標 | 朝食欠食率 | 5%未満 |
これらのKPIは、従業員一人ひとりが自身の健康状態を「知る」、改善方法を「考える」、そして健康行動を「動く」というサイクルを回すことを促すために設定されています。従業員が「自然に健康になる」環境を整えることで、企業の持続的な成長と生産性向上につなげることを目指しています。これらの取り組みは、経済産業省が公開する健康経営の先進企業事例としても参考にされています。
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本記事では、健康経営におけるKPIの重要性から、具体的な設定例、効果測定につながる決め方のステップまでを網羅的に解説しました。健康経営の取り組みを成功させるためには、感覚的な評価ではなく、客観的な数値に基づいたKPI設定が不可欠です。
健康経営でKPIを設定する理由は、第一に「取り組みの成果を可視化」し、第二に「経営層や従業員の理解を得」、そして第三に「PDCAサイクルを回して継続的な改善を行う」ためです。これらの目的を達成することで、健康経営は単なる福利厚生ではなく、企業の成長を支える経営戦略として機能します。
KPIを設定する際は、「従業員の健康状態」「働き方や職場環境」「健康への取り組み」といった観点から、自社の健康課題を明確にすることが第一歩です。そのうえで、KGI(最終目標)を定め、それを達成するための具体的なKPIへと落とし込んでいきましょう。設定時には「SMARTの法則」を意識したり、経済産業省の「健康経営度調査」の項目を参考にしたりすることで、より実効性の高い目標を立てられます。
紹介した具体例や設定のステップを参考に、ぜひ自社に合ったKPIを設定し、従業員一人ひとりが心身ともに健康で、いきいきと働ける職場環境の実現を目指してください。