更新日:2019/10/11
従業員の働く環境は変化し続けています。
IT技術が進んでいくにつれて、どこでも仕事ができる環境も増えてきていると思います。
場所を問わず仕事ができるということは、場所や時間などに限定されず、仕事が自由にできる一方で、私生活と仕事との境界線が曖昧になってしまうのも事実です。仕事と私生活との境目が曖昧になることで、うまく仕事から意識を切り替えることが苦手な人にとっては、ストレスを高く感じることにつながってしまうといわれています。
ストレスチェックや働き方改革等が進む中、従業員が働きやすく、いきいきと仕事に取り組んでもらうためにはどうしたらいいのか、企業では、対応にむけて取り組んでいるところも多いのではないでしょうか。
そんな中、最近耳にすることが多くなったのが、“エンゲージメント”という言葉です。
今回は、“エンゲージメント”とは、どのような意味があるのかご紹介していきます。
エンゲージメント(Engagement)を、英和辞書で、調べてみると、「(会合などの)約束、契約、債務、婚約、婚約期間、雇用、雇用契約、交戦、(歯車などの)かみ合い」と、訳されます。雇用や雇用契約などは、企業に関わるところではありますが、昨今注目し、使用されている“エンゲージメント”の意味とは異なります。
それでは、昨今注目されている“エンゲージメント”とはなんなのでしょうか。
“エンゲージメント”と一言で言われますが、『ワーク・エンゲージメント』や『従業員エンゲージメント』と2つのものがあります。
“エンゲージメント”が注目されているなか、上記の2つが正しく区別されずに、まざった状態のまま認識されてしまっているのではないでしょうか。
そこで、今回はその2つの“エンゲージメント”について、ご紹介していきます。
1つ目は『ワーク・エンゲージメント』です。
「ワーク・エンゲージメントとは仕事に関連するポジティブな心理状態で、活力、熱意、没頭によって特徴づけられるものを示している。そのエンゲージメントとは、特定の対象や一時的な状態ではなく、仕事に向けられた持続的かつ全般的な感情と認知のこと。」
と、オランダの心理学者であるシャウフェリらは、定義しています。
ワーク・エンゲージメントの高い人は、仕事にやりがい(誇り)を感じ、熱心に取り組み、仕事から活力を得て活き活きとしている状態であるといわれています。
下記は、ワーク・エンゲージメントの3要素について、図にしたものです。
ワーク・エンゲージメントは内的な動機付けとの関わりが高いといわれています。
上記の図や定義でもあるように、活力、熱意、没頭のワーク・エンゲージメントの三要因とは、その人自身が、仕事に対して、プラスの認識があることで、向上するものとなります。
「プライベートの時間に仕事のことを考えない」
ということが、必ずしも、ワーク・エンゲージメントを高めるというわけではありません。
ワーク・エンゲージメントが高い人は、適度に就業時間外であっても、仕事のことを考えているといわれています。
仕事とプライベートの距離をおいて、考えるというよりも、自身のつながりとして、自分の仕事に誇りを持てること、達成感を感じることが、仕事に対するプラスの意識となっていきます。
適度な仕事量や自分にあった仕事の難易度、適度なストレス状態であることなども、自身のやる気へとつながることとなります。
つぎに、『従業員エンゲージメント』について、ご紹介します。
「従業員エンゲージメントとは、会社と従業員との間の信頼関係が構築され、従業員が会社に対して貢献したいと思い、相互での愛着心があること」
と、アメリカの心理学者、ウィリアム・カーンが提唱したといわれています。
近年米国のHR(Human Resources/人事課)や人事開発業界などでも、エンゲージメントという言葉が注目されており、そこでも、従業員が企業との関係について、どのくらい愛情を持っているか、という意味で使用されています。
米国の調査会社であるギャラップ社が従業員エンゲージメントの調査を実施した2017年の調査結果によると、従業員エンゲージメントに関わる、「熱意にあふれる社員(Engaged)」の割合が、日本では、6%となり、139カ国中132位と最下位に近いレベルとなっています。また、「やる気のない社員(Not Engaged)」が70%も占めているということです。
下記がその調査結果のグラフとなります。
米国や世界からみても、熱意あふれる社員が少ないことが、グラフからも読み取れると思います。
かつての日本人の“働く人”のイメージというのは、会社に忠誠心があり、
「会社のため」
「家庭よりも、仕事優先で」
というイメージがあったと思います。
しかし、現在行われた調査によると、そのイメージとは反対の結果が出てきていることがわかると思います。
“時代”
といわれてしまえば、それまでかもしれませんが、結果として出ている以上、企業において、従業員のエンゲージメントをあげることは、会社全体としてプラスに働く材料になります。
2つの“エンゲージメント”について、ご紹介しましたが、企業がアプローチしやすいのは、従業員エンゲージメントだと思います。
まずは、従業員エンゲージメントへアプローチするために、人間関係、職場環境の改善等の対策を考えていくことが求められます。企業が環境面を配慮することで、従業員のストレスの軽減につながっていきます。
そこに従業員個人へのやりがい、仕事への評価、適度なストレスを与えることで、ワーク・エンゲージメント向上になり、従業員個人が、自発的に仕事に意欲的になることで、より仕事の生産性があがっていき、企業全体の生産性向上につながっていくと思います。
(参考文献)
State of the Global Workplace(2017). Gallup Report.
窪田・島津・川上(2014). 日本人労働者におけるワークホリズムおよびワーク・エンゲージメントとリカバリー経験との関連 行動医学研究, 20(2), 69-76.
島津(2010). 職業性ストレスとワーク・エンゲージメント ストレス科学研究, 25, 1-6.
島津(2010). ワーク・エンゲージメントに注目した自助と互助 総合病院精神医学, 22(1), 20-26.