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第2号文書(請負に関する契約書)の勘所印紙税の基本や誤解が生じやすい点を弁護士が易しく解説第3回 一方当事者の作成する請負契約書
この連載コラムでは、印紙税の基本や誤解が生じやすい点について、鳥飼総合法律事務所弁護士の山田重則 氏が易しく解説します。今回は、第2号文書の勘所と題して、第2号文書に関する実務上の問題点について、4回に分けて連載をします。本稿では、その第3回として、一方当事者の作成する請負契約書について解説します。
1 はじめに
請負契約書は、第2号文書として課税されます。契約書というと、契約当事者の双方が署名、押印する形式が一般的です。しかし、印紙税法上は、契約当事者の一方のみが作成した文書であっても「契約書」にあたる場合があります。この点を十分に認識していないと、それが請負契約書にあたるということに気づかないまま、大量に課税文書を作成してしまうという事態が起きます。過去の新聞報道においても、それが請負契約書にあたるということに気づかないまま、大量に作成してしまい、数千万円の過怠税を課された事案が散見されます。そこで、今回は、契約当事者の一方のみが作成する文書のうち、どのようなものが請負契約書にあたるか解説します。
2 印紙税法上の「契約書」
印紙税法上は、「契約書」とは、次のように定義されています(下線を付した部分が重要です)。
【印紙税法別表第1 課税物件表の適用に関する通則5】
「契約書」とは、契約証書、協定書、約定書その他名称のいかんを問わず、契約(その予約を含む。以下同じ。)の成立もしくは更改または契約内容の変更もしくは補充の事実(以下「契約の成立等」という。)を証すべき文書をいい、念書、請書、その他契約の当事者の一方のみが作成する文書または契約の当事者の全部もしくは一部の署名を欠く文書で、当事者間の了解または商慣習に基づき契約の成立等を証することとされているものを含むものとする。
上記の下線部によれば、印紙税法上の「契約書」には、契約当事者の双方が署名、押印するなどして作成した文書だけでなく、契約当事者の一方のみが作成した文書も含まれることが分かります。そして、契約当事者の一方のみが作成した文書のうち、「当事者間の了解または商慣習に基づき契約の成立等を証することとされているもの」、すなわち、契約当事者間の契約の成立等を証明する目的で作成される文書は、「契約書」にあたります(印紙税法基本通達12条)。
契約は、申込者が「申込」の意思表示と相手方の「承諾」の意思表示が合致することで成立します。そこで、以下では、申込者の作成する文書と相手方の作成する文書に分けて、どのような文書が契約の成立等を証明する目的で作成される文書にあたるか整理します。
3 申込者が作成する「契約書」
単に申込者が「申込」の意思を表示しただけでは契約は成立しません。相手方の「承諾」の意思が表示されていないためです。そのため、申込者が作成する文書は、原則として「契約書」にあたることはありません。
しかし、申込者が作成する文書であっても、それが契約の成立等を証明する目的で作成される文書にあたる場合には、例外的に「契約書」となります。このような例外的な場合としてたとえば、以下の4つの場合が挙げられます。
⑴ 申込書が印紙税法基本通達21条の要件を満たす場合
印紙税法基本通達21条2項は、次に掲げる文書は、原則として契約書にあたるとしています。
【印紙税法基本通達21条2項】
(1) 契約当事者の間の基本契約書、規約又は約款等に基づく申込みであることが記載されていて、一方の申込みにより自動的に契約が成立することとなっている場合における当該申込書等。ただし、契約の相手方当事者が別に請書等契約の成立を証明する文書を作成することが記載されているものを除く。
(2) 見積書その他の契約の相手方当事者の作成した文書等に基づく申込みであることが記載されている当該申込書等。ただし、契約の相手方当事者が別に請書等契約の成立を証明する文書を作成することが記載されているものを除く。
(3) 契約当事者双方の署名又は押印があるもの
詳しくは、「これって課税文書?-過去の新聞報道を題材に 第3回「契約書になる申込書」とは」を、お読みください。
⑵ 申込書が基本契約を踏まえると「契約書」になる場合
継続的な取引関係にある当事者間では、基本契約書を交わした上で、個別の取引は注文書等のやり取りで済ませるということが広く行われています。そして、個別の取引の際に当事者でやり取りされる文書の文言は、基本契約の内容を加味して判断すると解されています。この点を明らかにしたのが印紙税法基本通達3条です(下線を付した部分が重要です)。
【印紙税法基本通達3条】
1 文書が課税文書に該当するかどうかは、文書の全体を一つとして判断するのみでなく、その文書に記載されている個々の内容についても判断するものとし、また、単に文書の名称又は呼称及び形式的な記載文言によることなく、その記載文言の実質的な意義に基づいて判断するものとする。
2 前項における記載文言の実質的な意義の判断は、その文書に記載又は表示されている文言、符号を基として、その文言、符号等を用いることについての関係法律の規定、当事者間における了解、基本契約又は慣習等を加味し、総合的に行うものとする。
個別の取引の際に申込者が作成する申込書には単に申込の事実しか記載されていない場合であっても、たとえば、基本契約書中、「申込書は、個々の取引内容の確認の証とする」旨定められている場合は、「契約書」にあたります。このように個別の取引の際に当事者が作成する文書について印紙税の検討する際は、必ず当事者間で基本契約書が交わされていないかを確認し、交わされている場合には、基本契約書の内容も踏まえて判断する必要があります。
⑶ 申込書に契約の成立を前提とする文言が使用されている場合
申込者と相手方とが協議の上、口頭で契約内容を決定した後、申込者が決定内容を「申込書」、「注文書」といった表題の文書に記載して相手方に交付することがあります。たとえば、「契約年月日」、「契約番号」、「決済条件」等、契約の成立が前提となっている文言が使用されている場合、文書の表題が「申込書」、「注文書」となっていても、「契約書」にあたります。
⑷ 申込書の控えに相手方が押印した場合
申込者が申込書とその控えを相手方に交付し、相手方が控えに押印をした上で、申込者に返却する場合があります。相手方の押印がなされた申込書の控えは、一般的には申込者の申込に対する相手方の承諾の意思を示す文書といえますので、「契約書」となります。
4 相手方が作成する「契約書」
申込者の申込の意思に対して相手方が承諾する旨の意思が表示されている文書は、契約の成立等を証明する目的で作成される文書といえるため、「契約書」となります。
⑴ 申込の意思に対して承諾する旨の意思が明確に表示されている場合
相手方が作成する文書中、「承諾する」、「お引き受けします」、「請けます」といった文言が記載されている場合や文書の表題が「念書」、「請書」、「承諾書」、「〇〇証」となっている場合、通常、申込の意思に対して相手方が承諾する旨の意思が表示されているといえるため、「契約書」となります。
国税庁の質疑応答事例においては、不動産の売主から買主に対して交付される「売渡証書」という表題の文書、不動産賃貸の賃貸人から賃借人に対して交付される「墓地使用承諾証」という表題の文書、請負人から注文者に対して、「注文お請けいたします」と記載された注文請書について、それぞれ「契約書」にあたるとされています(国税庁質疑応答事例1号の1文書の11、同1号の2文書の6、同2号文書の7)。
⑵ 申込の意思に対して承諾する旨の意思表示が明確には表示されていない場合
印紙税の判断は、その文書に記載された文言を重視してなされます。そのため、申込の意思に対して承諾する旨の意思表示が明確には表示されていない場合は、一見すると、「契約書」にあたらないように思われます。
ア 「契約書」にあたらないと扱われている例
たとえば、ホテルや旅館が宿泊の申込を受けた場合、宿泊年月日、人員、宿泊料金等を記載し、その申込みを引き受けた旨を記載して顧客に交付する宿泊申込請書等は、「契約書」にあたりますが(印紙税法基本通達第2号文書16)、宿泊年月日、人員、宿泊料金等の記載があっても、申込を引き受けた旨の記載がなく、文書の表題も案内状等にとどまる場合には、「契約書」にあたらないものと扱われています(舟木英人編『問答式実務印紙税』(大蔵財務協会、2022)185頁)。両者の違いは、承諾する旨の意思表示が明確に表示されているかどうかであり、明確に表示されていない場合には「契約書」にあたらないものと扱われているようです。
また、写真フィルムの現像、焼付け等の取次店が顧客から現像等の依頼を受けた場合、注文内容等の記載があっても、依頼を引き受けた旨の記載がなく、文書の表題も「引換券」、「お預り券」等にとどまる場合には、「契約書」にあたらないものと扱われています(同上196頁)。
イ 「契約書」にあたると扱われている例
百貨店等が時計、ライター等の物品の修理、加工の依頼を受けた場合、依頼を引き受けた旨の記載がなく、文書の表題も「整理券」、「受取書」等にとどまる場合であっても、仕事の内容、契約金額、期日又は期限のいずれか1つ以上の事項の記載があるものは、「契約書」にあたると扱われています(国税庁質疑応答事例第2号文書24)。すなわち、承諾する旨の意思表示が明確に表示されていない場合であっても「契約書」にあたるとの取扱いが示されています。この取扱いは、印紙税法基本通達12条の「課税事項のうち一の重要な事項を証明する目的で作成される文書であっても、当該契約書に該当するのであるから留意する」との解釈を踏まえたものと考えられます。
5 まとめ
申込者又は相手方のどちらか一方が作成する文書であっても「契約書」にあたりうるという点は、印紙税の判断をする上で、非常に重要です。請負にあたる業務を提供している企業は、自社のひな形が請負契約書にあたらないか検証する必要があるでしょう。どのような役務が「請負」にあたるかは、「第2号文書(請負に関する契約書)の勘所 第1回 請負、売買、委任の区別」を是非、お読みください。
弁護士プロフィール
弁護士 山田 重則(やまだ しげのり)
鳥飼総合法律事務所所属。
一橋大学法学部卒業、早稲田大学大学院法務研究科修了。
印紙税相談室に所属し、企業等からの印紙税の相談対応や社内研修の実施など、印紙税に関する幅広い業務を行う。
新日本法規出版株式会社・鳥飼コンサルティンググループ主催の印紙税検定<中級篇>、弁護士ドットコムオンラインセミナー「弁護士が知っておくべき印紙税のポイント」にて講師を務める。
著書に「迷ったときに開く 実務に活かす印紙税の実践と応用」がある。
鳥飼総合法律事務所URL:https://www.torikai.gr.jp/services/stamp/
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