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第1回 請負、売買、委任の区別

第2号文書(請負に関する契約書)の勘所印紙税の基本や誤解が生じやすい点を弁護士が易しく解説

公開日:2022/08/26

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この連載コラムでは、印紙税の基本や誤解が生じやすい点について、鳥飼総合法律事務所弁護士の山田重則 氏が易しく解説します。今回は、第2号文書の勘所と題して、第2号文書に関する実務上の問題点について、4回に分けて連載をします。本稿では、その第1回として、どのような業務が請負、売買、委任にあたるのかを解説します。

1 はじめに

請負に関する契約書は、個別契約に関するものは第2号文書として課税され、基本契約に関するものは第7号文書として課税されます。他方で、売買に関する契約書は、個別契約に関するものは不課税となり、基本契約に関するものは第7号文書として課税されます。そこで、ある業務が請負なのか売買なのかが問題となります。

また、請負に関する契約書は、第2号文書として課税されますが、委任に関する契約書は、不課税です。そこで、ある業務が請負なのか委任なのかも問題となります。

このように、ある業務が請負、売買、委任のいずれであるかによって印紙税の取扱いが異なるため、実務上、どのような業務がそれぞれの契約類型にあたるのかは、第2号文書の大きな論点となっています。

【図1】契約類型ごとの印紙税の取扱い

契約類型 印紙税の取扱い
請負 ・個別契約は第2号文書
・基本契約は第7号文書
売買 ・個別契約は不課税文書
・基本契約は第7号文書
委任 ・不課税文書

2 請負にあたる業務

請負とは、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することを内容とする契約をいいます(民法632条)。

具体的にどのような業務が請負にあたるのかについては、法律や印紙税基本通達、質疑応答事例、実務上の取扱いを整理した書籍にて言及されています。

印紙税法は、一定の職業に就いている者がその職業として行う役務の提供は請負にあたるとしています。このような者として、野球選手、映画俳優、演劇俳優、プロボクサー、プロレスラー、音楽家、舞踊家、映画又は演劇の監督、演出家又はプロデューサー、テレビ放送の演技者、演出家又はプロデューサーが挙げられます(印紙税法別表第一課税物件表第2号文書課税物件定義欄、印紙税法施行令21条1項、印紙税法基本通達第2号文書の3~10)。

実務上は、広告、エレベーターの保守、公認会計士の監査、宿泊、税理士の税務書類等の作成は、請負にあたります(印紙税法基本通達第2号文書の12~14、15~17)。
また、家屋の建築、道路の建設、橋りょうの架設、洋服の仕立て、船舶の建造、車両及び機械の製作、機械の修理、シナリオの作成、音楽の演奏、舞台への出演、講演、機械の保守、建物の清掃、物品の製作、大型機械の取付けも請負にあたります(質疑応答事例印紙税第2号文書の1、同2)。

さらに、警備、システムの開発やプログラムの修正、葬儀等の冠婚葬祭、クリーニングも請負にあたると考えられています(舟木英人編『問答式実務印紙税』(大蔵財務協会、2022)178頁、200頁、189頁、194頁、197頁)。

以上の請負にあたる業務については、たとえば、以下のように整理することができます。

【図2】請負にあたる業務

No. 請負にあたる業務 印紙税の取扱い
1 演目等 ・野球やボクシング、プロレス
・音楽や舞踊
・映画やテレビでの演技、演出、プロデュース
2 不動産等の工事 ・家屋の建築
・道路の建設
・橋りょうの架設
・船舶の建造
・大型機械の取付け
3 動産の製作、修理、保守 ・機械や物品(服を含む)、プログラムの製作、修理
・機械(エレベーターを含む)の保守
4 その他一定の役務 ・広告や清掃、宿泊、警備
・公認会計士の監査、税理士の税務書類等の作成

まず、No.1のグループには、印紙税法によって請負にあたるとされているものが含まれます。

次に、No.2のグループには、大型の不動産等の工事が含まれます。このグループの第2号文書については、さらに「建設工事の請負に関する印紙税の軽減措置」の対象になるかどうかが問題となります。

次に、No.3のグループには、有体、無体を問わず、何かを作ったり、修理することが含まれます。このグループは売買との区別が問題となります。この点は、後述の「3 売買にあたる業務」で解説します。

最後に、No.4のグループには、各々の業務に共通点は見られないものの、実務上、請負にあたると考えられているものが含まれます。このグループは委任との区別が問題となります。この点は、後述の「4 委任にあたる業務」で解説します。

3 売買にあたる業務

売買とは、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対して代金を支払うことを内容とする契約をいいます(民法555条)。

前述のとおり、動産の製作は、一般に請負にあたりますが(【図1】No.3のグループ)、建売り住宅やカタログ又は見本による機械、家具等の製作のように製作者があらかじめ一定の規格と価格を定め、注文に応じて製作を行う場合は、売買にあたります(印紙税法基本通達第2号文書の2(2)、(5))。つまり、注文者が要望する規格を製作者に伝え、製作者がこれに従って、いわばオーダーメイドで物を製作する場合は請負となりますが、他方で、製作者が定めた規格の中から注文者が選択して発注をする場合は売買になるといえます。

なお、既製品の大型機械の購入とその設置工事、既製服の購入とその裾上げのように売買と請負が混在している場合には、その中に請負に係る業務が含まれている以上、その業務に関する契約書は第2号文書にあたります。請負に係る代金(設置工事代金、裾上げの代金)と売買に係る代金(大型機械の代金、既製服の代金)が区分して記載されている場合には請負に係る代金のみが契約金額となりますが、両者が合算して記載され、区分することができない場合にはその全額が契約金額となります。このような場合、売買に係る代金のほうが遥かに高いことが多いため、両者の金額を明確に区分して記載することが節税の観点からは肝要です。

4 委任にあたる業務

委任とは、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することを内容とする契約をいいます(民法643条)。

委任は、一定の事務をその目的に従って最も合理的に処理することを契約の目的としているため、受任者にはある程度の裁量が与えられます。そのため、一般的には、相手方の経験、知識、才能、技術などを信頼して何らかの事務処理を依頼する場合は、委任にあたります。もっとも、何らかの成果物の作成が契約の内容とされている場合には、請負にあたります。
請負と委任の区別については、印紙税法基本通達や質疑応答事例では言及がありませんが、国税庁職員が執筆にあたった舟木英人編『問答式実務印紙税』(大蔵財務協会、2022)では、その具体例が挙げられており、実務上参考になります。

同書では、委任にあたる業務として、たとえば、次の業務が挙げられています(同書143頁より一部抜粋)。

【図3】委任にあたる業務

文書名 印紙税の取扱い
あっせん契約書 不動産の売買、賃貸借等他人間の取引が成立するよう情報、助言等を提供することを定めるもの
診療委託契約書 会社の社員等の診療を医師又は病院等に嘱託する際に作成するもので診療の範囲、診療報酬等の支払方法等を定めるもの
技術指導契約書 製品開発等に必要な技術指導を委託し、その業務の範囲、報酬等について定めるもの
顧問契約書 知識経験等に基づき顧問として経営指導等を行うことを定めるもの
※書類の作成等を約するものは、第2号文書
工事管理業務委託契約書 建築工事等の工事管理(工事と設計図書との照合等)を委託するもの
※設計図書等の作成を委託するものは、第2号文書
研究委託契約書 一定の事項について研究することを委託するもの
※報告書等の完成が目的となっているものは、第2号文書
出向契約書 知識経験等を有する社員を派遣して、出向先会社の業務の指導、監督をすることを定めるもの
人材派遣契約書 労働者派遣法に基づいて人材を相手方に派遣して、その指揮監督下で労働することを定めるもの
保証委託契約書 第三者(保証会社等)と債務者との間で第三者が債務の保証をすることを約するもの
※第三者と債権者の間で作成するものは、第13号文書

ある業務が請負なのか委任なのか判断に迷った場合には、ここまで取り上げた各契約類型の具体例にあたらないか検討することになります。また、舟木英人編『問答式実務印紙税』(大蔵財務協会、2022)、馬場則行編『書式550例解印紙税』(税務研究会出版局、2018)、佐藤明弘編『印紙税実用便覧』(法令出版、2021)といった実務書に類似する業務についての解説がないかも確認すべきでしょう。しかし、そこにも言及がない場合には、基本的には、自らの頭で判断するほかありません。その際の視点としては、①業務の内容を注文者が事細かく決めることができるか、②成果物の作成とそれに対する対価の定めがあるか、といった点が挙げられます。

業務の内容を注文者が事細かく決めることができる場合には、オーダーメイドに近く、他方で、役務提供者には裁量がないといえるため、請負と判断されます。

また、業務の内容に何らかの成果物の作成が定められており、それに対する対価の支払が定められている場合には、まさに「当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することを内容とする契約」といえるため、請負と判断されます。

特に契約書の表題が「業務委託契約書」となっている場合には、それが請負なのか委任なのか判断に迷うことになりますが、大まかにはこのような視点で検討することが有益です。

5 まとめ

今回は、第2号文書において特に判断に迷いやすい、請負、売買、委任の区別について解説をしました。次回も第2号文書について検討する際の論点について解説をします。

この記事の執筆者
山田 重則(やまだ しげのり)
弁護士 

鳥飼総合法律事務所所属。
一橋大学法学部卒業、早稲田大学大学院法務研究科修了。
印紙税相談室に所属し、企業等からの印紙税の相談対応や社内研修の実施など、印紙税に関する幅広い業務を行う。
新日本法規出版株式会社・鳥飼コンサルティンググループ主催の印紙税検定<中級篇>、弁護士ドットコムオンラインセミナー「弁護士が知っておくべき印紙税のポイント」にて講師を務める。
著書に「迷ったときに開く 実務に活かす印紙税の実践と応用」がある。

鳥飼総合法律事務所URL:https://www.torikai.gr.jp/services/stamp/