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第2回 建設工事請負契約書の軽減措置

第2号文書(請負に関する契約書)の勘所印紙税の基本や誤解が生じやすい点を弁護士が易しく解説

公開日:2022/10/07

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この連載コラムでは、印紙税の基本や誤解が生じやすい点について、鳥飼総合法律事務所弁護士の山田重則 氏が易しく解説します。今回は、第2号文書の勘所と題して、第2号文書に関する実務上の問題点について、4回に分けて連載をします。本稿では、その第2回として、建設工事請負契約書の印紙税の軽減措置について解説します。

1 はじめに

請負契約書は、第2号文書として課税されます。前回、解説したとおり、「請負」には、様々な業務が含まれます(「第2号文書の勘所[第1回]-請負、売買、委任の区別-」)。そのうち建設工事請負契約書には印紙税の税率の軽減措置が講じられており、通常の請負契約書よりも印紙代は安くなります。そこで、今回は、どのような文書が建設工事請負契約書にあたるのかという点を中心に、建設工事請負契約書の印紙税の軽減措置について解説します。

2 建設工事請負契約書の印紙税の軽減措置の内容

建設工事請負契約書のうち、記載金額が100万円を超えるもので、平成26年4月1日から令和6年3月31日までに作成されたものは、印紙税の軽減措置が適用されます(租税特別措置法91条3項)。軽減措置の内容は、具体的には以下のとおりです。

【軽減措置の内容】

記載金額 通常の請負契約書の税率
(1通あたりの印紙代)
建設工事請負契約書の税率
(1通あたりの印紙代)
金額≦100万円 200円 200円
100万円<金額≦200万円 400円 200円
200万円<金額≦300万円 1千円 500円
300万円<金額≦500万円 2千円 1千円
500万円<金額≦1千万円 1万円 5千円
1千万円<金額≦5千万円 2万円 1万円
5千万円<金額≦1億円 6万円 3万円
1億円<金額≦5億円 10万円 6万円
5億円<金額≦10億円 20万円 16万円
10億円<金額≦50億円 40万円 32万円
50億円<金額 60万円 48万円

このように「建設工事請負契約書」にあたるかどうかで印紙代は大きく異なります。特に、特定の工事を大量に受注している場合、それが「建設工事」にあたるかどうかで、印紙代の総額に2倍近い開きが生じます。そのため、企業によっては、何が建設工事にあたるかを正確に把握し、軽減措置の対象になるかどうかを確実に判定できる社内体制を整備する必要があります。

3 「建設工事」の具体的な内容

建設業法によれば、「建設工事」とは、土木建築に関する工事で同法別表第一の上欄に掲げるものをいいます(同法2条1項)。別表第一の上欄には、「土木一式工事」、「建築一式工事」などが掲げられていますが、その具体的な内容は明らかではありません。これらの具体的な内容は、国土交通省の告示「建設業法第2条第1項の別表の上欄に掲げる建設工事の内容」が明らかにしています。少し長くなりますが、引用します。

【建設業法第2条第1項の別表の上欄に掲げる建設工事の内容】

建設工事の種類 建設工事の内容
土木一式工事 総合的な企画、指導、調整のもとに土木工作物を建設する工事(補修、改造又は解体する工事を含む。以下同じ。)
建築一式工事 総合的な企画、指導、調整のもとに建築物を建設する工事
大工工事 木材の加工又は取付けにより工作物を築造し、又は工作物に木製設備を取付ける工事
左官工事 工作物に壁土、モルタル、漆くい、プラスター、繊維等をこて塗り、吹付け、又ははり付ける工事
とび・土工・コンクリート工事 イ 足場の組立て、機械器具・建設資材等の重量物の運搬配置、鉄骨等の組立て等を行う工事
ロ くい打ち、くい抜き及び場所打ぐいを行う工事
ハ 土砂等の掘削、盛上げ、締固め等を行う工事
ニ コンクリートにより工作物を築造する工事
ホ その他基礎的ないしは準備的工事
石工事 石材(石材に類似のコンクリートブロック及び擬石を含む。)の加工又は積方により工作物を築造し、又は工作物に石材を取付ける工事
屋根工事 瓦、スレート、金属薄板等により屋根をふく工事
電気工事 発電設備、変電設備、送配電設備、構内電気設備等を設置する工事
管工事 冷暖房、冷凍冷蔵、空気調和、給排水、衛生等のための設備を設置し、又は金属製等の管を使用して水、油、ガス、水蒸気等を送配するための設備を設置する工事
タイル・れんが・ブロツク工事 れんが、コンクリートブロック等により工作物を築造し、又は工作物にれんが、コンクリートブロック、タイル等を取付け、又ははり付ける工事
鋼構造物工事 形鋼、鋼板等の鋼材の加工又は組立てにより工作物を築造する工事
鉄筋工事 棒鋼等の鋼材を加工し、接合し、又は組立てる工事
舗装工事 道路等の地盤面をアスファルト、コンクリート、砂、砂利、砕石等により舗装する工事
しゅんせつ工事 河川、港湾等の水底をしゅんせつする工事
板金工事 金属薄板等を加工して工作物に取付け、又は工作物に金属製等の付属物を取付ける工事
ガラス工事 工作物にガラスを加工して取付ける工事
塗装工事 塗料、塗材等を工作物に吹付け、塗付け、又ははり付ける工事
防水工事 アスファルト、モルタル、シーリング材等によつて防水を行う工事
内装仕上工事 木材、石膏ボート、吸音板、壁紙、たたみ、ビニール床タイル、カーペット、ふすま等を用いて建築物の内装仕上げを行う工事
機械器具設置工事 機械器具の組立て等により工作物を建設し、又は工作物に機械器具を取付ける工事
熱絶縁工事 工作物又は工作物の設備を熱絶縁する工事
電気通信工事 有線電気通信設備、無線電気通信設備、放送機械設備、データ通信設備等の電気通信設備を設置する工事
造園工事 整地、樹木の植栽、景石のすえ付け等により庭園、公園、緑地等の苑地を築造し、道路、建築物の屋上等を緑化し、又は植生を復元する工事
さく井工事 さく井機械等を用いてさく孔、さく井を行う工事又はこれらの工事に伴う揚水設備設置等を行う工事
建具工事 工作物に木製又は金属製の建具等を取付ける工事
水道施設工事 上水道、工業用水道等のための取水、浄水、配水等の施設を築造する工事又は公共下水道若しくは流域下水道の処理設備を設置する工事
消防施設工事 火災警報設備、消火設備、避難設備若しくは消火活動に必要な設備を設置し、又は工作物に取付ける工事
清掃施設工事 し尿処理施設又はごみ処理施設を設置する工事
解体工事 工作物の解体を行う工事

以上の告示の内容を踏まえますと、たとえば、建物の設計、建設機械等の保守、船舶の建造、機械等の製作や修理等については、建設工事にはあたらないため、これらを請け負う旨の契約書は、軽減措置の対象にはならないといえます。この点で注意を要するのが、機械器具の組立て等により工作物を建設することや工作物に機械器具を取付ける工事は、「機械器具設置工事」として建設工事にあたるという点です。

【機械に関する業務】

機械の保守、製作、修理 → × 建設工事

機械の組立て等による工作物の建設、工作物への機械の取付け → 〇 建設工事

たとえば、工作物に取り付けられた機械の保守や修理は、建設工事にはあたりません。しかし、工作物に取り付けられた機械を一旦、工作物から取り外し、当該機械を修理した上で、改めて工作物に取付けることは、建設工事にあたります。

4 軽減措置適用の留意点

(1) 建設工事にあたる請負と建設工事にあたらない請負が定められた契約書

たとえば、契約書に建物建築工事(5000万円)と当該建物の設計業務(500万円)が定められている場合、建物建築工事は建設工事にあたるため、この契約書は「建設工事請負契約書」にあたり、軽減措置の適用対象となります。

そして、建物建築工事も設計業務もいずれも請負にあたりますので、この契約書の記載金額はその合算額である5500万円となります(印紙税法基本通達24条(1))。印紙代は、軽減措置により3万円となります。

このように契約書に複数の請負にあたる業務が定められている場合、その1つでも建設工事にあたれば、軽減措置の適用対象となります。そして、印紙代は、各業務の代金を合算した金額によって判断します。


(2) 建設工事にあたる請負と他の号の課税事項が定められた契約書

1つの文書に複数の課税事項が定められている場合、「所属の決定」を通じて、いずれかの号の課税文書として取り扱います(印紙税法基本通達9条)。

たとえば、契約書に建物建築工事(5000万円)とその請負代金と同額の消費貸借(5000万円)が定められている場合、建物建築工事は第2号文書の課税事項にあたり、消費貸借は第1号の3文書の課税事項にあたります。1つの文書に第2号文書と第1号の3文書という複数の課税事項の記載がありますので、「所属の決定」が問題となります。この場合、請負代金は消費貸借金額を上回らないため、この契約書は、消費貸借に関する契約書(第1号の3文書)となります(印紙税法基本通達11条(5)、(6))。そして、この契約書は、「建設工事請負契約書」にはあたらないため、軽減措置の対象にはなりません。

このように契約書に建設工事にあたる業務が定められていたとしても、他の号の課税事項が定められている場合、「所属の決定」によって、第2号文書ではなく、他の号の課税文書になることがあります。この場合、契約書に建設工事にあたる業務が定められていたとしても、軽減措置の対象にはならないため、注意が必要です


(3) 建設工事に関する変更契約書、補充契約書

建設工事の当初に作成される契約書に加え、工事内容や金額の変更、工事内容の追加等を定める変更契約書、補充契約書も「建設工事請負契約書」にあたるため、軽減措置の対象になります。変更契約書や補充契約書も軽減措置の対象になるという点は見落とすことが多いため、注意が必要です。

5 まとめ

今回は、印紙代を大きく左右する建設工事請負契約書の軽減措置について解説をしました。特に特定の工事を大量に受注している場合には、その適用の判定に誤りがないか1度、検証されると良いでしょう。

この記事の執筆者
山田 重則(やまだ しげのり)
弁護士 

鳥飼総合法律事務所所属。
一橋大学法学部卒業、早稲田大学大学院法務研究科修了。
印紙税相談室に所属し、企業等からの印紙税の相談対応や社内研修の実施など、印紙税に関する幅広い業務を行う。
新日本法規出版株式会社・鳥飼コンサルティンググループ主催の印紙税検定<中級篇>、弁護士ドットコムオンラインセミナー「弁護士が知っておくべき印紙税のポイント」にて講師を務める。
著書に「迷ったときに開く 実務に活かす印紙税の実践と応用」がある。

鳥飼総合法律事務所URL:https://www.torikai.gr.jp/services/stamp/