公開日:2024/03/21
メンタルヘルス不調を理由に休職している社員が、休職期間満了直前に、復職可と書かれた主治医の診断書を提出して、復職を求めてきました。
しかし、当社としては、休職期間中に本人と連絡が取れなくなった時期があるなど、復職可能なのか疑問があります。
どのように対応したら良いでしょうか。
私傷病休職中の社員から復職の申し入れがあり、会社がその復職を認める場合、労使紛争となる可能性は少ないといえます。
ただし、安易に復職を認めた結果、復職後に病状が悪化・再発するなどして、労災や安全配慮義務違反の問題に発展するリスクがありますので、主治医及び産業医による医学的判断に基づいて、復職の判断を行うことが重要です。
これに対して、会社として復職は認められないと考えた場合、休職期間満了時に雇用契約が終了することになりますので、労使紛争となるリスクが高まります。
そのため、いずれにせよ、会社としては、次の事項を確認するなどして、慎重に復職可否の検討を進めていくことが重要になります。
就業規則の休職規定を確認します。
特に復職時に関する手続条項はあるか、試し出勤などに関する条項はあるか、復職可否の判定に関する条項はあるかなどを確認します。
このような規定がある場合、これらに沿って進めていきます。
就業規則の規定例については、こちらのコラムをご参照下さい。
雇用契約書などを確認して、職種や業務内容が限定されているかを確認します。
雇用契約書に職種限定である旨の記載がなかったとしても、採用の経緯なども踏まえ、職種限定とされていないかを確認します。
職種や業務内容が限定されているか否かは、後述する復職可否を判断する際の基準に影響してきます。
労働者の休職前の職種や業務内容を確認します。
これらを確認する理由は、復「職」できるかを判断する際における「職務」は、原則として、「休職前の従前の職務」が基準になるからです。
しかし、次のように、職種や業務内容が限定されていない場合、例外があります。
すなわち、原則は上記ウになりますが、職種や業務内容が限定されていない場合、例外的に、①休職前の従前の職務に復職できるか否かだけではなく、②(体調面からその従前の職務には復職できないとしても)その社員が配置される現実的可能性があると認められる他の業務がある場合、その業務に復職できる程度に回復しているかを検討する必要があるからです(詳細は3⑴ア)。
その社員がどのような職務に配置される現実的可能性があるかは、組織図などで確認します。
会社において、試し出勤制度などを定めているかを確認します。
仮に、試し勤務制度などを実施している場合、その記録を確認します。
なお、試し出勤制度などの各制度は、会社によって様々ですが、ここでは復職可否の決定をする「前」、つまり復職前に行われるものを想定しています。
主治医の診断書など、休職開始時からこれまでに収集した書類を確認します。
具体的には、社員が作成した書類(生活記録表など)、主治医の診断書、産業医の意見書、会社が作成した書類(休職期間中の社員との連絡内容)などです。
これらの資料は休職期間中のものといえますが、その中でも主治医の診断書については、診断書の期限が途切れないよう、労働者から継続的に提出してもらっておくことが重要です。
たとえば、社員が「Xか月の休養を要する」という診断書を提出していた場合、Xか月後には、再び診断書を提出してもらうことが重要です。
また、休職期間中、定期的に産業医に意見を求め、必要に応じて産業医面談を実施してもらうことも考えられます。
復職可否の判断基準は、次のとおり、職種や業務内容が限定されているか否かで変わってきます。
まず、職種や業務内容が限定されていない場合、次の基準に基づいて復職の可否(休職事由が消滅したか)を判断していきます。
特に、【例外2】を考慮する必要があることがポイントになります。
【原則】:“休職期間満了時”に“従前の職務”を通常程度に行える健康状態になったこと
【例外1】:当初は軽易な作業に就かせれば、程なく従前の職務を通常に行うことができると予測できる場合(➡時間的な例外)
(エール・フランス事件=東京地判昭和59年1月27日参照)
【例外2】:配置する現実的可能性があると認められる他の業務について労務の提供をすることができ、かつ、その提供を申し出ている(➡治癒の判断対象の例外)
(片山組事件参照=最判平成10年4月9日参照)
これに対して、上記と異なり職種や業務内容が限定されている場合、上記の【例外2】の考慮は必要ないと解されています。
したがって、原則として、“従前の職務”を通常程度に行える健康状態になったか否かで判断することになります。
もっとも、長距離トラック運転手のように職種が限定されているような場合でも、就業規則上他の職種への変更が予定されており、近距離運転業務なら可能といったケースでは、復職可能と判断される可能性がありますので、各社の個別具体的な状況に応じて対応を検討すべきです(カントラ事件(大阪高判平成14年6月19日)参照)。
会社において、試し出勤制度などを定めている場合、その実施の有無を検討します。
もっとも、試し出勤制度を実施する場合、ある程度の期間が必要になりますので、その後に復職可否を判断するための時間を確保できるよう、適切な時期に実施することが重要です。
主治医作成の診断書などに疑問点がある場合、労働者の同意を取得した上で、主治医から意見聴取をすることが考えられます。
この場合、本人同席の下での三者面談の方法や、産業医が「職場復帰支援に関する情報提供依頼書」を用いるなどして主治医に照会する方法などが考えられます。
情報提供依頼書のサンプルは、厚労省が公表している「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」の様式例1に掲載されていますので、参照してください。
産業医面談を実施することが考えられます。
なお、産業医の意見の信用性に影響を与えることから、産業医面談は、休職開始時から満了時までの間に、定期的に実施していることが望ましいです。
つまり、会社として復職可否の最終判断をするためには、産業医が適切に復職判定を行なっていることが重要になりますので、そのために必要な情報を産業医の助言を得ながら収集しておくことが重要であると考えます。
職種や業務内容の限定の有無に応じて、復職可能か(休職事由が消滅したか)を判断していきます。
なお、復職可能であること(休職事由が消滅したこと)の立証責任は、一般的には労働者側にあると考えられています。
主治医及び産業医から復職判定の意見を収集したところ、主治医は「復職可」、産業医は「復職不可」というように、意見が分かれることがあります。
この場合、主治医(及び産業医)の判断の信用性が問題となりますが。この場合の信用性判断については、次の観点から検討することが考えられます。
①労働者の業務内容、職場環境を理解した上での判断か
②診療過程(診察期間、診察回数、診療時間)を踏まえているか
③診断内容に不合理な点や変遷はないか
④試し出勤などの評価や生活記録表等と整合しているか
⑤労働者やその家族の希望が含まれていないか
など
上記①に関し、一般論として、主治医は労働者の業務内容、職場環境を把握しているとは限りません。
そこで、会社から主治医に対して、あらかじめ情報提供書を送付するなどして労働者の職種や業務内容などを理解してもらった上で、復職可否を判断してもらうことが重要となります。
そして、疑問点があれば、労働者の同意を取得した上で、主治医から意見聴取をすることが重要であることは先ほど述べたとおりです。
復職可否の判断をするために必要な資料を収集した上で、会社にて最終的に判断します。
もし復職は認められないという結論に達した場合、労働者に対して休職期間満了・退職通知書を送付します。
なお、あくまで最終的に判断をするのは会社になります。
※本コラムの特典として「休職期間満了通知書(サンプル)」の無料DLを用意しています(詳細は後述)。
休職期間満了時の対応は、休職開始時からのまとめ段階です。
そのため、適切に休職期間満了時の対応を行うためには、休職開始時、休職期間中の対応も適切に行っていることが前提になります。
そして、復職可否の判断は、主治医や産業医といった医学の専門家の意見を踏まえて行うことが重要ですので、主治医や産業医が適切に判断できるよう、労働者の協力や同意を得ながら、情報を共有(情報を交換)することが重要です。
このように、休職期間満了時の対応の成否は、いかに休職開始時、休職中から休職期間満了時から逆算した対応ができていたかがポイントになります。
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多湖・岩田・田村法律事務所。第一東京弁護士会所属。
第一東京弁護士会労働法制委員会委員(基礎研究部会副部会長)。
経営法曹会議会員。
使用者側から労働問題を取り扱う。労働法務に関するセミナー講師も務める。
著書に、『詳解 働き方改革関連法』(共著、労働開発研究会、2019年)、『Q&A労働時間・休日・休暇・休業トラブル予防・対応の実務と書式』(共著、新日本法規、2020年)、『新しい働き方に伴う非正規社員の処遇-適法性判断と見直しのチェックポイント-』(共著、新日本法規、2021年)、『複雑化するトラブルに対応 懲戒をめぐる諸問題と法律実務』(共著、労働開発研究会、2021年)、『改訂版 実用会社規程大全』(共著、日本法令、2022年)、『対応ミスで起こる 人事労務トラブル回避のポイント』(共著、新日本法規、2022年)。
URL:http://www.tamura-law.com/