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厚労省パワハラ指針を読み解く!企業が講ずべきパワハラ防止措置と実務対応 第2回
令和4年4月以降、中小事業主を含む全ての事業主は、パワハラ防止措置を講じる法的義務を負います(大企業は令和2年6月から施行)。
この点、厚労省パワハラ指針(正式名称は「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年1月15日厚生労働省告示第5号)は既に公表されていますが、これを実務にどう落とし込めば良いかが分からない、という経営者や企業担当者は少なくありません。
そこで、本コラムでは、全3回にわたって、パワハラ指針のうち、企業が講ずべきパワハラ防止措置にスポットを当てて、わかりやすく解説します(無料DL書式例あり)。
1 パワハラ防止措置と本コラムの構成
パワハラ指針では、職場におけるパワーハラスメントの無いよう、雇用管理上講ずべき措置(以下、「パワハラ防止措置」といいます。)につき、次のⅠ〜Ⅳを挙げています。
本コラムではⅡを取り上げます。
なお、事業主がパワハラ防止措置義務を履行していない場合、厚生労働大臣による助言、指導、勧告、(勧告に従わなかった場合に)企業名公表がなされる可能性があります。
パワハラ防止措置と本コラムの構成
2 パワハラ指針が定める企業が講ずべき措置(テーマⅡ)
⑴ パワハラ指針の内容(Ⅱ相談(苦情を含む)に応じ適切に対応するために必要な体制の整備)
ア ③相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知すること
パワハラ指針によると、③相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知することが必要です。
パワハラ指針で、上記③を講じている例として挙げているのは、次の3つです(数字等は執筆者にて適宜編集しています(本コラム共通))
(相談窓口をあらかじめ定めていると認められる例)
a 相談に対応する担当者をあらかじめ定めること。
b 相談に対応するための制度を設けること。
c 外部の機関に相談への対応を委託すること。
イ ④上記③の相談窓口の担当者が相談に適切に対応できるようにすること
パワハラ指針によると、④の講ずべき防止措置と、例として挙げているのは、次のとおりです。
④ ③の相談窓口の担当者が、相談に対し、その内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること。また、相談窓口においては、被害を受けた労働者が萎縮するなどして相談を躊躇する例もあること等も踏まえ、相談者の心身の状況や当該言動が行われた際の受け止めなどその認識にも配慮しながら、職場におけるパワーハラスメントが現実に生じている場合だけでなく、その発生のおそれがある場合や、職場におけるパワーハラスメントに該当するか否か微妙な場合であっても、広く相談に対応し、適切な対応を行うようにすること。例えば、放置すれば就業環境を害するおそれがある場合や、労働者同士のコミュニケーションの希薄化などの職場環境の問題が原因や背景となってパワーハラスメントが生じるおそれがある場合等が考えられる。
(相談窓口の担当者が適切に対応することができるようにしていると認められる例)
a 相談窓口の担当者が相談を受けた場合、その内容や状況に応じて、相談窓口の担当者と人事部門とが連携を図ることができる仕組みとすること。
b 相談窓口の担当者が相談を受けた場合、あらかじめ作成した留意点などを記載したマニュアルに基づき対応すること。
c 相談窓口の担当者に対し、相談を受けた場合の対応についての研修を行うこと。
⑵ 解説
ア ③について
上記③は、相談窓口の設置に関するものです。
企業は、形式的に相談窓口を設置するだけでは足りず、実質的な対応が可能な窓口とすることが必要です。
そのため、労働者に対して窓口を周知し、労働者が利用しやすい環境にすることが重要です。
例えば、匿名での相談も可能にすること、相談窓口担当者は男女を含めた複数名とすること、担当者の連絡先(例:相談窓口用の電話番号やメールアドレス)を周知すること、相談内容の秘密・プライバシーを保護することや相談(事実関係の確認に協力したこと)を理由に不利益な取り扱いを受けることはないことを周知すること等が考えられます。さらに、外部の機関(弁護士、社労士等)に相談対応を委託することも考えられます。この点は、相談のしやすさの観点からも、検討に値します。
なお、「職場のハラスメントに関する実態調査報告書(概要版)(令和3年3月)」(以下、「実態調査報告書」といいます。)によると、相談窓口を設置している企業のうち、(a)「社内のみに設置している」が63.8%、(b)「社内と社外に設置している」が33.3%、(c)「社外のみに設置している」が2.9%です。
従業員の規模が大きいほど、(a)の割合が低くなり、(b)の割合の方が高いようです。
イ 上記④について
上記④は、相談窓口担当者に関するものです。
実態調査報告書によると、パワハラ行為を受けた後の労働者の行動として、(a)「社内の相談窓口に相談した」のは5.4%、(b)「会社が設置している社外の相談窓口に相談した」のは2.0%です。
最も多い行動は、(c)「何もしなかった」の35.9%です。
何もしなかった理由は、「何をしても解決にならないと思ったから」、「職務上不利益が生じると思ったから」のようです(これらの不安の解消は、相談のしやすい環境を作る上で、課題となります)。
相談窓口担当者は、被害を受けた労働者が萎縮して相談を躊躇する例もあることなども踏まえた上で、相談者の心身の状況や当該言動が行われた際の受け止めなどその認識にも配慮しながら、広く相談に対応することが求められます。つまり、相談窓口担当者は、相談者の話しを傾聴することが重要です。
これに対し、もし、相談窓口担当者が相談者に対し、「あなたの行動にも問題があったのではないですか」などと、相談者を責める言動を行ってしまった場合、二次被害が発生する可能性があります。企業は、相談窓口担当者が適切に対応できるよう、留意点などを記載したマニュアルを配布したり、研修を行ったりすることが重要です。
通達(令和2年2月10日雇均発0210第01号)によると、「留意点」(④b)、「研修」(④c)には、二次被害を防止するために必要な事項も含まれるとしています。
3 実務対応
⑴ 相談(苦情)対応の流れ(一例)
相談(苦情)対応の流れとして、次の一例があります(出典:厚労省「職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!」)。
あくまでも一例であり、相談窓口担当者がどこまで対応するか等は、企業によって異なることに留意が必要です。
⑵ 相談窓口対応のポイント(一例)
ア 相談者(匿名ではない者)からのヒアリング
(ア)ヒアリング前
まず、相談窓口担当者と相談者との間の信頼関係を築くことが重要です。
具体的には、相談者の秘密やプライバシーが守られることや相談を理由に不利益な取扱いを受けることはないことを説明することが考えられます。面談の時間帯や場所等を配慮することも重要です。
次に、相談者の心身の状態を把握することが考えられます。
仮に、相談者から「死にたい」などの自殺を暗示する発言があった場合に備え、産業医等の医療専門家等へのルートを確立しておくことが重要です。
(イ)ヒアリング中
相談内容をヒアリングする際には、5W1Hを意識した上で、話を聴いていきます。
(※ハラスメント相談記録票(相談者用)の無料DL書式例あり)
相談を聴いていく中で、相談内容に沿う客観的な証拠(メール、文書など)がある場合、提出を依頼します。
ただし、相談者の中には、頭の整理ができていない方がいることが想定されます。
相談窓口担当者は、ゆっくり時間をかけて聴くことを心掛け、内容の確認を急ぐあまり、話をせかすことのないようにすることが重要です。
具体的には、話を遮ったり意見や判断を挟んだりすることはせず、聴くことに徹することが重要です。
1回の相談時間は50分程度を目安にし、1回で終わらない場合は2回目を設定することも想定しておきます。
(ウ)ヒアリング後
相談内容をヒアリングした後は、相談者に意向を確認した上で、今後の流れを説明します(相談者への連絡方法なども確認します)。
もし、行為者とされる者からヒアリングを行う場合、相談者の了解を得てから行います。
また、相談者の氏名、相談内容等のうち、どこまで行為者とされる者に開示していいかについて、確認書を作成する等して、相談者の秘密やプライバシーの保護を図ります。
イ 行為者とされる者からのヒアリング
行為者とされる者からヒアリングをする場合、確認事項の一例としては、(a)相談者との関係、(b)普段からのコミュニケーションの有無、(c)問題となっている言動の認識の有無・理由、(d)相談者をどう思っていたか、(e)状況改善のために協力する意向の有無などがあります。
相談者の言い分を前提にすると、当該人物は加害者になりますので、相談窓口担当者は、先入観を持ってヒアリングをしないよう、中立の立場で話を傾聴することが重要です。
行為者とされる者の発言内容に沿う客観的な資料(メールや文書等)があれば、提出を依頼します(ただし、プライバシー保護には十分に注意が必要です。)。
なお、上記は、相談者から氏名等を行為者とされる者に開示することの了解を得ていることを前提にしています。
もし氏名等の開示の了解を得ていない場合、ヒアリング実施の有無・内容等については、別途、検討することになります。
ウ 関係者(目撃者など)からのヒアリング
相談者と行為者からのヒアリング等では、事実関係が確定できない場合、相談者の了解を得た上で、関係者(目撃者など)からヒアリングを実施します。
⑶ 事実認定と評価を区別する意識が重要
ヒアリング等によって資料を収集してから、パワハラ該当性判断までのイメージは、次のとおりです。
企業担当者からハラスメントに関する相談を受ける際、「パワハラ」という言葉がひとり歩きしてしまい、抽象的に「パワハラがあったか否か」を前提にしているケースが散見されます。
しかし、[1]当事者等がどのような証言をしているか、どのような客観的資料があるか(=資料の収集)、[2]上記[1]からどのような事実を認定できるか(=事実認定)、 [3]上記[2]で認定した事実関係が「パワハラ」に該当するか否か(=評価)は、それぞれ分けて検討する必要があります(さらに、民法上の不法行為と評価できるか、刑法上の暴行罪等に該当すると評価できるかも検討します)。
そのため、上記相談例の場合、まずは、どのような資料から、どのような事実関係が認定できるかを整理する必要があります(=上記[1][2])。事実認定の際には書面等の客観的資料が重要となります。
したがって、相談窓口担当者をはじめとする企業担当者は、事実認定と評価を区別する意識を持つことが重要です。
筆者プロフィール
飯島 潤(いいじま じゅん)
多湖・岩田・田村法律事務所。第一東京弁護士会所属。
第一東京弁護士会労働法制委員会委員(基礎研究部会副部会長)。経営法曹会議会員。
使用者側から労働問題を取り扱う。労働法務に関するセミナー講師も務める。
著書に、『詳解 働き方改革関連法』(共著、労働開発研究会、2019年)、『Q&A労働時間・休日・休暇・休業トラブル予防・対応の実務と書式』(共著、新日本法規、2020年)、『新しい働き方に伴う非正規社員の処遇-適法性判断と見直しのチェックポイント-』(共著、新日本法規、2021年)、『複雑化するトラブルに対応 懲戒をめぐる諸問題と法律実務』(共著、労働開発研究会、2021年)、『改訂版 実用会社規程大全』(共著、日本法令、2022年)、『対応ミスで起こる 人事労務トラブル回避のポイント』(共著、新日本法規、2022年)。
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