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経理は気疲れしにくい仕事 だから私は経理を選ぶ 第8回

更新日:2021/09/28

経理は気疲れしにくい仕事 だから私は経理を選ぶ 第8回

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今は誰もが「気疲れ」する時代

最近ベストセラーになっているビジネス書には「繊細さんの本」「言い換え図鑑」といった、対人関係の悩みにどう向き合い、そして解決するか、という本が数多くあります。それだけ今の世の中は、コミュニケーション一つとるだけでも非常に気を遣わなければいけない時代ともいえます。しかしよく考えてみれば、日を追うごとに機械化、デジタル化され、近年もAIやDXといったキーワードが出てくるように、人と人とのコミュニケーションは物理的には昔より減ってきているはずです。それなのに、なぜこんなにも対人関係の悩みが多いのでしょうか。

きっと、コミュニケーションの機会が減った分、鍛錬される機会もまた減り、悩んでいるときに励ましてくれたりアドバイスをしてくれたりする人達とのコミュニケーション機会も減ってきているからかもしれません。以前なら、同じ部署で誰か苦手な人がいても、周囲の人がうまくとりなしてくれたのが、今は機械化や効率化でチームや部署の人数自体も減り、一旦苦手な同僚や取引先の担当者ができてしまうと、それを相談できる人も周囲におらず、孤立してしまうことも増えたかもしれません。ましてや今のコロナ禍ではさらに孤立しやすいですから、こうした悩みを持った人達も増えていることでしょう。そのため、このような悩みや課題を解決するビジネス書がヒットしているのかもしれません。


デジタル化されても「対ヒト」のコミュニケーションはなくならない

いくらデジタル化が進んだとしても、営業やカスタマーサービス、接客、秘書など、「対ヒト」をメインとしている仕事というのは、原則として人とのコミュニケーションが物理的に必要な仕事になります。人は千差万別、それぞれ考えや好みも違いますし、同じ人でもその日の気分によって考え方や態度が変わることもあります。つまり営業や秘書などの仕事は「自分主体」ではなく、「相手に応じて自分の対応の仕方を決定する」仕事ですから、当然「ヒト」に対して気遣いできる力が必要になります。それが得意な人は、相手主体でありながらも、さりげなく相手を自分のペースに誘い込んで「自分主体」で仕事がまわるようにアレンジできるのですが、そうでない場合は、常に「相手に振り回される」という状況も起こりやすい職種です。「自分のペースで今日は落ち着いて仕事ができる」と思っていたのに、急に相手先から呼び出しがかかったり、定時で帰ろうとしていたところに緊急で対応して欲しいと言われて対応しなければいけなかったり、といったことが日常的に起こりやすくなります。そうなってしまうと、やはり日々のストレスも溜まりやすくなっていきますし、休んでいても「急に連絡が入るんじゃないか」と、心が休まらないことも多いと思います。

経理は「ヒト」に振り回されにくい仕事

一方で経理という仕事は、基本的に「ヒトに振り回される」ということが他の職種に比べて少ないという特徴があります。

あるとしても、「決められた期日に経費精算や請求書を出さない担当者」「未入金の案件を確認してくれない担当者」くらいで、基本的にほとんどの人は期日通り、ルール通りに経理のお願いしたことは対応してくれますから、経理業務のせいで、社内の対人関係で悩むということはあまりありません。また、社外に対してはどうかというと、これも、基本的には銀行や税理士事務所、監査法人、会計ソフトの会社など、業務上、非常識な対応をしていては成り立たない職業、組織、職種の方達とのやりとりがほとんどです。そのため、相手からとんでもないクレームを言われるとか、難癖をつけられるといったことは、よほど自分が相手に失礼なことをしていない限りはありません。また、税務調査や監査業務といったものも、基本的には粛々と進められます。そういった面からも、業務上の対人コミュニケーションで悩む機会というのはあまりありません。また、経理と関わる取引先の方達は、銀行などは担当者の方が転勤や異動などをされることはありますが、それ以外は担当者が変わらないことが多いですし、もし担当が変わっても後任の方にきちんと引継ぎをしてくださる取引先ばかりですので、後任になった途端に態度や対応が一変するということもあまりありません。これが他の職種の場合、新しい担当者になった途端に意地悪をされるとか、引継ぎが全くされておらず対応に困った、といったことを他の職種の知人達から聞くこともよくあります。

経理という仕事は基本的に「資料」を介した仕事です。

そのため、相手先にも同様に仕事の資料や証跡が残っているため、簡単な引継ぎ、あるいは引継ぎがない状態でも、資料さえ目を通せばだいたい過去のやりとりが理解できます。だからそれほど密なコミュニケーションを取らなくても、資料さえきちんと保管できていれば、問題なく業務上のコミュニケーションを取ることができます。

この点は、取引先などの社外に限らず社内においても同じです。私がフリーランスの経理として仕事ができているのも、いちいち社員の方達に時間を割いてもらって都度話を聞かなくても、過去の資料さえ見せてもらえば、その会社がこれまでどのような取引をしてきて、誰が担当者で、といったあらゆる情報が経理の資料に全て残っているので、それを見れば初見で会社の全体像を理解、把握できるからです。

対人関係に気疲れしてしやすい人にとっては、経理はそうした悩みが他の職種よりも発生しにくい仕事ですので、落ち着いて自分の仕事に集中できる環境を得やすいのではないかと思います。


経理は「資料」や「データ」を気遣う仕事

その代わり、経理は請求書や領収書、決算書といった「資料」や「データ」には気遣いが必要です。それは経理が会社のあらゆる数字に関する「最後の砦」だからです。

現場で万が一間違った資料の申請をしても、経理で発見して修正する、という作業が日常のルーチンとしてあります。そのため、現場よりも資料やデータに関しては細心の注意が必要になります。

経理だからといって何に対しても気を遣わなくていいということではなく、現場はヒトに対して気を遣う仕事が物理的に多く、経理などは資料やデータに気を遣う仕事が物理的に多い、ということです。もちろん現実は、現場の人も資料やデータには気を遣う必要がありますし、経理もヒトに対して気を遣う必要があります。ただ、その「物理的比率」は職種によって大きく異なりますから、そうした観点からも自分に見合う職業選び、職種選びをしてもいいのではないかと思います。


気が利きすぎる人は経理向き

「天職だと思って今の仕事をしているのに、なぜか結果が出ない、評価してもらえない、人間関係がうまくいかない」。

そのようなことを今感じている方は、一度立ち止まって、このような視点で自分の仕事の選び方を見つめ直してみるのもいいと思います。「ヒトと接するのが好きだし、自分でもよくヒトに対して気が利くほうだと思うけれど、逆にいろんなことに気が付きすぎて疲れてしまい、帰宅してから何もやる気が起こらない」。

そのような人は、その気が利きすぎる、気が付きすぎる性格は、対人関係よりも、むしろ経理のデータや資料のチェックに向いているのかもしれません。

この記事の執筆者
前田 康二郎
前田 康二郎(まえだ こうじろう)

流創株式会社代表取締役
エイベックスなど数社で管理業務全般に従事し、サニーサイドアップでは経理部長として株式上場を達成。その後中国・深センでの駐在業務の後、独立。現在は利益改善、コンプライアンス改善、社風改善の社員研修、コンサルティング、講演、執筆活動などを行っている。著書に『メンターになる人、老害になる人。』(クロスメディア・パブリッシング)、『社長になる人のための経理とお金のキホン』(日経BP 日本経済新聞出版)、他多数。