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経理にはスランプがない だから私は経理を選ぶ 第5回
従来のワークスタイルは2020年のコロナ禍で大きな変革がありました。
在宅勤務などのテレワークや、間引き出社などといった新しい働き方をすることになった人も多くいる現状で、経理という仕事を行っていくことの多くのメリットを「フリーランスの経理部長」として、コンサルティング業務を行う前田 康二郎氏が解説していく「だから私は経理を選ぶ」シリーズ第5回目は「経理にはスランプがない」点にフォーカスを当ててまいります。
成果物のゴールが決まっているのでスランプに陥らない
会社員時代は営業や企画など、他部署の社員と話していてもさほど気に留めていなかったのですが、独立してからいろいろな職業、職種の方達と交流をする機会をいただいてから、それぞれの仕事の苦労が客観的に理解できるようになりました。
私は、アーティストやアスリートが所属している会社で働いていたことがあるので、そのような職業の方達に関しては、スランプや、調子の良し悪しがあるというのはよくわかっていました。しかし、会社員の仕事が同じように調子の良し悪しやスランプで成果が左右されるというイメージはあまり持ち合わせていませんでした。
しかし営業の方が「今月はどうも契約数が上がらず調子が良くない」、エンジニアの方が「課題はわかっているのだけれど、どうもうまくプロジェクトが進まない」、デザイナーの方が「何回作り直してもどうもしっくりいかない」と、仕事の進捗に悩んでいるつぶやきを聞くにつれて、「そういえば、よく考えたら、経理って、人間関係では随分苦しめられたけれど、仕事自体でスランプって感じたことなかったなあ」と、ふと思ったのです。それは私だけでなく、経理社員で「今日はスランプなので帰ります」という人はこれまで見聞きしたことがありません。調子の良し悪しやスランプというのは、仕事の種類によって紐づくものとそうでないものがあるのだと気づきました。そして経理という仕事は、調子の良し悪しやスランプとは紐づかないタイプの仕事なので、私や他の経理スタッフも「スランプで経理ができない」ということを感じることはないということです。
これは、経理が原則「ゴール地点が決まっている」という仕事だからだと思います。
たとえば営業だと、受注件数や受注金額の上限はありません。できる人は理屈上、どこまでも売り上げることができます。そのため、先月5件成約したのに今月は3件だった、調子が良くなかった、などということが発生します。一方で経理は「今月の仕事はここまでやればゴールです」ということが決まっています。ベテランがやっても、若手がやっても、早く正確にできるかどうかという差はありますが、最終的には制限時間内に正しく終えることができたら成果物の内容もそれに対する評価も一律同じです。そのため、インセンティブや報奨金などのようなメリットはない反面、結果が出せない、という可能性は限りなく低く、安定した評価を得られるメリットがあります。
成果物の内容が決まっているのでスランプがない
また、エンジニアやデザイナーなど、クリエイターと呼ばれる人達は、常に新しいもの、唯一無二のものを可視化していく作業ですから、当然ひらめかない、あるいは頭の中ではイメージがあるのだけれどそれをうまく具現化できない、ということがあります。そのような時は「調子が悪い」「スランプ」と自分が思ったり、周囲から思われたりすることがあるでしょう。
一方で経理の仕事は、やるべきことが事前に決まっています。決まっていることを滞りなく行うのが経理の仕事です。
そのため、個人の調子の良し悪しやスランプで影響される仕事ではないので、言い換えると気分が乗らない時でも、仕事自体は滞りなくやれてしまうことも多いのです。これはとても助かることです。人間、生きていれば、いろいろなことがあります。会社でうまくいかないこともあれば、プライベートでうまくいかないこともあります。メンタルの悩みが仕事に影響を与えやすい職種の場合、負のスパイラルに陥り「自分は何をやってもうまくいかない」と全てにおいて追い込まれてしまうこともあります。
その結果、実際に査定で低い評価をされてしまったら目も当てられません。経理の場合、そういったことが極端に少ないのです。つまり、プライベートで落ち込むようなことがあったとしても、仕事自体はきちんとこなして結果を出せる職種なので、むしろ仕事で結果が安定的に出ることでメンタルの方も安定し、良いスパイラルが起こり立ち直りやすい側面もあります。
成果物が、エンゲージメントなど個人の感情に影響されない
実は最近まで、「従業員のエンゲージメントが大切」「仲の良い職場が大切」ということを巷で言われていることに対して腑に落ちない点がありました。
「プロならどんな職場環境でも結果を出すからそれは関係ないような…」という考えの自分がいたのですが、今回のシリーズのコラムを書いていて気づきました。
経理という仕事の特徴は、簿記さえ理解していれば会社へのエンゲージメントがあってもなくても成果を出せてしまう仕事ですし、気分が乗らなくても正確に終えることができてしまう仕事だということです。
だから私は「どうして皆そんなに会社に居心地の良さを求めるのだろうか…」と思っていたのです。他の職種は人間の感情が影響する仕事内容が多いので、そのため少しでも安心して仕事に打ち込める職場環境を整えたほうが、より良いパフォーマンスが発揮できるということなのでしょう。
一生の仕事にしやすい要素が経理にはある
しかし、全ての会社がそのような職場環境が提供できるとは限りません。
「居心地の良さ」というのは人それぞれ基準が違いますから、自分が満足する職場環境を見つけるのは容易ではないかもしれません。そして、人生はいろいろなことがありますから、気分が乗らない時に毎回それが仕事に影響を及ぼすというのも、長い目で見ると一生の仕事にはしづらい側面もあります。
そのように考えると、経理の仕事というのは、人間の感情が悪影響を及ぼさない、数少ない、一生の仕事にしやすい職種の一つではないかと思います。
「だから私は経理を選ぶ」シリーズ
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- 第3回 経理は答えが一つしかない仕事が多い
- 経理社員はなぜ経理の本を買わないのか。ブラッシュアップのための努力をしていないのではない、経理の「継続性の原則」からその理由を詳しく解説していきます。
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- 第4回 経理は一度身に着いたスキルが劣化しにくい
- 経理は簿記の概念が変わらない限り、これからもスキルのベースとして役立ちます。80代、70代でも20代、30代と変わらずできる理由を詳しく解説していきます。
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- 第6回 経理はいい意味で極度なプレッシャーが少ない
- 経理の仕事は、自分のペースで極度なストレスやプレッシャーを感じることなくスキルを積める理由を詳しく解説していきます。
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- 第7回 経理は性差・体力差・年齢差の影響が少ない
- 女性比率は他の職種よりも高く、かつ年齢が高い方達でも現役で活躍している方達がたくさんいる経理という仕事を解説していきます。
筆者プロフィール
前田 康二郎(まえだ こうじろう)
流創株式会社代表取締役。エイベックスなど数社で管理業務全般に従事し、サニーサイドアップでは経理部長として株式上場を達成。その後中国・深センでの駐在業務の後、独立。現在は利益改善、コンプライアンス改善、社風改善の社員研修、コンサルティング、講演、執筆活動などを行っている。著書に『メンターになる人、老害になる人。』(クロスメディア・パブリッシング)、『社長になる人のための経理とお金のキホン』(日経BP 日本経済新聞出版)、他多数。
前田 康二郎 氏 連載記事
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- 経営者が信頼するバックオフィスの仕事の習慣
- 「ちょっとした仕事への取り組み方の違い」をポイントに、経営者が安心して信頼するバックオフィスの社員には、どのような特長や習慣があるかを解説
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- フリーランスの経理部長が答える!経理のお悩み相談室
- さまざまな会社を見てきた「フリーランスの経理部長」が、日常的によくある経理社員のお悩みについて相談を解決
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- だから私は経理を選ぶ
- 「経理という仕事を選んで正解!なぜなら…」という経理の「トクトクポイント」をニッチなところまで解説
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- AIやITで、経理は本当になくなるのか?~共存する人とAIとIT~
- AIをはじめとした IT技術でできる経理業務とできない業務の具体的な境界線、また、100%IT、100%人間、ではなく、「共存」が実務上重要であるという内容を解説
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- 数字の良い会社には「敬意」がある
- 財務情報を専門的に取り扱う「経理」が非財務情報の正しい理解をしておくことで、敬意のある行為が良い非財務情報を形成し、それが良い財務情報として連動し数値化されることを理論的に説明できます。
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- 社長と経理が共有すべき経理とお金のキホン
- 社長と経理が共有しておくべき経理やお金の基本概念などについて分かりやすくお伝えします。
※本記事の内容についての個別のお問い合わせは承っておりません。予めご了承ください。