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経理は答えが一つしかない仕事が多い だから私は経理を選ぶ 第3回

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従来のワークスタイルは2020年のコロナ禍で大きな変革がありました。

在宅勤務などのテレワークや、間引き出社などといった新しい働き方をすることになった人も多くいる現状で、経理という仕事を行っていくことの多くのメリットを「フリーランスの経理部長」として、コンサルティング業務を行う前田 康二郎氏が解説していく「だから私は経理を選ぶ」シリーズ第3回目は「経理は答えが一つしかない仕事が多い」点にフォーカスを当ててまいります。

経理社員はなぜ経理の本を買わないのか

自虐ネタではないのですが、私がこれまで出したビジネス本のうち、一番売れたのが、唯一経理ではない、「生き方、働き方」がテーマの本でした。それくらい経理の本というのはなかなか売れません。

一方で、組織の本というのは、ティール組織やサーバント・リーダーシップ、スクラム・アジャイル組織など、多種多様にいろいろな本が出されて、それぞれに売れています。自分自身の会社員時代を思い返してみても、経理の本は社会人になって何冊かは買ったと思いますが、IPOや海外業務といった、特殊な業務に就いた時ばかりで、普段から継続して買っていたかというとあまり買っていなかったように思います。

なぜなら普段の仕事はそうしたインプットがなくても「作業」に関しては問題なくできていたからだと思います。

一方で同じ事務系の総務人事などは、こうした新しい組織論などがブームになると、経営者から「ティール組織について調べて」など、インプットをしなければいけないシチュエーションがたくさんあります。以前、ある知り合いの会社が、総務人事と経理のセミナーを企画したのですが、総務人事はすぐ定員になったのに、経理は一桁しか集まらず中止になったと言っていました。これは経理社員のモチベーションが低いということではなく、「普段の作業において、それほど不便さを感じていない」という表れなのだと思います。

ではなぜ他の職種に比べてそうなのかと考えると、経理は他の職種に比べて「答えが一つしかない作業」が圧倒的に多い職種だからだと思います。


仕事には「常に答えが複数ある」職種が多い

たとえば「お客様相談室」などのカスタマー対応の仕事は、マニュアルは一応あっても、問い合わせ内容、相談内容の予測がつきません。

そして一旦マニュアル通りに答えたとしても、さらにその後のお客様からの反応もまた、千差万別です。日々対応を変えたり、今日はこのような新しい質問があった、など業務マニュアルに追記したり、日々バージョンアップさせていかなければいけません。

また、営業なども、同じ営業スタイルで営業をしても、相手の取引先の反応はまちまちです。できる営業社員は、A社の担当者には事細かに仕様を説明して、B社の担当者には、これを買うとどのように儲けることができるか提案する、など、営業トークも使い分けていることでしょう。

総務人事はどうでしょうか。

ピラミッド組織とフラット組織、どちらが正しくてどちらが間違っている、ということはありません。会社の事業内容や、職種によってもメリット、デメリットが変わります。たとえば開発部門で、自分のアイデアのほうが確実に良いのに、ピラミッド組織のおかげで上司のアイデアが部署として採用されてしまった、という経験がある人はフラット組織のほうがが良いです、と総務人事に進言するでしょう。

また反対に、フラット組織であるがために、自分の上司が取締役しかおらず、日常業務はほぼダブルチェックなどお願いできる状況ではないためにミスを連発し、ピラミッド組織のほうが楽だし、対外的に迷惑をかけない、と総務人事に悩みを吐露する社員もいるかもしれません。

どちらかが正解、ということでもない、つまり正解がいくつもある場合は、多くの正解事例を知っていた方が良い仕事ができるはずですし、周囲の要望にも応えられますから、総務人事担当者はいろいろな本を読んだりセミナーに通ったりして、最新の組織論の勉強をするのだと思います。


答えを一つに固定し続けるのが経理の仕事

それと比べると経理はどうでしょうか。

「簿記の勉強」というハードルさえクリアすれば、仕事上で迷うことがまずほとんど起きません。なぜなら「答えが一つしかない」ことが多いからです。初めてのこと、イレギュラーなことも経理にもたくさんありますが、一度発生したときにそのやり方を控えたり覚えたりしておけばその後は特に問題ありません。どの会社の経理でも1か月作業をすれば、月次決算のフローはわかりますし、1年作業をすれば、その会社の1年の数字や作業の流れ、繁忙期なども把握ができるので、2カ月目以降、2年目以降になるほど、どんどん作業的には楽になります。

他の職種から見ると、随分ブラッシュアップのための努力をしていないように見えますが、そうではなく、経理には「継続性の原則」というものがあります。

外部の人達がその会社の数字を見て間違った判断をしないように、売上や費用の計上の仕方をこのやり方で行う、と、一旦決めたら原則そのやり方を継続しなければいけないのです。そうしないと、たとえば毎年10月に1000万円の売上が発生している会社が、昨年は10月に売上計上していたけれど、今年は入金された12月に売上計上しよう、などということは、何も状況を知らない外部の人達から見ると混乱してしまいます。

そのため、経理の仕事というのは、「極力前月と同じ、前年と同じスタイルを維持する」という発想がベースになっていきます。新しいことをインプットする、というよりも、新しいものが発生したらいかに現状のルールに落とし込み、以前と変わらない状況を作れるか、という仕事が多くなります。

特に昨今のような天災、疫病などが発生した時にこれはさらに重要になります。

災害やコロナなどで出社ができず「給与の振込手続きが遅れます」「取引先への支払いが遅れます」となったら、社員も取引先も困ります。むしろそのような時こそ、お金が必要な人は期日通りに欲しいはずです。そうしたことも事後ではなく「事前に」想像し、「緊急事態が発生しても、問題なく振込ができるようにするには、振込〇日前にはこの処理をして…」というルールを作っていき、お金に関しての社内統制をしていくのです。優秀な会社はコロナが発生する前からコロナレベルのことが起こることも想定して常に備えているのです。有事ほど各会社間の計数管理の実力に差が出るのはそうした理由からです。

経理のルールをベースに、「常に変わらないタイミングで数字を管理する環境を維持し続ける」ということが企業経営、企業活動にとっていかに重要なことか。それが理解できれば、経理の仕事もやりがいのある仕事に思えるのではないかと思います。多くの職種が、常に答えがいくつもある環境の中で仕事をしなければいけない環境であるのに対し、経理というのは、最初に「この場合はこのやり方」と一旦決まってしまえば、継続性の観点から、それを維持する、つまり「答えが一つ」になります。ということは、その答えさえ理解しておけば、常に完璧にその仕事には対応できます。このように経理はとても論理的に仕事がしやすい職種なのです。


経理社員としてのマインドセットに関しては、答えがいくつもある

ただ1点、お願いしたいのは、「作業」はできても、「ルールだからこのとおりやってください」と強権的になってしまっては周囲も困惑してしまいます。そのために「経理に携わる者としての理想的なマインドセット」くらいは勉強しておいたほうがいいと思います。

私の経理の本も、技術や知識ではなく「経理の仕事を携わる上での心構え」について書いた本を中心に書いています。その部分については、いくつも答えがあり、日々向上しても良い部分です。ぜひ経理の皆さんも本やセミナーで経理のマインドセットの勉強はしていただきたいと思います。

そして、会計制度や税務に関しても随時改訂されていくものはあります。多くの会社では税理士や会計士の先生方が経理担当者に随時情報を教えてくださることが多いので、取りこぼすことは少ないと思いますが、自発的にも先生方に聞いたり、インターネットで情報を収集したり、書籍を購入したりして知識をインプットする積極性があればなお良いでしょう。

筆者プロフィール

前田 康二郎(まえだ こうじろう)

エイベックス(株)など数社の民間企業にて経理業務を中心とした管理業務全般に従事し、(株)サニーサイドアップでは経理部長としてIPO(株式上場)を達成。その後中国・深センでの駐在業務の後、独立。現在は、社内体制強化を中心としたコンサルティングのほか、講演、執筆活動なども行っている。

著書に、『スーパー経理部長が実践する50の習慣』、『職場がヤバい!不正に走る普通の人たち』、『AI経理 良い合理化 最悪の自動化』、『伸びる会社の経理が大切にしたい50の習慣』(以上、日本経済新聞出版社)、『スピード経理で会社が儲かる』(ダイヤモンド社)、『経営を強くする戦略経理(共著)』(日本能率協会マネジメントセンター)、『ムダな仕事をなくす数字をよむ技術』、『自分らしくはたらく手帳(共著)』、『つぶれない会社のリアルな経営経理戦略』、『図で考えると会社はよくなる』(以上、クロスメディア・パブリッシング)、『「稼ぐ、儲かる、貯まる」超基本』(PHP研究所)など。


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