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経理は業界を横断しても初日から問題なく仕事ができる だから私は経理を選ぶ 第2回
従来のワークスタイルは2020年のコロナ禍で大きな変革がありました。
在宅勤務などのテレワークや、間引き出社などといった新しい働き方をすることになった人も多くいる現状で、経理という仕事を行っていくことの多くのメリットを「フリーランスの経理部長」として、コンサルティング業務を行う前田 康二郎氏が解説していく「だから私は経理を選ぶ」シリーズ第2回目は、経理は「業界を横断して転職することが他の職種よりもハードルが低く、入社後も問題なく働いていける」点にフォーカスを当ててまいります。
経理は身を助ける
先日、ある女性から連絡をもらいました。
彼女は私が以前仕事をしたクライアント先の経理社員でしたが、その後「経理でない仕事にチャレンジしたい」と、ホテルの仕事に転職をしていました。私個人としてはせっかくスキルを積んだのにとても残念だなと思っていたのですが、数年ぶりに連絡があり、どうしたのかと思ったら、また経理の仕事をすることになりました、と報告してくれたのです。
詳しく聞いてみると、彼女の転職先がコロナの影響で事業所が閉鎖になり、そこに勤めていた十数人の同僚と共にリストラに遭ってしまったそうです。会社側が転職先の候補をいくつか紹介してくれたそうですが、最終出勤日までに内定をもらえたのは彼女一人だったそうです。他の同僚達は接客などの優秀なスキルがあっても、コロナ禍で接客業の募集が少ない上に年齢の壁もあって、苦戦していると言っていました。
「それは大変でしたね」と話しましたが、電話口の彼女の声は明るかったです。「以前は、もう経理の仕事は十分かなと思っていましたけど、本当に今経理の経験をしておいてよかったと思います。前田さんに手厳しく指導してもらったおかげで(笑)、面接でも自信を持って経理の経験をアピールでき、内定をもらうことができました」。
このエピソードだけでも、経理がいかに一度仕事として覚えておくと身を助けるかがわかると思います。
業界を横断する転職が他の職種よりハードルが低い
まず経理のお得なポイントは「業界を横断して転職することが他の職種よりもハードルが低く、入社後も問題なく働いていける」という点です。
これまで経理の仕事しか経験をしていない人は「そんなことは当たり前のことだ」と思ってしまうかもしれませんが、この「業界を横断する」というのは、意外に難しいものです。私は20代の頃、レコード会社に勤めていましたが、経理部にはいろいろな業界から転職してきた同僚がいましたが、制作など現場部門の方達の多くは、他のレコード会社、あるいは芸能事務所など、音楽、芸能、エンタテインメント業界から転職された方が数多くいました。そしてその方達が辞めて次に向かう転職先もまた、同じような業界へと転職されていきました。
また、今現在、私は出版社の方達とも仕事をさせていただくことも多いのですが、やはり現場の方達は出版社から出版社へ転職し、そして転職して来られる方が多いです。飲食業のクライアントの方達も同様に現場部門の方々は飲食業、接客業を渡り歩いておられる方が多いです。このように、いわゆる「現場」と呼ばれる方達は、一度その「業界」に踏み込むと、その業界の専門知識は積み上がりますが、そのスキルの中には、その業界以外では必要がない特殊なスキルもかなりありますので、10年、20年スキルを積み上げても、他の業界に転職しようにも、同じ給与水準で転職することが難しくなっていきます。
もちろん「自分の働いてきた業界が好き」でずっといる方もたくさんいらっしゃいますが、「この業界から足を洗って新しい業界に挑戦したい」と思っても、なかなか別の業界に踏み出しにくいという側面もあるのが現実です。
観光業や飲食業など、コロナの影響を受けてしまう業界に居たことで、これまで他の業界の人達と同じ頑張りをしてきたのに、今は不安な毎日を過ごしている方も多いでしょう。転職しようにも、スキルが同業他社では通用するけれども、コロナ禍で求人そのものが少ないため、今までのスキルを捨て、新しい業界へ給与水準を下げて転職しかないという方達もいるかもしれません。
また、営業などの仕事は、業種が違えば売り物も大きく変わります。「営業」と職種募集をしていて、無事内定をもらえ転職できたとしても、実力のある人は業界をまたいでもどんな製品やサービスでも売り込んでいけるでしょうが、全員がそこまで力があるわけではありません。いわゆる「ノルマ」「売上目標」などがある仕事というのは、慣れない環境の中だろうが関係なく、結果を出していかなければいけない大変さがあります。
会計ソフトの仕訳データを見れば会社の全てがわかる
それを考えてみると、経理はどうでしょうか。
私も会社員時代は、転職した会社の数だけの経理しか実際に知り得なかったわけですが、それから独立してフリーランスになり、いろいろな業界の経理をたくさん経験しました。しかし基本的には全く困ることはありませんでした。なぜなら、どの会社も会計ソフトの「仕訳データの中身」を見せてもらえば、その会社がどのような会社か、どのような業界なのか、仕訳データを見れば手に取るようにわかるからです。
一般的には経理以外の職種というのは、「誰か」に会社の歴史、事業内容、仕事のやり方、取引先の一覧など、聞いたり資料を見せてもらったりしないと進められないことがほとんどでしょう。しかし経理は、会計ソフトの仕訳データを見れば、そこに「全て」情報が書かれています。
売掛金や買掛金などの補助コードで、その会社のクライアントが全てわかりますし、売上や原価の立て方で事業構造もわかります。工番などで、どんな製品があるかもわかります。そして経費精算や給与データなどで、どの部門にどれくらいの人件費がかかっているか、経費がかかっているか、経費はどんな経費がかかっているかなども仕訳データを見れば丸裸、一目瞭然にわかるのです。
私の場合、新しいクライアントを担当した場合には、直近1か月、または直近1年の仕訳データをダウンロードして、それをまず金額の高い順に並べ変えて、ザーッとパソコン上で上から下にスクロールをしながらこの会社の大きな取引額は一体何かということを頭にインプットします。そして、取引明細の件数をチェックして、この会社は売上請求書が毎月何件、支払請求書は何件、経費精算は何件くらい、そして経理社員は〇名だから、だいたいこんな感じで経理作業をまわしているのだろう、ということくらいは、半日ほどデータを見させていただければだいたい把握できます。そしてその日から、あたかも既に何年もいるベテラン社員のような佇まいで、経理作業はスタートできてしまいます。
「経理」はいつの時代も景気の悪い業界から経理の良い業界に転職しやすい仕事
これは私だけではなくて、多くの読者の経理社員の方達もそうではないでしょうか。これほど業種を横断できて、なおかつ、初日から焦らずこれまでのスキルを活かしてできる仕事というのは稀有だと思います。経理とは、そのような特性のある仕事です。
業界を横断して転職できるメリット、それは「不景気の波に飲み込まれずに転職し続け、働き続けることができる」ということです。
「だから私は経理を選ぶ」
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- 第1回 「自らこの仕事を選んだ」と思えたら、毎日が変わる
- コロナで経理の新しい働き方が始まっています。コロナ前までは「経理はAIでなくなる」など、経理を仕事にする人間にとってはネガティブなフレーズばかり聞かされてきましたが、有事にこそ本当に組織に必要な職種が鮮明になっていきます。
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- 第3回 経理は答えが一つしかない仕事が多い
- 経理社員はなぜ経理の本を買わないのか。ブラッシュアップのための努力をしていないのではない、経理の「継続性の原則」からその理由を詳しく解説していきます。
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- 第4回 経理は一度身に着いたスキルが劣化しにくい
- 経理は簿記の概念が変わらない限り、これからもスキルのベースとして役立ちます。80代、70代でも20代、30代と変わらずできる理由を詳しく解説していきます。
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- 第5回 経理にはスランプがない
- 経理の仕事というのは、人間の感情が悪影響を及ぼさない、数少ない、一生の仕事にしやすい職種の一つである理由を詳しく解説していきます。
筆者プロフィール
前田 康二郎(まえだ こうじろう)
流創株式会社代表取締役。エイベックスなど数社で管理業務全般に従事し、サニーサイドアップでは経理部長として株式上場を達成。その後中国・深センでの駐在業務の後、独立。現在は利益改善、コンプライアンス改善、社風改善の社員研修、コンサルティング、講演、執筆活動などを行っている。著書に『メンターになる人、老害になる人。』(クロスメディア・パブリッシング)、『社長になる人のための経理とお金のキホン』(日経BP 日本経済新聞出版)、他多数。
前田 康二郎 氏 連載記事
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- 財務情報を専門的に取り扱う「経理」が非財務情報の正しい理解をしておくことで、敬意のある行為が良い非財務情報を形成し、それが良い財務情報として連動し数値化されることを理論的に説明できます。
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- 社長と経理が共有しておくべき経理やお金の基本概念などについて分かりやすくお伝えします。
※本記事の内容についての個別のお問い合わせは承っておりません。予めご了承ください。