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フリーランスの経理部長が答える!経理のお悩み相談室 第9回「コロナ禍で進める経理業務の改善は?」
経理担当者の今回のお悩み
Q:コロナの見通しが立たない中、他の会社の経理の皆さんは、経理業務の改善をどのように進めているのでしょうか。コロナの状況が明確になるまで暫定ルールで行くか、それとも大きく変える提案をすべきか、頭を悩ませています。
フリーランスの経理部長からの回答
労働環境そのものが変わった今こそチャンス
先日、ある会社の経理部長さんとお話をする機会がありました。「コロナ禍になって、管理体制などご苦労されている点はありますか」と尋ねたところ、「いえいえ、むしろ『今しかない!』と思って、これまで遅々として進まなかったワークフローの改善を一気に進めているところです」と笑顔で言われて、目からうろこでした。
もし自分が、会社員の経理部長の状態でこのコロナ禍の状況だったとしたら、今はまだ終息するのかどうか見通しが立たない状況なので、コロナの状況が見えてくるまでは現状維持+暫定ルールにして、おおよそ状況が見えてきそうな段階になったら、その状況に合わせて根本的な業務フローの改善に取り掛かっていたかもしれません。
しかしその経理部長さんのお話を聞いて、「少し自分は守りに入っているかもしれない」と思いました。「有事をチャンスにする」という発想も大切だと思いました。というのも、経理は「平時」の状態の時には、積極的な提案をしても、会社に却下されることが多いからです。たとえばソフトウエアなどを導入すれば会社全体の業務が改善されるような、お金のかかる提案をすると、
- 今までのルールでうまくいっているんだから、それでいいじゃん
- 壊れてもいないのだから、今の経理ソフトでいいよ
- 「楽になる」って、経理が楽になるだけでしょ
- 他の会社と同じでいいからそんなに経理にお金をかけなくていいよ
など、あらゆる理由で却下される可能性のほうが高いのではないでしょうか。
私も会社員時代、新しいソフトを入れようと提案しても実現できずに、かなりモチベーションが下がったことがありましたし、どうして自分や自分の仕事を軽く見られてしまうのだろうか、と考えこんだ記憶があります。
多くの職種の場合は、「有事に大きな決断をすると危険だから、落ち着くまでは現状維持でいこう」というほうがより「安全策」かもしれませんが、それは普段から積極的にお金を投資したり業務改善をしたりしているから、ということもあるでしょう。経理の場合は、普段なかなかお金をかけてもらえない分、コロナという「有事」になり、労働環境そのものが変わった今こそチャンスだな、と確かに思うのです。
先程触れた、経理が提案をしても却下されるケースも、今なら、
- 今までのルールでうまくいっているんだから、それでいいじゃん
⇒今までのルールではうまくまわらないので、新しいルール作りやソフトウエアを導入する必要があります。 - 壊れてもいないのだから、今の経理ソフトでいいよ
⇒壊れてはいませんが、今の経理ソフトでは在宅対応ができないので、在宅対応も可能なものを導入したほうが、私たちも在宅で仕事ができて会社的にもお得ではないですか。 - 「楽になる」って、経理が楽になるだけでしょ
⇒今のままだと、私たち経理というよりも、現場の方達のほうが私たちに直接質問ができなくて困ると思うので、遠隔でもやりとりしやすいコミュニケーションツールや経理ソフトを導入したほうがいいのではないでしょうか。 - 他の会社と同じでいいからそんなに経理にお金をかけなくていいよ
⇒少なくとも私の知り合いの会社は皆、在宅対応、遠隔対応の総務経理系のソフトを既に導入していて、していないのは知り合いの中で私の会社だけでしたので、逆に他の会社と同じように導入したほうがいいかと思いまして。
という理由などで提案ができる環境にはなっているのではないでしょうか。
社員や世間からも、優しい会社、危機管理を持った会社にするために
特に今の環境であれば、在宅勤務の体制にしている会社だけではなく、エッセンシャルワーカーと呼ばれる方々やそれらに関連した業種の会社においても、「どうしても出勤しなければいけない業務は仕方がないけれど、それ以外の作業や申請などは、在宅でもできたり、紙ではなくスマートフォンから簡単に申請できたり、とにかく少しでも負担を減らして欲しい」という声が多いはずです。
そのような世の中の流れになっている中で、「お金がもったいないから今のままで」という理由を社長が口を滑らせたら、社員からは信頼を失い、世間からも非難を浴びかねません。
冒頭の経理部長さんは、こうした世の中の潮流を察知して、「社員や世間からも、優しい会社、危機管理を持った会社」と認知されるためにも、早々に経理のワークフローを変えましょう、と会社に提案し、これまで密かに温めていたペーパーレス化、決裁の簡便化などの経理の業務改善を一気に進めているということだと思います。
皆さんの会社でも、以前却下された提案も「コロナ禍ですから」ともう一度トライしたら、通る可能性はあるのではないかと思います。
自分のできる範囲から
私自身、「コロナ禍で業務が変わったことはありますか」と言われて、コロナ前との仕事の状況を比較するのですが、びっくりするほど何も変わっていません。
なぜなら、会社員時代から「経理って、作業だけを考えれば月次決算と月末月初の振込などの時以外は業務を整理すれば1日おき出社くらいでも十分なのに、なぜフルタイムで毎日会社に着座していることを必然とされているのだろう」、「この経理業務、週に1回溜めてやればいいのに、なぜ毎日やっているのかな」、など、疑問に思っていたこと、自分の思う通りにしてみたかったことをフリーランスの経理として10年近く前に独立してから少しずつ提案して実践してきたからです。
結果的に、私の場合は、既に何年も前からクライアントの要望によって「出勤のみ」「在宅のみ」「在宅+出勤」、どの働き方でもいいですよ、という仕事の受け方をしていたので、コロナ禍でも問題なくシフトできましたし、むしろそれが「テレワークの働き方」だと言われ、セミナー依頼が増えました。テレワーク自体は、デジタルツールがそれほど普及していない頃からでも、やろうと思えばできたのです。
ではなぜ多くの会社がそれをできなかったのかと言えば、やはり職場環境が「平時」だったからなのだと思います。「何かあったら考えるけど、何も問題なければ、今のままでいいんじゃない」ということです。そう考えると、こうした発言というのは、一見やわらかい言葉のように感じますが、会社の成長を一切止めてしまうキラーフレーズだと思います。
まとめ
このような理由を考えると、今のコロナ禍はまさに経理の業務改善にとって「チャンス」だと思います。私自身も、クライアント先に「請求書は今まで紙でしたがデータでお送りしても大丈夫でしょうか」と尋ねるなど、小さなことから始めています。
皆さんも、自分のできる範囲から、「これって簡便化できないかな」ということを提案したり、周囲に尋ねたり、意見を聞いてみることから始めてみてはいかがでしょうか。
フリーランスの経理部長が答える!経理のお悩み相談室
経理の「知識」の部分については会計士や税理士の先生に聞いたりインターネットで調べれば解決できますが、社内の日頃の「コミュニケーション」の部分については相談できる相手が見つからず、「自分が我慢すればいいか…」とあきらめている経理社員の方達も多いのではないでしょうか。
今シリーズでは、さまざまな会社を見てきた「フリーランスの経理部長」が、日常的によくある経理社員のお悩みについて相談、解決していきます。
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- 第6回「上司からの連絡が多い中、テレワークに集中するには?」
- 「テレワーク中、スケジュール通り仕事をこなしているのに、上司から1日に何度も進捗連絡が入り、集中力が途切れ仕事がはかどりません。何か良い解決方法はないですか。」というお悩み解決します。
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- 第7回「テレワークの書類申請漏れや紛失の解決は?」
- 「テレワーク制を導入後、「領収書を自宅の中で失くした」「支払請求書の電子データを経理に回覧するのを忘れた」等の申請漏れや紛失が増えています。何か良い解決方法はないですか?」というお悩み解決します。
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- 第8回「経理作業のモチベーションを維持するには?」
- 「経理の作業は頑張っても、実際の給与や賞与はあまり変わらないことが多いので、モチベーションの維持が難しいときがあります。営業のようにインセンティブや報奨金がある職種が羨ましい。」というお悩み解決します。
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- 第10回「新システム導入で、前の方が良かったという人への対応は?」
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筆者プロフィール
前田 康二郎(まえだ こうじろう)
流創株式会社代表取締役。エイベックスなど数社で管理業務全般に従事し、サニーサイドアップでは経理部長として株式上場を達成。その後中国・深センでの駐在業務の後、独立。現在は利益改善、コンプライアンス改善、社風改善の社員研修、コンサルティング、講演、執筆活動などを行っている。著書に『メンターになる人、老害になる人。』(クロスメディア・パブリッシング)、『社長になる人のための経理とお金のキホン』(日経BP 日本経済新聞出版)、他多数。
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- 社長と経理が共有しておくべき経理やお金の基本概念などについて分かりやすくお伝えします。
※本記事の内容についての個別のお問い合わせは承っておりません。予めご了承ください。