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フリーランスの経理部長が答える!経理のお悩み相談室 第5回「出社する必要が日々ある中で在宅ワークの日を作るには?」
経理の「知識」の部分については会計士や税理士の先生に聞いたりインターネットで調べれば解決できますが、社内の日頃の「コミュニケーション」の部分については相談できる相手が見つからず、「自分が我慢すればいいか…」とあきらめている経理社員の方達も多いのではないでしょうか。
今シリーズでは、さまざまな会社を見てきた「フリーランスの経理部長」が、日常的によくある経理社員のお悩みについて相談、解決していきます。
経理担当者の今回のお悩み
Q:経理部も会社の指示で在宅ワークを推奨されてはいるのですが、現実はイレギュラーな作業や問い合わせが日々入り、結局ほぼ毎日出社している状況です。どのようにすれば在宅ワークの日を作ることができるでしょうか。
フリーランスの経理部長からの回答
「業務の整理」と「現場の協力」で在宅ワークの実現を!
いろいろなやり方はあると思いますが、私のおすすめは、「間引き出社」という発想で業務の効率化を進めるとやりやすいのではないかなと思います。
「間引き出社」とは、まずは1日おき、つまり「月・水・金」、あるいは「火・木」は出社をし、それらの日は「出社しなければできない仕事」を中心に行い、残りの日は「出社しなくてもできる仕事」を在宅で行う、という発想です。
私も「フリーランスの経理」、つまりテレワークを始めてもうすぐ10年目に入りますが、常に複数の会社と契約しているため、たとえば月・水・金はA社に出社、火曜日はB社に出社、というようにシフトを組んでいます。これを実現するには次の2つの条件を整える必要があります。
1. 一つひとつの業務を「短時間で一気に行えば終えられる」ように準備、整理をする
2. 現場社員からの申請漏れ、提出漏れを徹底的になくす
意図的に「溜めて」一気に処理をするという発想
1に関しては、たとえば経費精算や支払請求書など、各現場社員から都度申請があがってくるものを、今までは「仕事が溜まるのが気になるからその日に来た経費精算10件と支払請求書の処理20枚を処理した」というように、種類に関係なくまんべんなく処理を行っていたやり方を変えてみるのも良いです。たとえば、経費精算は毎週月曜日に一気にやる、支払請求書は隔週の水曜日にまとめてやる、というように、意図的に「溜めて」一気に処理をする、という発想に切り替えます。入金処理業務や仕訳入力業務なども、各会社でボリュームは違いますが、たとえば件数が少ない場合は1週間に1回、10日に1回などと決めて行ってもいいのではないでしょうか。そのようにするだけで、まず多くのルーチン業務はかなり日数を絞って対応することができるようになります。
問題は「キャッシュアウト」の処理です。在宅ワークの足かせになりがちな処理は次の二つのケースではないかと思います。
A:緊急性のあるもの(緊急の外部への支払い、社員への仮払いなど)
B:WEBでの振込で対応できないもの(現金・小切手・手形、納付処理など)
Aの、緊急性のあるものについての解決方法はいくつかあります。たとえば、2人以上経理社員がいれば、全員がキャッシュアウトの実務対応はできるようにしておき、誰か一人常に出社をしているように交代でシフトを組めば、社内の経理ルールを変えたり他部署へのお願いをしたりしなくても、その他の社員は在宅ワークが可能です。
また、一人経理の場合であっても、1日おきなど、間引き出社レベルで出社をしていれば、まず問題ありません。たとえば月・水・金は出社で火・木が在宅ワークにする場合、現場で緊急の支払いが発生しても、そのほとんどは一両日中に対応すれば問題はありませんから、1日おきに出社していれば当日か翌日には滞りなく対応できます。「経理は毎日いてくれないと困る」ということのほとんどの部分はこの「キャッシュアウト」の部分を経理以外の人達はイメージしていますので、「1日おきに出社していますので緊急の支払いがあっても大丈夫ですよ」とアナウンスしておけば、問題ないと思います。
Bの、WEB振込で対応できないものについてですが、これらに関しては、WEB対応、振込対応、口座引落対応などできないか一通り精査をした後は、それ以上は不可能ですので、少し発想を変えてみます。たとえば源泉などの納付を銀行に毎月10日に行かなければならなければ、毎月10日は「出社の日」と固定してしまい、10日に「経費精算や支払請求書のチェックなど、他の作業もまとめて出社時にやってしまう日」にしてしまいます。そして、前後の1日を在宅ワークにして出社日や出社日数を調整すればいいと思います。
一番大事なことは、現場社員の方々が期日までに「出すべきものを出す」ということ
ただ、1日おきのような形ではなく、週に1日だけ出社で、残りは在宅ワーク、というレベルまでいくと、今お伝えした方法だけでは難しい会社も出てきます。その場合は、会社の経理ルールそのものを変えていただく必要がありますし、経営者や現場の協力、理解が必要です。
たとえば、社内の仮払いであれば、「仮払日は毎週〇曜日だけにする」、「〇万円以内の仮払いで緊急の場合は、直属の役員が一旦立て替える」というルールに変える、あるいは「月初に1か月分の仮払いをWEB振込で行ってしまう」など、仮払いの発生頻度、処理頻度を下げる方法を社内で考え、在宅ワークの環境も加味した新しい経理ルールを作り直しても良いと思います。
また、緊急の支払の場合は、「金額を問わず、原則、最終決裁を取締役以上にする」というのも一考です。なぜかというと、本当に緊急性の高い振込というのは、役員レベル以上の人が本来認識していなければいけないはずのものしかないからです。
しかし実際には、多くの会社で「急いで振り込んで欲しい」というのは、「本当は数日前からわかっていたこと」がほとんどです。それを事前に経理に伝えることを忘れていたり、本人が忘れていたり、業務フローをよく認識しておらず、「経理に言えばすぐ払ってくれる」くらいの認識でそういった案件を経理に持ち込んできます。
それらを是正しない限り、経理の在宅ワークは実現せず、いつまでも経理が現場に合わせて緊急的に出社をしなければいけませんので、取締役以上の決裁にしてしまうことで、まず現場の社員が気を付けるようになります。また、本当に緊急の支払い、たとえば緊急で部品が必要だけれど、振込をしないと相手側が発送してくれない、というような場合は、取締役などの役員がその緊急の状況を申請と同時に知ることができるので一石二鳥です。
在宅ワークの怖いところは、社員それぞれのアクシデントやミスを経営陣が今まで以上に把握しきれなくなることです。こうした経理ルールにすることで、在宅ワークであってもリスクマネジメントをすることができます。
そして、2の「現場社員からの申請漏れ、提出漏れを徹底的になくす」ですが、これが特に重要で、どんなに最新のソフトウエアを導入しても、これができなければ、在宅ワークは実質不可能です。在宅ワークというと、最新のソフトウエアを入れないとできない、全てを電子化しないとできないと思い込んでいる人もいるかもれませんがそのようなことはありません。現に私はクラウドソフトがない時代から在宅ワークを実践してきています。その経験から在宅ワークを可能にするためには何が一番大事かというと、ソフトウエアの種類よりも、現場社員の方々が、期日までに「出すべきものを出す」ということに尽きます。
たとえば「月曜日に経費精算の処理をまとめてするので、前の週の金曜日には必ず申請を終えておいてください」とお願いしても、申請していない社員が一人でもいると、月曜日にいくら時差出勤で早朝から出社して、その日の午前中に作業を終わらせようとしても結局全員分の処理を終えることができないのです。
経理の在宅ワークを実現させるのは「思いやり」
経理における在宅ワークというのは、今まで以上に現場が経理に協力してくれないと、実現不可能です。つまり、コロナ禍の状況で、経理社員の出社日が多い会社というのは、言い換えれば「思いやりのない会社」といえます。また、違う観点から見ると、他部署の社員は在宅ワーク中心であるのに、経理社員だけがいつもほぼ出社している状態というのは、一般社員から見たら「資金繰りなど、会社が危ないのではないか」という余計な詮索や心配を生み出します。
経営陣の方々は、特に今の時期は社員の方達は「これからどうなるのか」、「うちの会社は本当に大丈夫なのか」ということを、聞きたいけど聞けない心理状態であることをしっかりと認識をし、そうした視点からも、会社や組織をマネジメントしていくことが本当に重要であると思います。
経理社員の方達は、こういった考え方を社内に啓蒙し、経理が在宅ワークで対応できる会社こそが、お互いに思いやりのある会社であるということを伝えていきましょう。
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筆者プロフィール
前田 康二郎(まえだ こうじろう)
流創株式会社代表取締役。エイベックスなど数社で管理業務全般に従事し、サニーサイドアップでは経理部長として株式上場を達成。その後中国・深センでの駐在業務の後、独立。現在は利益改善、コンプライアンス改善、社風改善の社員研修、コンサルティング、講演、執筆活動などを行っている。著書に『メンターになる人、老害になる人。』(クロスメディア・パブリッシング)、『社長になる人のための経理とお金のキホン』(日経BP 日本経済新聞出版)、他多数。
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