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フリーランスの経理部長が答える!経理のお悩み相談室 第4回「金融機関の方との接し方で気をつけるべきポイントは?」
経理の「知識」の部分については会計士や税理士の先生に聞いたりインターネットで調べれば解決できますが、社内の日頃の「コミュニケーション」の部分については相談できる相手が見つからず、「自分が我慢すればいいか…」とあきらめている経理社員の方達も多いのではないでしょうか。
今シリーズでは、さまざまな会社を見てきた「フリーランスの経理部長」が、日常的によくある経理社員のお悩みについて相談、解決していきます。
経理担当者の今回のお悩み
Q:新型コロナウイルスによる影響で当社も資金繰りが厳しくなり、これまで以上に金融機関の方達と接する機会が増えました。経理社員として、改めてどのような点に気を付けて接すればよいでしょうか。
フリーランスの経理部長からの回答
重要なのは「誠意」「安心」をどうすれば示せるか
新型コロナウィルスの影響で、多くの会社が資金繰りの管理に敏感になっていることでしょう。そして現実的に金融機関などから融資を受けないとまわらない会社も実際に出てきています。
これまでのような、「資金は足りているけれど、銀行とのお付き合い上、借入をしていた」状況から、「借りないと潰れてしまうかもしれない」という緊張感のある状況に変わっていく環境下で、経理社員はどのような点に気をつけて振る舞いや行動をしなければいけないでしょうか。
経理社員は金融機関の方達と最も多く接するポジションです。ある意味、皆さんの所作や服装、言動がその会社のレベル、印象を決めてしまうこともあります。難しいことは経営者や上司が対応するとして、新入社員でも役に立てることはあります。それは、相手にまず「安心してもらう」ことです。
服装から与えられる「安心」
近年、普段着で仕事をしてもよい会社も増えましたが、私がクライアント先に伺う場合、その会社のドレスコードに合わせて自分の服装も変えていきます。スーツやジャケットなど固めの服装の社員が多い会社にはスーツで行きますし、反対にラフな服装の社員が多い会社には私服で行きます。これは、クライアント先に「安心してもらう」ためです。
たとえば、ラフな格好で皆が仕事をしている部屋の中に、私が一人スーツで鎮座していたら、社員の方達は「外部の人」「社長から送り込まれてきた人」「自分達をチェックしに来ている人だろうか」という目で私のことを見て、人によっては不安を覚え、身構えてしまいます。そうすると、心を開いてもらえず経営改善に着手することがなかなかできません。そのため、まず私の方から歩み寄って外観、つまり服装からその会社の標準に寄せて行き「同化」をする、ということをします。そうすることで、その会社の社員の方達は、数日後には私のことを「お客さん」ではなく「前からいる人」として認識をして「安心」し、課題や悩みを安心して打ち明けてくれるようになります。
逆も然りで、固めのドレスコードの会社にラフな服装で訪問をすると、年長者の方には軽く見られてしまう一方で、若い方には逆にうらやましがられ、「うちの会社も私服にして欲しいです」という、また別の課題をそのクライアントに生じさせてしまうリスクもあります。その会社のドレスコードに自分を合わせることで、お互いに違和感なくいきなり本題の問題解決に入ることができるのです。
「誠意」を服装で示すには
それでは、金融機関などの方達と接するときは、どのような服装で接すればよいでしょうか。日常的なやりとりの時は特に気にする必要もなく自由でいいと思いますが、融資面談などの重要な場面に立ち会う場合、そして先方の支店長といったような上席の方達も同席される場合は、私服の会社であっても、皆さんが持っている手持ちの服のラインナップの中で「正装」に近いものを私はお薦めします。なぜなら金融機関などの相手方はまず「正装」だからです。自分達と似た格好をしている人に対しては、人というのは、「この人達も同じ価値観、職場環境なのだろう」と推測して、安心感を持ちます。特に資金不足の状況下での融資の場合は、「危機感」をその会社が持っているのか否か、ということが重要になります。金融機関の方達に寄せた正装をすることで、「この会社の人達は自分達と同じレベルの危機感を持っているのだ」と理解して、いきなり本題の話し合いをスムーズに進めることができます。
そんな単純なものだろうか、と思う方もいるかもしれませんが、こういう話があります。
知人から聞いた話ですが、知人の会社の財務担当者が、どのような大事な局面の席であっても「あえて」、今時のシリコンバレー的なラフな服装を貫き通していたそうです。なぜそこまでしてラフな格好にその人が執着するのか、知人もよくわからなかったと言っていたのですが、私にはなんとなくわかりました。その方の前職は金融機関で、ずっとスーツだったそうです。だから転職して一般企業に入ったら、今度はラフな格好を金融機関の人達に見せつけてマウンティングをしたかったのでしょう。私はその話を聞いただけで、夏場の熱い時期に金融機関の方達が汗をかきながら来社して下さっているのに、その財務担当者が涼しい顔と服装で上から目線で応対している姿が目に浮かびました。その結果どうなったかというと、簡単に下りるはずの融資が明確な理由もないまま結局下りずに、会社は一次資金不足に陥って大変な状況に陥ったそうです。その財務担当者も結局転職していったそうです。
「服装」は、その重要性をここ近年軽く見られがちですが、服装とその人の所作は表裏一体という面もあります。私がここでお伝えしたいのは、「きちんとした格好をしなさい」という古臭い説教をしたいのではなく、「お金を借りさせていただく、という謙虚な気持ちがあれば、そのような場面でラフな格好はあり得ないでしょう」ということです。その時々の場面を考えた所作、服装をした方がいいということです。
特に経理、財務担当者であれば、会社が借り入れをするということであれば、「自分が借入をする」という気持ちを持っていただきたいです。そうすれば、ラフな格好でお願いの場に出るはずもありませんし、おのずとどのような服装、そして所作で臨めばよいかわかるはずです。ましてや、「今借りられなかったら資金ショートしてしまうかもしれない」という大事な局面だったら…。ラフな格好でじゃじゃーん!と借りる側の人達が出てきたら、お金を貸す側は誰でも「危機感なさすぎでしょう、その格好…」と思うのが「普通」です。
会社が危機の時に、金融機関をはじめとする周囲の方達に協力を求める際、お願いする立場の人達が見せるのは、「個性」ではなく、「誠意」です。ただ、誠意というのは、「はい、これです」と簡単に見せられるものではありません。ましてや毎日一緒に過ごしていない人達、1回か2回の短い面談でしか会えない方達に見せられる誠意はさらに絞られます。まず「身だしなみの整った外見」、次に「謙虚な応対」。それしかありません。一方で、これは難しいことではなく、誰にでもできることです。新入社員でもできますし、むしろ新入社員がそうした常識を理解できていることのほうに価値を見出され、金融機関からも「しっかり教育ができている会社」と「安心感」を持ち、評価されます。経営者、経理部長、新入社員、それぞれに会社の価値を高める仕事や役割はあるのです。
自社についても相手についても「自分ごと」としてとらえる事がポイント
金融機関の方達に対するコミュニケーションのコツは、「自分が借金をするとしたら、どのような格好や言動でお願いをするか」と想像することです。そして「これに失敗したら自分は破産してしまう」と想像すれば、当然準備も慎重に行い、提出する資料も間違いがないか何度もチェックすることでしょう。シングルチェックでポーンと提出して、相手から「この数字、間違ってないですか」と指摘されるような仕事の仕方はしないはずです。
どのような仕事も「自分には関係のない会社のこと」ではなく「自分ごと」としてとらえると、危機感が生まれ、所作も変わり、それが仕事の内容にも反映され、相手にもその誠意が伝わり、共感を得られるはずです。
そして、「自分ごと」としてとらえるのは、自社に対してだけではありません。相手の「金融機関の方達」の立場に自分を置き換えることです。
真夏の暑い日に、汗をかきながら融資候補先を訪問した際に、A社は、「わざわざありがとうございます」と皆が同じように正装に近い格好で待っていて、どうぞよろしくお願いします、と謙虚に応対してもらった後、次の訪問先のB社では、ラフな涼しげな格好の担当者が足を組みながら「他のところで借りてもいいですけど御社と付き合うメリットって一体何ですか」と上から目線で言われたとします。
決算書の内容が両社ほぼ同じで1社しか枠がなかった場合、あなたならどちらを選びますか。そしてどちらと長く付き合いをしたいでしょうか。そして、どちらが長く会社そのものが続きそうでしょうか。答えは全て同じのはずです。
このような時代だからこそ、私は「原点回帰」が重要だと思っています。経理は単なる計算処理をする場所などという人のレベルは知れています。経理はまず会社の「誠意」を金融機関に見せる部署です。それは今申し上げたような、外見や応対といったものから、月次決算を素早く締めて金融機関に報告をするといったものまで、全てにつながっています。
誠意を示して安心していただく、そうした会社に金融機関は好感を持ち、評価も高くします。
あらゆる人の立場に立って、自分が示せる「誠意」「安心」とは何かということを考えると、仕事の幅もぐっと広がると思います。
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筆者プロフィール
前田 康二郎(まえだ こうじろう)
流創株式会社代表取締役。エイベックスなど数社で管理業務全般に従事し、サニーサイドアップでは経理部長として株式上場を達成。その後中国・深センでの駐在業務の後、独立。現在は利益改善、コンプライアンス改善、社風改善の社員研修、コンサルティング、講演、執筆活動などを行っている。著書に『メンターになる人、老害になる人。』(クロスメディア・パブリッシング)、『社長になる人のための経理とお金のキホン』(日経BP 日本経済新聞出版)、他多数。
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