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フリーランスの経理部長が答える!経理のお悩み相談室 第3回「『うちの会社大丈夫?』に何と答えればよいか」
経理の「知識」の部分については会計士や税理士の先生に聞いたりインターネットで調べれば解決できますが、社内の日頃の「コミュニケーション」の部分については相談できる相手が見つからず、「自分が我慢すればいいか…」とあきらめている経理社員の方達も多いのではないでしょうか。
今シリーズでは、さまざまな会社を見てきた「フリーランスの経理部長」が、日常的によくある経理社員のお悩みについて相談、解決していきます。
経理担当者の今回のお悩み
Q:新型コロナウイルスの社会への影響が続く中、経費精算や請求書のついでに同僚達と話をするたびに、「うちの会社、大丈夫かな」「潰れないよね」「経理としてどう思う?」と質問をされます。このような時に何と返答するのが正解なのでしょうか。
フリーランスの経理部長からの回答
ベストな返し方と、危機的状況における経理の心構え
私の経験上、経理の仕事で心理的につらかったことの一つが、会社の危機的状況、いわゆる資金繰りが悪い時に、それを経理以外の人に共有できない、ということでした。
上場企業でない限りは、資金繰りを共有しているのは経営者と経理だけ、という会社も多いことでしょう。ましてや資金繰りが悪いときであればなおさらです。経営者は資金繰りが悪いことを社員が知ったら転職していくことを恐れますので、状況の目途が立つまでは詳細を語らず、ただ「大丈夫だから」としか社員に言わない方も多いです。そのため現場の社員は余計に「本当にこのままこの会社に居ても大丈夫なのか」「社長は大丈夫と言っているけど、本当は大丈夫じゃないのでは…」と、想像がどんどん悪い方向へと膨らむ人もいます。そうすると、経営者には聞けないので、経理社員に、現場の人達が質問に来るわけです。
経理社員も嘘はつきたくないので、本当は大丈夫ではない状況で「大丈夫ですよ」とは言いたくありません。一方で、経営者が「大丈夫だ」と言ってしまうものですから、会社のことなど気にも留めずお気楽に過ごしている一部の現場社員などを見ていると、「どうしてこの状況に気付かないのか」と一言言いたくなるかもしれません。ここでは実際に、会社の資金に余裕があるかないかの状況に分けて対応方法をお伝えしたいと思います。
「有事」にこそ求められる経理とは
その前に、まずどちらのケースであっても、危機的状況における経理の心構えがあります。
「有事ほど、平時のようにふるまう」。経理にはこのことが求められると思います。もし経理社員が「うちの会社このままだと潰れちゃうかも!」と叫びながら社内を走り回ったり、反対に顔面蒼白で周囲の声掛けにも無反応で一言もしゃべらずに帳簿を見てため息をついていたりしたら、周囲の社員はどう思うでしょうか。たちまちパニックになるか、手持ちのスマートフォンで転職サイトを検索し始めることでしょう。経理の危機的状況における役割の一つは、「経営者や現場社員が冷静な判断や行動をするようにサポートする」ということです。
ヒトはパニックになると思考回路が停止してしまいます。そして普段では考えられないようなミスや行動を起こしてしまうこともあります。組織全体がそうならないように、有事こそ、経理がまず冷静にならなければいけません。そのためには、やはり普段から「備えている」、ということがポイントになってきます。経理というのは現場と違って、「もし、うちの会社にアクシデントがあったら」ということを、常に考えていなければいけない部署です。それが杞憂に終わっても、です。むしろそういう点を評価してくれない会社であれば転職したほうがいいかもしれません。それくらいこれは重要なことです。経理にとっても、会社にとっても、です。
なぜなら営業社員は、このようなことを毎日考えながら営業はできませんし、エンジニアも、そのようなことを考えながら開発作業はできません。経営者もしかりです。「万が一」ということを「常に」考えられるのはやはりバックヤード、そしてお金のことであれば、経理が考えていなければ、「誰も考えている人はいない」ということです。だから、「経理など要らない」などという広告に踊らされて経理社員を雇っていなかった会社は、このような有事に誰も何も備えておらず、結果として経営者が一人で半分パニックになりながらも、事業計画を書き直し金融機関を駆けずり回り、そして営業もこなすという、大変な状況に陥っているところも多いと思います。
経理というのは、平時では目立ちませんが、有事では必須の部署になります。つまりこれからの時代、しばらくは「有事」ですから、経理の役割や重要性は今後さらに高まっていくことでしょう。以前「なくなる職業」によく経理が取り上げられていましたが、そのことを言っていた人達のほうが早々に消えてしまいました。私たちは「リアル」を生きていかなければいけないのですから、予測に踊らされず、「今やるべきこと」「今必要なこと」に集中し、それぞれが自分の役割を全うし、この危機的な状況を乗り越えていきましょう。
『うちの会社大丈夫?』ベストな返し方とは
さて、資金に余裕がある会社の場合でしたら、むしろこれを機に一気に社内の管理体制を統制できるチャンスと捉えると良いと思います。「うちの会社大丈夫?」と聞かれたら「今は大丈夫ですけど、これからはわかりませんから、請求書や領収書は遅れることなく、漏れなく出してくださいね」ということを徹底してアナウンスしましょう。常日頃から自己中心的で証憑の管理もなかなかやらないような危機意識の薄い社員がいたら、これを機会にマインドセットを改善してしまいましょう。
一方で、実際に資金に余裕がなく危機的状況に陥っている会社の場合、「うちの会社大丈夫?」と聞かれたら、私でしたら、嘘はつきたくないので「正直、まだわからないです。だけど、自分達次第だと思います。だからできるだけ早く数字を集計するために経理に協力してください」と言うと思います。もっと具体的に言えば、「資金繰り表を作っていますので、請求書などもすぐ出して欲しいですし、売上を失注しそう、トラブルで大きなお金が必要になりそう、ということがあったら可能性の段階でもすぐに社長と経理に連絡してください」と伝えると思います。
危機感のある会社とない会社の差は、会社全体が醸し出す雰囲気、つまり社員一人ひとりの差です。そして危機感のない会社というのは、経理関係でいえば、申請が「遅い」「漏れがある」のです。実際にこうしたことが経営にも影響します。たとえば経営者と経理とで資金繰りを確認し、金融機関に対応をお願いした翌日に、さらなる追加費用が申請漏れで発覚して、その分のお金が足りない、ということもあります。会社の危機的状況には社員は遅滞なく「報連相」と「証憑の申請」を行う。これは必須ですので、そのように経理社員が冷静に導くと良いでしょう。
「会社大丈夫かなあ?」という質問には、「具体的な作業指示のお願い」で答える。これがベストな返し方です。そうすることで、ゴシップ的な目的で聞いてきた人も引き下がりますし、本当に心配して聞いてきた人は「わかった」と納得してその通りに協力してくれます。その結果、有事でも早く数字が確定し、経営者が経営判断を素早くでき、会社が危機的状況を回避する対応が1秒でも早くできるようになります。
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筆者プロフィール
前田 康二郎(まえだ こうじろう)
流創株式会社代表取締役。エイベックスなど数社で管理業務全般に従事し、サニーサイドアップでは経理部長として株式上場を達成。その後中国・深センでの駐在業務の後、独立。現在は利益改善、コンプライアンス改善、社風改善の社員研修、コンサルティング、講演、執筆活動などを行っている。著書に『メンターになる人、老害になる人。』(クロスメディア・パブリッシング)、『社長になる人のための経理とお金のキホン』(日経BP 日本経済新聞出版)、他多数。
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