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フリーランスの経理部長が答える!経理のお悩み相談室 第1回「経費精算や請求書申請・提出期限を守らない社員に対してどうすれば」
経理の「知識」の部分については会計士や税理士の先生に聞いたりインターネットで調べれば解決できますが、社内の日頃の「コミュニケーション」の部分については相談できる相手が見つからず、「自分が我慢すればいいか…」とあきらめている経理社員の方達も多いのではないでしょうか。
今シリーズでは、さまざまな会社を見てきた「フリーランスの経理部長」が、日常的によくある経理社員のお悩みについて相談、解決していきます。
経理担当者の今回のお悩み
Q:何度お願いしても経費精算や請求書の申請など期限を守ってくれない社員がいます。どうしたら提出してくれるようになるでしょうか。
フリーランスの経理部長からの回答
経費精算や請求書申請の期限を守ってくれない人はどういう人?
いつの時代でも、どこの会社にも、経費精算や請求書の申請や提出を後回しにする社員がいます。多くの経理社員は「どうしてこれくらいのことをやってくれないのだろう」と思うことでしょう。でもそれには理由があるのです。先に答えを言ってしまうと、そのような人というのは「お金に頓着しない」人なのです。
考えてみてください。もし自分が1億円の受注をゲットしたらどうしますか。大喜びで社長に報告をして売上請求書の手配をし、皆に自慢したくなるのではないでしょうか。また、海外出張で50万円も自分のクレジットカードで経費を立て替えたとしたらどうしますか。すぐに申請を上げて自分のカードの引き落とし日までにお金を回収しなければ、と思うことでしょう。
このような側面から見てみると、経理関連の処理が遅い人というのは、ある意味「いい人」なのです。売上に対してガツガツもしておらず、そして自分の立て替えたお金も別に後回しで良い。会社の同僚ではなく、一般人の友達として知り合ったらとてもいい人なのです。
しかし多くの会社というのはボランティアで活動しているのではなく、利益を追求していかなければ会社そのものが維持できません。そのような「常に後回し」の行動を社員にとられては困るのです。請求書や経費精算を締め日までに提出する必要性について明確に説明できれば、「いい人」である彼らも、遅延せずに処理してくれるはずです。
どうすれば期限を守ってくれるようになる?
なぜ、経理処理は期限を守る必要があるのか。仮に私が提出期限を守らない社員が目の前にいたら、私は次の3つの理由を挙げて説得したいと思います。
<締め日を守ってくれない人がいたらこう説明しよう>
- 経営者が迅速な経営判断をするために、締め日が設定されている
- もし申請漏れにより誤った数字で経営判断を行った場合にその担当者にも責任の一端が生じる
- 独立起業、フリーランスで失敗した人の多くは、専門的能力の不足ではなく、お金勘定のセンスや請求書や経費の処理能力が足りなかった人達である
残念ながら会社員の中には、経理処理を「下」に見る人が何割かいます。たとえば「経理処理ごときで…こっちの現場の仕事のほうが大事なんだよ」という具合に、です。
私もこうした態度に目くじらを立てた時代もありましたが、これは価値観の問題ですので、「この人はこういう考え方の人なのだ」と割り切りましょう。とはいえ、そのような人にも期日までに経理処理を終えてもらわなければいけません。ではどうするかというと、彼らが「下」として見下している経理処理を「高尚なもの」と説明すればよいのです。
「下」と見ているから後回しにするのであって、経理処理が会社にとって「高尚なもの」、つまり「優先されるべきもの」「上のもの」と認識すれば、彼らは経理処理を見下すことをやめ、粛々と期日までに処理をしてくれるようになります。一つずつ見ていきましょう。
1.経営者が迅速な経営判断をするために、締め日が設定されている
経理処理は何のために行っているのか。それは一言でいえば経営者が数字を見て経営判断をするためです。つまり数字が早く出れば出るほど他社よりも早く経営者が経営判断をできるということです。「現場の作業もあるのに、何のためにこんなに経理処理を急かすんだ」と尋ねられたら、まずこのことを伝えましょう。
「社長の経営判断なんか知ったことか」と言える社員はまずいません。もし実際にいたら社長がその社員を指導してくれることでしょう。
経理処理は単に「データを入れる」、「紙を出す」という短絡的な処理ではなく、高尚な役割を担っている作業だということをまず暗に伝えましょう。
2.もし申請漏れにより誤った数字で経営判断を行った場合にその担当者にも責任の一端が生じる
月ずれ、たとえば9月に出すべきであった請求書や領収書を忘れていて10月に提出しようとする社員がいる場合、その人は「別に1か月くらい、いいじゃない。細かいなあ」という気持ちでいます。現場の人は経理とは違いますから、月次決算の概念がわからない人が圧倒的に多いと思ったほうが良いでしょう。
「経理の当たり前は現場の当たり前と思わない」ということを意識することが大切です。
現場社員から「どうして1か月提出がずれただけで、そんなに怒られるの」と尋ねられたら、こう尋ねてはどうでしょうか。「たとえば〇〇さんが500万円の支払請求書を引き出しに入れっぱなしで忘れていて、そのまま数字を確定して、社長が「思っていたより利益が出ていたから備品を買ってしまおう」と、お金を使ってしまった後に、○○さんの500万円の支払請求書が後からひょっこり出てきたらどうなりますか」。
誤った数字で経営者が経営判断をしてしまった場合、その誤りの原因を生じさせた担当者が、へらへらと「すみませんでした」と一言謝ったところで、それで済まない場合があります。その担当者もおとがめなしとはならないでしょう。
「現場の人達をそうした危険にさらせたくないので、おせっかいと思われるかもしれませんが、経理がサポート役をしています」と伝えてみてはいかがでしょうか。
3.独立起業、フリーランスで失敗した人の多くは、専門的能力の不足ではなく、お金勘定のセンスや請求書や経費の処理能力が足りなかった人達である
1.2のような至極まっとうな理由もいいですが、一筋縄ではいかない手強い相手には、むしろ3をお薦めします。事あるごとに「自分は将来独立して…」などといつも言っているような強気な社員、また、クリエイティブ系の職種の社員の方達には、即効性があります。
私の周囲にも独立をしてうまくいった人、そうでなかった人がいますが、実際に独立をしたけれど結局うまくいかず会社員に戻っていった人達の理由の多くは、その人達に専門性やオリジナリティがなかったわけではありません。本人達は自分の専門性やオリジナリティが足りなかった、と思っている人が多いのですが、私から見ると違います。
現場出身の起業した人、フリーランスの人達の多くは「事務処理に弱い」「金額交渉に弱い」という特徴があります。だから、仕事を安請け合いしてしまったり、いい仕事をしたのに値引きされたり、最悪の場合、お金を回収できなかった、ということがしばしば起こります。なぜそのようなことが起こるのか。会社員時代に、請求書や経費処理を他人に丸投げしたり、いい加減に処理していたりしたからです。
私の会社員時代の同僚でデザイナーとして独立した人がいますが、会社員時代から、「ちょっとこれ教えて欲しい」と、見積書や請求書の作り方を私に聞きに来ていました。その人は、独立して10年以上たちますが、今もうまくいっています。そうでなく、会社員時代に事務処理を適当にしていたり、デスクや経理に丸投げしたりしていた人は、独立してもうまくいかず、また会社員に出戻っているようです。
「なんでクリエイターの私が請求書を自分で作らなければいけないの」と尋ねられたら「独立して失敗する人の多くは自分で事務処理ができない人らしいですよ。だから、会社でただで事務処理の勉強ができると考えれば、将来〇〇さんが独立されるようなことがあったとき、良いと思いますよ」とお伝えすれば、まず多くの方の目が「キラッ」となり、真顔になります。「でも、まだまだやめないでくださいね」と最後に付け加えて、お願いしますと言えば、まず問題なくやってくれるはずです。
理由やメリットを伝えることが重要!
経理処理を「高尚なもの」と認識してもらうような説明をすれば、相手の仕事の優先度も自然に上がっていきます。
「何のためにこれをやるのか」「自分に何かメリットはあるのか」。この二つが明確であれば、皆さん自身も、他の人から何か仕事を頼まれた場合に納得しやすいのではないでしょうか。
理由やメリットがわからないと、「やらされている」と、人は認識します。正攻法と変化球を織り交ぜながら「こう言ってみたら、相手はどう反応するかな」「このフレーズ、○○さんに響いたみたいだから他の人にも使ってみよう」と、自分でも言葉のチョイスを試行錯誤して楽しみながらコミュニケーションをとってみてはいかがでしょうか。
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筆者プロフィール
前田 康二郎(まえだ こうじろう)
流創株式会社代表取締役。エイベックスなど数社で管理業務全般に従事し、サニーサイドアップでは経理部長として株式上場を達成。その後中国・深センでの駐在業務の後、独立。現在は利益改善、コンプライアンス改善、社風改善の社員研修、コンサルティング、講演、執筆活動などを行っている。著書に『メンターになる人、老害になる人。』(クロスメディア・パブリッシング)、『社長になる人のための経理とお金のキホン』(日経BP 日本経済新聞出版)、他多数。
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