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経営者が信頼するバックオフィスの仕事の習慣~なりきり力~
経理業務と「想像力」
どのような仕事でも「想像力」というのは必要になるのではないでしょうか。
デザインなど、クリエイティブな仕事はもちろんのこと、営業でも、やみくもに営業するよりも、想像力を働かせて、どの会社にどの自社製品を売り込めば売れそうか、という仮説を立てるほうが成約の確率が上がるかもしれません。経理においても同じだと私は思います。では具体的に経理業務で何をどう想像力を働かせたら良いのでしょうか。
経理における作業は主に、データの集計やチェックといった「実務」と、現場や経営者、税理士や銀行などとやりとりをする「コミュニケーション」の二つがあると思います。その際に、後者のコミュニケーションの部分において、それが円滑にできるようになると、前者の実務作業もスムーズにできるようになるのではないかというのが私の考えです。そして私のおすすめは、相手になりきる力、「なりきり力」を持つということです。
相手の思考になりきることで見えるもの
私はお笑いが好きなのですが、中でも、「いかにもその有名人が普段から喋っていそうなこと」を想像して真似る芸人さんが好きで、ライブにも足を運びます。
私も人間観察が好きで、よく心の中でそのような想像をして、たまに親しい人達に冗談で言うこともありますが、仕事の中でもそうした習慣は活かされると思っています。その人の思考になりきるということは、まずその人に興味を持って観察しなければできません。そして、それによって次のようなことがわかります。
- その人になりきると、その人から自分がどう見えているかがわかる(自分がその人にどう接すればいいかがわかる)
- その人になりきると、何を聞いてきそうかがわかる(事前に回答の準備ができる)
- その人になりきると、その人の困りごとがわかる(その人を助けてあげられる)
1. その人になりきると、その人から自分がどう見えているかがわかる(自分がその人にどう接すればいいかがわかる)
さまざまな職場のコミュニケーショントラブルの場面を見ていると、自分本位の視野しか持たない人が、そのトラブルの中心になっていることがあります。
職場での社員同士のコミュニケーションのトラブルは、経営者が「一番してほしくないこと」の一つです。実務的なトラブルであれば、論理的な問題ですから経営者はそれほど困らないのですが、感情的なトラブルというのは、経営者も内心「どうしてこんなことで揉めるのだろう」「どうしてお互いに大人になれないのだろう」と、思うことが多いようです。社員の皆がお互いに仲良くやってくれている、というのが経営者の願いの一つです。
こうしたトラブルをお互いに未然に防ぐために「相手になりきる」視点を持つということで、自分目線、自分本位の視点から脱却して、「相手から見た自分」というのを客観視できます。自分が相手からどう見られているか、つまりどう接すれば相手とうまくやっていけるか、という客観的な答えを見つけやすくなります。特に経理部門は、業務のほかに、時には現場同士や、あるいは経営者と現場の仲裁に入るということもあるかもしれません。
それぞれの立場の人達に「なりきる」ことで、お互いの言い分を客観的に説明やサポートをすることができ、コミュニケーションのトラブル解決や未然に回避することなどに役立てることができるでしょう。
2.その人になりきると、何を聞いてきそうかがわかる(事前に回答の準備ができる)
性格が「さっぱりした人」と「細やかな人」、どの組織においても、二通りの性格の人達がいると思います。私は相手の性格に合わせて、対応を使い分けています。
細かいことにあまり興味がない性格の人に用件を伝える時は、「伝えるべきこと、やって欲しいことだけ」に絞って資料の作成時間も最小限にして、時には資料さえも作らずに口頭で直接伝えるようにしていました。
反対に、何においても詳細まで知りたい、安心したい、という性格の人には、こちらから先んじて、「ちなみに」と、その人が欲しがる1段階細かい情報もセットで一度にお伝えしていました。
そうすることで、やりとりが1回で済むことが増えるので、結果的に私自身も最小限の時間でやるべきことが済みます。相手になりきることで、それぞれの要望にジャストフィットした対応をすることができ、経営者からも「気が利く」「勘のいい」社員と認識されるはずです。
3.その人になりきると、その人の困りごとがわかる(その人を助けてあげられる)
日本の組織の場合、やはり集団、チームで動くことが多いので、自分の仕事の中で何か困りごとがあっても、皆に余計な負担や迷惑がかかると思い、言わずに我慢してしまう人が多くいます。その場合、その人達は困りごとを隠しているので、一見するだけでは気づいてあげることができません。何か元気がないな、困っているのかな、という人を見かけた時に、相手になりきってその立場に立つことで、直接相手に聞く前に、「こんなことで困っていない?」と、見立てをして声をかけてあげると、相手も心を開きやすくなります。
困っている人というのは、その困りごと自体の問題の他に「誰も自分のことなど気にかけてくれない」ということにストレスを感じていることがあります。「自分の立場をわかってくれている」という人に出会うと、それだけでほっとする人も多いのです。経理という客観的な立場にいるからこそ、そうした役割も果たせることができると思います。
経理などのバックヤードというのは、単に計算や事務処理だけをやっているのではありません。
「この会社は将来大丈夫なのでしょうか」「経営者は営業出身だから他の部署のことは興味なさそうですよね」「経営者は私が何を今担当しているかさえ知らないでしょうね」というような悩みなどを聞き、慰め、励まし、誤解を解いて、また元気に送り出してあげる、そうした役割も担っています。強い会社の経理やバックヤードのスタッフは必ずこうしたことを励行しています。
そのようなバックヤードのスタッフを「やれ無人化だ」などといって切ったらどうなるでしょうか。
組織にそうしたクッション役がいなくなると、会社は必ず経営陣と現場が対立し、最悪の場合、現場が大量に辞めるなどの空中分解を起こします。経理担当者は口が堅い人も多いので、経営者に「普段から現場の悩みを聞いています」とアピールする人も少ないでしょう。
経営者の方にはこうした「実務以外の役割」をバックヤード部門は陰で担っているということを知っていただきたいと日頃から思っています。
筆者プロフィール
前田 康二郎(まえだ こうじろう)
流創株式会社代表取締役。エイベックスなど数社で管理業務全般に従事し、サニーサイドアップでは経理部長として株式上場を達成。その後中国・深センでの駐在業務の後、独立。現在は利益改善、コンプライアンス改善、社風改善の社員研修、コンサルティング、講演、執筆活動などを行っている。著書に『メンターになる人、老害になる人。』(クロスメディア・パブリッシング)、『社長になる人のための経理とお金のキホン』(日経BP 日本経済新聞出版)、他多数。
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