P-Tips

経営者が信頼するバックオフィスの仕事の習慣 ~段取り力~

本連載では「ちょっとした仕事への取り組み方の違い」をポイントに、経営者が安心して信頼するバックオフィスの社員にはどのような特徴や習慣があるかということを取り上げております。

今回のテーマは『段取り力』です。

意外と大きい?一人の遅延が会社に及ぼす影響

「働き方改革」と言われて久しいですが、未だに私が慣れないことの一つが「遅延」についてです。勤怠の遅延、納期の遅延、作業の遅延、締め切りの遅延、連絡の遅延・・・。今の時代、余計なことは指摘せず穏便に済ませたほうがいいとは思うのですが、それでも気になってしまうのです。何故それほど気になるのかをさかのぼって考えてみると、会社員時代にレコード会社とPR会社に勤めていたことが起因しているのではないかと思いました。

私がレコード会社に勤めていたのは、「歌姫ブーム」と言われた音楽バブル絶頂の2000年前後でした。当時はTVCMで新曲やアルバムの告知スポットを大量にオンエアをする時代でした。たとえば10月31日発売の新曲があったら、事前に10月30日や31日のTVスポット枠を押さえてしまうわけですから、レコーディングやCD生産のスケジュールが遅れたからといって、簡単に発売を1週間先伸ばしします、ということはできないわけです。どのようなアクシデントがあっても、発売日の前日にはCDショップにCDを納品して、発売日前日から大量にTVスポットが流れ、それを見た人達が昼休みや学校・会社帰りに買う、そうした発売初日の動きが最も売上に大切だということは社員全員が認識していました。だから部署に関係なく、全員が、「発売日」をゴールとして「逆算」して自分がどう働くべきか、意識を持って働いていたのだと思います。

また、PR会社も同様です。商品やサービスの発表日、発売日、イベント日など、インパクトが最大化すると決めた日から「逆算」して、全ての社員が全ての作業を行っていました。
つまりどちらも「最終ゴールは絶対に遅延させない」という発想から、逆算してそれぞれの担当者が、いつまでに、何をやるかを考え、行動していました。遅延をしてしまうと、インパクトの最大化、つまり売上や利益の最大化が失われることが全員わかっていたからです。

そのように考えると、たとえば「5分くらいの遅刻の何が悪いのか」という場合、本人の立場だけを考えるとそうかもしれませんが、「会社全体のスケジュール」から見ると、その5分は、カバーできる範囲の遅延なのか、それとも絶対してもらってはいけない遅延なのか、状況によって変わってくるわけです。そうした社員一人ひとりの段取り力やスケジュールの重要さに対する自覚が、会社の利益にもじわじわと影響を及ぼしてくると私はいつも考えています。


遅延のない「段取り力」が経営者を助ける

遅延に関するもう一つのポイントとして、遅延をすると、最終的には誰が困るか、負担をかぶるか、ということです。スポーツのリレー競技を想像してみてください。前走者が遅延をすればするほど、後の番手の人は、実力以上のものを出さないといけなくなり、プレッシャーもかかります。いくら最終番手の人が「エース」であっても、それまでの人があまりにも後れをとってしまったら、逆転は不可能です。これを「会社」に当てはめてみるとどうでしょう。

会社の業務目標やプロジェクトをリレーに例えると、若手社員からベテラン社員へつないで、最終番手の「経営者」にバトンパスをする時に、余裕を持ってトップで引き継げるか、それとも大きく引き離されて最下位で引き継ぐことになるのか、その状態次第で経営者の行動も変わってくることでしょう。余裕のある状態で完璧にバトンパスされたら、経営者も安心する一方で「自分が最後に抜かれたら恥ずかしい」と、むしろ緊張感を持って走るのではないでしょうか。反対に最下位でバトンパスをされたら「もう自分が全速力で走ったって勝てないし」「自分を最下位で走らせるような恥をかかせたのは誰だ」と犯人捜しを始めるかもしれません。

良い数字が出ている会社というのは、「段取り力」が抜群に良いです。「あなたのために、ここまで完璧にやってきたので、最後絶対に失敗しないでくださいね」と言われたら、誰でも真剣に、緊張して仕事に取り組むことでしょう。一方そのような緊張感もなく、遅延の果てに最後自分のところに仕事がまわってきた場合、「自分一人がミスしても、どうってことないでしょう」という気持ちに最初からなり、成果物も「それなりのもの」しか出せないでしょう。むしろそうした気の緩みが仕事上の大事故につながるかもしれません。

特に会社におけるいろいろな「遅延」というのは、最終的には経営者が責任を被ることになります。恥をかくのも経営者ということです。

とすれば、どのような社員を経営者が信頼するかというと、もうおわかりでしょう。「自分(経営者)に恥をかかせるような仕事をしない人」です。それは具体的には、「常に逆算して物事を考えて、全てにおいて段取りがきちんとできている人」ということです。


好循環を生むための「逆算する」習慣

これからの時代は経営者が社員に生活態度の注意もしにくくなる時代ですから、自ら、あるいは周囲の人同士で「お互いに」指摘し合い、堕落しないようにしなければいけません。その最も簡単で単純な方法というのは、やはり「ルールの策定や期日の設定」と、それを「遵守する」ということに尽きるのです。

「段取りがもうできていますから、あとは社長に実行してもらうだけです」という状態が社長にとって一番心地よい状態であると同時に、「段取り部分はもう自分が指導しなくても信頼して社員に任せておけるな」となります。そうなれば、社長が「口出し」することはまずありません。社員が「社長がいつも仕事に口出しをしてきて困る」という場合は、段取りが完璧でないため、社長に一言言わせてしまう「隙」を作ってしまっているのです。
出来る人を観察してみるとわかりますが、常に段取りを良くし、他者が物理的に口の挟みようのない完璧さで仕事をしています。それも仕事を早く終わらせるための一つの技術なのです。早く正確に仕事を終えられる人は、次の段取りにもいち早く取り掛かることができます。そしてまた結果を出す、という好循環を生んでいるわけです。

「遅延」というのは、一つ誰かの予定が遅れると、周囲の予定が遅れ、会社全体の予定が遅れ、それにより経営者が社員に口出しをし、その分また社員の作業が増えて遅れる、という悪循環を生みだします。そうならないように、常に「逆算してものを考える」という習慣を自分自身に根付かせておくことが大切です。


筆者プロフィール

前田 康二郎(まえだこうじろう)

  • 数社の民間企業で経理・総務・IPO業務等を行い、海外での駐在業務を経て独立。現在は「フリーランスの経理部長」として、コンサルティング業務を行うほか、企業の社外役員や顧問、ビジネス書作家として書籍・コラムなどの執筆活動なども行っている。2019年内に節約アプリをリリース予定。
  • 著書に、『スーパー経理部長が実践する50の習慣』、『職場がヤバい!不正に走る普通の人たち』、『AI経理 良い合理化 最悪の自動化』、『伸びる会社の経理が大切にしたい50の習慣』(以上、日本経済新聞出版社)、『スピード経理で会社が儲かる』(ダイヤモンド社)、『経営を強くする戦略経理(共著)』(日本能率協会マネジメントセンター)、『ムダな仕事をなくす数字をよむ技術』、『自分らしくはたらく手帳(共著)』(以上、クロスメディア・パブリッシング)など。