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経営者が信頼するバックオフィスの仕事の習慣~リテラシー力~
氾濫する「情報」を適切に判断・対応する力、『リテラシー力』
「経理の仕事はAIに取って代わられる確率は99.9%」、「数十人規模の会社であれば、さまざまなクラウドソフトを駆使すれば20代の社員一人でもバックヤード業務を全てこなせる」。
このような記事を以前読んだことがあります。これらのことは本当でしょうか。
これらの情報が現実的かどうかというと、少なくとも「現実的ではない」ということは言えると思います。
「経理がAIにとって代わられる」というのは、おそらく「経理の仕事=単純計算とそれに準じた処理のみ」という、現実世界の実務とはかけ離れた「研究上の」条件設定をした上での検証結果でしょうし、「バックヤードを一人でこなせる」というのは、「申請内容は全く理解できていなくても、承認処理だけはとりあえずできる」というレベルでのことでしょう。20代で月次決算と給与計算、両方を最終チェックまでできるスペックを兼ね備えている人というのは、少なくとも「どこにでもいる」というレベルではありません。そもそもバックヤードが一人体制というのは、内部統制の観点から見るとリスクがある上に、いったいその社員の方はいつ休みがとれるのでしょうか、という現実的な課題が浮かび上がります。
現実世界の経理の仕事の多くはいわゆる単純処理よりも、AIでは対処が難しい規則性のない「例外処理」「例外対応」の時間に1日の多くを充てていることでしょう。また、申請内容の中身を「理解」しないまま、ただ承認するだけであれば、経営者や担当者自身も気づかないうちに、ミスのし放題、不正のし放題になっていくことでしょう。
このような、世の中に氾濫するさまざまな「情報」を適切に判断、対応する「(メディア)リテラシー力」は、今の時代に必要不可欠な力です。特にバックヤードの方達は、自分達の仕事の分野に関しては「どの情報が本物か」ということを常時把握しておくことが必要です。
なぜかというと、経営者の方が、自分や会社にとって有益だと思う情報をインターネット上などで知ると、反射的にすぐ社内に拡散できてしまうようなインフラ環境が整っている時代だからです。正しい情報ならいいのですが、そうでない場合に、その情報が一気に拡散されてしまうと、社内に不要な混乱と誤解を生じさせてしまうことがあるのです。この点に関しては、これからの時代は、より大きな課題になっていくと思います。
特に経営者の方は、バックヤードに関する情報を事実確認せずに反射的に信用、鵜呑みにされてしまうケースがあります。その理由はシンプルで、「経営者(起業家)のほとんどが、バックヤード出身ではないから」です。
経営者の誤った認識が生むリスク
人というのは、自分の専門分野であれば、「この記事、本質的な部分が抜けている。何でこんな有名な媒体がこんな記事を出してしまっているんだろう」「この記事はだいたい合っているけれど、一部補足が必要だから、自分の意見を付け加えた上で社内に回覧しよう」などと対応できるのですが、専門外の分野で、しかもある程度信用力のあるサイトやメディアが情報を発信していたら、深く考えずに「そういうものなんだ」と鵜呑みにしてしまう人が多いのです。
そして経営者の方の多くは「よかれと思って」、つまり「善意」で最新の専門的情報をそれぞれの分野の担当者に記事を転送して教えることが多いのです。しかしその中にいわゆる「とんでも(ない)記事」が紛れ込んでいると、「社長ってこんな風に自分達の仕事を誤解しているんだ」と、本来生む必要のない軋轢を生じさせてしまう場合があるのです。
たとえば、バックヤードに関して言うと、経営者は「社員一人で数十人分の総務経理がまかなえる」という記事を「今は機械が発達してこれだけ自動で処理ができるらしいから、うちの会社もできることはあるかな」「この記事を参考にして効率化について考えてみて」という位の意識で社員に転送します。ところが受け取った側からすると「こんなに頑張っているのに、バックヤードは一人で十分だなんて記事を私に見せるということは私の努力が足りないという意味なのだろうか」と思い込んでしまうこともあるわけです。
経営者との認識のずれを正し、コミュニケーションを円滑にする
こうしたことにならないように、もし経営者が自分の業務に関する情報を認識違いしているようであれば、すぐ訂正できるように、自分の業務に関する最新記事に関しては情報の目を張っておく必要がありますし、むしろ反対に、正しい情報が記載されている記事があれば、積極的に「今のバックヤード業界の事情はこうです」と、自分達から経営者にお伝えするのも良いと思います。
経営者がなぜ自分の調べた記事や情報を社員に拡散するかというと、その逆、つまり社員から経営者への情報提供が少ない場合にこのようなことはよく起こります。社員からのコミュニケーションが少ないと、経営者は社員がそれぞれモチベーションを保って仕事をしているのかどうか不安になることがあります。だから経営者が自ら、それぞれの部署に関する情報をインターネットなどで収集し、良かれと思って転送するわけです。
社員の方からどんどん経営者に「こういういい記事がありますよ」と認識の正しい記事などを送れば、経営者も正しい認識のもとに記事を読み、皆さんの仕事を理解することができますし、モチベーションを保って働いてくれている、と安心することもできます。社員の皆さんにとっても、自分が推奨する記事を送れば、自分の考えも知ってもらえますし、自分自身も仕事がしやすくなるはずです。
早速、この記事を経営者の方に転送してみてはいかがでしょうか。
筆者プロフィール
前田 康二郎(まえだ こうじろう)
流創株式会社代表取締役。エイベックスなど数社で管理業務全般に従事し、サニーサイドアップでは経理部長として株式上場を達成。その後中国・深センでの駐在業務の後、独立。現在は利益改善、コンプライアンス改善、社風改善の社員研修、コンサルティング、講演、執筆活動などを行っている。著書に『メンターになる人、老害になる人。』(クロスメディア・パブリッシング)、『社長になる人のための経理とお金のキホン』(日経BP 日本経済新聞出版)、他多数。
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