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社会福祉法人の予算の取り扱いと収支の基本的な考え方

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予算

予算とは、法人事業の具体的計画を計算書類の体系に基づいて勘定科目と金額で表すものです。社会福祉法人では、寄附者の意思に沿った方向性を形にするために1年を単位とした事業計画書が作成され、その事業計画を実行するための資金的な手当をするために資金収支予算が編成されます。

社会福祉法人では、非営利事業体としての性質上、公的資金の利用状況や法人管理体制のチェック機能が働くように制度設計されています。予算は、この制度を担保すべく重要な役割を担っており、形骸化は許されません。

予算の作成

社会福祉法人の予算は、毎会計年度開始前に理事長が編成し、理事会の承認を得て確定します。予算書の作成は資金収支計算書の様式で作成します。

予算は、法人の財務の基本方針として、法人の事業計画を担保し、事業の円滑な運営を図るために収支の合理的規制を行うため、以下の点に留意して予算を編成する必要があります。

・収支及び支出の予算規模を明確にし、全額を予算に計上します。
・各予算科目の経費の見積りは、経常活動にかかる事業計画の内容を計数的に表示します。
・予算管理の単位ごとに予算管理責任者を任命します。

予算の変更

予算は、編成時点における収入・支出の見積りであり、実際の予算執行においては当初編成した予算を変更しなければ支障をきたす場合が生じてきます。これに対処する措置として、予算の変更については、以下のような方法があります。

・予備費の使用

予備費は、予算上、将来における不確実性に対応するため、一定の余裕を持たせる目的で設定するものです。あらかじめ当初予算の支出科目に計上されていた予備費から、予算を超過することになる支出科目に予算の振り替えをします。

・予算の流用

予算の流用とは、残高がマイナスの科目に、予算が余っている科目の予算額を付け替えることをいいます。予算執行上、やむをえない場合に予算を流用することが認められますが、無制限には認められていません。金額や科目の重要度を踏まえ、また理事会承認を求める規定を設けて予算の実効性を担保する必要があります。

・予算の補正

予算成立後の事情により、予算額の過不足が生じることが予見される場合で、予備費の使用又は予算の流用によって対処できない場合に、補正予算を編成します。

社会福祉法人の場合、すべての収入・支出は予算に編入し、予算に基づき経理することとされているため、決算にあたり、予算が不足したまま支出だけがなされることがないよう注意し、不足が生じる場合は、必ず予算の補正を行うことが必要となります。

収支について

ある特定の取引による入金があった場合にこれを収入といい、逆に出金があった場合はこれを支出といい、一連の収入と支出の差引金額を収支といいます。信用取引が発達している現代においては必ずしも入金が伴うわけではなく、また、現金の出入りを必ずしも伴わない収益・費用・損益とは明確に区分されます。

日常取引で発生する経常的な収支は、資金収支計算書と事業活動計算書に関わるため、両方の計算書に共通して計上します。例えば、介護保険事業収入、人件費、事業費など社会福祉事業の主要な取引は両方の計算書に計上します。
他方、いずれか一方の計算書のみに計上する取引もあります。資金収支計算書と事業活動計算書の勘定科目及び様式は似ていますが、性質は異なるため、それぞれの計算書の目的に照らして計上することになるのです。

資金収支計算書のみに計上する取引は、以下になります。

  • 固定資産の取得支出・売却収入
  • 貸付金回収収入・支出
  • 借入金収入・償還支出
  • リース債務の返済支出
  • 積立資産の積立て支出又は取崩収入

また、事業活動計算書は、資金収支計算書の勘定科目名の末尾「収入」を「収益」と読み替えて表示します。例えば、資金収支計算書の「介護保険事業収入」は、事業活動書では「介護保険事業収益」となります。
資金収支計算書と事業活動計算書は相違点があるため、常に一致するわけではありません。そのため、読み替える際には注意が必要です。


資金収支計算書

資金収支計算書とは、社会福祉法人の会計年度である4月1日から3月31日までの1年間におけるすべての支払資金の増減内容を表示した計算書類です。

支払資金とは貸借対照表の流動資産及び流動負債によって計算し、その残高は、流動資産と流動負債の差額とします。ただし、引当金、棚卸資産(貯蔵品を除く)、ワンイヤールール(1年基準)による資産・負債からの振替額を認めません。いずれも短期間に回収・支払が行われている性質のものであるため、支払資金の残高は、一般に法人の経常的な支払残高(支払能力)を示しています。

・キャッシュフロー計算書との比較

企業会計のキャッシュフロー計算書は、期首と期末の資金の差額について、当該差額が営業活動、投資活動、財務活動のいずれから発生したものかを表示する計算書類になっています。資金収支計算書も、概ね同じ考え方ですが、キャッシュフロー計算書では、資金の範囲を現金及び現金同等物としていること、資金収支計算書では、当該事業年度の決算の額と予算の額と対比して記載することなどが異なっています。

また、社会福祉法人が、公的資金を受け入れて事業活動を行う公益性の高い団体のため、予算管理を重視する必要があることから、資金収支計算書は予算と決算を対比する形式になっています。

まとめ

社会福祉法人の予算や収支の取り扱いについてご紹介しました。
社会福祉法人における予算は、理事会で承認された予算額の範囲内で執行する必要があり、一般の民間企業と大きく異なります。適正な予算、収支の執行状況を常に把握しておくことが必要です。


筆者プロフィール

菊池 典明(きくち のりあき)

大学院商学研究科 修士課程で会計学を専攻。2014年税理士登録。2012年に辻・本郷税理士法人大阪支部に入社し、株式会社のほか医療法人、社会福祉法人、公益法人等の税務・会計に関する業務を中心に、法人の事業承継や個人の相続コンサルティングにも携わる。

2017年に社会福祉法人部を設立し、数多くの社会福祉法人の顧問を務め、税務・会計のみならず経営面や運営面における支援も行っている。

URL:NEXTA(https://nexta-pro.com/
URL:https://www.ht-tax.or.jp/
URL:http://wm-research.jp/

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