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社会福祉法人会計の特徴や注意点

公開日:2020/09/11

社会福祉法人会計の特徴や注意点

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社会福祉法人会計の特徴

社会福祉法人は社会福祉法に基づき、法人格を付与されて社会福祉事業を行う組織です。

社会福祉法人に求められるものは、地域福祉政策の実現に寄与するために、良質なサービスを継続的に提供する事業の実施であり、これを経営目的とする事業体です。そのため、利用者の負担を軽減する効果を機能とする施設設備補助金の交付や、利用者負担金を軽減した実績に応じて給付される助成金制度など低所得者が利用しやすくなる政策が準備されています。

一取引二仕訳

社会福祉法人会計の特徴の代表的なものとして、資金収支計算書と事業活動計算書の2つの計算書を作成するために生じる「一取引二仕訳」が挙げられます。

資金収支計算書、事業活動計算書、貸借対照表の3つの計算書類を互いに関連させるためには、資産、負債及び純資産が増減する1つの取引に支払資金の増減が伴う場合、通常の複式簿記の仕訳の他に、支払資金の増減を計上するための仕訳を起票する必要があります。この1つの取引に複式簿記による仕訳と支払資金関係の仕訳を起票することを「一取引二仕訳」といいます。なお、支払資金の増減を伴わない取引では「一取引二仕訳」は発生しません。

  取引の性格 取引例 反映される計算書類
貸借対照表 資金収支計算書 事業活動計算書
収入取引
支出取引
支払い資金及び純資産の増減に関係する取引 介護保険事業収入(収益)、経常経費寄附金収入(収益)、職人給料、給食費等
固定資産取引
固定負債取引
支払い資金の増減のみに関係する取引 固定資産取得支出、積立資金取崩収入、借入金収入等 ×
非支払資金取引 純資産の増減のみに関係する取引 減価償却費、国庫補助金等、特別積立金積立額・取崩額、固定資産受贈額等 ×
支払資金間取引 支払資金及び純資産の増減には関係のない取引、貸借対照表の流動資産と流動負債の間で行われる取引 事業未収金の回収、短期運営資金借入金の返済等 × ×

基本金

基本金は、基本財産の取得の際に、運転資金に充てるために受けた寄附金の額をいいます。社会福祉事業を継続してほしいとの願いを込めて、世の中から社会福祉法人に対して拠出されたものと考えることができます。

基本金は第1号基本金から第3号基本金までの3種類にわかれます。

  • 第1号基本金
    法人設立・施設の創設及び増築等の基本財産等の取得のための寄附金の額
  • 第2号基本金
    施設の創設及び増築等の基本財産等の取得にかかる借入金返済のための寄附金の額
  • 第3号基本金
    施設の創設及び増築時等に運転資金に充てるための寄附金の額

【基本金への組入れ】

基本金の組入れは、組入れの対象となる寄附金を事業活動計算書の特別収益に計上した後、その収益に相当する額を基本金組入額として特別費用に計上して行います。

会計処理にあたっては、施設整備のための寄附金、借入金償還財源としての寄附金等、基本金の増加となる寄附金の受け入れがあったかを確認し、基本金組入の処理に漏れがある場合は、決算整理事項として処理します。

【基本金の取崩し】

基本金が取崩されるのは、事業を廃止して、かつ、その基本金組入れの対象となった基本財産等を処分した場合に限られますので、稀なケースです。

国庫補助金等特別積立金

国庫補助金等は、法人施設の創設及び増築のために基本財産等を取得すべきものとして、国又は地方公共団体から受領した助成金をいいます。その目的は、社会福祉法人の資産取得のための負担を軽減し、法人のコストを軽減することを通じて、利用者の負担を軽減することにあります。

【国庫補助金等特別積立金の積立て】

国又は地方公共団体から受け入れた補助金、助成金及び交付金等の額を各拠点区分で積み立てることとし、複数の拠点によって施設や設備が同時使用されていて受け入れる拠点区分が判明しない場合には、最も合理的な基準に基づいて各拠点に配分します。

【国庫補助金等特別積立金の取崩し】

国庫補助金等特別積立金の積立ての対象となった固定資産が廃棄され、又は売却された場合には、当該資産に相当する国庫補助金等特別積立金の額を取崩し、事業活動計算書の特別費用に控除項目として計上します。

なお、国庫補助金等特別積立金の減価償却等による取崩し及び国庫補助金等特別積立金の対象となった固定資産等が廃棄又は売却された場合の取崩しは、積立てと同様に各拠点区分で処理します。また、土地に対する国庫助成金等は、原則として取崩しという事態は生じず、将来にわたって純資産に計上します。

会計単位

社会福祉法人の会計基準では、法人全体の計算書類を「事業区分」、「拠点区分」に分類して作成し、各拠点で実施される複数の事業を「サービス区分」別に分類して附属明細書を作成します。

  • 事業区分
    法人全体を、社会福祉事業、公益事業、収益事業に区分します。
  • 拠点区分
    拠点区分は、原則として予算管理の単位であり、一体として運営される施設、事業所又は事務所をもって1つの拠点区分と考えます。
  • サービス区分
    サービス区分とは、法人が行う事業の内容に応じて設けるものをいい、拠点区分にはサービス区分を設けます。

拠点区分の考え方としては、法令上の事業種別、事業内容及び実施する事業によって区分を分けることになります。これは、法人が外部に会計情報を公開する際に、原則として、収入源泉の違う事業はそれぞれ分けて計算書類を作成し、外部に説明する必要があるからです。正しい情報を提供するために、拠点区分の設定は大変重要なものとなります。

会計処理上の注意点 内部取引

社会福祉法人の内部では、「事業区分」、「拠点区分」、「サービス区分」を設けているため、これらの区分間で取引が生じる可能性があります。このひとつの法人におけるお金や物の移動を内部取引といいます。

当該社会福祉法人が有する「事業区分間」、「拠点区分間」、「サービス区分間」において生ずる内部取引について、異なる事業区分間の取引を事業区分間取引とし、同一事業区分内の拠点区分間の取引を拠点区分間取引といいます。同一拠点区分内のサービス区分間の取引をサービス区分間取引といいます。

内部取引の種類 内容
事業区分間取引 異なる事業区分間で生じる内部取引
拠点区分間取引 同一事業区分内の拠点区分間で生じる内部取引
サービス区分間取引 同一拠点区分内のサービス区分間で生じる内部取引

社会福祉法人は貸し付けることも含めて、資金を法人外に流出することは禁止されています。したがって、繰入れという勘定科目で処理される取引は法人内に限られ、一方が繰入金収入であれば、他の一方は繰入金支出となり、相対関係にあるので、法人の計算書類を作成する段階では内部取引として相殺消去されます。

まとめ

社会福祉法人会計の特徴や注意点についてご紹介しました。

社会福祉法人では、法人内で行う事業ごと、又は拠点ごとに計算書類を作成することが求められています。法人全体の正確な収支を把握するためには、取引の混同がないよう気を付けなければなりません。

この記事の執筆者
菊池 典明
菊池 典明(きくち のりあき)

辻・本郷 税理士法人 DX 事業推進室/税理士
辻・本郷 IT コンサルティング株式会社 取締役
2012年辻・本郷 税理士法人大阪支部に入社。株式会社のほか医療法人、社会福祉法人、公益法人等の税務・会計に関する業務を中心に、法人の事業承継や個人の相続コンサルティングを担当。2015年より経営企画室に所属し、クライアントのクラウド会計の導入や DX の推進などにも携わる。2021年より現職。