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社会福祉法人の会計とは?社会福祉法人会計基準について
社会福祉法人とは
社会福祉法人とは、社会福祉事業を行うために設立される非営利の公益法人です。社会福祉法人が実施する社会福祉事業には、老人福祉施設、障害者支援施設、保育所、児童養護施設、救護施設などさまざまな事業があります。
それらの社会福祉事業のうち、特別養護老人ホームや障害者支援施設など利用者保護の必要性が高い事業は、原則として社会福祉法人と国や地方公共団体しか行うことができません。そのため、社会福祉法人の運営に当たっては、法令で事務手続きが定められており、適正な運営が求められています。
また、その公益性の高さから、法人税等は原則非課税となっており、共同募金をはじめとした各種助成金や補助金の対象となるなど、社会的な優遇措置を受けています。
このようなことから、社会福祉法人では、法人全体の財務状況を明らかにし、経営分析を可能にするとともに、外部への情報公開にも資することを目的として、社会福祉法人会計基準が定められています。
社会福祉法人会計基準とは
社会福祉法人会計基準は厚生労働省令と一般に公正妥当と認められる社会福祉法人会計の慣行からなります。
社会福祉法人の会計は、複式簿記が採用されており、真実性の原則や正規の簿記の原則など企業会計と同様の会計原則が採用されています。また、引当金の計上や1年基準による流動項目と固定項目の振替など企業会計の手法が取り入れられ、適正な期間損益を計算することができます。
この社会福祉法人会計基準は、これまでに何度も改正が行われており、平成28年には社会福祉法人制度改革にあわせて大きな改正が行われました。
社会福祉法人会計と企業会計の違いについて
企業会計の手法も取り入れて策定された社会福祉法人会計基準ですが、社会福祉法人会計と企業会計には下の表のような違いがあります。
大きな違いとして、株式会社は営利を目的とした法人であるため企業会計は利益を計算することに主眼を置いていますが、社会福祉法人は社会福祉事業を目的とした非営利の法人であるためその会計においては事業活動の成果や資金収支を計算し、事業の継続性や安定性などの情報を提供することに主眼を置いています。
社会福祉法人 | 株式会社 | |
---|---|---|
根拠法 | 社会福祉法 | 会社法 |
事業の目的 | 非営利 | 営利 |
出資者の持分 | なし | あり |
剰余金の配当 | なし | あり |
会計基準等 | 社会福祉法人会計基準 一般に公正妥当と認められる社会福祉法人会計の慣行 |
会社計算規則 一般に公正妥当と認められる企業会計の基準その他の企業会計の慣行 |
計算書類 | 資金収支計算書 事業活動計算書 貸借対照表 |
貸借対照表 損益計算書 株主資本等変動計算書 個別注記表 |
会計単位 | 事業区分、拠点区分、サービス区分を設ける | 法人全体 |
仕訳方法 | 一取引二仕訳 | 一取引一仕訳 |
社会福祉法人会計の特徴
社会福祉法人会計の特徴として、次のものが挙げられます。
-
会計の単位
社会福祉法人会計においては、会計の単位を事業(社会福祉事業・公益事業・収益事業の違い)、拠点(場所の違い)、サービス(事業ごとの法律・制度による違い)の3階層に区分します。計算書類は法人全体と区分ごとにそれぞれ作成します。 -
内部取引の相殺消去
社会福祉法人は会計の単位として、上記の区分が定められています。各区分間で取引を行った場合、それぞれの区分で収益と費用が計上されます。ところが、それらは法人内部での取引ですのでそのまま法人全体を集計すると、収益と費用の額が過大となります。そのため、それらの内部取引については、計算書類の作成段階において相殺消去を行います。 -
資金収支計算
社会福祉法人における資金収支計算書は、キャッシュフロー計算書とは異なるものです。キャッシュフロー計算書においては、現金や預金などの増減を表しますが、資金収支計算書においては、流動資産と流動負債の増減を表しています。
つまり、資金収支計算書は流動資産と流動負債の増減からキャッシュフローよりも広い範囲で資金の動きを表したものです。 -
基本財産
社会福祉法人では、社会福祉事業という公益性の高い事業を安定的、継続的に経営していくため、その設立に当たっては社会福祉事業を行うのに必要な資産を備えなければならないこととされています。
そのため、固定資産を基本財産とその他の固定資産に区分し、基本財産には社会福祉事業の用に供する資産(建物や土地など)を計上します。 -
基本金
社会福祉法人の貸借対照表の純資産の部には資本金ではなく基本金が計上されています。社会福祉法人は出資による持分がないため、事業開始などに当たって受け入れた寄附金の額が基本金として計上されています。 -
国庫補助金等特別積立金
社会福祉法人は施設を建設する際、国や地方公共団体から補助金の交付を受ける場合が多くあります。そこで、企業会計における圧縮記帳のように、固定資産の取得に対する補助金の受け入れがあった場合においては、補助金を収益として計上するのと同時に純資産の部に国庫補助金等特別積立金を計上します。
その後、補助金の対象となった固定資産の減価償却に伴って国庫補助金等特別積立金を取り崩し、費用の控除項目として計上することで収益と費用の対応が図られています。
社会福祉法人が作成する計算書類
社会福祉法人は、資金収支計算書、事業活動計算書、貸借対照表の3つの計算書類を作成します。
- 資金収支計算書
資金収支計算書とは、1会計年度ごとの支払資金の増減内容を表したものをいいます。
社会福祉法人の1会計年度ごとの収入・支出・収支を明らかにして、当期資金収支差額を計算します。 - 事業活動計算書
事業活動計算書とは1会計年度ごとの純資産の増減内容を表したものをいいます。
1会計年度ごとに収益・費用・損益を明らかにして、当期活動増減差額を計算します。 - 貸借対照表
貸借対照表とは、会計年度末の財産状況を表したものをいいます。
社会福祉法人のすべての資産・負債・純資産の状況を計上します。
社会福祉法人はこれらの計算書類の他にも、注記や附属明細書、財産目録を作成することが、法令により定められています。それらは計算書類を補足するもので、附属明細書には借入金明細書、寄附金収益明細書、補助金事業等収益明細書など19種類の明細書があります。
そして、社会福祉法人が作成した計算書類は所轄庁である国や地方公共団体に提出し、その後財務諸表等電子開示システムにおいて公表されます。
まとめ
今回は社会福祉法人の会計についてご紹介しました。
社会福祉法人は、社会福祉事業を行うために設立された法人です。そして、その財務状況を適切に公表するための会計基準として社会福祉法人会計基準が制定されています。
社会福祉法人の計算書類はインターネット上で公開されていますので、ぜひ一度見てみてください。
筆者プロフィール
菊池 典明(きくち のりあき)
大学院商学研究科 修士課程で会計学を専攻。2014年税理士登録。2012年に辻・本郷税理士法人大阪支部に入社し、株式会社のほか医療法人、社会福祉法人、公益法人等の税務・会計に関する業務を中心に、法人の事業承継や個人の相続コンサルティングにも携わる。
2017年に社会福祉法人部を設立し、数多くの社会福祉法人の顧問を務め、税務・会計のみならず経営面や運営面における支援も行っている。
URL:NEXTA(https://nexta-pro.com/)
URL:https://www.ht-tax.or.jp/
URL:http://wm-research.jp/
菊池 典明 氏 連載記事
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