公開日:2020/06/12
「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準」の第38条では、「会計の区分」について以下のように規定しています。
「指定訪問介護事業者は、指定訪問介護事業所ごとに経理を区分するとともに、指定訪問介護の事業の会計とその他の事業の会計を区分しなければならない。」
なお、指定訪問介護事業者以外の指定介護事業者についても第38条が準用されています。
例えば、1つの会社で不動産業、訪問介護、居宅介護支援、2か所でデイサービスを行っている場合、会計を以下のように5つに分けなければなりません。さらに、居宅サービスと介護予防サービスも区分が必要です。
所轄庁が行う実地指導の際に提出を求められる自己点検シートにも、必ず「会計の区分」という確認項目があります。
もし「会計の区分」を行っていない場合は、実地指導において運営基準違反として指導対象、場合によっては認定取り消しとなるケースもあります。
運営基準を満たすための会計管理の方法として、以下の4つの方法が考えられます。
施設や拠点、介護サービス事業をあたかも一つの会社のように独立したものとみなして会計処理を行う方式。もっとも厳密で手間がかかる方法。
施設や拠点ごとかつ介護サービス事業別に会計処理を行うものの、貸借対照表の純資産の部は分離せず、施設や事業間の取引は本支店勘定にて会計処理を行う方式。
各勘定科目において施設または拠点、サービス事業ごとの補助科目を設定し、これらの補助科目を用いてサービス事業等ごとに集計する方式。損益計算書の勘定科目のみに補助科目を設定するケースが多い。
仕訳時には区分せず、全体の損益計算書から科目ごとに設定した按分基準を用いて、各施設や事業に按分した区分表を作成し、事業別の損益計算書等を作成する方式。4つの中で一番容易な方法。
小規模の介護事業者が採用する方式としては、4.区分表方式がもっとも取り組みやすでしょう。
経費には、個別経費と共通経費があります。
個別経費は、例えば訪問介護しかしないヘルパーさんの給料や特定の施設で購入した介護用品費など1つの施設や事業に直接配賦することができる経費です。
これに対して、共通経費は社長の報酬や総務・経理管理部門の人件費、複数の施設で購入した消耗器具備品や複数のサービスが入っている施設の水道光熱費など1つの施設やサービスに直接配賦することができない経費です。
厚生労働省の基準を満たすために、これらの共通経費は、最終的に各施設やサービスに振り分けなければなりません。その振り分けるときに使う基準が按分基準です。
共通経費の按分基準には様々なものがありますので、以下に代表的な按分基準を例示します。
なお、上記の按分基準のうちどれを選択するかについては任意ですが、一度選択したら原則として継続して適用する必要があります。
また、ひとつひとつの仕訳で按分する必要はなく、決算期に1年分を一括して按分処理して差し支えないとされています。
介護事業を行う際には一般事業と比較して様々な特殊性があります。ここでは、会計管理、特に、事業ごとに区分して会計処理が必要なこととその方法である4つの方式と按分基準に焦点を絞って解説しました。
按分基準の設定などはじめは手間がかかり難しく感じる部分も多いですが、一度設定してしまえばスムーズに日々の会計処理や決算作業を行うことができるので、ぜひ参考にしてみてください。
辻・本郷 税理士法人 DX 事業推進室/税理士
辻・本郷 IT コンサルティング株式会社 取締役
2012年辻・本郷 税理士法人大阪支部に入社。株式会社のほか医療法人、社会福祉法人、公益法人等の税務・会計に関する業務を中心に、法人の事業承継や個人の相続コンサルティングを担当。2015年より経営企画室に所属し、クライアントのクラウド会計の導入や DX の推進などにも携わる。2021年より現職。