更新日:2025/12/19
第3回では、整理解雇の4要素のうち、第2要素と第3要素を解説します。
これらは、第1要素の「分析」とは異なり、「実行」していくフェーズになりますので、より「実務」的な問題といえます。
特に、第2要素は、整理解雇を回避できるか、それとも、やむを得ず整理解雇に向けて進んで行くかの分岐点ともいえますので、重要なポイントになります。
一般的に、解雇回避努力の具体的措置として挙げられているものは、次のとおりです。
大きく3つに分類できます(下線は筆者。以下同じ)。
裁判実務では、上記の措置の全てを一律に要求しているわけではなく、当該企業の規模・業種・人員構成、労使関係の状況に照らして、その実現可能な措置が尽くされているかを検討する傾向にあります。
この意味において、その企業において、可能な限り、解雇を回避するための措置を講じることが重要になりますが、実務では、何をどこまでできるか、又は、できないかについて、慎重に判断する必要があります。
したがって、ある措置ができないと判断した場合には、なぜそう判断したのかも説明できるようすることが重要になります。
各措置の中で、重要と位置付けられているのは、⑦(配転、出向、転籍)と⑩(希望退職者の募集)です。
また、⑧(非正規労働者の雇い止め)は、パート有期法8条9条との兼ね合いで、今後、悩ましい問題になってくると考えられます。
以下では、この3つを中心に検討します。
メンバーシップ型とも言われる日本型雇用システムでは、職種限定や勤務地限定がされている正社員は必ずしも多くありません。そのため、職種限定等のない正社員に対して、配置転換を命じることによって、余剰人員を社内で調整していくことが基本となります。
これに対して、職種等を限定する契約を締結している労働者の場合、滋賀県社会福祉協議会事件(最判令和6年4月26日)のとおり、使用者が一方的に配転を命じることはできませんので、職種限定等がされていない正社員とは別の対応が必要になります。
この点は、後述のQAで検討します。
ア 希望退職者の募集をすることの重要性
解雇回避努力との関係で、希望退職者の募集は、重要な措置と考えられていますので、特段の事情がない限り、実施するべきものと理解しておくべきです。
また、希望退職者の募集により退職合意を得ることができた場合、実際に整理解雇を行った場合と比較して、法的紛争に発展する可能性は下がりますので、実務上、重要な手段となります。
イ 募集条件などの決定
制度の対象となる従業員をどのように設定するかは、会社に裁量があると考えられています。
例えば、年齢、勤続年数、資格等級、役職、部署、事業所などを基準として設定することが考えられます。これに対して、性別、国籍・信条による対象者の限定、対象者を組合員に限定する方法は、法令違反になるため、許されません。
削減を必要とする人員数が多くなる場合には、全従業員を対象とする方が、必要な人員数に達しやすくなるといえますが、その反面、想定していない優秀な人材が流出するリスクが高まる点で、悩ましい問題となります。
募集期間・申込期間は、会社の規模や状況にもよりますが、2週間程度~1か月程度とすることが多いと思われます。
この点、希望退職者の募集から締め切りまで5日間であったこと等を理由に、必ずしも会社が適時に万策を尽くしたとまではいいがたいと判示した裁判例(沖歯科工業事件(新潟地決平成12年9月29日))があります。
その他の解雇回避措置の状況を踏まえ、削減すべき人数を計算の上、決定します。
必要な人員削減の規模は、他の解雇回避努力の状況などによっても変わり得るため、募集条件を公表する際には「〇名程度」というように、幅のある記載とするのが穏当です。
引き継ぎ期間などを勘案した上で、退職日を設定します。
代表的な例は、退職金の上乗せになります。この他にも、未消化年休の買い取ること、会社が負担する形での再就職支援サービスの利用を認めることなどが考えられます。
会社を建て直していくためのキーパーソンとなる従業員には会社に残ってもらう必要がありますので、これらの退職条件(優遇措置)の適用を受けるためには、会社による承認が必要である旨を明記しておくことが重要です。
ただし、これらの退職条件(優遇措置)の適用を受けなくても、退職すること自体は可能ですので、希望退職者の募集を実施する際には、ある程度、人材が流出する可能性を覚悟しておく必要があります。
ウ 従業員説明会
募集条件などを決定した後は、これを従業員に周知します。その方法は、従業員説明会と書面による通知が考えられます。
従業員説明会を実施する場合には、会社の現況などを説明した上で、希望退職者の募集をせざるを得ない状況であることを説明の上、理解を得るよう努めるべきです。
なお、従業員説明会を実施する際に、会社の現況などが記載された資料を配付した場合、情報が外部に漏れて、取引先などとの関係で信用不安となる可能性がありますので、交付する書面には募集条件に関する記載にとどめるのが穏当な対応といえます。
エ 募集人数に達しなかった場合
募集人数に達しなかった場合には、期間を延長して、二次募集をすることもあり得ますが、この場合には、一次募集で申し込みをした従業員が不利益とならないようにするべきです。すなわち、二次募集の退職条件も、一次募集と同一にするべきといえますが、仮に二次募集で退職条件を一次募集時よりも有利な条件にする場合、一次募集で申し込みをした従業員にも適用するべきであると考えます。
オ 人選基準の選定を同時並行的に行っていくことの必要性
結果的に必要な削減人員数に達しなかった場合、実際に整理解雇に踏み切るかどうかの局面となりますので、遅くとも希望退職募集が終了するまでには、必要な労使協議を経た上で、人選基準を決定することが必要になります。
非正規労働者の雇い止めについて、「正社員よりも先に非正規社員の契約を解除すれば良い」と考えられがちですが、実はそう単純な話ではありません。
パート有期法(いわゆる同一労働同一賃金)の関係で、人選の合理性の考え方に影響を与える可能性があるからです(特に同法9条が適用される場合)。
そのため、単に「パートだから」「有期だから」といった、形式的な理由で判断した場合、対応を見誤る可能性がありますので、実態を考慮しながら人員調整を考える必要があります。
なお、非正規労働者の雇止めにも、整理解雇法理が適用される点に留意が必要です(もっとも、当該法理につき正社員と同程度かという議論はあります)。
②(役員報酬の削減)をしていない場合、解雇回避努力を実施したと認められない可能性が出てきます。
また、事実上の問題として、役員報酬の削減をしていない場合、(自らは身を切る施策をしていないではないかという観点から)従業員の理解を得ることができず、協議の場において、大きな反発を招く可能性があります。
さらに、役員報酬の削減は、希望退職者の募集の前や組合等との協議前までに実施していない場合、解雇回避努力として評価されない可能性があるため、その実施時期に注意が必要です(沖歯科工業事件(新潟地決平成12年9月29日))。
この点は、従業員側から、「役員報酬の削減は当然に実施済みであるという理解で良いか」という質問がなされることが通常ですので、「既に実施済みである」と回答できるようにしておくことが重要になります(もし実施していない場合はその理由を説明できるようにしておくことが重要です)。
⑥(新規採用の停止)について、これをしておらず新規採用している場合、矛盾している行動であるとして、そもそも、人員削減の必要性が否定される可能性が出てきます。
企業規模によっては、毎年の新規採用をストップするわけにはいかない場合も考えられますので、この場合、事実上、整理解雇まで行うことは難しい(=希望退職者の募集などは実施するものの、整理解雇まで踏み切ることはできない)と考えるべきことになります。
退職勧奨は、希望退職者の募集とは異なり、積極的に退職の動機づけを行うものであることから、解雇回避努力の具体的措置とはいえないと考えられます。
他方で、退職勧奨による退職合意が成立した場合には、雇用契約の終了に関する法的リスクは、整理解雇を実施した場合よりも下がりますので、実務上は、退職勧奨を行っていくことが考えられます。
もっとも、労働者が退職の意思のないことを表明したにもかかわらず、その後も退職勧奨を続けた場合、違法な退職勧奨(退職強要)に該当する可能性がありますので、注意が必要です。
一般的に、基準として挙げられているものは、次のとおりです。
・勤務成績(欠勤・遅刻日数、規律(命令)違反歴など)
・企業貢献度(勤続年数)
・経済的打撃の低さしかし、これらの基準は相互に矛盾しうるものであり、「どれを選ぶかは当該労使の全体的な了解(納得)を尊重すべきと思われる」(菅野和夫・山川隆一「労働法第13版」762頁)という指摘があります。
なお、どのような基準を設定するかは、最終的には、使用者が決定することになりますが、国籍・信条・社会的身分、婚姻・妊娠・出産、育児介護、労働組合員であること等の違法な差別に該当する基準は、許されません。
実務上、どのような人選基準を定めるかは、悩ましい問題になりますが、客観性・合理性のある基準(使用者による恣意的な選定ができない基準)を定めるべきであり、その選定に際しては労使間での協議が重要になります。
そして、選定した人選基準を公平に適用することが重要になります。
設定した人選基準は、事前に従業員及び組合に通知するべきです。
この点、労働大学〔第2時仮処分〕事件(東京地決平成13年5月17日)は、「使用者が解雇の後に人選の基準を明らかにする場合,使用者が解雇当時からそのような基準を設定し,これを公正に適用して被解雇者を人選したが,解雇当時には従業員等に対してその旨を明らかにすることができず,かつ,これを明らかにすることができなかった合理的な理由が一応存在するなどといった特段の事情が主張・立証(疎明)された場合に限り,人選の合理性が根拠付けられるものと解される」と判示しています。
複数の要素を基準に取り込んだ場合、どの要素をどの順番で適用したかを明示することが必要になります。
この点、横浜商銀信用組合事件(横浜地判平成19年5月17日)は、「本件整理解雇の被解雇者の人選が合理的であるか否かは,年齢・職位・考課といった要素のうち,何を重視し,どのような順序であてはめたかにつき検討し,評価しなければならない。」と判示しています。

A1:
職種限定合意のある従業員の場合でも、配置転換を打診するのが相当であると考えられますので、配転の可能性を検討することなく、解雇することには問題があります。
この点、三菱UFJ銀行事件(東京地判令和6年9月20日)は、前掲・滋賀県社会福祉協議会事件(最判令和6年4月26日)等を指摘した上で、「職種限定合意のある本件において、被告は、原告の個別的同意なしに上記合意に反する配置転換をすることはできないが、原告が解雇によって受ける不利益の程度等からすれば、配置転換を打診するなどの解雇回避努力を行うのが相当であると考えられる。」と判示しています。
A2:
合理性のある配置転換の提案等を行えるよう、留意すべきです。
この点、前掲・三菱UFJ銀行事件は、「被告は、職種限定合意があることを前提としつつ、原告に対し、原告が従前と同程度の賃金を得る職務がない中で、Cへの受入れの打診や合理性のある配置転換の提案等をしたと認められる。」とした上で、「原告の従前の職務内容に照らし、賃金が年額3000万円程度となる職務が存在しないにもかかわらず、被告が、解雇回避努力として、令和5年当時の賃金と同程度の賃金を支払う提案をすべきであるとまではいえない。」と判示しており、また、「特別嘱託で、職種限定合意が存在し、高額の賃金がその職務と結び付いている原告について、その担当する職務がなくなり、業務集約の必要性が認められることからすると、被告が年額3000万円を超える原告の収入に見合う新たな職務を創設することや、そのためのコストシェアリングを採用し、従前と同程度の賃金を原告に支払うことが解雇回避努力として必要であるとまではいえ」ないと判示しています。

多湖・岩田・田村法律事務所。第一東京弁護士会所属。第一東京弁護士会労働法制委員会(基礎研究部会副部会長)。経営法曹会議会員。使用者側から労働問題を取り扱う。労働法務に関するセミナー講師も務める。
著書に、『詳解 働き方改革関連法』(共著、労働開発研究会、2019年)、『Q&A労働時間・休日・休暇・休業トラブル予防・対応の実務と書式』(共著、新日本法規、2020年)、『新しい働き方に伴う非正規社員の処遇-適法性判断と見直しのチェックポイント-』(共著、新日本法規、2021年)、『改訂版 実用会社規程大全』(共著、日本法令、2022年)、『対応ミスで起こる 人事労務トラブル回避のポイント』(共著、新日本法規、2022年)、「4訂補訂版 標準実用契約書式全書」(共著、日本法令、2024年)、『三訂版 企業労働法実務入門』(共著、日本リーダーズ協会、2024年)。
URL:http://www.tamura-law.com/