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PCA FES 2026

第4回 雇用調整・整理解雇の基礎と実務対応

経営悪化、事業場閉鎖、リストラ・・・会社はどうする?使用者側弁護士が解説!

更新日:2026/05/29

企業、会社

手続の不備を理由に整理解雇が無効となるリスクがあることをご存知でしょうか。整理解雇は、経営上の理由があれば認められるわけではありません。裁判所は、解雇の「理由」と同じくらい、そこに至るまでの「プロセス」を厳しく審査します。本稿では、最新の裁判例を交えて、企業が踏むべき具体的な手続を解説します。

第1 手続の相当性<第4要素>

1 労働組合・従業員に対する説明・協議の必要性

整理解雇において、「手続の相当性」は決して軽視してよいものではありません。

実際に、手続の相当性を欠くことを理由に、整理解雇を無効と判断する裁判例があります。

そのため、以下の3つのポイントを軸に、適切なプロセスを踏むことが重要になります。

①タイミング(いつ):方針決定後、速やかに

②対象(誰に):労働組合または(および)全従業員

③内容(何を):数字や根拠に基づいた説明

2 実務対応

⑴ ①タイミング(いつ)

第2回コラムで示した「全体像の図」を再掲します。

人員削減の方針を決定した後、速やかに説明・協議を開始することが重要です。

例えば、アンドモワ事件(東京地判令和3年12月21日)では、「被告(注:会社)は,令和2年3月頃の時点で既に大部分の店舗経営から撤退する方針を決めていたにもかかわらず,原告(注:労働者)に対し,本件解雇予告通知書を送付(注:令和2年6月)する直前に「近日中に重要な書類が届くので確認しなさい。」という趣旨のことを電話で伝えただけで,整理解雇の必要性や,その時期・規模・方法等について全く説明をしなかった」こと等を理由に、手続の妥当性が著しく欠けていたとして、整理解雇が無効であると判断しています(下線は執筆者)。

⑵ ②対象(誰に)

労働組合との間で解雇一般または人員整理に関する協議を義務付ける旨の労働協約がある場合には、当該協約に従って協議を行う必要があります。十分な協議を経ずになされた解雇は、協約違反として無効となります。労働協約がない場合であっても、使用者は労働組合との間で説明・協議をすべき信義則上の義務があるとされています。

労働組合がない場合には、各従業員に対して直接、説明・協議をすべき信義則上の義務があるとされています。

したがって、いずれの場合も十分な期間を確保した上で説明・協議をすることが必要です。

⑶ ③内容(何を)

ア 4要素を意識した説明

説明・協議すべき事項は、広範囲にわたります。

例えば、ネオユニット事件(札幌高判令和3年4月28日)では、「一般に,使用者が,労働者を整理解雇するに当たっては,当該労働者等に対し,整理解雇の必要性,時期,方法等について説明し,当該労働者等との間で十分な協議を行うべき信義則上の義務を負うものと解される。」と判示しています。

したがって、次のとおり、整理解雇の4要素を意識して説明することが重要です。

 □人員削減の必要性(第1要素)

例)赤字の推移や債務超過の事実など、財務諸表の数値に基づいた説明。

 □解雇回避努力(第2要素)

例)残業削減や配置転換といった既に講じた措置の説明に加え、希望退職募集を実施する場合における具体的な優遇策(特別退職金の上乗せ、未消化年休の買取、再就職支援サービスの提供など)の説明。

 □人選基準の合理性(第3要素)

例)どのような基準で対象者を選ぶのかという客観的な基準の開示

 □実施までのスケジュールと進め方(第4要素:手続の相当性)

例)上記に関する説明のほか、解雇を実施するまでの時期や進め方など

イ 会社情報を開示することの重要性

単に「赤字である」「業績が悪い」「(根拠なく)何人の削減が必要」といった抽象的な説明では、不十分です。

具体的に、貸借対照表(B/S)や損益計算書(P/L)といった財務諸表の数値に基づいて説明することによって、従業員に会社が苦しい状況にあることを理解してもらう姿勢が重要です(一方で、これらの内容をどのように開示・説明するかについては、実務上、悩ましい問題があります)。

この点、森山事件(福岡地決令和3年3月9日)では、「債務者(注:会社)は,・・・ミーティングにおいて,人員削減の必要性に言及したものの,人員削減の規模や人選基準等は説明せず,希望退職者を募ることもないまま,翌日の幹部会で解雇対象者の人選を行い,解雇対象者から意見聴取を行うこともなく,直ちに解雇予告をしたことは拙速といわざるを得ず,本件解雇の手続は相当性を欠くというべきである。」と判示しています。

3 その他の手続

⑴ 上場企業における適時開示

上場企業が希望退職者の募集等による人員削減策の実施を決定した場合、その内容が証券取引所の定める開示基準を満たすときは、直ちに「適時開示」を行うことが義務付けられています。

この場合、速やかな公表が必要となるため、内部決定のタイミングと開示資料の準備を並行して進める必要があります。

⑵  再就職援助計画の提出

事業主は、経済的事情(事業の全部の廃止、事業規模の縮小、事業活動の縮小、事業の転換(事業転換・再編))により、一つの事業所において、常時雇用する労働者について、1か月以内に30人以上の離職を余儀なくされることが見込まれる場合、最初の離職が発生する1か月前までに「再就職援助計画」を作成の上、ハローワークに提出し、認定を受ける必要があります(労働施策総合推進法24条)。

⑶  大量離職届等の提出

1つの事業所で1か月に30人以上の離職者が生じる場合、最後の離職が生じる日の1か月前までに、ハローワークに「大量離職届」を提出する必要があります(労働施策総合推進法27条等)。

4 実務上のポイント

手続の相当性を満たすためには、綿密なスケジュール管理が不可欠です。

具体的には、財務・人事・法務部門等が連携した上で、Xデー(整理解雇予定日)から逆算して、労働組合との協議、説明会の実施、個別面談、行政への届出といった各ステップを、スピーディーかつ丁寧に計画を立てることが、法的リスクを軽減するために重要になります。

第2 総括:日本型雇用の変容と整理解雇実務の新たな可能性

1 整理解雇法理の歴史と日本型雇用システム

整理解雇は、各社が取り得る解雇回避措置を講じてもなお人員削減が避けられない場合の最終手段です。

こうした雇用調整の手法は、第2回コラムで説明したとおり、日本型雇用システム(終身雇用等)を前提とする企業で発展してきました。そして、1970年代のオイルショック以降、東洋酸素事件(東京高判昭和54(1979)年10月29日)を代表とする裁判例を通じて、現在の4要素(または4要件)の枠組みが確立されたという背景があります。

この背景には、日本型雇用の特徴である「広範な配転権限」が会社にあることが深く関係しています。会社が広範な配転権限を有しているからこそ、解雇を選択する前に、まずは異動によって雇用を維持する努力(解雇回避努力)が求められていたと言えます。

なお、新型コロナ禍の際に注目・活用された雇用調整助成金は、雇用維持のための施策であり、解雇回避努力の一つに該当しますので、大規模な経済不況が生じた際にはこれらの施策の活用可否を検討することが必要になります。

2 雇用システムの変容と整理解雇法理の変容可能性

ところが現代では、ジョブ型雇用(職種限定正社員)や勤務地限定正社員など、働き方が多様化してきています。

こうしたタイプの労働契約では、会社の配転(異動)権限が制限されることになりますが、ここで重要なのは、雇用形態が変わっても労働契約法16条(解雇権濫用法理)の適用は免れないという点です。

すなわち、「配転命令権を制限する合意は有効であっても、解雇について強行規定である労契法16条の適用を制限・除外することはできない」(「『労働法の未来』への書き置き」菅野和夫・労経速2439号19頁)という指摘があります。

しかし一方で、同文献では、「労働契約法16条は『社会通念上の相当性』を基本としたルールであるが故に、雇用システムの実際的変化(柔軟化)に対応して、そこでの実務基準を判断基準に取り込みうる弾力性を有している」(同頁)とも指摘しています。

つまり、今後、正社員の働き方が変容していくことに伴って、整理解雇の妥当性を判断する「社会通念上の相当性」の判断基準も変容していく可能性を秘めていると言えるのではないでしょうか。

この点は、第3回コラムで言及した、三菱UFJ銀行事件(東京地判令和6年9月20日)もご参照下さい。

3 AI・DX時代における人員削減

AIによる業務代替は、事務職を中心とした余剰人員の発生を現実のものとしつつあります。

今後は、必ずしも倒産危機といった切迫した状況に限らず、組織の適正化を目的として、希望退職募集をはじめとする雇用調整の場面が増えることが予想されます。

このような時代の転換点において、最終手段である整理解雇まで見据えた法的リスクを分析し、適切な手段を選択することは、企業経営において一層重要な意味を持つことを、本コラム連載を通じて、ご理解いただけたのではないかと思います。

本コラムが、各社の経営判断におけるリスクマネジメントの一助となれば幸いです。

この記事の執筆者
飯島 潤
飯島 潤(いいじま じゅん)
弁護士 

多湖・岩田・田村法律事務所。第一東京弁護士会所属。第一東京弁護士会労働法制委員会(基礎研究部会副部会長)。経営法曹会議会員。使用者側から労働問題を取り扱う。労働法務に関するセミナー講師も務める。
著書に、『詳解 働き方改革関連法』(共著、労働開発研究会、2019年)、『Q&A労働時間・休日・休暇・休業トラブル予防・対応の実務と書式』(共著、新日本法規、2020年)、『新しい働き方に伴う非正規社員の処遇-適法性判断と見直しのチェックポイント-』(共著、新日本法規、2021年)、『改訂版 実用会社規程大全』(共著、日本法令、2022年)、『対応ミスで起こる 人事労務トラブル回避のポイント』(共著、新日本法規、2022年)、「4訂補訂版 標準実用契約書式全書」(共著、日本法令、2024年)、『三訂版 企業労働法実務入門』(共著、日本リーダーズ協会、2024年)。

URL:http://www.tamura-law.com/