公開日:2022/07/19
日本版同一労働同一賃金問題の検討手順は、次のとおりです。
本コラムでは①分析、②検討の解説をし、③解決は次回(第3回・最終回)に取り上げます。
まず、労働者の雇用形態を基本にして、自社の社員タイプを整理します。
この場合、組織図や人員配置図を確認の上、各就業規則の適用対象がどのようになっているかを目安にします。
例えば、正社員就業規則、契約社員就業規則、嘱託社員就業規則などがある場合、これらの社員タイプが想定されます。
また、(a)期間の定めの有無、(b)フルタイムか否かで分類すると、以下のとおりになります。
ただし、準社員、契約社員、嘱託社員など、各社によってその名称は異なりますので、上記の2つの観点から、パート有期法の適用対象労働者(以下「取組対象労働者」)の有無を確認します。
フルタイム | 短時間 | |
---|---|---|
期間の定めなし |
正社員 |
(労働時間)限定正社員 |
期間の定めあり | 有期フルタイム社員 |
有期パート社員 |
この分類によると、取組対象労働者は、下線部分の3つの社員タイプになります。
(労働時間)限定正社員は、正規型の労働者ですので、取組対象労働者には該当しないと解されています。
なお、「雇用管理区分」や「社員タイプ」という用語は、パート有期法にはありませんが、厚労省による「不合理な待遇差解消のための点検・検討マニュアル(業界共通編)」に、その記載があります。
また、メトロコマース事件最高裁判決(令和2年10月13日)でも、「雇用管理の区分」という記載が出てきます。
したがって、分析をする際には雇用管理区分を意識することが重要です。
次に、上記⑴で整理した雇用管理区分ごとに、職務の内容、職務の内容及び配置の変更、その他の事情(以下「不合理性3要素」)に沿って、情報収集・整理をします。
情報収集・整理の方法としては、組織図、人員配置図、就業規則、賃金規程、雇用契約書及び職務記述書などを確認したり、雇用管理区分ごとに労働者から具体的な業務内容や権限・責任等をヒアリングしたりすることが考えられます(ここが出発点であり重要な作業です)。
情報収集・整理を前提に、次のように、正社員と取組対象労働者との間で、職務の内容などの相違を確認していきます。
職務の内容が同じか否かは、次の3つのステップで検討します。
(ア)業務の内容
業務の内容について、第一に、業務の種類が同一か否かを「厚生労働省編 職業分類表」の細分類を目安に比較します。
業務の種類が同一である場合、第二に、中核的業務が実質的に同じか否かを検討します。
中核的業務とは、ある労働者に与えられた職務に伴う個々の業務のうち、当該職務を代表する中核的なものを指し、以下の基準に従って総合的に判断します。
(イ)責任の程度
中核的業務が実質的に同じ場合、第三に、責任の程度が著しく異ならないか否かを検討します。
責任の程度とは、業務に伴って行使するものとして付与されている権限の範囲・程度等をいい、具体的には、次のものをいいます。
また、責任の程度を比較する際には、所定外労働も考慮すべき要素の一つではありますが、実態として業務に伴う所定外労働が必要となっているかどうか等を見て、判断することになります。
例えば、トラブル発生時、臨時・緊急時の対応として、また、納期までに製品を完成させるなど成果を達成するために、所定外労働が求められるのかどうかを実態として判断します。
「職務の内容」が同じか否かの判断フロー
「職務の内容・・・の変更」とは、配置の変更によるものであるか、そうでなく業務命令によるものであるかを問わず、職務の内容が変更される場合を指します。
他方、「配置の変更」とは、人事異動等によるポスト間の移動を指し、結果として職務の内容の変更を伴う場合もあれば、伴わない場合もあります。
「職務の内容・配置の変更の範囲」が同じか否かの判断フロー
「その他の事情」は、職務の内容並びに職務の内容及び配置の変更の範囲に関連する事情に限定されるものではありません。
具体例は、職務の成果、能力、経験、合理的な労使の慣行、事業主と労働組合との間の交渉といった労使交渉の経緯などの諸事情が想定されます。
また、パート有期法14条2項に基づく待遇の相違の内容及びその理由に関する説明について、事業主が十分な説明をしなかった場合、その事実も「その他の事情」に含まれると解されています。
続いて、雇用管理区分ごとの待遇を整理していきますが、まずは就業規則・賃金規程に沿って整理していくことが考えられます。
ここでのポイントは、「待遇」には、基本的に、全ての賃金、教育訓練、福利厚生施設、 休憩、休日、休暇、安全衛生、災害補償、解雇等の全ての待遇が含まれるということです。
したがって、賃金はもちろんのこと、これらの待遇の相違について、網羅的に整理することが必要です。
※本コラム特典として、「待遇差整理表」(エクセル)の無料DLを用意しています(詳細は後述)。
上記の情報収集・整理をした結果、仮に、上記ア及びイについて、正社員と同一の非正規社員(※)がいる場合、均等待遇(パート有期法9条)の問題となります。この場合、短時間・有期雇用労働者であることを理由として、待遇差について、差別的取扱いをしていないかを判断します。
これに対して、上記ア及びイについて、正社員と同一の非正規社員がいない場合、均衡待遇(パート有期法8条)の問題となります。この場合、待遇差の不合理性については、次の「②検討:不合理性判断」で検討します。
※=当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間において、その職務の内容及び配置が当該通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されることが見込まれるもの
まず、当該待遇の性質・目的を確認します。
その際には、当該待遇が創設された経緯・理由、当該待遇の支給要件、当該待遇を支給されることによる労働者の効果、などを検討します。
例えば、通勤手当の場合、通勤に要する実費を補填するためという目的であることが一般的であると思われます。
次に、不合理性3要素の中から、当該待遇の性質・目的に適合する要素を抽出します。
例えば、通勤手当の場合、職務の内容などの相違は、通常、通勤手当の支給の有無を決める際に関連性がある要素とは言い難いです。
この点、ハマキョウレックス事件最高裁判決(平成30年6月1日)も、「職務の内容及び配置の変更の範囲が異なることは,通勤に要する費用の多寡とは直接関連するものではない」と判示しています(正社員:月額5000円、非正規社員:月額3000円)。
不合理であるか否かの最終的な判断は、裁判所が行いますが、結論を予測することが難しいため、過去の裁判例や社労士、弁護士などの専門家の意見を踏まえた上で、検討することが重要です。
検討の結果、もし不合理である可能性が高い場合、不合理性を解消するための解決策を講じることが重要です。
通勤手当に関して言うと、正社員には支給するが、非正規社員には支給しないことについて、職務の内容などの相違により説明することが難しいため、その他の事情にもよりますが、不合理であると認められる可能性があります。
もっとも、通勤手当の支給に相違を設けること全てが不合理になるわけではありません。
例えば、同一労働同一賃金ガイドラインでは、問題とならない例として、次のケースを挙げていますので、参考になります。
イ A社においては、本社の採用である労働者に対しては、交通費実費の全額に相当する通勤手当を支給しているが、それぞれの店舗の採用である労働者に対しては、当該店舗の近隣から通うことができる交通費に相当する額に通勤手当の上限を設定して当該上限の額の範囲内で通勤手当を支給しているところ、店舗採用の短時間労働者であるXが、その後、本人の都合で通勤手当の上限の額では通うことができないところへ転居してなお通い続けている場合には、当該上限の額の範囲内で通勤手当を支給している。
今回のまとめは、次のとおりです。
第2回までのコラムにおいて、各社において、分析・検討を経て、改善すべき待遇差が整理されていることになります。
次回(第3回・最終回)は、これを前提に、解決策の方法を解説していきます。
この場合、非正規社員の待遇を正社員と同じにすることができればベストですが、企業運営上、賃金原資(人件費にかけれられる予算)には限りがあるため、時として正社員の待遇を引き下げた上で、非正規社員の待遇を改善することの検討も必要になります。
そこで、次回(第3回・最終回)は、法的な観点から、不合理性の解決策を解説します。
多湖・岩田・田村法律事務所。第一東京弁護士会所属。
第一東京弁護士会労働法制委員会委員(基礎研究部会副部会長)。
経営法曹会議会員。
使用者側から労働問題を取り扱う。労働法務に関するセミナー講師も務める。
著書に、『詳解 働き方改革関連法』(共著、労働開発研究会、2019年)、『Q&A労働時間・休日・休暇・休業トラブル予防・対応の実務と書式』(共著、新日本法規、2020年)、『新しい働き方に伴う非正規社員の処遇-適法性判断と見直しのチェックポイント-』(共著、新日本法規、2021年)、『複雑化するトラブルに対応 懲戒をめぐる諸問題と法律実務』(共著、労働開発研究会、2021年)、『改訂版 実用会社規程大全』(共著、日本法令、2022年)、『対応ミスで起こる 人事労務トラブル回避のポイント』(共著、新日本法規、2022年)。
URL:http://www.tamura-law.com/