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第1回 日本版同一労働同一賃金とは

ゼロからわかる!「日本版同一労働同一賃金」と企業の実務対応

公開日:2022/05/13

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2023年1月19日(木)【医療業・福祉業向け】弁護士が教える!判例から読み解くハラスメント対策の勘所2023

この記事の執筆をした飯島先生が講師を務めるセミナーのご紹介。労働訴訟専門の弁護士の視点から、医療業・福祉業におけるハラスメント対策の勘所について最新の情報提供をさせていただきます。

令和3年4月以降、中小事業主を含む全ての事業主は、パート有期法(※)8条等に基づき、いわゆる「同一労働同一賃金」対応をする必要があります。(※正式名称は、短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律)
ところが、「同一労働同一賃金のことは知っているが、何をすべきかがよくわからないので、実際は手付かずである」という企業も、少なくありません。

そこで、本コラムでは、全3回にわたって、「日本版同一労働同一賃金」と企業対応の実務をわかりやすく説明します(各回の最後に書式の無料DLリンクあり)。


1 「日本版同一労働同一賃金」が指す意味

まず初めに、日本でいう同一労働同一賃金は、その言葉から想像されるそれとは異なることを説明しなければなりません。
すなわち、一般的に、同一労働同一賃金とは、「職務内容が同一または同等の労働者に対し、同一の賃金を支払うべき」という考え方ですが、これは、職務給や産業別労働組合等を前提に、企業横断的な賃金決定システムを有する欧州にあてはまる考え方です。

これに対して、日本では、職能給や年齢給のように、労働者の属性によって賃金が決定されることが多く、また、欧州と違って、終身雇用、年功賃金、企業別組合の3つの特徴があります。この3つの特徴は、日本型雇用システムと呼ばれています。
このように、欧州と日本とで、雇用(賃金決定)システムが異なることを理解する必要があります。

そして、パート有期法施行通達(平成31年1月30日・基発0130第1号など)(以下、通達)の「第3の3⑼」には、「我が国が目指す同一労働同一賃金は、・・・通常の労働者と短時間・有期雇用労働者との間の不合理と認められる待遇の相違及び差別的取扱いの解消等を目指すもの」とあります。

つまり、同法が目指すものは、通常の労働者(以下、「正社員」)と短時間・有期雇用労働者(以下、「非正規社員」)との間の不合理な待遇差の解消であって、欧州でいうところの同一労働同一賃金とは異なります。
ところが、日本では、同一労働同一賃金という言葉がミスリードな形で浸透してしまっているのが実態です。
したがって、実務対応の際は、同一労働同一賃金という言葉に惑わされないことが必要です。

以上を踏まえ、本コラムでは、欧州のそれとは異なることを明確にするため、「日本版同一労働同一賃金」と表記しています。


2 不合理な待遇の禁止(パート有期法8条)

(1) 内容:均衡待遇

事業主は、非正規社員の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、正社員との間で、不合理な待遇差を設けてはなりません(パート有期法8条)。
待遇には、賃金に関するものだけに限らず、教育訓練、福利厚生、休憩、休日、休暇、安全衛生、解雇なども含むと解されています。
そして、不合理な待遇差か否かは、非正規社員と正社員の

①職務の内容(業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度)

②当該職務の内容及び配置の変更の範囲

③その他の事情

のうち、当該待遇の性質及び目的に照らして適切と認められるものを考慮して判断します。

③は、労使交渉の経緯や定年後再雇用などの事情が考えられます。
なお、パート有期法8条以前には、旧労契法20条(有期社員を対象)がありましたが、両者は基本的には同じであると解されていますので、旧労契法20条下の裁判例は現行法下でも参考になります。

パート有期法8条

※通常の労働者:「正規型」の労働者及び期間の定めのない労働契約を締結しているフルタイム労働者


(2)ポイント

パート有期法8条は、非正規社員と正社員との間で、職務の内容等が異なることを前提に、待遇差の均衡待遇(バランス)を図るものです。
法律上、「待遇のそれぞれ」とあるとおり、待遇ごとに不合理性を判断するのが原則です。
また、正社員と非正規社員との間の全ての①~③の違いが当然に考慮されるのではなく、その待遇(例えば、皆勤手当の場合は皆勤手当)の性質及び目的に照らして適切と認められるものだけが考慮されます。

例えば、旧労契法20条下でのものですが、ハマキョウレックス事件(最判平成30年6月1日)では、「皆勤手当は,・・・,皆勤を奨励する趣旨で支給されるものであると解されるところ,上告人の乗務員については,契約社員と正社員の職務の内容は異ならないから,出勤する者を確保することの必要性については,職務の内容によって両者の間に差異が生ずるものではない。また,上記の必要性は,当該労働者が将来転勤や出向をする可能性や,上告人の中核を担う人材として登用される可能性の有無といった事情により異なるとはいえない。」と判示しています。乗務員とはトラック運転手のことを指します。

ここで同判決の理屈を大枠で掴むとすれば、次のとおり整理できます。

  • 本件の正社員と非正規社員の職務の内容(①)が同じである以上、非正規社員にも本件皆勤手当の趣旨(乗務員の皆勤を奨励する趣旨)があてはまる
  • 他方で、職務の内容及び配置の変更の範囲の相違(将来転勤や出向する可能性があること等)(②)は、本件皆勤手当の不合理性を否定する要素とはいえない
  • また、皆勤の事実を考慮して非正規社員の昇給が行われたとの事情もない
  • したがって、本件の非正規社員に皆勤手当を支給しないことは不合理である

なお、上記判決は、全ての企業の皆勤手当が一律に不合理であると判断しているわけではなく、職務の内容が同じ事例の判断であることに注意が必要です。
したがって、正社員と非正規社員との間で、職務の内容等が異なることにより、皆勤を奨励する必要性が両者で異なる場合、不合理性が否定される可能性もあります。


3 差別的取扱いの禁止(パート有期法9条)

(1)内容:均等待遇

事業主は、次にあてはまる非正規社員の待遇について、非正規社員であることを理由に、差別的取扱いをしてはなりません(パート有期法9条)。

  • 非正規社員の職務の内容(業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度)が正社員と同一であること
  • 当該事業所における慣行その他の事情からみて、当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間において、その職務の内容及び配置の変更の範囲が同一であると見込まれること

パート有期法9条

(2)ポイント

パート有期法9条は、非正規社員と正社員との間で、職務の内容等が同じであることを前提に、均等待遇(イコール)を図るものです。
「当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間」とは、職務の内容等が正社員と同一となった時点から将来に向かって判断するものであり、正社員と職務の内容等が異なる時期があったとしても、その期間は、「全期間」に含みません。
また、「見込まれる」とは、将来の見込みも含めて判断されます。

上記要件を踏まると、この条文の適用が問題となる可能性が出てくるのは、簡単に言うと、正社員とずっと同じ働き方をしているフルタイムの有期社員の場合です。
もしこのような社員がいる場合、想定外に上記要件に該当しないよう、職務の内容等を見直す必要があります。


4 待遇差の説明義務(パート有期法14条2項)

(1)内容

事業主は、非正規社員から求めがあった場合、当該非正規社員と正社員との間の待遇の相違の内容及び理由等を説明しなければなりません(パート有期法14条2項)。

(2)ポイント

例えば、正社員には、家族手当を支給しているが、非正規社員には支給していないケースを想定すると、仮に、非正規社員から待遇差の説明を求められた場合、使用者は当該非正規社員に対して、なぜ上記の相違が生じているかの理由を説明しなければなりません。

企業担当者としては、説明を求められてから理由を整理するのではなく、あらかじめ待遇差を整理・検討する中で、説明の準備をしておくことが重要です。
なお、本条に違反した場合、行政から、助言・指導・勧告・(勧告に従わない場合)企業名公表の対象になりえます。
また、十分な説明をしなかった場合、上記2⑴③のその他の事情として、訴訟の際に不合理性を基礎付ける事情として考慮される可能性があります。

※本コラム特典として、「待遇差説明書」書式の無料DLを用意しています(詳細は後述)。


5 まとめと次回予告

(1)まとめ

  • 同一労働同一賃金という言葉に惑わされないこと
  • 不合理性判断の際は、3要素(①職務の内容、②職務の内容及び配置の変更の範囲、③その他の事情)のうち、当該待遇の性質及び目的に照らして適切と認められるものだけが考慮されること
  • 正社員とずっと同じ働き方をしている非正規社員がいる場合、均等待遇が適用される可能性があること
  • 非正規社員から待遇差の説明を求められてから理由を考えるのでは遅いこと

(2)次回予告

次回(第2回)コラムでは、どのように企業が「日本版同一労働同一賃金」問題を、分析➡️検討➡️解決すべきかを見ていきます。

そこでは、「ある裁判例で、A手当を非正規社員に支給しないことは、不合理でないと判断されたから、自社で同じ取り扱いをしても問題ない」というように、他社事例の結論だけを見て判断するのではなく、自社の雇用管理区分(社員タイプ)を意識して、正社員と非正規社員の職務の内容等を整理した上で、待遇ごとに不合理性を検討することが重要になります。


この記事の執筆者
飯島 潤
飯島 潤(いいじま じゅん)
弁護士 

多湖・岩田・田村法律事務所。第一東京弁護士会所属。
第一東京弁護士会労働法制委員会委員(基礎研究部会副部会長)。
経営法曹会議会員。
使用者側から労働問題を取り扱う。労働法務に関するセミナー講師も務める。

著書に、『詳解 働き方改革関連法』(共著、労働開発研究会、2019年)、『Q&A労働時間・休日・休暇・休業トラブル予防・対応の実務と書式』(共著、新日本法規、2020年)、『新しい働き方に伴う非正規社員の処遇-適法性判断と見直しのチェックポイント-』(共著、新日本法規、2021年)、『複雑化するトラブルに対応 懲戒をめぐる諸問題と法律実務』(共著、労働開発研究会、2021年)、『改訂版 実用会社規程大全』(共著、日本法令、2022年)、『対応ミスで起こる 人事労務トラブル回避のポイント』(共著、新日本法規、2022年)。

URL:http://www.tamura-law.com/