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失敗しないIPO 第11回「J-SOXへのあるべき対応」

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IPO準備企業・新興企業のための税務調査のポイント

税務調査の基本を抑えながら、その概要、流れ、上場準備企業において対応が困難となる要因やそのポイントについてご紹介

「内部統制」とは、効率的に不正や誤謬(間違い)を防止するために設けられるチェックの仕組みのことを指します。

そして「J-SOX」は金融商品取引所に上場している企業に対し、内部統制に関する義務付けを定めています。
つまり、IPO準備段階でJ-SOXへの対応を始める必要があるという事です。

それでは、J-SOXに対してどのように準備を進めていけばよいのでしょうか。
誤解されやすいポイントと共に解説します、ぜひご確認ください。

1.内部統制に係る法整備について

(1)内部統制とは?

内部統制とは、企業の事業目的や経営目標を達成するために整備・運用される、必要なルール、仕組みをいいます。平たくいうと、例えば一従業員が経費を立て替えた場合に、領収証の金額・内容や経費申請書における経費支出目的の内容について、上司と経理部によりチェックする必要がありますが、このような内容のチェックと承認行為が内部統制となります。つまり、成長により組織が拡大した企業においては多数の人材が各々の所属先、職位で日常業務に従事することとなりますが、とりわけこのような組織においては業務が属人的になると不正や誤謬(間違い)が生じる恐れが出てきますが、内部統制は効率的に不正や誤謬(間違い)を防止するために設けられるチェックの仕組みと理解して頂くと分かりやすいでしょう。

(2)日本国内における内部統制の歴史

我が国において、「内部統制」という言葉自体は、2000年以前は既上場企業を含めあまり一般的に使われる用語ではなく、公認会計士・監査法人による監査対象企業の財務諸表監査においては、監査範囲を決定する際に監査対象企業の内部統制の有効性を確認した上でどこまで掘り下げて監査を行うかを決定していたことから、公認会計士、公認会計士試験受験生及び大学の会計監査論の授業においてのみ理解されている専門用語のような存在でした。

一方、アメリカで2001年12月にエンロン事件、2002年7月にワールドコム事件といった、投資家の信頼を失うだけでなく合衆国全体の資本市場の信頼性を揺るがす事件が立て続けに起こったことを契機に、合衆国連邦議会のポール・サーベンス上院議員、マイケル・オクスリー下院議員により「上場企業会計改革及び投資家保護法」という、財務ディスクロージャーの強化、監査人の独立性の厳格化に関する法案が提出され、エンロン事件からわずか8か月後の2002年7月に可決されました。この法案はサーベンス、オクスリー両氏の姓をとって通称「SOX法」と呼ばれています。

SOX法の一番のトピックスは内部統制に関する制度であり、具体的にはCEO(最高経営責任者)とCFO(最高財務責任者)が自社の財務情報に関する開示が適正であることを宣誓することを求め、そのために財務報告に至るまでの仕組みやプロセス、すなわち内部統制が有効に機能していることをCEOが検証することによりその結果として財務情報が正しいと証明することも併せて義務化したものです。

一方、アメリカにおけるSOX法制定時の日本は未だ対岸の火事でしたが、2004年に西武鉄道における有価証券報告書虚偽記載事件、ライブドア事件、メディア・リンクスによる架空売上事件、2005年にはカネボウによる巨額粉飾事件などが立て続け起こり、これらの事件を契機に、金融庁が既上場企業を中心とする有価証券報告書提出会社に過去の提出書類の一斉点検を求めた結果、600社近くに及ぶ多数の訂正報告書が提出される事態となり、日本における資本市場の信頼性がSOX法当時のアメリカと同じように毀損しかねない事態となりました。

この結果、日本においても資本市場の信頼回復の政策が必要となり、2006年の金融商品取引法成立において、この中で内部統制に関するルールが定められることとなったのです。

(3)内部統制に関する法律・制度

内部統制に関する法律・制度については、大きく分けて2つの法律から説明をします。

①金融商品取引法

先述の2006年の金融商品取引法成立に当たり、経営者による評価・内部統制報告書の作成と監査による監査証明の義務化が定められました。日本の場合はアメリカのような資本市場の信頼性回復のための法律を個別に作るのではなく、同法の中で制定することによって法整備を図っていますが、この部分を取って「J-SOX」と呼称されています。

具体的にいうと、同法24条の4の4において、金融商品取引所に上場している企業は有価証券報告書と内部統制報告書を事業年度ごとに内閣総理大臣に提出することを義務付けています。ここに定める内部統制報告書とは、会社の属する企業集団及び当該会社に係る財務計算に関する書類、その他の情報の適正性を確保するために、必要な体制について評価した結果の報告書と規定されています。また、この報告書は、そして同法193条の2第2項で、提出する前に財務諸表監査を行う監査法人または公認会計士による監査を受けることを義務付けています。

②会社法

会社法では、大会社(資本金5億円以上または負債総額200億円以上の会社)について、会社法362条4項6号及び同5項で、「取締役の職務の執行が、法令及び定款に適合することを確保するための体制、その他株式会社の業務の適正を確保するために必要なものとして、法務省令で定める体制の整備」を取締役会で決定しなければならないと定めています。また会社法施行規則100条1項及び3項で下記の体制を取るように定めています。

1) 取締役の職務の執行に関する情報の保存及び管理の体制
2) 損失の危機の管理に関する規程その他の体制
3) 取締役の職務の執行が効率的に行われることを確保する体制
4) 使用人の職務の執行が法令・定款に適合することを確保する体制
5) 企業集団の適性を確保する体制
6) 監査役の監査が実効的に行われることを確保する体制

組織の構成員が多数であると推定される大企業は、上場非上場を問わずステークホルダーが多数に及ぶと考えられることから、不祥事によるインパクトは社会的に大きいと予測されるため、内部統制を適切に構築することにより、不祥事を未然に防止することが求められ、会社法においても内部統制の構築を求めるとともに、上記の各体制を事業報告で記載することが義務付けられています。

2.IPO準備で対応すべきJ-SOX

IPO準備企業においては、IPO後にJ-SOXの対応が義務化されることは上記から理解でき、IPO準備の過程でJ-SOX対応についても準備が求められることになります。そこで、IPO準備企業が対応すべきJ-SOXについて以下のとおり纏めました。

(1)金融商品取引法における対応

IPO準備の段階では有価証券報告書提出会社ではありませんので内部統制報告書についても提出の義務はありませんが、IPO後に有価証券報告書が遅滞なく適正に作成される体制が求められることと同様の体制が内部統制報告書にも求められることとなります。従ってIPO準備段階においてはJ-SOX対応の体制構築が必須となり、上場審査においても内部統制報告書がIPO後に遅滞なく適正に作成されるかを審査されます。以上の背景から、IPO準備においては以下の作業が必要となります。

①N-2(直前々期)

N-1(直前期)に求められるコーポレートガバナンス体制が、上場企業としての各種運営が出来るレベルであることから、J-SOX対応のための体制構築・文書作成はこの期までに終了しておかなければなりません。このことから、具体的には以下の事項に対応する必要があります。

1)社内規程・マニュアルの整備

前回のコラムで社内規程の整備について解説しましたが、J-SOX対応の観点からも必須のこととなり、とりわけ社内規程はただ単に作ればよいというものではなく、必要十分な各規程が整備され、運用されることが求められますので、この段階で社内規程及び関連する通達、業務マニュアルは体系的・網羅的に整備する必要があります。

2)業務の標準化・文書化

IPOを検討する以前の企業であれば自社の業務を文書化・フローチャートによる図示化を行っているところは稀であり口頭による業務指示や暗黙のルールで業務が進められている傾向が見受けられますが、J-SOX対応においては「経営者が内部統制の有効性を確認する」必要があることから、社内業務を文書化する必要があります。また、同時に担当者によって行う方法が異なる業務がある場合には業務の標準化を行い、かつ業務の効率化を検討することにより、日常業務の見直しを図ることも必要です。

3)内部監査

内部統制報告書は先述の通り経営者による自社の内部統制の有効性確認の上で作成されるものとなりますので、制度の建付け上は経営者が自社の内部統制を評価することが求められ、これは「経営者評価」と呼ばれます。しかし皆様お気づきだと思いますが、とりわけCEOに求められる役割とは経営に関する意思決定であり、この経営者評価に係る作業に相当の時間が割かれることは物理的に困難です。従って、経営者の意向を受けて「経営者評価」を代行するスタッフが必要となりますが、このときに最適なメンバーが、殆どの会社で社長直属の部門として置かれる内部監査部門となります。内部監査員は、企業における日常業務の内部統制行為につき、構成員でありながら第三者的に有効性を評価することができ、業務監査と併せて「経営者評価」を代行する最適な担当者となりますので、遅くともN-2で内部監査部門を確立する必要があります。

②N-1(直前期)

この期においては先述の通りN-2までで整備・構築した体制の運用が求められることになりますので、一年間上場企業と同様の内部統制の運用と経営者評価をテストランする必要があります。

(2)会社法における対応

会社法においては先述の1.(3)②の体制が求められますので、直前々期から直前期における、会社法における大会社になる前の準備として会社法及び会社法施行規則に定める体制の構築を行う必要があります。

(3)法対応における留意事項

ここではIPO準備段階及びIPO前後の企業の一部で見受けられる、J-SOX対応における大きな誤解について説明します。

既上場企業は有価証券報告書と併せて内部統制報告書の提出が求められ、両者に監査法人・公認会計士の監査証明が義務付けられていることは先述の通りですが、新規のIPOについては、一部の社会的影響が大きいと考えられる企業(上場日の属する事業年度の直前事業年度に係る連結貸借対照表もしくは貸借対照表に資本金として計上した額が100億円以上、又は当該連結貸借対照表もしくは貸借対照表の負債の部に計上した額の合計額が1,000億円以上)を除き、IPO後3年間監査証明が免除されており、すなわち監査法人による内部統制監査は企業が任意に委嘱することがなければ実施されないこととなります。

これは新規IPO企業の経済的負担を考慮し、スムーズなIPOを促すための軽減策として法制化したものですが、この取扱を
・ J-SOX対応はIPO後3年内のうちに済ませればよい
・IPO準備中はJ-SOX対応しなくてもよい
という大きな誤解をする企業があります。また、監査法人や主幹事証券会社が企業の誤解に対して適切に指導していないケースも見受けられます。

気を付けて頂きたいのは、軽減策のために免除されているのはあくまでも監査法人による内部統制監査のみであり、IPO後の内部統制報告書の提出は免除となっていません。すなわちIPO後初年度から内部統制報告書の提出義務が生じます。監査法人による内部統制監査の有無を問わず、経営者が自社の内部統制の有効性を確認して内部統制報告書にその結果を説明して報告するということは求められることになりますので、いずれにせよJ-SOX対応はIPO準備段階から取り組まなければならないことは十分注意してください。

筆者プロフィール

重見 亘彦(しげみ のぶひこ)

株式会社サンライトコンサルティング 代表取締役CEO、公認会計士・税理士

(株)ミズホメディー(現在東証二部)社外監査役、九州大学大学院非常勤講師、その他IPO準備中の企業の社外役員、顧問、中小監査法人のパートナーを務める。
主な著書(共著) 会計が分かる事典(日本実業出版社)、7ステップで分かる株式上場マニュアル(中央経済社)
セミナー実績 名古屋・札幌・福岡各証券取引所のIPOセミナーを中心に講演多数

URL:https://www.slctg.co.jp/

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