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失敗しないIPO 第2回.CFO人材の採用・育成

前回、IPOを検討する段階では経営者が会社のことについて全て掌握することが難しくなり、コーポレーションガバナンスの面でも現場のオペレーションは中堅幹部に任せる必要があるとお話ししました。
それはつまり、IPOの準備も経営者ではない責任者が中心となって行うのが適切ということです。
ここで必要となる責任者はCFO、最高財務責任者と呼ばれます。

本記事ではCFOはどのような役割を担うのか、そしてそのようなCFO人材をどのようにして確保すればよいのかについてご説明していきます。

1.IPO準備におけるCFOの重要性

(1) CFOが何故必要か?

第1回目において、組織の成長・拡大とともにそれまでCEOに全ての権限・管理監督責任が集まっていたシードステージの段階から、権限と責任を要職者に移譲して組織的な体制を確立する必要があることを説明させて頂きました。
そのような中、CEO以外の社内の各分野において考えられる一般的な責任者のポジションとしては以下の職責が挙げられるところです。

① COO:最高執行責任者(Chief Operating Officer)
CEOを頂点としつつ、CEOが定めた経営方針や経営戦略に基づいて、企業の日常を執行する責任者。CEOが社長である場合の営業担当役付役員、会長である場合の社長であるなど、企業のNo.2としてビジネスの差配を行う責任者

② CFO:最高財務責任者(Chief Financial Officer)
企業のファイナンス戦略の立案・執行に責任を有する、CEOの参謀としてのトップマネジメント責任者。日本においては総務・経理・財務・人事等の経営管理の総責任者が就任するケースが見られるが、成長企業においては管理業務に留まらずマーケティング分析、事業ポートフォリオの企画・立案、投資回収計算等、企業の重要な意思決定における責任者として業務遂行も求められる。

③ CIO:最高情報責任者(Chief Information Officer)
ITシステムや情報管理に関する総責任者。成長企業においては情報を活用した戦略の立案が求められる場合もある。

④ CAO:最高総務責任者(Chief Administrative Officer)
総務業務を統括する総責任者であり、作成・保管が必要な書類のコントロールが求められる。

⑤ CHO:最高人事責任者(Chief Human Resource Officer)
人材の採用や社内教育に関する責任者。成長企業においては長期的視点に立った人材の成長支援などの人事戦略の立案を行うことが望まれる。

⑥ CTO:最高技術責任者(Chief Technical Officer)
研究開発部門における責任者であり、特にITやヘルスケアにおいては製品展開を視野に入れて立案を行うことが望まれる。


IPOを目指す企業においては、機関設計において先ずは取締役会を設置することが求められますが、取締役会設置会社とする場合には会社法331条5項において取締役が3人以上でなければなりません。IPO準備企業においては、監査役または取締役監査等委員を除いて、業務執行3人以上の取締役が必要となりますが、業務執行の取締役をミニマムの3名とする場合は、取締役に就任する方々のポジションは(その名称をどうするかは別にして)CEO、COO、CFOの3ポジションとしているケースが非常に多く見られます。この理由として、組織化するに当たり最低限の部門分類として現場系(営業、購買、製造等)の部門と管理系(総務・経理・財務・人事等)の2部門となり、それぞれの取締役クラスの責任者でCOOとCFOが就任し、CEOが全体統括を行うということとなるためです。

なお、CEOはCOOまたはCFOを兼任出来ないのか?というご質問を頂くことがありますが、これからIPOを検討するという成長企業においてはあり得ないこととなります(法律・規則で禁止されているわけではありませんが、コーポレートガバナンスを考える上ではあり得ないこと、という趣旨です)。CEOは「最高経営責任者」ですから、特定部門ではなく企業全ての責任者である必要があり、第1回目でお話した企業の舵取りを担わなければなりませんので、現場の仕事を責任者に権限委譲して、重要事項の報告を受けて意思決定するという役割に徹しなければなりません。ミニマム3名の取締役人数とする場合でも現場の収益業務はCOOに、経営管理業務はCFOに業務コントロールを委ねる必要があります。

従って、IPOを検討するような成長企業においては、COOと併せてCFOは必須のポジションとなるのです。

(2) CFOの役割

企業がIPO準備段階にある場合のCFOの役割は、以下の業務のコントロールが求められます。

① 資本政策の策定
② ファイナンス(エクイティ、デット)
③ 主要業務プロセス(販売管理、購買管理、在庫管理、固定資産管理、給与・人事、財務)のフローの確立と検証
④ 経理規程はじめ社内規程の作成・整備
⑤ 会計処理基準の確立と新会計基準への対応
⑥ 年度予算・中期経営計画の策定
⑦ 内部統制の整備
⑧ 原価計算制度の確立及び運用
⑨ 月次決算の取り纏め及び予実管理
⑩ 年次決算の取り纏め
⑪ 四半期決算の取り纏め
⑫ 連結決算体制の確立及び運用
⑬ 会社法開示書類(計算書類・連結計算書類など)
⑭ 金融商品取引法開示書類(上場申請時は各取引所上場規程に基づく開示書類)
⑮ IRに向けた準備

またIPO準備を問わず、先の例で記載した業務執行を行う取締役人数をミニマムの3名とする場合は、CFOは総務・経理・財務・人事など経営管理全般を統括することとなるため、経理・財務周りに留まらずCIO、CAO、CHOの役割も兼ねなければならないケースもあります。
CFOという名称は国家資格などではなく企業内で与えられる役職の名称ですので、どの程度のスキル・知見があるのかという一律に明確なものはありません。従って企業毎にCFOのレベルは様々です。しかしIPO準備においては上記のような役割を担う必要があるということは相当のスキル・知見がなければ務まらない役割であるということがお分かり頂けると思います。

2. CFO人材の採用または育成

(1) CFOの確保の方法と問題点

IPO準備においてCFOは必須のポジションとなりますが、一方でIPOを検討する前の段階でCFO人材を抱えている企業は少ないと言えます。この理由は簡単に言うと「その必要がない」からで、IPOを検討しないレベルの収益・規模では極端に言えば月次決算を適切に締めなくてもCEOの勘と経験で粗方の会社の状況が理解できる規模であるからです。第1回目でも述べましたが、創業期から成長期に入る段階がIPOを検討する時期であり、その段階ではCEOが全てを把握することが物理的に不可能な企業規模になっている、故に成長期ではIPOをするしないを問わずCFOが必要になってくるということです。
このような背景から、概ねIPOを検討する段階になってCFO人材確保で東奔西走する企業が多く見られます。その際、下記の対策が取られるケースが代表例となります。
① 公認会計士、MBAホルダーやIPO経験のある人材をCFOとして招聘する
② 社内人材をCFOとして育成する
③ IPOコンサルタントにアウトソースする

しかし、いずれの場合においても課題があります。

① 公認会計士、金融機関出身者、MBAホルダーやIPO経験のある人材をCFOとして招聘する
公認会計士や金融機関出身者等スペシャリティ人材をCFOとして採用し登用するケースが昨今増えてきてはいますが、これらの方々が出身監査法人や金融機関ではプロフェッショナルであったとしても、残念ながら事業会社におけるCFOの素養を身に着けて来ていないという傾向もみられます。 例えば、公認会計士は監査のプロフェッショナルではありますが、公認会計士試験に合格して監査法人に勤務している間は、自分から伝票起票した経験がない等、作成当事者としての経験値はありません。また過去にIPOを経験していた人材の場合でも、現在のIPOトレンドをキャッチアップしていない可能性もあり、特に昨今上場審査ではコンプライアンスが厳格に見られる中、法律改正や判例の出現に伴うコンプライアンス対応が必須となっていることから、過去の実績がそのままスムーズなIPO準備に繋がるかは不透明です。

② 社内人材をCFOとして育成する
従来から勤務する経理部長、経理マネージャーといった役職の方が就任するというのがこのケースとなりますが、経営戦略をまとめ、マーケティング、ファイナンスなど多岐にわたる知識を駆使してCEOの参謀としてIPOを実現するレベルに達することは相当の学習期間とコストが必要です。また、CFOとなるに当たっては、CEOやCOOに対して意見が言える必要があり、内部昇格でCFOに就任した場合に取締役会等で高度な立場から意見が言えるかは未知数となります。

③ IPOコンサルタントにアウトソースする
アウトソースした場合は、IPOトレンドをよく理解したIPOコンサルタントの協力を得てスムーズにIPO準備を行うことが可能ですが、 コンサルタントが外部である以上は日常的に企業活動をウォッチすることは困難であり、また本当に必要なのはコンサルタントのノウハウを社内に落とし込んで実行に移すことであるため、そのためのキャッチャー人材はやはり必要となり、社内に常駐でのCFO相当の人材が必要となってきます。

(2) CFO確保に必要な施策

(1)でそれぞれのケース共に一長一短を説明しましたが、その解決策は以下のことが考えられます。
a. 適切な育成プログラムの下で、実践的なCFOの育成
b. 人材が確保できない場合の過渡的なアウトソーシングの活用

まず前提として、直近で他社のIPOに際してCFOであった方を採用出来ればほぼ課題は残らないのですが、そのような人材は基本的に現在の会社が手放すことはあまり考えられず、またいたとしてもプロ野球におけるFA選手の争奪戦と似たような状況になることが想定されます。従って今回はCFOを外部から採用または内部から昇進させる場合のいずれかと想定してのご説明となりますが、外部採用・内部昇進のいずれにも課題があり、それぞれに埋めるべき知見を学び、実践に活用する必要があります。従っていずれのパターンにおいても教育研修の場にCFO候補者を出すことを検討するべきということになります。
また、CFO候補者を一朝一夕で確保できない企業が大変多いですが、そのためにCFO候補者が決まるまでの間にIPOコンサルティング会社を利用して業務のパッケージング化を委嘱し、その間にCFO候補者を十分に吟味して採用または登用し、その後に就業させて、上場準備期間の短縮を図る、という方策も十分に検討に値します。

IPOにおいてはCFOがキーマンとなりますので、自社の方針、経営資源に適合したCFOの採用方法について十分に検討して頂き、また当社のようなコンサルティング会社にご相談をお寄せ頂きたいと思います。

筆者プロフィール

重見 亘彦

  • 株式会社サンライトコンサルティング 代表取締役CEO、公認会計士・税理士
  • ㈱ミズホメディー(現在東証二部)社外監査役、九州大学大学院非常勤講師、その他IPO準備中の企業の社外役員、顧問、中小監査法人のパートナーを務める。
  • 主な著書(共著) 会計が分かる事典(日本実業出版社)、7ステップで分かる株式上場マニュアル(中央経済社)
  • セミナー実績 名古屋・札幌・福岡各証券取引所のIPOセミナーを中心に講演多数
  • URL:https://www.slctg.co.jp