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企業の健康経営への取り組みに必要な人事労務の知識と実践とは中小企業が恐れのない職場を目指すための組織開発視点を解説第4回 副業も含めた多様な働き方を通して、会社も社員も共に成長する企業へ

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このシリーズにある「恐れのない職場」とは、言い換えると、痛みがなく心理的安全性が高い職場のあり方を表わします。「痛み」には、身体的・心理的・社会的・スピリチュアル(霊的)側面という四つの側面があると言われています。職場というフィールドに置き換えれば、「これはどうなっているんだろう(聴きたいけど聴きづらい…)」などのモヤモヤ感のような心理的痛み、「本当は伝えたいことがあるのだけれど周りのメンバーには話しづらい」などのつながり意識の無さから来る社会的痛み、が生じがちだと言えます。近年、政府主導で取り組まれている「健康経営」とは、従業員の健康管理を経営的な課題と捉え、戦略的に取り組む手法のことを指します。健康経営を導入し、従業員がよりよい状態でパフォーマンスを上げていくことができれば、労働生産性の向上や離職率の低下にもつながるというものです。

今回のテーマである「副業」に関しても、そのような痛みが緩和された状態で「副業解禁」「多様な働きかたの推進」といった取り組みを進めていくことで、エンゲージメント高く心身健やかに働いていける組織の状態をつくることができると言えます。そのためには、「ES(人間性尊重)経営」と「組織開発」の視点を取り入れ、個のあり方や関わりかたに着目し対話を重視した組織づくりに取り組んでいくことが重要です。

そこで今回は、「健康経営」につながる「副業」を基点とした多様な働きかたの推進における要点や、労働安全衛生法に基づく健康管理など企業が守るべきポイントについて、ES組織開発の視点も踏まえて解説していきます。

経営者が把握したい、従業員の副業の代表的なパターンとは?

コロナ禍も4年目となり、就業環境の変化により働き方も多様化しました。そして働き手の意識も変化し、副業に対するハードルが低くなったように感じます。

経営者の方々も今までは副業禁止の一択としていたルールを、副業容認の方向に切り替えたり、もしくは検討しているが、リスクが把握しきれないため、一歩踏み出せない方もいらっしゃるのではないでしょうか?

一言に副業といっても、代表的なパターンは次の通り4つに分類されます。

  • ①正社員・非正規パターン
    正社員の本業を行いつつ、アルバイトなど短時間の仕事に従事。
  • ②正社員・自営パターン ※1
    正社員の本業を行いつつ、自ら事業を営むパターン。
    ※1 自営とは会社経営や個人事業主としての事業を行うものを指します。
  • ③複数非正規パターン
    パートやアルバイトなどの短時間の仕事の掛け持ちをしているパターン
  • ④非正規・自営パターン
    パートやアルバイトとして働きつつ、自らの事業を営むパターン。

今回は①正社員・非正規パターンに着目し、副業を容認するために注意すべき点をピックアップしていきます。

副業を容認するために注意すべき点をピックアップ

1)情報漏洩・競業忌避

労働者が本業の知識・経験・人脈等を利用することにより、競業企業を設立したり、競業企業や関連する企業等に就職する可能性が高まります。

同種のビジネスを行う企業等における副業について、労働者の成長につながり、本業でも有益になる可能性もありますが、技術情報・ノウハウ・顧客データ流用されるリスクは高まります。

対策としては、下記の対応となります。

  • 競業企業での副業禁止を就業規則で規程する
  • 副業許可制とし、副業開始前には申請書を提出させる

2)労働時間通算

①正社員・非正規パターンの場合、どちらも雇用されていますので、労働時間についてはそれぞれの事業所で勤務した時間を通算する必要があります。

企業側は自らの事業場における労働時間と労働者からの申告によって把握した、他の事業での労働時間を把握します。
事業者側は労働者の労働時間を把握する必要はありますが、調査して実態を把握することまでは必要とされていません。
あくまでも労働者からの申告をもって労働時間を把握しておきます。

ここで注意したいポイントが、通算した結果、時間外労働が発生した場合の割増賃金を支払う事業主はどちらなのかというところです。

基本的には、後に雇用契約をした方が、時間外労働の割増賃金について、支払い義務が発生します。

そのため、本業先Aで正社員として働いていても、副業先Bのアルバイトの方が先に雇用契約を結んでいる場合は、副業Bのアルバイトでの勤務時間と本業Aの労働時間を通算した結果、時間外労働が発生した場合、割増賃金の支払い義務があるのは、本業Aとなります。

3)安全配慮義務

安全配慮義務については、雇用者・自営者ともに注意すべき必要があります。
長時間労働などで、従業員が健康を害することがないよう、健康管理やメンタル不調には留意してください。
業務委託などの自営者に対しても、業務にかかる作業時間等を加味し、作業量が過多とならないよう配慮ください。

そのためには従業員とコミュニケーションをとり、副業による過労によって健康を害していないか確認することが必要です。
働きすぎているから、副業禁止!という判断だけではなく、従業員が働きやすい働き方を模索していくことも必要だと思います。

具体的にはコミュニケーションの手段として、定期的な面談機会を設けるため1on1ミーティングも有用な方法です。
面談を定期的に行うことで、労働者側も業務についての相談だけでなく、気にかかっていることについても相談しやすい状況となります。
また言葉に出すことで自身の心身の状況に気づくこともあります。

そこで疲労の蓄積が認められるようであれば、産業医面談の機会を設けたり、地域産業保健センターの活用も方法の一つです。

従業員と組織が一体となり、視野を広く持ち、組織に合った方法を見つけることで共に成長することにつながります。

4)社会保険

雇用保険については、原則は1か所でのみ被保険者として加入できます。

ですが、2022年1月から65歳以上の労働者については、複数事業場での勤務が合算して、週に20時間以上の所定労働時間となる場合、本人の申し出により、両方の事業場にて雇用保険の被保険者となることができます。

こちらは被保険者本人の申し出により、被保険者となり、手続きも本人が行うものになります。

健康保険・厚生年金については加入要件を満たしている場合は、両方の事業場で加入の必要が発生します。
健康保険・厚生年金の保険料は、それぞれの給与額を合算し、算出した保険料額を給与額の比率で按分して、それぞれの保険料として、給与から控除・企業側は負担します。

5)労働者災害

副業者であっても雇用の形をとっているのであれば、勤務先の労災保険の対象となります。

例えば、本業先Aで勤務している従業員が、副業先Bに勤務するため移動している最中に通勤災害にあった場合には、副業先Bが労災認定を行うことになります。副業先Bで業務災害にあった場合も同様です。

ですが、休業したことに対する保険給付は、複数事業所の賃金を合算するため、副業先Bで発生した労災に対しても、本業先Aでも労災の申請は必要になります。

まとめ

以上が副業の容認の際に考えるべきポイントになります。

原則としては、副業は自由という考えになります。

裁判例でも「労働者は、勤務時間以外の時間については、事業場の外で自由に利用することができるのであり、使用者は、労働者が他の会社で就労(兼業)するために当該時間を利用することを、原則として許さなければならない」と判断されています。

副業を容認した際にも、組織の中で制度の意義が浸透しなければ、認識の齟齬からひずみが生じることもあります。
「副業したい」という働き手が出てきた場合に、社外で働くことによる自社の人材形成や、副業によってもたらされる組織への影響はどのようなことが考えられるか等、全体の意識共有をすることも大事です。

人生100年時代といわれ、終身雇用の考えも改めなければならなくなってきた、この時代に、働き手の意識も変化しています。それぞれが企業に入社し、どのような仕事ができ、どのように成長・活躍ができるのか、という自身の人生に組み込んだ働き方への意識が強まっています。

そのような働き方への意識を会社や周りと共有することなく抱え込んだままだと、いずれそれは「モヤモヤ」として積み重なり、いずれ「痛み」となって、パフォーマンスやコミュニケーション等にも影響を及ぼしてしまいます。

職場も一つのコミュニティ、と捉えて、個々の長い人生のキャリアの中で生じる問題やモヤモヤに蓋することなく、向き合う場をつくったり対話をして吐き出す機会を設けたり、ということから、心身健やかで恐れのない職場をつくることができるのではないでしょうか。

筆者プロフィール

長谷部 弥可

有限会社人事・労務 チーフコンサルタント
社会保険労務士

大学卒業後、20年間経理業務に従事。現在は、経理・財務に強い社会保険労務士として、「社員が定着する会社づくり」を目指し、それぞれの立場に寄り添い、お客様の経営を含め人事労務管理に取り組んでいる。

WEBサイト:https://www.jinji-roumu.com/

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