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企業の健康経営への取り組みに必要な人事労務の知識と実践とは中小企業が恐れのない職場を目指すための組織開発視点を解説第2回 パワハラ防止法対応~恐れのない職場を目指すために

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痛みがなく心理的安全性が高い職場

このシリーズでお伝えしているテーマ「恐れのない職場」というのは、言い換えると、恐れ=痛みがなく心理的安全性が高い職場のあり方、ということになります。そして、「痛み」という言葉について掘り下げてみると、医学的には「組織の実質的あるいは潜在的な障害に関連する、またはこのような障害と関連した言語を用いて述べられる不快な感覚・情動体験」(1986年・国際疼痛学会)と定義され、「身体的/心理的/社会的/スピリチュアル(霊的)的側面」という四つの側面があると言われています。これはトータルペインという考え方で、例えば、社会的苦痛(仕事上の問題、経済的な問題、家庭の問題など)の存在が、人生そのものの意味を問うようになったり罪の意識が強まったりと霊的苦痛に影響を及ぼしたり、心理的苦痛(怒り、孤独感など)の存在が、息苦しさやだるさなど日常生活に支障を生じさせたりと、それぞれの側面が相互に作用し合っている、というものです。

職場という土俵に置き換えれば、まさにこの「痛みを生じさせている側面が相互に作用し合ってより強く痛みを感じやすくなっている状態」は、今回取り上げる「ハラスメント問題」が年々大きく取り上げられる事象とも関わりが深いと言えるのではないでしょうか。

2022年4月にハラスメント対策が義務化され、各企業において向き合うべきテーマの一つとなりましたが、解決のためにはなかなか一筋縄ではいかないテーマでもあります。「痛みがなく心理的安全性が高い職場」という視点から、ハラスメント問題について考えてみたいと思います。


取り組むべきハラスメント対策

2022年4月から、中小企業においてもハラスメントに関する対策が義務化されました。取り組むべきハラスメント対策は大きく3つあります。

  • 相談窓口の設置
  • 社内周知
  • 規程・マニュアルの整備

中小企業は社員数が少なく社員同士の距離が近くなるため、経営者や管理職の物事の捉え方が社員の考え方に大きく影響します。そのため、情報の伝わり方や解釈によって生じたズレが、制度や施策をより良い形で運用するエンジンになることもあれば、逆に変化に対する抑止力となることもあります。また、個々の内面に何らかの理由で痛みが存在した状態だと、それが関係性にも作用して、情報の解釈にズレが生じ更に痛み(不安感・不信感など)を強めてしまう、ということも起こり得ます。

職場内の関係性を良くするための働きかけである“組織開発”の視点で捉えると、個と個の接点により作られるのが関係性です。関係性が良い状態(相互に信頼した状態)だと、そこに流れる情報も肯定的な解釈がなされます。一方で、悪い状態(ネガティブ思考、不信感等)だと、いくら肯定的な情報を流そうと思っても、否定的な解釈がなされてしまったり、言葉の受け止め方の相違から誤解が生じたりしがちです。

また、ハラスメントに対する認識も人によって異なります。例えば、「あの時こういう言葉を言われて嫌な気持ちになった」と、過去に何かハラスメント的な言動に関するネガティブな記憶があると、他者の言動に対して過敏に反応したり、否定的に受け止めたりする傾向が強くなります。一方、例えば「部活でスポーツに取り組んだ時に、顧問や先輩から時に厳しい言葉を投げかけられたけれど、その時の奮闘が試合で良い結果をもたらし、自分の成長にもつながった」と、良い記憶として意味づけられていると、職場においても他者の強い言葉や重みのある接し方を好意的に捉えることもあります。

つまり“ハラスメント”の定義を明確に社内で共有する必要があるということです。

法律上パワハラは「優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、労働者の就業環境が害されるもの」と定義されています*。これに当てはまるような言動はあってはなりません。しかし、いま多くの職場で直面しているのは、「業種柄、厳しい言葉の掛け合いも出てくるのだけど、それでもパワハラと言われてしまうのかな」といった、判断が難しく曖昧な部分の扱い方です。これを全て既存のルールで解決しようとしても難しいため、対話をしながら「うちの職場ではこれはハラスメントにあたる」と”自社としての捉え方”を意味づけていくことが重要です。

だからこそ、以下の点を意識して取り組むと良いでしょう。


「ハラスメント研修」を対話の機会として活用する

ハラスメント対策として企業が講ずべき措置の一つに“研修の開催”があります。ここには、ハラスメントに対する企業としての方針を明確にし、周知・啓蒙していく、という意図があります。研修を開催することで、企業としてハラスメント対策に注力する意志を示すことができます。研修の中では、一方的に講義を行うのではなく、「講義を聴いて何を感じたか」「日頃の職場をふりかえった時にハラスメントに関連して何か思い浮かぶ場面はあるか」等の対話の時間を設けましょう。そうすることで、「こんなに制約があるとどんなコミュニケーションを取ればいいのか分からなくなるよ」等々さまざまな声を聴くことができます。そこで出てきた声を踏まえて、個別に相談対応したり、社内会議の場を使って継続的に学びの機会を設ける、といった策をとることができます。

部下とのコミュニケーションについて相談できる機会をつくる

管理職においては「行き過ぎたコミュニケーションでハラスメントと言われたくない」「どういう関わりか方をすれば良いのか分からない」といった悩みが生じることがあります。そのような悩みを吐露し合い解消していく機会として、社内会議の中で時間を設けたり、管理職研修を行う等、“意識共有の場”を設けると良いでしょう。

自社・業界独自のガイドラインをつくり共有する

前述したハラスメントの定義にある「労働者の就業環境が害されるもの」については、「当該言動により、労働者が身体的又は精神的に苦痛を与えられ、就業環境が不快なものとなったために能力の発揮に重大な悪影響が生じる等の当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じること」とされています*。厚生労働省は、さらに以下の6つの類型を挙げて、パワハラの代表的な言動のパターンを示しています。

  • 身体的な攻撃(暴行・傷害)
  • 精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言)
  • 人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
  • 過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制・仕事の妨害)
  • 過小な要求(業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)
  • 個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)

ハラスメントかどうかの判断は、平均的な労働者の感じ方を基準にするべきとされており、そのラインを明確に示すことは簡単ではないため、これら6類型に沿って「自社(あるいは業界)ではどのような言動がこのパターンにあてはまるか」を話し合ってガイドラインを定めていくことが必要です。実際の職場で起こる言動を杓子定規で捉えず、コミュニケーションのあり方を考える習慣をつくることができるでしょう。

日頃から互いの「ナラティブ」を知る意識をもつことも重要です。ナラティブとは、言葉がつなぎ合わされたもので、“語り”あるいは“物語”を指します。個と個の関係性の密度が濃い中小企業だからこそ、個々の背景にはさまざまなナラティブが存在し、それらが多様に重なり交じり合って、物事の意味づけや価値観の共有がなされている、ということを理解しておかないと、表面的な言葉や態度だけで誤った判断をしてしまうことも起こり得ます。

とかく私たちは言葉を自身の主観で捉え、自身がもつナラティブで理解しようとしがちです。先述の部活のエピソードのように、自分の中に何らかの原体験が存在していると、それに基づいた固定的なメガネが生まれがちで、そのメガネを通して起きている事象を捉えるようになるため、「相手のことを観て理解しているように見せかけて実は自身の価値観を投影している状態」が生じてしまうのです。上司部下間で良い関係性が創れていないと感じる時は、お互いに、固定的なメガネで物事を捉えていないか?起きている事象に自身の価値観を投影していないか?を確認していく作業が必要です。この点は一朝一夕でできることではないため、まずは経営者・管理職が理解して、研修等の機会を活かして習得していくと良いでしょう。


まとめ

組織開発視点では、「対話」の大切さをお伝えすることが多いのですが、一生懸命話し合うことで相互理解が深まるのではなく、お互いにまずは“異なり”を露わにし、そのことを真摯に受け止めた上で、「じゃあその異なりをどのようにつなげていこうか・どの点で重ね合わせていこうか」と自社の判断軸を考えて行くことが重要であり、対話の本質です。

ハラスメント対策も、「法改正がなされたからやらねばならない」と受け身に捉えるのではなく、“職場でのコミュニケーションのあり方を見直すきっかけ”と主体的に捉え、対話を通してお互いのナラティブを把握しながら、痛みではなく信頼ややりがいが豊かに存在する職場づくりを具体的に考えて行く機会にしていくと良いでしょう。


筆者プロフィール

金野 美香(きんの みか)

有限会社人事・労務 ヘッドESコンサルタント
厚生労働省認定CDA(キャリアデベロップメント・アドバイザー)
一般社団法人 日本ES開発協会 代表理事\

福島大学行政社会学部卒業後、有限会社人事・労務にて、日本初のES(人間性尊重経営)コンサルタントとして、企業をはじめ、大学、商工団体で講師を務めるなど幅広く活動する。“会社と社員の懸け橋”という信念のもと、介護事業所や福祉施設、製造業、サービス業などさまざまな中小企業でのクレドづくり・ES組織開発に取り組む。また、「日本の未来の“はたらくカタチ”をつくる」をテーマに、社員一人ひとりが地域社会との接点を持ち共感資本を高めるための活動を推進。自律心高い越境人材の育成や地域活動プロジェクトの運営などに力を入れ、ESを軸にコミュニティ経営の視点を中小企業で実践し、高い評価を得る。
宮城県仙台市生まれ。「東北の土地の記憶を知ること」「働く犬の研究」がライフワーク。

主な講演実績・著書等

  • 社会によろこばれる会社のためのESを軸とした組織づくり (熊谷法人会、上尾法人会)

  • キャリアデザイン入門 (日本大学法学部)

  • シゴト選びのモノサシを変える!新しい一歩を踏み出すキャリアデザイン講座(東北芸術工科大学)

  • 『人財経営実践塾』愛社精神溢れる-体感経営~ES(従業員満足度)が会社を伸ばす~ (ふくいジョブカフェ)

  • 対話の習慣を軸とした自律型人材育成法/ESを軸につながりを大切にする経営/新任管理職の為のリーダーシップ強化セミナー(ヒューマンリソシア「定額制公開講座ビジネスコース」)

  • イノベーションを巻き起こすES向上型人事制度 (ピーシーエー株式会社)

  • 千葉県指定工場協議会 第三ブロック向けセミナー~今日からすぐに始められる会社が元気になる7つの施策 (あいおいニッセイ同和損害保険株式会社)

  • 後継者向けESマネジメント研修 (あいおいニッセイ同和損害保険株式会社)

  • 人と環境と社会にやさしい社内体制の作り方セミナー~グレートスモールカンパニーが社会を変える!~ (日本ES開発協会)

  • 若手社員の採用と定着を上手に行う秘訣 (常陽産業研究所)

  • ES型人事制度構築のポイント (淡路青年会議所)

  • 「共感資本時代のリーダーはここが違う」(株式会社USEN)・・・他


  • 『ニュートップリーダー』「はたらく個も、組織も輝く経営」(日本実業出版社)
    2013年7月号:「独自に定めた「旅籠三輪書」を軸に地域のつながりを重視した変革に挑む-HATAGO井仙」
    2013年8月号:「本業を通した社会貢献」を掲げ、地域のつながりの基点となる-株式会社大川印刷」

  • 「人材アセスメントの時代」連載 (フジサンケイビジネスアイ)

  • 『ESクレドを使った組織改革』(税務経理協会)

  • 「従業員のモチベーションアップに役立つ社内コミュニケーション」(日本経団連事業サービス)

  • 『ESコーチング&ESマネジメント 感動倍増組織のつくり方』(九天社)

  • 『儲けを生み出す人事制度7つの仕組み』(ナナブックス)

  • 『社員がよろこぶ会社のルール・規定集101』(かんき出版)

  • 『今から間に合う! 小さな会社の働き方改革対応版 就業規則が自分でできる本』(ソシム)1

  • 「人事労務のいろは」連載(東商新聞)

  • 『労務事情』「人事労務相談室」連載(株式会社産労総合研究所)

  • 『月刊総務』(株式会社ナナ・コーポレート・コミュニケーション)

  • 『ニュートップリーダー』「ES経営が会社を伸ばす」(日本実業出版社)
    2010年2月号:「社員がここにいたいと思う会社にする-株式会社アドバネクス」
    2009年12月号:「患者の立場に立ってよりよい病院づくりをしたい-医療法人井上整形外科」
    2009年11月号:「印税を通して地域や社会に貢献したい-株式会社大川印刷」

  • 就活支援ジャーナル
    2014年10月15日「秋の内定をこうして勝ち取る!!」「企業人の視点 地域密着を果たし、社会を良くする企業に出合おう!」


金野 美香 氏 連載記事

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