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ウィズコロナの時代の新しい働くかたちをつくる~テレワークの導入・運用について

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テレワークの導入・運用を検討する背景

このコラムでもご紹介してきた「時間外労働時間の上限規制」や「有給休暇五日間の付与義務」などの働き方改革関連法が施行され、多様で柔軟な働き方の実現に向けて「テレワーク」の推進が掲げられたのが、2019年4月。

しかし、この新型コロナの影響によるさまざまな変化に伴い、社会全体で時差出勤や在宅勤務が推奨され、なし崩し的に働き方を変えた方や、その管理・運用に苦慮している人事担当者の方も多いのではないでしょうか。

そもそもテレワークとは、情報通信技術(ICT)を活用し、時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方のことを指します(「テレ(Tele)=離れたところで」と「ワーク(Work)=働く」を合わせた造語)。具体的には、「在宅勤務」「サテライトオフィス勤務」「モバイル勤務(移動中の電車内や外出先などを就業場所とする勤務形態)」という三つの形態が厚生労働省ガイドラインで示されていますが、本記事では、今回初めて制度を検討・導入している企業の皆さん向けに、テレワーク=「在宅勤務」としてまずは説明していきたいと思います。


テレワーク導入のプロセスと枠組みをつくる

テレワーク導入にあたっては、以下のプロセスで進めていきます。

  1. 全体方針を決める:導入の目的を明確にする。基本方針を決める。
  2. ルールを作る:テレワークの対象者を決める。規程類の確認や見直しを行う。セキュリティ対策を考える。
  3. テレワーク導入のための教育・研修を行う:テレワークの目的と必要性を理解する。社内規程や実施の流れを理解する。
  4. テレワークの実施と評価、改善

テレワークの対象者は、希望するすべての社員が、業務の種類に関わらず実施できることが理想ですが、初めて導入する時には、業務内容や社員の事情(育児や介護)を踏まえて対象者を決めて行きます。

今回の期間においても、学校の休校対応や体調など事情を抱えた社員限定で在宅勤務を進めた社員もいれば、全社一律で実施した会社もあったと思います。対象者の選定にあたっては、関係者の理解を得られるよう、明確な基準を設けることが重要です。

また、テレワークにおいても、労働基準法・労働安全衛生法・労働者災害補償保険法などの労働基準関係法令が適用されます。テレワークに関する定めについては、就業規則に直接規定するか、新たに「テレワーク規程」などを作成することになります。盛り込む内容としては、自社におけるテレワークの定義、テレワークの対象者、テレワークする上での服務規律、勤怠管理、費用負担、災害補償、安全衛生などがあります。

在宅勤務を行う場合でも、労働時間の算定が可能な場合は、原則、通常の労働時間制(1日8時間、週40時間)が適用されます。一方、労働時間の算定が難しい場合に、以下の3つの要件をすべて満たした場合は、事業場外みなし労働時間制を適用することができます。

  • a.業務が自宅で行われること
  • b.情報通信機器が使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと(回線が接続されているだけで、在宅勤務者が情報通信機器から自由に離れることができる状態)
  • c.業務が随時使用者の具体的な指示に基づいて行われていないこと(業務の目的、目標、期限等の基本的事項を指示することは、具体的な指示に当たりません)

事業場外みなし労働時間制は、労働時間の算定方法について特例を認めている制度です。就業規則に事業場外みなし労働時間制に関する規定がない場合には、就業規則を変更する必要があるなど、新たに導入する場合には注意すべき点が多くあります。できるだけ労働時間を把握して通常の労働時間制を適用し、どうしても労働時間の算定が困難な場合に事業場外みなし労働時間制を適用する方が良いでしょう。

労働安全衛生法では、テレワークを行う労働者も含め、常時使用する労働者に対しては、雇入時の安全衛生教育の実施や雇入時及び定期の健康診断の実施、長時間労働者に対する面接指導等が義務付けられています。働く場所が社員の自宅となる在宅勤務は、プライバシーに配慮した作業環境に関するルールを作り、これに従って作業環境を整えるようテレワーク社員と話し合うことが必要です。

また、在宅勤務においては、①PC等の機器、②通信回線費用、③文具・備品・郵送費、④水道光熱費 等がコストとして発生します。それらのうち、例えば①のPCは貸与、③はかかった費用を実費精算、といった対応をしているとすれば、②④について「テレワーク手当」として支給する、という対応を検討することになります。実費負担分を手当で補うという形にすると、2,000円~3,000円が妥当かと思いますが、テレワークをしていない部署との不公平感が生まれる可能性もあるため、予め検討し、金額を定めておくことが必要です。


テレワークする側としない側、異なる視点での対話の機会を大切に

新型コロナの影響を受けて時差出勤やテレワークを進めたある企業では、この夏、テレワーク研修を行ないました。もともとは、育児や病気療養など事情を抱えた社員が増えてきたことに伴い、働き方の多様性の促進を図ることを目的にテレワーク導入を検討していたのですが、このコロナ禍で一気に“働き方改革”が進んだため、そのふりかえりも兼ねて実施することになりました。

研修にあたり、改めてテレワークのルールを整理・検討した結果、「勤務形態は、会社に勤務しないで社員の自宅を就業場所とする在宅勤務。対象者は、本人の事情を踏まえた希望や家族の理解の適正性に加え、経験や業務の理解度を踏まえ勤続年数や等級の条件をすべて満たした者」となりました。

全社員が集まった研修では、この数か月間、実際にテレワークを経験した社員から「ちょっとした雑談がしづらくだんだん息が詰まることもあった」「オンラインツールに慣れている人とそうでない人とで差があり会議がスムーズでないときもあった」「朝礼を毎日できたことは良かった」などの気づきを共有してもらうと共に、業務の性質から職場に出て勤務していた社員からの気づきも出してもらいました。「電話対応が集中し大変な日もあった」「荷物受け取りなどどうしても出社しないとできない些細なことが多いことに気づいた」など、お互いの立場から感じたことを主観で述べることで、この数か月を経て溜まっていたモヤモヤを解消する良い対話の場にもなりました。


テレワーク導入を組織の変容の機会に

テレワーク実施により、比較的簡単に解決できる課題(会議の実施、外部との連絡など)、複雑で一筋縄ではいかない課題(テレワークできる業務とそうでない業務の存在など業務プロセスを変えないとクリアできないこと)など、さまざまな課題が見えてきます。中には、社員の成長や組織全体が改善されないと解決できないケースも出てくるでしょう。生じた課題に対して、色々な立場や視点を持つこと、社員みんなで向き合い、自分たちがどのように成長していきたいのか・どうありたいのかを考えることから、少しずつ解決策が見えてくるかもしれません。

単なるリアルの職場の代用としてではなく、テレワークを通して更に生産性を上げ組織の状態を良くするためには、下記のポイントを検討していく必要があると言われています。

  • 仕事環境(自宅の設備)
  • マネジメントのあり方
  • 報連相のあり方
  • セキュリティ
  • 共通の意識(ノウハウの共有)

弊社においては、テレワーク者は主に『zoom』を使って常時話しかけられるようにしていますが、ルームに接続されている状態でマイクのみオンの状態、やり取りが必要な時にお互いビデオをオンにして対面のコミュニケーションを取り合うなど、自社の職場文化に則した社内ルールを作ることが重要です。
また、「ノウハウの共有」、これが一番の課題だと思います。つまり、「あの人がこの場にいないから仕事が回らない」のは、仕事が属人化していることを示します。最低限、

  • 業務の概要、頻度、所要時間、必要なメンバー
  • 必要なデータ、その保管場所
  • 業務に必要なアプリケーション等の道具
  • セキュリティの重要度

は誰に確認せずとも知ることができるように、今まさに進めている作業からコツコツと見える化・共有化を推し進めることが望ましいと言えます。
この危機を機会として捉え、ルールを守り、多くのはたらき手が実際にテレワークを体験することで、

  • 有事に強いしなやかな組織になる
  • 多様性を受け入れ人材を大切にする組織になる
  • 個々が「生き方と働き方」を思考し、自身のありたい形と組織の方向性を重ね合わせるES(人間性尊重)経営を実現する

そんな変容の岐路に我々は立っているのだと思います。


筆者プロフィール

金野 美香(きんの みか)

有限会社人事・労務 ヘッドESコンサルタント
厚生労働省認定CDA(キャリアデベロップメント・アドバイザー)
一般社団法人 日本ES開発協会 代表理事\

福島大学行政社会学部卒業後、有限会社人事・労務にて、日本初のES(人間性尊重経営)コンサルタントとして、企業をはじめ、大学、商工団体で講師を務めるなど幅広く活動する。“会社と社員の懸け橋”という信念のもと、介護事業所や福祉施設、製造業、サービス業などさまざまな中小企業でのクレドづくり・ES組織開発に取り組む。また、「日本の未来の“はたらくカタチ”をつくる」をテーマに、社員一人ひとりが地域社会との接点を持ち共感資本を高めるための活動を推進。自律心高い越境人材の育成や地域活動プロジェクトの運営などに力を入れ、ESを軸にコミュニティ経営の視点を中小企業で実践し、高い評価を得る。
宮城県仙台市生まれ。「東北の土地の記憶を知ること」「働く犬の研究」がライフワーク。

主な講演実績・著書等

  • 社会によろこばれる会社のためのESを軸とした組織づくり (熊谷法人会、上尾法人会)

  • キャリアデザイン入門 (日本大学法学部)

  • シゴト選びのモノサシを変える!新しい一歩を踏み出すキャリアデザイン講座(東北芸術工科大学)

  • 『人財経営実践塾』愛社精神溢れる-体感経営~ES(従業員満足度)が会社を伸ばす~ (ふくいジョブカフェ)

  • 対話の習慣を軸とした自律型人材育成法/ESを軸につながりを大切にする経営/新任管理職の為のリーダーシップ強化セミナー(ヒューマンリソシア「定額制公開講座ビジネスコース」)

  • イノベーションを巻き起こすES向上型人事制度 (ピーシーエー株式会社)

  • 千葉県指定工場協議会 第三ブロック向けセミナー~今日からすぐに始められる会社が元気になる7つの施策 (あいおいニッセイ同和損害保険株式会社)

  • 後継者向けESマネジメント研修 (あいおいニッセイ同和損害保険株式会社)

  • 人と環境と社会にやさしい社内体制の作り方セミナー~グレートスモールカンパニーが社会を変える!~ (日本ES開発協会)

  • 若手社員の採用と定着を上手に行う秘訣 (常陽産業研究所)

  • ES型人事制度構築のポイント (淡路青年会議所)

  • 「共感資本時代のリーダーはここが違う」(株式会社USEN)・・・他


  • 『ニュートップリーダー』「はたらく個も、組織も輝く経営」(日本実業出版社)
    2013年7月号:「独自に定めた「旅籠三輪書」を軸に地域のつながりを重視した変革に挑む-HATAGO井仙」
    2013年8月号:「本業を通した社会貢献」を掲げ、地域のつながりの基点となる-株式会社大川印刷」

  • 「人材アセスメントの時代」連載 (フジサンケイビジネスアイ)

  • 『ESクレドを使った組織改革』(税務経理協会)

  • 「従業員のモチベーションアップに役立つ社内コミュニケーション」(日本経団連事業サービス)

  • 『ESコーチング&ESマネジメント 感動倍増組織のつくり方』(九天社)

  • 『儲けを生み出す人事制度7つの仕組み』(ナナブックス)

  • 『社員がよろこぶ会社のルール・規定集101』(かんき出版)

  • 『今から間に合う! 小さな会社の働き方改革対応版 就業規則が自分でできる本』(ソシム)1

  • 「人事労務のいろは」連載(東商新聞)

  • 『労務事情』「人事労務相談室」連載(株式会社産労総合研究所)

  • 『月刊総務』(株式会社ナナ・コーポレート・コミュニケーション)

  • 『ニュートップリーダー』「ES経営が会社を伸ばす」(日本実業出版社)
    2010年2月号:「社員がここにいたいと思う会社にする-株式会社アドバネクス」
    2009年12月号:「患者の立場に立ってよりよい病院づくりをしたい-医療法人井上整形外科」
    2009年11月号:「印税を通して地域や社会に貢献したい-株式会社大川印刷」

  • 就活支援ジャーナル
    2014年10月15日「秋の内定をこうして勝ち取る!!」「企業人の視点 地域密着を果たし、社会を良くする企業に出合おう!」


金野 美香 氏 連載記事

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※本記事の内容についての個別のお問い合わせは承っておりません。予めご了承ください。