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働き方改革に対応する企業が直面する組織運営の課題とその解決策 Vol.2「残業削減は「見える化」から」

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残業を減らし組織を変える“テコ入れ”の必要性

「いよいようちの会社でも、ここにテコ入れしていかないとまずいですね」。

今年に入ってからいくつもの企業との打ち合わせで出てきた言葉です。

働き方改革における大きな動きの一つである「残業の上限規制」。残業は原則として月45時間・年360時間とし、特別な事情がなければこれを超えることはできない、というルールは、中小企業においてもこの春から適用となりました。

これを受けて多くの会社が、「いよいよテコ入れせねば」という社長の号令のもと、下記のような流れで取り組みを進めていきました。

  1. 現状の洗い出しと課題の設定
  2. 策の実行
  3. 結果の共有

皆が課題意識を共有し、「残業が常態化している現状に課題意識をもち働き方を変えていかないといけないのだ」という共通認識をもつために、まずは全社で説明会兼ワークショップを開催し、一人ひとりが考えていることを共有していきます。

そこで出てくるのはたいてい、「今の業務プロセスだと必ず待ち時間も出て来るから、残業を減らすことはできない」「お客様の都合でスケジュールが変わるので、あまりこちらから強く変更を伝えることはできない」など“現状を変えるのは難しい”という声です。もっと深掘りすると、「残業代をある程度もらっているので、残業が減って給与が減るのはきつい」「業務プロセスを変えるのはエネルギーがいることだから新しい動きに振り回されたくない」といった心の声も聞こえてきたりします。

しかし、新型コロナの影響からリモートワークや時差出勤を一気に進めざるを得ない状況に至った結果、私たちの中には「なんだ、やればできるじゃないか」という感覚が生まれました。

これまであれほど「できない」「難しい」という声が挙がっていたのに、差し迫った状況において、やってみたら、実現できたわけです。だからこそ、この時期を経て、さまざまな課題に直面している企業も多い今、改めて自社としての“生産性”や“生み出す価値”とは何なのかを考え、「働き方改革」をどのように推し進めていくか、意味付けし直す必要があるとも言えます。


「残業」を生み出す無意識の意識とは?

2018年に発刊されベストセラーとなった『残業学』の中で、「長時間労働が生まれるメカニズム」を取り上げた著者の中原淳氏(立教大学教授)は、残業を減らすための方法として以下の三つを挙げています。

  1. 時間に境界をつける
  2. マネージャーのマネジメントスキルをつける
  3. 職場の組織開発

1.時間に境界をつける

すぐに取り組める策としては、「時間に境界をつける」という点があります。とかく、仕事を進める中で時間の感覚は大事と言われながらも、業務を始めるときりがなくなってしまったり、区切り方が難しかったり(あるいは区切ると言いづらかったり)…という現象は起きがちです。

また、今回の時期を経て、リモートワークや時差出勤が増え、「働く時間と暮らしの時間」について線引きのしかたが難しくなっている、という声も多く聞くようになりました。

例えば、在宅で業務をやりながら、休校している子供の昼食をつくり、午後にまた業務へ戻るという中での慌ただしい切り替えかた。あるいは、自宅にいる家族に配慮して、オンラインミーティング等が入った時はわざわざ外に出てコワーキングスペースを探し場所を確保する、という方もいました。

これまでは、「職場と自宅」という“場”の違いで必然的に線引きができていましたが、「自宅という同じ空間の中で時間を線引きする」という別の線引きをせざるを得ない状況は、ウィズコロナの時代においては「当たり前」になってくるのです。

限られた時間の中でどのようにパフォーマンスを発揮するか、場の制限がある中でいかに集中する時間を作り出すか、など、これまで以上に「境界のつけかた」を考えていかねばならないと言えます。

2.マネージャーのマネジメントスキルをつける

「マネージャーのマネジメントスキル」については、座学で習得するのは難しく、実践からのフィードバックと研修でスキルを上げていく必要があります。チームを率いるリーダーの立場として仕事をしていると、「叱ってくれる人がいない」という声もよく聴くように、なかなかフィードバックしてくれる人は現れません。

すると、自身の経験値から来る独りよがりなマネジメントになったり、時にはそれが固定概念になってしまうこともあります。研修等の場を設けることで、改まった時間で周り(上司や外部講師等)からフィードバックを受けることで、自身の言動や思考のふりかえりができ、マネジメントスキルを高めていく素地をつくることができると言えます。

3.職場の組織開発

そして、大切な「組織開発」。

まずは、トップが経営課題として「残業削減」の意義を語る必要があります。それによって、社員一人ひとりに「今のままでは良くない」という認識を促すことができ、また「本当は残業を減らしてもっと時間を有効に使いたい」と考えている人にとってもアクションを起こしやすい風土を醸成することができます。経営トップが課題意識を示すことで、個々の社員も「今の状況を変えねばならない」という思考が促され、行動に移しやすくなります。


データやプロセスを見える化して伝え合う

しかし、これらの方法を進める上でまず必要なのが「見える化」です。

現状の働き方に関するデータや各自の業務プロセスを見える化し、それに対する各々の捉え方について、対話を通して言語化し、お互いに伝え合うことが重要です。

この過程は、もしかすると「普段あまり取り上げたくはない本質的な問題」にスポットライトを当てていくことにもなるかもしれませんが、それによって、馴れ合いの空気ではなく良い緊張感(ピアプレッシャー)が働き、質の高い建設的な対話を行なうことができます。

せっかちな経営者・リーダーは、すぐに「問題を洗い出して解決策を考えよう」と対話の場を設けようとしがちですが、起きている現状・現象を客観視することができず、「●●部のところでいつも滞る」「自分が抱えすぎだから良くない」といった属人的で主観的な問題の捉え方から離れることができず、議論が収束しません。データを用いて、客観的に現状認識した上で、対話をしながら「自分たちが取り組めること」を考えていくと良いでしょう。

先述の会社では、「ハピネス5 ※ https://esr-j.com/happiness_5/ 」を用いて、働く個々のマインドの状態と労働時間の状況、各チームの生産性等を比較分析し、皆で共有しました。その上で、業務プロセスを洗い出したり、原因分析をしながら、「なぜこういう状況にあるのか」を一人ずつ語ってもらい、改善策を考えるプロジェクトを推し進めています。

「聞く・考える・対話する・気づく⇒学ぶ」。残業削減というプロジェクトを通して、各々も学び変容する経験学習モデルをまわすように、プロジェクトを組み立てていくと良いでしょう。


まとめ

この数か月の中で、世の中はリモートワークや時差出勤等が一気に進み、一人ひとりが“働き方を変える”状況に必然的に至ったとも言えます。

今回ご紹介したA社でも、当初掲げていた「残業削減」から少しシフトし、「新しい働き方を創りあげる」ことを目指して、デジタルツールを駆使した柔軟な働き方に取り組み始めています。ぜひ皆さんもこの機を逃さず、「自社はこういう組織の状態を目指す」という方向性を示しながら、改革を進めていっていただきたいと思います。

筆者プロフィール

金野 美香(きんの みか)

有限会社人事・労務 ヘッドESコンサルタント
厚生労働省認定CDA(キャリアデベロップメント・アドバイザー)
一般社団法人 日本ES開発協会 代表理事\

福島大学行政社会学部卒業後、有限会社人事・労務にて、日本初のES(人間性尊重経営)コンサルタントとして、企業をはじめ、大学、商工団体で講師を務めるなど幅広く活動する。“会社と社員の懸け橋”という信念のもと、介護事業所や福祉施設、製造業、サービス業などさまざまな中小企業でのクレドづくり・ES組織開発に取り組む。また、「日本の未来の“はたらくカタチ”をつくる」をテーマに、社員一人ひとりが地域社会との接点を持ち共感資本を高めるための活動を推進。自律心高い越境人材の育成や地域活動プロジェクトの運営などに力を入れ、ESを軸にコミュニティ経営の視点を中小企業で実践し、高い評価を得る。
宮城県仙台市生まれ。「東北の土地の記憶を知ること」「働く犬の研究」がライフワーク。

主な講演実績・著書等

  • 社会によろこばれる会社のためのESを軸とした組織づくり (熊谷法人会、上尾法人会)

  • キャリアデザイン入門 (日本大学法学部)

  • シゴト選びのモノサシを変える!新しい一歩を踏み出すキャリアデザイン講座(東北芸術工科大学)

  • 『人財経営実践塾』愛社精神溢れる-体感経営~ES(従業員満足度)が会社を伸ばす~ (ふくいジョブカフェ)

  • 対話の習慣を軸とした自律型人材育成法/ESを軸につながりを大切にする経営/新任管理職の為のリーダーシップ強化セミナー(ヒューマンリソシア「定額制公開講座ビジネスコース」)

  • イノベーションを巻き起こすES向上型人事制度 (ピーシーエー株式会社)

  • 千葉県指定工場協議会 第三ブロック向けセミナー~今日からすぐに始められる会社が元気になる7つの施策 (あいおいニッセイ同和損害保険株式会社)

  • 後継者向けESマネジメント研修 (あいおいニッセイ同和損害保険株式会社)

  • 人と環境と社会にやさしい社内体制の作り方セミナー~グレートスモールカンパニーが社会を変える!~ (日本ES開発協会)

  • 若手社員の採用と定着を上手に行う秘訣 (常陽産業研究所)

  • ES型人事制度構築のポイント (淡路青年会議所)

  • 「共感資本時代のリーダーはここが違う」(株式会社USEN)・・・他


  • 『ニュートップリーダー』「はたらく個も、組織も輝く経営」(日本実業出版社)
    2013年7月号:「独自に定めた「旅籠三輪書」を軸に地域のつながりを重視した変革に挑む-HATAGO井仙」
    2013年8月号:「本業を通した社会貢献」を掲げ、地域のつながりの基点となる-株式会社大川印刷」

  • 「人材アセスメントの時代」連載 (フジサンケイビジネスアイ)

  • 『ESクレドを使った組織改革』(税務経理協会)

  • 「従業員のモチベーションアップに役立つ社内コミュニケーション」(日本経団連事業サービス)

  • 『ESコーチング&ESマネジメント 感動倍増組織のつくり方』(九天社)

  • 『儲けを生み出す人事制度7つの仕組み』(ナナブックス)

  • 『社員がよろこぶ会社のルール・規定集101』(かんき出版)

  • 『今から間に合う! 小さな会社の働き方改革対応版 就業規則が自分でできる本』(ソシム)1

  • 「人事労務のいろは」連載(東商新聞)

  • 『労務事情』「人事労務相談室」連載(株式会社産労総合研究所)

  • 『月刊総務』(株式会社ナナ・コーポレート・コミュニケーション)

  • 『ニュートップリーダー』「ES経営が会社を伸ばす」(日本実業出版社)
    2010年2月号:「社員がここにいたいと思う会社にする-株式会社アドバネクス」
    2009年12月号:「患者の立場に立ってよりよい病院づくりをしたい-医療法人井上整形外科」
    2009年11月号:「印税を通して地域や社会に貢献したい-株式会社大川印刷」

  • 就活支援ジャーナル
    2014年10月15日「秋の内定をこうして勝ち取る!!」「企業人の視点 地域密着を果たし、社会を良くする企業に出合おう!」


金野 美香 氏 連載記事

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※本記事の内容についての個別のお問い合わせは承っておりません。予めご了承ください。