更新日:2025/09/02
「ダメ」な1 on 1には、多くの場合、上司側のコミュニケーションに具体的な要因があります。
この記事では、1 on 1がうまくいかない5つの失敗例を明確にし、部下の成長とエンゲージメントを高めるための正しい進め方を解説します。形骸化した1 on 1を乗り越え、部下との信頼関係を深め、チームの成果につながる対話を実現しましょう。
週に一度、あるいは月に一度の1 on 1ミーティング。あなたは、その時間を単なる業務報告や進捗確認の場として消費していませんか。部下の成長とエンゲージメントを高めるための重要な対話の機会である1 on 1が、多くの職場で形骸化し、「ダメな1 on 1」と化しているのが現状です。
近年、部下との定期的な対話を通じて個人の成長を促し、組織全体のパフォーマンスを向上させる目的で、多くの日本企業が1 on 1ミーティングを導入しています。しかし、その一方で、「何のためにしているのかわからない」「効果を感じられない」といった声が少なくありません。導入されたものの、その本質が理解されず、形だけのものになってしまっているケースが散見されます。
とくに、上司と部下の双方が多忙な中で、時間だけが過ぎていくような1 on 1は、モチベーション低下やエンゲージメントの阻害につながりかねません。
1 on 1が「ダメ」だと感じられる典型的なパターンの一つに、「部下がほとんど話さず、上司が一方的に質問して進捗を確認するだけ」という状況が挙げられます。このような1 on 1では、部下の内省を促したり、本音を引き出したりする機会が失われ、単なる「業務報告会」と化してしまいます。
部下が進んで話さない背景には、さまざまな要因が考えられます。本来、1 on 1は部下が自身の課題や目標、キャリアについて主体的に考え、上司がそれを支援する場です。「ダメな1 on 1」は、部下の成長機会を奪うだけでなく、上司と部下の間に信頼関係が築かれにくくなる原因にもなります。
ここでは、1 on 1がなぜうまくいかないのか、具体的な失敗例を挙げながらその原因を深掘りします。
上司が一方的に話すことで、部下は発言の機会を失い、自分の考えや悩みを共有できなくなります。結果として、1 on 1は上司の「話したいこと」を伝える場となり、部下の成長支援という本来の目的から逸れてしまいます。
上司の過去の成功体験や、一方的な指示・アドバイスばかりでは、部下は「聞かされている」と感じ、主体的な行動を促すことができません。部下自身が課題を見つけ、解決策を考える機会が必要なのです。
「なぜできなかったのか」「なぜそうしたのか」といった詰問調の質問は、部下に「責められている」と感じさせ、心理的な安全性を損ないます。部下は自己防衛に入り、本音を話さなくなってしまいます。
部下を追い詰めるのではなく、「どうすれば改善できるか」「次にどうしたいか」といった未来志向の質問や、「何が課題だと感じているか」「そのとき、どう感じたか」といった内省を促す質問が重要です。
| 質問タイプ | 具体例 | 部下の反応 |
|---|---|---|
| 詰問(NG) | 「なぜ、あの時そうしなかったんだ?」 | 防御的、本音を隠す、萎縮する |
| 内省を促す(OK) | 「あの状況で、他にどのような選択肢があったと思いますか?」 | 思考を深める、気づきを得る、前向きになる |
事前の準備やアジェンダ共有がない1 on 1は、その場の思いつきで話が進み、具体的な成果や学びにつながりにくい傾向があります。毎回同じような業務進捗確認や、漠然とした雑談で終わってしまいがちです。
関係構築のための雑談も大切ですが、そればかりでは部下の成長にはつながりません。キャリアパス、スキルアップ、モチベーション、人間関係の悩みなど、部下の成長やエンゲージメント向上に資するテーマを意識的に設定することが重要です。
部下が質問に答えるために考えている沈黙の時間に、上司が焦って別の質問をしたり、アドバイスで埋めてしまったりすることがあります。これでは部下の思考を中断させ、深く考える機会を奪ってしまいます。
沈黙は、部下が自身の考えを整理し、内省を深めるための貴重な時間です。上司には、部下が話す準備ができるまで、辛抱強く待つ姿勢が求められます。
上司が一方的に「こうすべきだ」「これが正解だ」とアドバイスを与えるだけでは、部下は自分で考える力や課題解決能力を養うことができません。上司への依存度が高まり、主体性が育ちにくくなります。
必要な場面でのティーチング(知識やスキルの伝達)も重要ですが、1 on 1においては、部下自身が答えを見つけ出すのを支援するコーチングのアプローチがより効果的です。質問を通じて部下の内側にある答えを引き出すことを意識しましょう。
「ダメな1 on 1」を乗り越え、真に成果を生み出すためには、まずその目的と本質を深く理解することが不可欠です。
1 on 1の最も重要な目的は、部下の自律的な成長を支援し、企業へのエンゲージメントを高めることにあります。上司が一方的に指示を与える場ではなく、部下自身が自分の仕事やキャリアについて深く内省し、課題解決やスキルアップの方向性を見出すための対話の機会です。
対話を通じて、部下は自身の強みや弱みを認識し、具体的な行動計画を立てる力を養います。結果として、部下のモチベーション向上、パフォーマンス向上、そして組織全体の生産性向上へとつながります。
1 on 1は、上司と部下の間に強固な信頼関係を築くための最も重要な対話の場です。部下が安心して本音を語れる心理的安全性が確保されることで、日頃の業務で抱える悩みや潜在的な課題、キャリアへの不安などもオープンに共有されやすくなります。
信頼に基づく対話は、情報共有の質を高め、問題の早期発見・解決を可能にします。また、部下が「自分は理解されている」「大切にされている」と感じることで、組織への帰属意識が高まり、エンゲージメントの向上や離職率の低下にも寄与します。
1 on 1の効果を最大化するためには、上司がコーチングとティーチングを状況に応じて適切に使い分けるスキルが求められます。常にどちらか一方に偏るのではなく、部下の成熟度、課題の内容、緊急性などを見極めることが重要です。
| アプローチ | 主な目的 | 上司の役割 | 適した場面 | 期待される効果 |
|---|---|---|---|---|
| コーチング | 部下自身に答えを見つけさせ、自律性を育む | 傾聴、質問、承認 | 部下が自分で考えられるテーマ、キャリア相談、内省を促したいとき | 自律性、問題解決能力、主体性の向上 |
| ティーチング | 知識やスキル、ノウハウを直接教える | 説明、指示、アドバイス | 緊急性の高い課題、知識や経験が不足しているとき、具体的な方法を伝えるとき | 効率的なスキル習得、即効性のある課題解決 |
この使い分けを意識することで、部下は「自分で考える力」と「必要な知識を学ぶ力」の両方をバランス良く伸ばすことができ、より効果的な成長支援につながります。
【関連記事:1 on 1の真の目的とは?部下の成長を加速させる効果的な進め方】
1 on 1は、セッションが始まる前からすでにその成否が分かれています。入念な準備こそが、部下の本音を引き出し、具体的な成長につながる対話を実現するための鍵となります。
1 on 1を単なる業務報告会にしないためには、事前の情報収集が不可欠です。部下の最近の業務状況、目標達成度、抱えている課題、成功体験などを把握しておくことで、より深い議論へと導くことができます。また、アジェンダ(議題)を事前に部下と共有し、必要であれば部下からも議題を募ることで、お互いが目的意識を持ってセッションに臨めます。
アジェンダに含めるべき項目は、部下の状況や1 on 1の目的に応じて調整しましょう。一般的なアジェンダの例は以下のとおりです。
| トピック | 内容の例 | ポイント |
|---|---|---|
| 前回の振り返り | 前回の1 on 1で決めた行動や目標の進捗確認 | 継続的な成長を促す |
| 現在の業務状況 | 担当業務の進捗、課題、成功体験 | 現状把握と課題の深掘り |
| 個人の目標・キャリア | 短期・長期目標、キャリアに関する相談、スキルアップ | 部下の成長意欲を刺激 |
| 相談・共有事項 | 部下からの質問、困りごと、上司への要望 | 部下の主体性を尊重 |
| その他 | 心理的安全性に関する確認、雑談など | 信頼関係の構築 |
1 on 1のセッションに入る前に、上司と部下の双方で「今日の1 on 1で何を得たいか」「どのような状態を目指すか」というゴールを明確に設定し、期待値をすり合わせることが重要です。
上司が一方的にゴールを設定するのではなく、「今日は〇〇について話したいけれど、何か他に話したいことはある?」のように、部下にもゴール設定を促してみましょう。部下の主体的な参加意識を高められ、有意義なアウトプットにつながりやすくなります。
期待値のすり合わせは、お互いの認識のズレを防ぎ、セッション後の満足度を高めるうえでも不可欠です。
準備段階で最も重要視すべきことの一つが、部下が安心して本音で話せる「心理的安全性」の確保です。
具体的な準備として、以下のような点が挙げられます。
1 on 1の成否は、事前の準備だけでなく、実際の対話の進め方で決まります。ここでは、部下の本音を引き出し、その成長を促すための具体的な実践方法をステップバイステップで解説します。
1 on 1を始める際、いきなり業務の深い話に入るのは避けましょう。部下が緊張していると、本音を話しづらくなってしまいます。まずはアイスブレイクで場の雰囲気を和らげ、心理的なハードルを下げることから始めます。
アイスブレイクでは、天気の話や週末の出来事、最近あったポジティブなニュースなど、部下が気軽に話せるような軽い話題を選びましょう。プライベートな話題に触れる際は、相手の領域に踏み込みすぎないよう配慮し、あくまで「会話のきっかけ」と捉えることが重要です。
1 on 1の主役は部下です。上司は部下の話を「聞く」ことに徹し、上司が話すのは全体の2割程度、部下が話すのは8割程度を目安にしましょう。上司が話しすぎてしまうと、部下の発言機会が失われ、内省を深める時間も奪われてしまいます。
部下が安心して話せるように、上司は積極的に傾聴の姿勢を示すことが不可欠です。具体的には、部下の話に「なるほど」「そうですね」といった相槌を打ったり、うなずいたり、アイコンタクトを取ったりすることで、「あなたの話を真剣に聴いています」というメッセージを伝えます。
部下の本音や考えを引き出すためには、質問の仕方が重要です。「はい」「いいえ」で答えられるクローズドクエスチョンではなく、部下が自分の言葉で考えを述べられるオープンクエスチョンを意識しましょう。とくに、5W1Hを活用した質問は、状況や背景、感情などを具体的に深掘りするのに役立ちます。
部下自身の内省を促し、新たな視点や解決策に気づかせるためには、以下のような質問が有効です。
| 質問の種類 | 目的 | 具体的な質問例 |
|---|---|---|
| オープンクエスチョン | 部下の考えや感情を引き出す | 「〇〇について、どう思いますか?」「具体的に何が課題だと感じていますか?」 |
| 視点を広げる質問 | 多角的な視点や新たな気づきを促す | 「もし〇〇だとしたら、どうしますか?」「他に何か、考えられる選択肢はありますか?」 |
| 未来志向の質問 | 目標達成への行動を促す | 「この状況が解決したら、どんな変化があると思いますか?」「次の一歩として、何から始めますか?」 |
部下の話を聞き終えたら、上司がその内容を要約し、「つまり、〇〇ということだね?」「私が理解したのは、〇〇という点で合っていますか」のように、部下に対して確認することが重要です。これは、上司が部下の話を正確に理解していることを示すだけでなく、部下自身も自分の考えを整理する機会となります。
要約と確認を行うことで、もし上司の理解と部下の意図にズレがあれば、その場で修正します。なによりも、部下は「自分の話をきちんと聞いてもらえた」「理解してもらえた」という安心感と信頼感を得ることができ、より深いコミュニケーションへとつながります。
1 on 1の締めくくりは、部下のモチベーションを高め、次への行動を促す大切な時間です。話した内容を振り返り、部下の努力や気づきを承認し、必ずポジティブな言葉で締めくくりましょう。感謝の言葉や労いの言葉も忘れずに伝えます。
具体的に話した内容から、部下が次にどのような行動を起こすのかを確認し、それに対する上司からの期待や応援の気持ちを伝えます。「〇〇さんの今後の活躍に期待しています」「〇〇さんの挑戦を応援しています」といったメッセージは、部下の主体性を育み、前向きな行動への原動力となります。次回の1 on 1でその進捗を確認することを伝え、継続的なサポートの姿勢を示すことも有効です。
1 on 1で困ったときの打開策を確認しましょう。
部下がなかなか話してくれない場合、上司のアプローチや場の雰囲気が影響している可能性があります。心理的安全性を高め、部下が安心して本音を話せる環境を整えることが重要です。沈黙を恐れず、部下が思考する時間を尊重し、適切な質問で対話を促しましょう。
具体的なアプローチ方法を以下の表にまとめました。
| 状況 | 上司の具体的な声掛けの例 | 意図と効果 |
|---|---|---|
| 部下が沈黙している | 「何か考えていること、ありますか?」「急がなくて大丈夫ですよ」 | 考える時間を尊重し、プレッシャーを与えないことで、部下が安心して言葉を探せるように促します。 |
| 話が表面的な場合 | 「もう少しくわしく聞かせてもらえますか?」「そのとき、どんな気持ちでしたか?」 | 深掘りする質問で、部下の内面にある感情や具体的な状況を引き出し、本音に近づきます。 |
| 部下が話題を見つけにくい場合 | 「最近、仕事でとくに興味を持ったことは何ですか?」「プライベートで気分転換になることはありますか?」 | 部下の関心事やポジティブな話題から入り、会話のきっかけを作り、リラックスした雰囲気で話を引き出します。 |
1 on 1では部下が主役であるという意識を常に持ち、上司は「聞き役」に徹する姿勢が求められます。
上司の経験や知識を伝えるティーチングも時には必要ですが、1 on 1ではコーチングのアプローチを意識することが重要です。「こうしなさい」と指示するのではなく、「あなたはどうしたいですか?」「他にどんな選択肢があると思いますか?」のように、部下自身に考えさせ、解決策を見つけさせる質問を投げかけましょう。部下の主体性や問題解決能力が向上していきます。
良かれと思って自身の成功体験を語りたくなる気持ちは理解できますが、それが部下にとっての「正解」とは限りません。部下の個性や状況に合わせたアプローチを尊重し、上司の価値観を一方的に押し付けないよう注意しましょう。
日々の業務に追われる中で、1 on 1の時間を確保し、継続することは容易ではありません。しかし、短時間でも定期的に質の高い対話を行うことが、部下の成長とチームのパフォーマンス向上に不可欠です。
1回あたりに完璧な時間を確保するのが難しい場合でも、たとえば30分でも毎週、または隔週で定期的に実施することが重要です。短い時間でも継続することで、部下とのコミュニケーションの機会が失われず、小さな変化や課題にも早期に気づくことができます。時間が短い分、より焦点を絞った対話を心がけましょう。
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「ダメな1 on 1」は、上司が話しすぎたり、質問が尋問になったり、単なる業務報告で終わってしまうことが主な原因です。これでは部下の本音や成長を促すことはできません。
成果を出す1 on 1の鍵は、部下の成長とエンゲージメント向上という本来の目的を理解し、準備を徹底することにあります。部下の話に耳を傾け(傾聴)、適切な質問で思考を深掘りし、心理的安全性を確保しましょう。これらの実践を通じて、1 on 1は部下の主体的な成長と上司との信頼関係構築に貢献する、価値ある時間へと変わるでしょう。