更新日:2020/09/01
平成30年度及び令和2年度税制改正に伴い、2020年(令和2年)の年末調整は大きく変更点があります。
基礎控除額の引き上げ、給与所得控除額の見直し、「ひとり親控除」の新設及び寡婦(寡夫)控除の見直し、年末調整書類書式の大幅改訂、の4点に留意する必要があります。特に年末調整書類については、従来の「給与所得者の配偶者控除等申告書」が新たな申告書「給与所得者の基礎控除申告書」及び「所得金額調整控除申告書」との兼用様式となり、会社で年末調整を受ける従業員全員が記入・提出することになり、人事、給与担当者様が確認する申告書が増えております。
この記事では2020年(令和2年)の年末調整の変更点について税理士 石橋 秀樹 氏が、人事、給与担当者様向けにわかりやすく解説します。
また、各申告書につき変更点のあった箇所を中心とした、年末調整の書き方のポイント解説はこちらの記事で解説しています。あわせてご一読ください。
基礎控除額はこれまで収入・所得金額に関係なく一律38万円でしたが、平成30年度税制改正に伴い、令和2年からは一律48万円に引き上げられます。(住民税については現行33万円→43万円)
但し、合計所得金額(所得控除前の所得金額)が2,400万円~2,500万円の場合は控除額が逓減し、2,500万円超の場合は控除額がゼロとなります。
合計所得金額 | 控除額 |
---|---|
2,400万円以下 | 48万円 |
2,400万円超2,450万円以下 | 32万円 |
2,450万円超2,500万円以下 | 16万円 |
2,500万円超 | 0円 |
基礎控除額の引き上げに対応する形で、平成30年度税制改正に伴い、給与所得控除額は一律10万円引下げられる事になりました。
基礎控除額の引き上げを相殺する結果となりますが、これは基礎控除額引き上げの狙いが政府の「働き方改革」促進の観点から個人事業者を拡大するためとされています。
また、給与所得控除額は「高額給与所得者に対する控除額が過大である」という税制調査会の見解を受けて、平成25年以降段階的に上限額が引き下げられており、令和元年では給与年収1,000万円が頭打ちラインとなっていましたが、今年は頭打ちラインが850万円に引き下げられています。
このため、給与年収が850万円超の方は下記の「所得金額調整控除」の適用を受ける方を除いて、実質的に増税となります。(給与年収850万円以下の方は今回の改正に伴う税額への影響はありません。)
給与所得控除額の見直しに伴い、給与年収850万円超の場合は税負担が増加しますが、この年収帯の多くが子育て・介護世帯と見られる事に配慮し、一定の要件に該当する場合には給与所得控除額の増額調整が行われます。この場合には改正に伴う税額は改正前と同額になります。
〔参考〕基礎控除額の見直しと給与所得控除額の見直しに伴う所得税額の比較は下表のとおりとなります。
給与年収 | 令和元年 | 令和2年 |
---|---|---|
500万円 |
〔5,000,000-(5,000,000×20%+540,000)-380,000〕 ×10%-97,500=210,500 |
〔5,000,000-(5,000,000×20%+440,000)-480,000〕 ×10%-97,500=210,500 |
850万円 |
〔8,500,000-(8,500,000×10%+1,200,000)-380,000〕 ×20%-427,500=786,500 |
〔8,500,000-(1,950,000<上限額>)-480,000〕 ×20%-427,500=786,500 |
900万円 (調整なし) |
〔9,000,000-(9,000,000×10%+1,200,000)-380,000〕 ×20%-427,500=876,500 |
〔9,000,000-(1,950,000<上限額>)-480,000〕 ×20%-427,500=886,500 |
900万円 (調整あり) |
同上(876,500) |
〔9,000,000-(1,950,000<上限額>+(9,000,000-8,500,000)×10%)-480,000〕 ×20%-427,500=876,500 |
2,450万円 (調整なし) |
〔24,500,000-(2,200,000<上限額>)-380,000〕 ×40%-2,796,000=5,972,000 |
〔24,500,000-(2,200,000<上限額>)-320,000〕 ×40%-2,796,000=5,996,000 |
2,500万円 (調整なし) |
〔25,000,000-(2,200,000<上限額>)-380,000〕 ×40%-2,796,000=6,172,000 |
〔25,000,000-(2,200,000<上限額>)-0〕 ×40%-2,796,000=6,324,000 |
(注)比較の便宜上、所得控除は基礎控除のみとして計算しています。
復興特別所得税は加算していません。
給与年収2,450万円、2,500万円の場合は年末調整の対象外となります。(要確定申告)
いわゆる「ひとり親」に対する現行税制上の措置として寡婦(寡夫)控除がありますが、最近は「未婚のひとり親」も増加している事に対応し、令和2年度税制改正で同制度の抜本的見直しに加えて、あらたに「ひとり親控除」が創設されることとなりました。
現行の寡婦(寡夫)控除は、死別、離婚、生死不明の状態が要件となっており、未婚の場合は適用対象外となっていた事から、全てのひとり親家庭に対して公平な税制を実現する観点から、ひとり親控除が設けられました。(なお適用者については男女の性別を問いません。)
また、「ひとり親控除」の創設に伴い、寡婦(寡夫)控除については下記のとおり見直しが行われました。
なお、寡婦控除額(所得税27万円 住民税26万円)は従前とおりです。
配偶者のある給与所得者については、年末調整において「給与所得者の配偶者控除等申告書」を提出する事となっていますが、今年から「給与所得者の基礎控除申告書」と「所得金額調整控除申告書」が新たに加わることとなりました。
これら2種類の新しい申告書については、従前の「給与所得者の配偶者控除等申告書」と一体化し、「給与所得者の基礎控除申告書兼給与所得者の配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書」という新様式となっています。
〔参照URL〕https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/gensen/annai/1648_73.htm
なお、同申告書は基礎控除額の適用判定にも利用されるため、配偶者のいない給与所得者も提出の必要があります。
従って、今年の年末調整時においては、従業者の方に下記の3種類の書類を提出して頂くことになります。
※全体として早めの対応が必要だと思われます。特に「給与所得者の基礎控除申告書兼給与所得者の配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書」は記載内容が更に複雑になっているため、記載要領の周知が必要と思われます。
※未婚の従業員に「ひとり親控除」対象者がいないかどうか確認が必要と思われます
(情報は本稿執筆時点(令和2年8月7日)のものです。)
東政府系機関勤務を経て2010年税理士登録。
京税理士会芝支部所属。
「若いお客様にはアイディアを、ご年配のお客様には安心を」がモットー。