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月次決算早期化のための業務設計(2)請求管理

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第2回 請求管理

月次決算処理において最も重要度が高いといわれる売上高の管理。簿記の試験問題では、売上高は工事進行基準や前受収益などの特殊なものを除いて、確定していることも多いのですが、実務の観点では売上高を滞りなく確定させるのは容易ではありません。

 売上の根拠資料となるのは主に請求書ですが、それを発行するためには契約書や発注書、納品書などの有無を管理し、そのステータスや内容が請求書発行前には把握できている必要があります。しかし、中小企業ではすべての売上に対して契約書や発注書が完璧に揃っていることはなかなかありません。発注や契約の情報は営業現場で担当者別に管理され、経理側で請求書発行時にひとつずつ確認しているというケースは多いのではないでしょうか。

 企業会計原則では、「売上高は、実現主義の原則に従い、商品等の販売又は役務の給付によって実現したものに限る。」と明記されています。請求書を発行しさえすれば大丈夫という話ではなく、販売や役務提供の実現の有無を正確に認識する必要があるということです。こういう風に書くと小難しく聞こえるかもしれませんが、売上の実現有無を正確に把握できる仕組みを構築することが重要であるということです。上場準備の過程でもここはかなりシビアに見られます。

 月次決算早期化のためには、売上をいかに早く正確に確定させるかが第1のステップです。売上が確定しないことには月次決算を締めることはできません。5営業日目で月次決算を締めるためには、売上確定は1営業日目、遅くとも2営業日目には完了している必要があります。そのためには経理部門が奔走するやり方から脱却し、営業等関連部門も含めた管理方法や業務フローの設計が必要になります。

 また、請求書を発行しただけでは企業に現金は入ってきません。売上を回収してはじめて一連の請求活動は完結します。請求管理の実務では、未収管理も非常に重要です。受注から請求、入金までを一連の流れとして管理する必要があります。

 これらの観点を踏まえて、請求管理における業務設計を見ていきます。

営業活動から請求入金までの流れ

営業は、リード(見込客)獲得から商談、受注までを管理します。実際には営業プロセスは、初回訪問、ヒアリング、提案、見積など更に細かく分かれるのですが、ここでは割愛しています。

経理部門で把握すべきは「受注」段階になった後の商談です。そこから請求処理がスタートし、請求後は入金の有無をチェックします。請求プロセスは営業ほど細かく時系列で把握する必要はありませんが、入金状況まで含めてきちんと追うためにプロセス管理を行います。

営業プロセスと請求プロセスは、管掌部門が異なるため分けてありますが、図の通り営業活動から請求活動への流れは1本につながっているものです。また、請求処理や売上の計上は経理部門が行いますが、その回収責任が営業部門にある場合、入金の有無ステータスは営業担当者に迅速に共有される必要もあります。

これらを踏まえると、リード件数が100件もしくは請求件数が月に10件を超えたあたりからは、CRMSFAシステム(顧客管理、営業管理のためのシステム。以下「CRM」という。)の活用は必須と言わざるを得ません。CRMではなくExcelで顧客管理をしていたり、CRMを入れていても営業管理のみで経理部門へは連携されていなかったりなど、規模が小さいうちは色々なやり方をしているとは思います。しかし、売上が拡大局面に入り、組織が大きくなっていく過程の中で月次決算早期化を実現するためには、CRMが営業等関連部門はもちろん、経理部門も活用できるように構築されている必要があります。

CRMの中でもSFAと呼ばれる領域のシステムは、営業プロセスや状況の管理だけではありません。受注角度などを組み合わせることによる売上予測管理、活動記録との組み合わせによる行動管理など複数のデータを組み合わせることにより、営業活動を科学的に管理することを可能にしました。前述の通り、営業活動から受注、請求、回収は一連の流れにあるため、CRM上で請求プロセスまで管理することができるようになれば、経理が売上の確定のために奔走することも、未収情報の共有のために担当者別に連絡する必要もなくなります。

なお、営業プロセスと請求プロセスは、完全に別に管理します。営業部門としては受注した段階で営業活動としてはいったん完結していますので、経理部門の対応を営業プロセスに影響しないようにして、各プロセスの責任の所在を明確にするためです。

CRMは営業・マーケティング部門が主導して導入されることが多いと思いますが、月次決算早期化のためには経理部門もCRM構築に積極的に関わり、情報がCRMに集約されている状態にする必要があるのです。

営業から経理までを一気通貫させる

請求管理の業務設計の話なのになぜCRMの話を長々としているのか、と思われた方もいるかもしれませんが、現代の業務設計においてCRMなどのデータベースが適切に構築されていることは必須要件となるからです。

経理をはじめとしたバックオフィスの方は、どうしても目の前の業務を処理することに集中してしまいがちですが、その観点だけでは月次決算早期化のための打ち手が、処理スピードを上げるか、処理時間を長くするか、の2通りしかありません。処理スピードを上げるにも作業レベルでは限界がありますので、月次決算を早く締めるためには結局、月初はいつも終電帰りもしくは徹夜をしてなんとか帳尻合わせするということになってしまいます。

売上確定のために、経理が最も時間を使っているのが「担当者への確認」や「発注書、契約書の収集」です。その状態から脱却するためには、データの管理方法を根本から見直すしかありません。各部門で個別最適化され、ブツ切りにされてバラバラに存在するデータベースを統一し、営業から経理まで一気通貫して管理をできるようにすることが必要なのです。

データベースを統一し、さらには業務プロセスも営業から経理まで一気通貫したものとして構築することで、ようやく請求管理全体の業務フローが可視化されます。ここをスタートラインとして、業務フローの各プロセスを1つずつ検証しては改善する、というサイクルを繰り返していくしかありません。請求管理業務のプロセス自体は複雑ではないのですが、売上の確定基準が曖昧だったり、状況の共有不足だったりということが積み重なって、売上を確定するまでに時間を要してしまっている、という企業は多いのではないでしょうか。

Excel管理や担当者任せの管理方法では、限界があります。件数が少ないうちはなんとかなったとしても、ボリュームが増えてくると完全に破綻し、それが成長の足かせとなります。月次決算に時間がかかる程度で済めばいい方で、管理側が崩壊し、誰も売上や請求の実態を把握できていないという企業もあります。そこから脱却するために、まずはCRMの構築、そして業務プロセスの整備の順番になります。

5営業日目での月次決算の締め、というのは非常に高い目標です。経理部門がとにかく頑張る、というやり方では間違いなく到達できません。高い目標を実現するためには、その場しのぎではない根本的な問題解決方法を検討し、時間をかけてでもそこに向かって進んでいかなければなりません。請求管理に手間がかかっていたり、実態を把握するのに時間がかかってしまうという企業の方は、まずは営業プロセスから請求プロセスまで一気通貫で管理ができるCRMの構築から手をつけてみてはいかがでしょうか。

筆者プロフィール

武内 俊介(たけうち しゅんすけ)

リベロ・コンサルティング代表。

業務設計士、税理士。

クライアントの業務を徹底的にヒアリングして整理した上で、課題解決するためのシステムを運用を設計して提供。
受発注管理から会計処理までを一気通貫して処理できる仕組みの構築を得意としている。

業務設計士、税理士 武内 俊介 氏 連載記事

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