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月次決算早期化のための業務設計(1)全体設計の重要性

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第一回 全体設計の重要性

みなさま、はじめまして。リベロ・コンサルティングの代表をしております武内と申します。普段は業務設計士という立ち位置で、クライアント様が新しいシステムの導入や、業務の効率化を行う際の業務の現状分析から、理想のオペレーションを実現するための業務とシステムを設計し、提供しております。

代表の私が税理士としての活動もしていることもあり、最近は「経理業務を効率化したい。」という依頼を受けることが多くなっております。しかし、よくよく話を聞いてみると改善すべきは経理業務だけではなく、会社の業務全体であるケースが大半です。

会社全体の業務に改善余地があるにもかかわらずに、なぜ「経理が回っていない」「経理業務が非効率だ」というふうに経理部門がやり玉にあげられてしまうのでしょうか。多くの場合、「月次決算の締めが遅い」という事実が社長や部長に不満をいだかせているようですが、それは本当に経理部門だけの責任なのでしょうか。

ある程度の企業規模になってくると、経営状況を把握するために月次決算をしっかりと行うことは必須です。法的に明確な期限のある本決算とは違い、月次決算には法律で定められた期限はありませんが、それが1ヶ月後などでは意味がありません。締めが早ければ早いほど経営状況を素早く把握して、適切な意思決定を迅速に下すことができます。

明確な期限はありませんが、「5営業日での月次決算の締め」が早期化のひとつの目標値とされています。ただ、多くの企業にとって、この5営業日という期限は非常に高いハードルです。それは経理部門だけが必死に頑張るだけでは、ほぼ達成が不可能な期限だからです。

経理業務をやったことがない方が勘違いしがちなのは、この部分です。「月次“決算”なんだから、経理が頑張ればできるはず」と考えてしまうのでしょう。最終的に会計データとして記帳するのはもちろん経理なのですが、その仕訳の元となるのは発注書や請求書、そして経費や出張の精算など、企業の活動で生じているあらゆる取引です。その取引の情報が素早く適切に経理に集約される仕組みを整備しなければ、5営業日で1ヵ月分の取引をすべて確認し、会計データとして確定させるのは到底不可能です。

本連載では、月次決算にかかわる経理処理の範囲を広義にとらえることで、経理処理の前工程部分の業務設計にスポットを当てていきます。第1回は全体設計の重要性について整理し、第2回以降で個別の業務についてより深く見ていきたいと思います。

業務フロー図の必要性

弊社で業務設計の仕事を始めるにあたって、まずは「業務フロー図があったら、いただけますか。」とお願いするようにしているのですが、フロー図がでてくる確率はだいたい3割、そして出てきたフロー図をきちんとアップデートできているのは更にその3割といったところでしょうか。

例えば「単純な請求作業だからフロー図など必要ない」と考えていたとしても、受注・作業・納品というプロセスを経て金額が確定し、それらが集計されてはじめて請求書を作ることができるわけです。その流れや判断のポイントが可視化もされずにこれまで問題なく業務が回っていたのは、単に量が少なかったか、ベテラン担当者の方が頑張っていたかのいずれかでしょう。

月次決算早期化を考えはじめるタイミングというのは、ほぼ間違いなく業績の拡大局面にあります。現在進行形で業務量がどんどん増えていく過程では、これまでは問題がないと思っていた業務フローにも色々なほころびがでてきます。その際に適切な業務フロー図が存在しなければ、有効な対策を打つことは非常に難しいのです。

べルトコンベアがある工場などとは違い、事務処理の流れは外から見ることはできません。そのため業務フロー図として可視化されていることが非常に重要になります。また、業務フロー図は作って終わりではなく、常に見直され最新の状態に保つ必要があります。その状態が当たり前に維持されていることが、月次決算早期化のための最低限の条件です。

業務フロー図が存在しなければ、業務の標準化や改善を行うことができず、業務の属人化が進み、業務プロセスはますますブラックボックス化していきます。最新のシステムの導入を検討する前に、まずは業務フロー図をきちんと整備するべきでしょう。

会計ソフトに入力する前の業務が重要

会計数値、特にPLに反映される主要な活動は図の通り以下の5つに分類できます。(会計実務の観点でいえば、現預金やクレジットカードなどの出納管理、部門PL作成のための配賦なども非常に重要ですが、いったん今回の連載のスコープからは除外しております。)

  1. 請求管理・・・売上高
  2. 支払管理・・・売上原価、販管費
  3. 経費精算・・・販管費
  4. 給与計算・・・役員報酬、給与
  5. その他管理・・・在庫、固定資産、経過勘定など

 当月に発生したこれらの収益と費用に関する数値を素早く正確に会計データとして作成しなければなりません。そして月次決算を締めた上で、予実管理などの経営管理に活用するデータに反映することで、経営陣は意思決定に必要な材料を手に入れることができるのです。正確なデータがなければ、正しい意思決定はできません。これが月次決算の締めは早ければ早いほどいい、といわれる理由です。

図を見ていただければ分かると思いますが、性格の異なる5つのプロセスが会計ソフトで集約される処理フローになっています。やや専門的な話になりますが、この5つは「並行プロセス」であるため、処理スピードをあげるためのアプローチは2通りあります。1つは処理リソースを分散させることであり、もう1つは事前に処理できる部分を先に処理しておくことです。もう少し噛み砕いていうと、経理だけで全部対応しようとしない、月末になる前にできることはやっておこう、ということです。

しかし、前者のリソースの分散については、中小企業ではなかなか難しいのが現実でしょう。本来は営業事務の対応領域である請求書の発行や支払いまでを経理担当者が一手に引き受けているケースも多く、会計ソフトへ入力する前にやるべきことは山積みです。多くの経理担当者は仕訳を切っているよりも、情報集めや事務処理に奔走している時間が多いのではないでしょうか。

後者についても、月次決算時をとにかく締めるのに必死で、それが終わると色々な雑務に追われ、気づくともう次の月次決算が来てしまう、というループに陥ってはいないでしょうか。やりたいことや改善したいことは色々とあるけれど、人もいないし時間もないので毎月とにかく月次決算を締めるだけで精一杯、という経理の方はたくさんいるでしょう。

月次決算早期化プロジェクトは、もちろん経理がある程度はリードするべきだとは思いますが、「経理だけ」が頑張っても5営業日という目標はまず達成できません。各部門の関係者を巻き込むことはもちろん、経理側も「私たちの仕事は会計ソフトに数値を入力すること」というマインドから脱却しなければいけません。数値の正確性や処理のスピードという経理の品質をあげるためには、経理こそが誰よりも自社のビジネスモデルを理解し、業務フローを把握し、日々の様々な活動がどのように会計に反映されるかをしっかりと掌握する必要があります。

月次決算早期化が効率化を促す

官公庁が発表する働き方改革や生産性向上についての文章を見ると、いまだに「ITの利活用」や「デジタル・トランスフォーメーション」などの寒々しいキーワードがいたるところで使われています。日本企業は先進諸国の中でもIT投資の割合がダントツで低く、アナログで非効率な仕組みの中でも、「とにかく現場が頑張ってなんとかする」という昭和的な価値観が、いまだに根付いているように感じます。

しかし、昭和どころか平成も終わった今、IT投資を目的化するのではなく、業務効率化や業績拡大のために必要なツールの1つとして、しっかりと活用していかなければなりません。近年、いたるところで「人手不足」という言葉を聞くようになりましたが、それを補うためにはこれまで2人で回していた仕事を1人未満で対応することができるような大幅な効率化が必要です。ITツールは活用して当たり前、むしろ活用できなければ会社運営が立ち行かなくなるでしょう。

経理などのバックオフィスは目標が立てづらいと言われますが、そんな中で「月次決算早期化」は、経理だけでなく全社の業務フローを可視化し、効率化のためのITツールの活用を考えることにもつながる上に、何営業日目で月次決算が締まったかという結果も分かりやすい目標設定です。更には月次決算が早期化されることで、経営陣も自社の状況をタイムリーに把握することができ、素早く軌道修正を行うことができます。

いきなり「5営業日以内」というのは高い目標かもしれませんが、高い目標を掲げるからこそ大胆に改革を進めることができます。そこを目指して多くの経理の方々にまずは一歩を踏み出して欲しい、そういう思いでこの連載のテーマを選びました。第2回以降は前述の5つのパーツを順番に1つずつ取り上げ、月次決算早期化を実現するためにどういう風に考えればいいのか、それをどういう風に設計まで落とし込んでいくのかを掘り下げていくつもりです。

現状を客観的に分析し、問題点を洗い出し、その解決策を検討し、実行に移し、継続的なモニタリングを通じて更に改善していく。月次決算早期化のためのプロセスは、こういう当たり前のことを愚直にやっていくだけです。世界ナンバーワンのクラウドシステムを導入したとしても、問題が魔法のように一気に解決することは決してありません。RPAもAIもただのツールの1つです。一歩ずつ着実にやれることをやっていくことで、絡み合っていた糸が少しずつ解きほぐされ、改善への道筋がクリアになっていきます。

月次決算早期化という目標を達成するために、どのように考え、どこから手をつけていくべきなのか、これを読んでいただいた経理の皆さんが「よしやってみよう」と思えるきっかけになっていただけるよう、業務を可能な限り整理してお伝えしていきたいと思っています。最後までお付き合いいただければ幸いです。

筆者プロフィール

武内 俊介(たけうち しゅんすけ)

リベロ・コンサルティング代表。

業務設計士、税理士。

クライアントの業務を徹底的にヒアリングして整理した上で、課題解決するためのシステムを運用を設計して提供。
受発注管理から会計処理までを一気通貫して処理できる仕組みの構築を得意としている。

業務設計士、税理士 武内 俊介 氏 連載記事

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※本記事の内容についての個別のお問い合わせは承っておりません。予めご了承ください。