公開日:2023/03/10
まず、企業のトップがカスハラ対応の基本方針・基本姿勢を明確にすることが重要です。
カスハラから従業員を守ることを明確にすることによって、従業員に安心して働いてもらうことが期待できます。
なお、トップメッセージの書式例は、次の記事からダウンロードできます(第1回コラムはこちら)。
次に、従業員が相談対応者に報告・相談しやすい体制を整備することが重要です。
相談対応後は、次の図のように、全社的な対応をする仕組みを作ることも重要なポイントです。
図
なお、カスハラマニュアルによると、カスハラを受けた後の従業員の行動として、「社内の同僚に相談した者」が34.0%、「社内の上司に相談した者」が48.4%、「何もしなかった者」が24.3%となっています。
「何もしなかった」場合、対応が後手になりますので、いかに相談しやすい環境を作れるかが課題になります。
個々の従業員によって、カスハラ対応の内容がバラバラでは、組織として、統一的な対応ができません。
そこで、各社の状況(例えば、業務内容、業務形態、人員体制、方針等)に応じて、前もってマニュアルを作成した上で、従業員に対応方法・手順を周知しておくことが重要です。
これによって、現場で慌てるリスクを減らすことができます。
例えば、マニュアルに、次の要素を取り入れることが考えられます。
① 発言内容に関するもの
② 対応時間に関するもの
③ 対応人数に関するもの
④ 録音・録画について
⑤ すぐに情報共有できる体制を作る。
上記マニュアルを前提に、研修等を通じて、従業員への教育・研修を行うことが重要です。
教育・研修内容は、次のものが考えられます。
例えば、パワハラ事案の場合、企業は従業員に対して、未然防止の働きかけを行ったり、ハラスメント発生時に懲戒処分等を行ったりすることができます。
これに対して、カスハラ事案の場合、企業と顧客等との間には雇用契約関係がないことから、企業は、上記対応をすることができません。したがって、別途、利用規約(定型約款)を整備しておくことや事案が発生した際に民事裁判等の措置を検討する必要があります。
ただし、利用規約(定型約款)を整備する際には、消費者契約法や民法上の定型約款の規定等に反しないように注意する必要があります。
対応フローのイメージは、次のとおりです。
図表
事実関係を把握する際のポイントは、5W1Hを意識して、顧客等がどのような言動及び要求を行ったのかを整理することです。
具体的には、「X月X日X時X分頃、X(場所)において、X氏(顧客等)が当社従業員Xに対して、「X」と発言した」というものです。
つまり、事実と評価を分けて考える癖を身に付けることが基礎であり、実践でもあります。
※本コラム特典として、「事実関係ヒアリングシート」の無料DLを用意しています(詳細は後述)。
上記に基づいて、カスハラ該当性を判断した上で、事案に応じて対応を検討していきます。
事案によっては、この段階から、法務部や顧問弁護士が対外的な対応をすることもあり得ます。
事案への対応と並行して、従業員に対する①安全の確保と②精神面への配慮を行います。
上記①の例としては、現場監督者が顧客対応を代わり、顧客等から従業員を引き離すことや、状況に応じて、弁護士や管轄の警察と連携を取りながら、本人の安全を確保する等の対応が考えられます。
上記②の例としては、メンタルヘルス不調の兆候が認められた場合、産業医や臨床心理士等の専門家に依頼してアフターケアを行うことが考えられます。
顧客対応をした従業員のプライバシーに配慮しつつ、当該事案から得た教訓などを他の従業員に共有したり、対応例をマニュアルに加筆したりします。
PDCAサイクルのように、日々、カスハラ防止のために取り組むことが重要です。
カスハラ行為によっては、暴行罪、傷害罪、脅迫罪、恐喝罪、強要罪、名誉棄損罪、侮辱罪、威力業務妨害罪、不退去罪といった、刑法上の犯罪に該当する可能性があります。
顧客等がこれらの刑法上の犯罪行為に至った場合、警察への通報(被害届の提出など)が考えられます。
カスハラ行為によって、企業に損害が発生した場合には、①顧客等に対して損害賠償請求を行うことが考えられます。
また、②顧客等がインターネット上に、企業を誹謗中傷する投稿し、かつ、任意に投稿が削除されない場合、裁判所に対して、投稿記事削除仮処分命令申立てや損害賠償請求訴訟を提起すること等が考えられます。投稿者が特定できない場合には、発信者情報開示請求の仮処分申立てを行うこと等が考えられます。
なお、法的手段を検討する際には、弁護士に相談することをお勧めします。
本コラムの要約は、次のとおりです。
企業がカスハラ問題に取り組まなかった場合、従業員との間の問題にとどまらず、企業運営にマイナスの影響となるおそれがあることは既に述べました。
今後、企業は、トップが先頭に立ってカスハラを含むハラスメント対策を行うことによって、従業員が“働きがい”と“働きやすさ”を感じられる職場を作ることが重要になるのではないでしょうか。
多湖・岩田・田村法律事務所。第一東京弁護士会所属。
第一東京弁護士会労働法制委員会委員(基礎研究部会副部会長)。
経営法曹会議会員。
使用者側から労働問題を取り扱う。労働法務に関するセミナー講師も務める。
著書に、『詳解 働き方改革関連法』(共著、労働開発研究会、2019年)、『Q&A労働時間・休日・休暇・休業トラブル予防・対応の実務と書式』(共著、新日本法規、2020年)、『新しい働き方に伴う非正規社員の処遇-適法性判断と見直しのチェックポイント-』(共著、新日本法規、2021年)、『複雑化するトラブルに対応 懲戒をめぐる諸問題と法律実務』(共著、労働開発研究会、2021年)、『改訂版 実用会社規程大全』(共著、日本法令、2022年)、『対応ミスで起こる 人事労務トラブル回避のポイント』(共著、新日本法規、2022年)。
URL:http://www.tamura-law.com/