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第11回「プロ経理」がお勧めする、前任者から引き継いで社長になった際の確認ポイント(後編)

社長と経理が共有すべき経理とお金のキホン

公開日:2024/12/20

             

前任者から引き継いだ新任の社長が持つべき経理への視点

今回は、「前任者から引き継いで社長になった際の確認ポイント」の後編になりますが、前編では次のような項目についてお伝えしました。

  1. 経理部門の最低2人以上に「前社長時代に独特な経理処理の指示やルールがなかったか」をヒアリングする
  2. 税理士や会計士に前社長時代に経理体制や経理処理の課題がなかったかをヒアリングする
  3. 発注は相見積もりしているか、なぜその発注先を選んでいるかを確認する

これはもちろん社長だけに限らず、経理の皆さんが転職をして新しい職場で経理部長や経理担当者として就任されたときにもこのような視点は役立つと思いますので、後編もそのような視点でもお読みいただければと思います。

一見、表には見えない箇所のチェックで、その会社の本質がわかる

4.在庫の管理状況を確認する

「在庫管理の状態を見ればその会社の本来の姿が見える」とよく言われます。エントランスや社長室はきれいでも、倉庫を覗いたらグチャグチャで足の踏み場もないくらいモノで溢れかえり、とても在庫を実際にカウントしているように見えない、という会社もあるかもしれません。

今の時代は有用なクラウドの在庫管理ソフトも販売されていますので、そのようなソフトウェアを活用して在庫管理のデジタル化を進めるのも一つの方法です。在庫管理の不備の例としては、あるはずの在庫が紛失していたり、純粋にカウントミスをしていたりするなどして、在庫管理表に記載された在庫数と実際の数が合っていないということがあります。デジタル化をすれば、単純計算などのミスはなくなり担当者の負担軽減になりますし、アナログ管理と違って管理データをいつでも誰でも閲覧できるようになります。在庫の持ち出しといった不正の牽制にも有用です。

上場企業の場合は、本来会計監査で在庫管理の内部統制チェックは網羅されているはずです。しかし、会社の規模が大きい場合は監査の時間も限られていますので全ての細かい部分までのチェックをすることは現実的に難しいです。そのため、社長が気になる部署、店舗、倉庫などがあれば、経理担当や在庫担当などを連れて直接チェックをしていただき、不備があれば担当者に指示を出して是正、整備していただくと良いと思います。

売上先・資金回収のチェック

5.売上上位の受注先の与信管理を定期的に行う

特定の受注先に大きな売上を依存している場合、その会社に万が一(倒産や不祥事などによる経営危機など)の事態が起こると、自社には何の落ち度もなくても受注先の都合で自社への発注がまるごとなくなったり激減したりして大きな影響を受けます。上場企業では内部統制上、新規取引の会社に対しては与信調査を行っているでしょうが、未上場企業であっても、同様に与信管理を行ったほうが良いと思います。よくあるのが、初回取引の際には調査会社に依頼をして与信調査をしたけれど、その後何年も見直しや更新をしていない、というケースです。会社の状況も会社を取り巻く環境も日々変わっていきます。期間を決めて、既存取引先においても定期的に与信管理の更新を行うと良い思います。

6.滞留債権の発生状況、管理体制を確認する

売掛金などが入金予定日を過ぎても入金されないものを「滞留債権」(たいりゅうさいけん)と言います。私の会社員時代は、入金予定日を2カ月以上超えた案件をリストアップして、現場担当者に連絡をして先方へ確認をしてもらったり自ら直接先方に交渉に行ったりしていました。しかし今はビジネスのサイクルも早いので、そこまで待たずに入金予定日を過ぎても入金がないものはすぐ先方に連絡を入れたほうが良いと思います。もし社員が交渉をしてもらちがあかないようでしたら、社長が直接先方の社長と交渉をした方が解決も早いです。

もし滞留債権に関する管理方法が決まっていないようでしたら、たとえば次のように管理マニュアルを作ることをお勧めします。

<滞留債権管理マニュアル例>

  1. 経理担当者は翌月初めに前月分の入金チェックをし、滞留債権に該当するものは、滞留債権リストに記入する(リストの項目は、請求書発行日付、入金予定日、受注先名、案件内容、金額、社内担当者、備考欄など)
  2. 経理担当者はリストに記した各社内担当者に連絡し、先方に確認をとってもらい、その結果を経理担当者に報告してもらう
  3. 経理担当者は報告された内容を備考欄に記入する(滞留債権リストの完成)
  4. 経理担当者は滞留債権リストを月次決算資料と共に社長に提出する

滞留債権が発生する理由はさまざまですが、主な理由として

  1. 自社の担当者が相手先に売上請求書を発送し忘れていた、あるいは遅れて発送したため、その分入金サイトも遅れることを経理や上司、社長などに報告していなかった
  2. 相手先の担当者が請求書を経理に回覧し忘れていた
  3. 相手先の経営不振で支払が遅延している

のような理由が挙げられます。自社の経理担当者が直接相手会社の経理担当者に連絡を入れて滞留債権について確認するのが一番早いようにも思えますが、1のケースもかなりあります。そのため、一旦は「経理担当者⇒社内の各担当者⇒先方の担当者」のほうが安全だと思います。それで進展がないようでしたら、経理担当者や社長が直接先方と交渉する形をとると良いでしょう。

私も会社員時代に滞留債権リストを作成して管理をしていましたが、リストを作って一つわかったことがあります。それは、滞留債権は特定の現場担当者に集中することが多いということです。その担当者が、そもそも事務処理が極端に苦手、あるいはリスクの高い会社から受注を取ってきやすいなど、「現場では評価が高いけれど、経理的視点から見たらかなり心配」な社員をあぶり出してしまうのが滞留債権リストです。滞留債権が10件あり、そのうち4件が同じ担当者でしたら、現場では特に問題がない人でも経理的な視点から見れば「何かが」ある人だと断定できます。この点は非常に重要です。社長としても軽視せずチェック、対応、指導していただくと良いでしょう。

過去発生した不正から組織の特徴を把握する

7.過去の不正発生案件を確認する

会社で発生した社員の不正は、総務人事部門が管理していることと思います。その中で金銭が関わる不正案件をピックアップし、経理部長も含めてなぜそのようなことが起きたのか事情を聞き、二度と起こらないようにどのような体制を今現在敷いているのかを確認してください。不正は不幸な出来事ですが、その会社の組織上の脆弱な管理体制の部分を洗い出してくれるものでもあります。職場で不正をする人は、職場内の管理されていないところを狙って不正を行うからです。不正が起きた場合は、その環境周辺のチェック体制を強化したり、ルールを作ったりするなどして、不正防止やモラルの向上を図ってください。私も外部講師として不正防止の研修を行わせていただくことが増えましたが、モラルのある会社ほど、このような不正防止の研修を定期的に行っています。特にモラルの高い会社は、社内で総務経理部門などのメンバーが講師となって社内研修も行いつつ、私のような外部講師も別途招いて不正防止やモラル向上の研修も行い、ダブルで行っています。社内だけでなく、社外の力を借りて職場環境を良くするのも一つの方法です。

社長として就任し、時間がない中でもこれらの7項目を確認するだけでも、組織が引き締まります。経理の皆様も同様です。「この社長、この経理担当者は本質をよくわかっている。侮れない」。という第一印象を相手に示すことも、健全な会社経営、健全な数字を作り上げるためには必要な要件です。

この記事の執筆者
前田 康二郎
前田 康二郎(まえだ こうじろう)

流創株式会社代表取締役
エイベックスなど数社で管理業務全般に従事し、サニーサイドアップでは経理部長として株式上場を達成。その後中国・深センでの駐在業務の後、独立。現在は利益改善、コンプライアンス改善、社風改善の社員研修、コンサルティング、講演、執筆活動などを行っている。著書に『メンターになる人、老害になる人。』(クロスメディア・パブリッシング)、『社長になる人のための経理とお金のキホン』(日経BP 日本経済新聞出版)、他多数。