バックオフィス業務のお悩みや、PCAの業務ソフトをお使いの皆様の
お悩み解決を提供する総合サイト

第10回「プロ経理」がお勧めする、前任者から引き継いで社長になった際の確認ポイント(前編)

社長と経理が共有すべき経理とお金のキホン

公開日:2024/11/29

meo240201_img01_pc.jpg
meo240201_img01_sp.jpg

前任者から引き継いで社長になる場合は、経理状況のチェックは不可欠

起業ではなく前任者から引き継いで社長に就任した場合、社長は就任直後から、日々、会社全体の動きを見ながら、「今月は売上がこれくらいで、利益はこれくらいかな」という目安を立て、その答え合わせとして月次決算資料などを見て経営判断をすることになります。その際には、月次決算資料などが「遅滞なく経理から提出され、その数値が正しい」経理体制が絶対条件になります。1か月近く経ってから前月分の月次決算資料ができても、もう月末まで残り数日の状況では、それを見て経営分析をして指示を出して行動に移してもらっても、その月の数字にはほぼ反映されません。ましてや、数字が間違っている資料ではそれをもとに正しい経営判断すらできません。

そのため、経理部門が遅滞なく正しい月次決算資料を作成できる体制になっているかなど、どのように確認をすると良いか、前編・後編に分けてお伝えしていきます。

現状の経理体制の確認

1.経理部門の最低2人以上に「前社長時代に独特な経理処理の指示やルールがなかったか」をヒアリングする

別会社から社長に就任する方、また別のグループ会社からスライドして社長に就任する方には特に確認していただきたいポイントですが、「その会社特有の前社長の決めた経理関連のルールの有無」を確認されることをお勧めします。

たとえば前社長時代に、公私どちらかわかりにくい「グレーゾーンの経費」などを、全て経費として処理するように指示されていた、という「やさしすぎるルール」があるかもしれません。また反対に、「営業訪問時の差入れは、してもしなくても自由なので、差入れの費用は原則営業社員の自腹」など、本来会社で負担すべき費用を社員個人に負担させている「厳しすぎるルール」があるかもしれません。社長の個性によって費用処理などのルールにも差が出るのが会社というものです。本来黒字のはずなのにやさしすぎる費用ルールで赤字になっていた、反対に本来赤字なのに厳しすぎる費用ルールで黒字になっていた、ということも起こり得るということです。客観性を保つためにできれば経理社員二人以上から、前社長時代に特有のルールなどが敷かれていなかったか、また気付いた点があったかなどをヒアリングし、もし実際にバランスの悪いルールがあれば是正してください。

2.税理士や会計士に前社長時代に経理体制や経理処理の課題がなかったかをヒアリングする

経理部門の体制の確認については、経理社員にヒアリングするほかに、客観性という観点から、会社と契約を締結している税理士や会計士の先生方から社長就任時に伺っておくと良いでしょう。先生方から「人員補充やデジタル化を促進してもっと経理部門を増強したほうがいいでしょう」「会計監査や決算手続きの際に、前回このような課題が出ました」などの情報を得ておくことで、経理部門の現状やレベルを客観的に把握できます。また、会社によっては赤字を避けるために減価償却費の計上(固定資産の取得費用を、使用可能期間にわたって分割して費用計上する処理)を任意で見送っていることもあります。また、在庫など資産の価値が陳腐化していることがわかっていても、同様の理由で損失処理を見送っている場合もあるかもしれません。これらのような、「通常であれば費用計上、損失処理されるものが任意で見送られている項目」や、「将来的に損失計上する可能性のある項目」はないかなどを尋ね、事前にリスク管理をしておくのも良いと思います。経理社員・税理士・会計士のそれぞれから情報収集をし、全員の発言が一致していれば客観性のある情報と判断して良いでしょう。

発注に関する確認

3.発注は相見積もりしているか、なぜその発注先を選んでいるかを確認する

社長に就任すれば会社全体の数字を見ることになりますので、社長になる前には知らなかった支払先や支払内容なども多く目にすることになると思います。中には「この費用はいったい何のために使われている費用なのだろう」というものが出てくるかもしれません。たとえば前社長が個人的に知り合いのコンサルタントに仕事を依頼していて、それが前社長退任後も継続されている、ということがあるかもしれません。そのコンサルタントが適任で現社長にも必要であればいいですが、稼働している実態が見えない、稼働はしているけれど高すぎる、ということなどがあれば、契約そのものを見直す作業も必要になってくるでしょう。

仕事の発注をする際は、一般的には2社以上に見積もりを依頼することが基本です。それは、提示された金額が適正かどうかを客観的に判断するためです。それをしないと、相場を大きく超える見積もりを出されても気づかず発注してしまうことが起こります。また、キックバックのような不正も起こりやすくなります。社長ご自身が、「この費用は何の費用?」「なぜこの会社(人)に発注しているの?」「相見積りはとってあるよね?」など、不明な点はどんどん発注担当者に質問していただければと思います。一人では心もとないという場合は、経理担当者に同席してもらってもいいでしょう。社長が質問をすることで「社長が見ている」という牽制になり、不正の発生を抑えることもできます。

ここまで見ていただいておわかりのように、経理というのは、「足し算引き算が間違っていないから問題ない」「申請された通りに集計できているから問題ない」ということではありません。「まず申請されているものそのものが適性かどうか」を社長も経理も見極められないといけません。それが必要だから「人間が」経理のセクションに必要なのです。社長は経理の細かい処理を覚える必要はありませんし、それは経理部長に聞けば良い話です。ただ、会社には何のために経理という部署があるのか、何のために「人間の」経理社員が必要なのかという「本質」はご理解いただき、時として「経理は処理だけできていればいいんです」と主張する経理社員には、逆に社長から「経理の本質」をお伝えいただくことも大切です。

後編では、売上計上や資金の回収、在庫管理などについての確認ポイントについてお伝えします。

この記事の執筆者
前田 康二郎
前田 康二郎(まえだ こうじろう)

流創株式会社代表取締役
エイベックスなど数社で管理業務全般に従事し、サニーサイドアップでは経理部長として株式上場を達成。その後中国・深センでの駐在業務の後、独立。現在は利益改善、コンプライアンス改善、社風改善の社員研修、コンサルティング、講演、執筆活動などを行っている。著書に『メンターになる人、老害になる人。』(クロスメディア・パブリッシング)、『社長になる人のための経理とお金のキホン』(日経BP 日本経済新聞出版)、他多数。