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社長と経理が共有すべき経理とお金のキホン第9回 不正の予防が社長にとって大切な理由
経理社員がいないと社内の不正がチェックできない理由
今の時代に、経理社員が社内に毎日いる必要は何でしょうか。ある経理の人は「それは振込だったり納税だったりできませんよね」と言いました。確かに一理ありますが、でも、それもWEB振込・納税のシステムを利用すれば私のようなフリーランスが代わりに在宅ですることも不可能ではありません。
毎日出社している経理社員ができて、機械や外注社員では難しいこと。そのうちの一つに「不正の有無のチェック」があります。
たとえば社員Aさんが「6,000円の備品を購入した」という申請をWEB上で行ったとします。これが機械や外注社員であれば、WEB上で領収書に記載された情報と申請内容が一致していれば、そのまま承認して終わりです。しかし本来はもう1点確認する内容があります。それは「その申請された領収書が私物のものではなく本物かどうか」のチェックです。
たとえばAさんが購入した備品を実際に目視で確認できればそれは問題ありません。しかし、Aさんが私物の備品を購入してその備品は自宅にあり、領収書の申請だけあげていたらどうでしょう。領収書自体は本物ですが、申請は偽物で不正になります。もし経理社員が出社していたら、その部分の確認もした上で経費精算の承認ができますが、外注業者などであれば、それは物理的にチェックできないのです。
あくまでも外注業者は、渡されたデータは全て「本物」という前提で処理をしてしまいます。そのため、毎日出社している経理社員がいない場合は、私物の領収書を経費精算として承認してしまう恐れがあるのです。
社員の不正が社長の経営判断を誤らせることにつながる
ここで社長の中には「まあ、別に経費精算の中に多少の金額の損失があっても仕方ないですよ。誰しも完璧な人間じゃないし」と思われる方もいるかもしれません。しかし、不正というのは、1件見逃すと、その申請者は繰り返し、その金額も大胆になっていきます。一人で年間数十万、数百万、数千万ということもあるのです。そしてその誤差のある月次決算書の利益の数字を見て、経営者が経営判断をするとどうなるでしょうか。正しくない数字で経営判断をしますから、おのずと「間違った経営判断」をしてしまうのです。
たとえば月次決算が確定し、帳簿上の経常利益が2百万円の赤字だったとします。そのため、社長は「2百万円の赤字だから全社を挙げて2百万円削減できることを提案や実行をして」と全社員に指示を出します。この指示はその月次決算の数字が正しければもちろん正しい経営判断の一つです。しかし、実際にはその会社は赤字ではなかったのです。実は5百万円の不正な経費が計上されていたのです。つまり正しい経常利益は3百万円の黒字だったのです。「赤字だから削減できるものを探して」という経営判断をする必要はなかったのです。むしろ「三百万円の黒字だから、売上を伸ばすために販促費をもう少し使ってみようか」というような、経費を使う指示を経営判断として指示していたかもしれません。そちらのほうが正しい経営判断であることは読者の皆さんもおわかりのことでしょう。
このように、社員が不正を働いてしまうと、金額の損失だけでなく、社長の経営判断を誤らせて、さらなる損失を招く恐れがあるので、「不正はしないでください」と全社的に啓蒙しなければいけないのです。そしてそれは年に一度言うだけでは当然浸透しません。人間は弱い生き物ですので「日々」啓蒙をしなければいけないのです。
デジタルツールを活用して不正の牽制を
啓蒙の方法はいろいろありますが、デジタルツールも活用した効果的な啓蒙方法を一つご紹介します。
新入社員や中途社員が入社した初日、まず、出社した社員に対して、総務人事部門が入社手続きを行うことと思います。通常ならばその後、配属される部署に向かうと思いますが、その前に経理担当者にも30分から1時間ほど時間を作っていただきます。そこで何をするかというと、経費精算の仕方、現場担当者であれば売上請求書の作成の仕方、支払請求書の申請の仕方などを、ダミーの資料やデータを用意して、一通り経理担当者と一緒に申請処理を体験してもらいます。
そのメリットとして、まず入社初日に経理担当者と顔見知りになることによって、実際に初めて入社した人が経理関連の申請をする際に、申請の仕方でわからないことがあった際に経理担当者に聞きやすくなるという点です。誰しも、一度も喋ったことのない人や部署にわからないことに関して質問をすることはハードルが高いのではないでしょうか。そのため、わからないことがあっても直感的に適当に申請をしてしまい、結果的に間違った申請をしてしまって、差戻しをするなど、お互いに負担になることがあります。現場担当者が間違いのない申請をすることが、月次決算早期化のポイントの一つになりますので、そのためにも有用です。
そしてもう一つの理由が不正の防止、牽制に活用できる点です。たとえば経費精算にクラウドのソフトウェアを使っていたとしたら、レクチャーをする中で「ちなみに、このソフトウェアは、社長は権限設定がオールマイティになっているので、〇〇さんの領収書1枚から社長が全て閲覧することが可能なんですよ」と、雑談がてらお伝えするだけで、その話を聞いた相手は「そうなんだ。じゃあこの会社では悪いことはできないな」と思うはずです。不正というのは起きてしまってからの後始末が非常に大変なため、牽制が大切なのです。
このように不正を牽制する施策を打ちながら、社内から犯罪者を出さず、そして正しい数字で正しい経営判断ができる環境を整えてください。
筆者プロフィール
前田 康二郎(まえだ こうじろう)
流創株式会社代表取締役。エイベックスなど数社で管理業務全般に従事し、サニーサイドアップでは経理部長として株式上場を達成。その後中国・深センでの駐在業務の後、独立。現在は利益改善、コンプライアンス改善、社風改善の社員研修、コンサルティング、講演、執筆活動などを行っている。著書に『メンターになる人、老害になる人。』(クロスメディア・パブリッシング)、『社長になる人のための経理とお金のキホン』(日経BP 日本経済新聞出版)、他多数。
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