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社長と経理が共有すべき経理とお金のキホン 第8回 どのような人材を採用して経理体制を構築すればよいか(後編:経理社員と税理士の役割の違い)
簿記ができる人間を一人は社内にメンバーとして入れておいたほうが良い理由
税理士や外部のコンサルタントが、クライアント先の会社とのやりとりに関して一番時間も手間も無駄にかかってしまうケースは、「その会社の中に、簿記がわかる人が一人もいない」というケースです。経理の世界は「会計用語を知っている前提」で会話が進みますので、誰か一人でも社内に簿記がわかる人がいれば、税理士やコンサルタントなどとのやりとりもスムーズですし、サポートもしやすいのですが、そのような方が不在だと、コミュニケーション自体をとることすら難しいことがあります。
社長から見て「うちの会社は税理士やコンサルタントを雇っているのに、どうして会社の数字がすぐに確定できないのだろう?」となっているのは、税理士やコンサルタントの能力というより、社内に簿記がわかる人がいないため、業務上の会話のコミュニケーションが円滑に進められていない可能性があります。
人手不足の時代ですので、積極的な外部人材、外部業者の活用は私も大賛成ですが、「外部に丸投げして社内には経験値の高い経理社員を一切雇わない」というのは、逆に非効率になっているケースが多く見受けられます。簿記をわかっている経理社員がまず一人いて、その上で事業拡大や繁忙時期に応じて外部人材や外部業者に委託するなどといった連携の仕方であれば効率的で、費用対効果も高くなると思います。
税理士では「計上漏れ」「不正」のチェックが完璧にはできない物理的な理由
経理社員にはできて、税理士の先生などはしづらいこと、それは売上や費用などの「計上漏れの有無のチェック」そして「不正のチェック」などです。士業の先生方は「毎月計上されているものが今月は計上されていないけど大丈夫ですか」という、過去データから推測をして確認を求めることは可能ですが、外部の方達は、毎日その会社の現場社員の方達と関わることはできませんので、計上漏れの有無や不正に該当する領収書や請求書かどうかといった判別をすることが困難です。それができるのは、日常的に現場社員と関わっている社内にいる経理社員です。まだ規模が小さい会社で、社内に簿記がわかる社員がおらず、税理士の先生に会計処理を外注している会社も、規模が大きくなったら経理社員を採用したほうが良いという理由の一つもこのためです。計上漏れの有無や不正のチェックは日常的に現場社員と関わっている簿記の知識がある経理社員が行い、その経理社員のサポートを税理士が行う、という体制が会社の健全化には理想でしょう。
成長が前提の会社であれば、経理処理は内製化が理想
税理士事務所の中には「領収書や請求書のデータを共有してくれれば、会計ソフトへのデータの入力を代行して月次決算の資料までこちらで作ります」という事務所もあります。1から起業する場合は、そのような事務所にお願いをして、振込処理などだけ自分達でやる、という形でもいいと思います。ただ、会社そのものを成長させていきたい、という場合は、30人、50人と社員数が増えていき、取引量も激増していくと、税理士事務所にタイムリーな月次決算(目安として翌月8営業日~10営業日以内)をお願いすることは税理士事務所も忙しいので難しくなっていきます。そのため、会計ソフトへのデータ入力くらいは社内でできるように内製化したほうが良いでしょう。その上で税理士の先生に「データの入力が全て終わりました」と連絡をして会計データの内容をチェックして頂き、正式な月次決算確定という形をとるのが良い連携の一例でしょう。
滞留債権など消込のチェックに要注意
また、気を付けなければいけないことの一つに、「税理士の先生は帳簿内のチェックを何でもやってくれる」と依頼している会社側が思い込んでいることがあります。実際に私の周囲の社長から伺った経験談としては、売掛金でいえば、何年も前の滞留債権が残ったまま誰もチェックできておらず、相手先も倒産してしまってお金が回収できなかったということや、滞留債権だと思っていたら売上の二重計上の単純ミスが発覚して修正したということ、そして支払に関しても同様に未払残で残っているものが二重計上で仕訳処理が間違っていることが税理士を変えた時に引き継いだ次の税理士が発見した、といったこともあります。税理士の先生によって、サービスの程度は千差万別です。「なんでもやります」の「なんでも」はそれぞれの税理士の先生で違いますので、本来はそれを確認できる人が会社側にいることが必要なのです。経理部長レベルでなくても経理の実務経験が数年ある人であれば、そうした確認や交渉もできますので、税理士のサービスレベルに翻弄されることもありません。そのような観点からも、できれば経理社員を社内に一人採用していただいたほうが、その数倍、社内業務の生産性も健全性も上がることと思います。
経理社員と税理士の業務範囲の住み分け
まとめますと、税理士の先生の業務というのは、基本的な考え方として、会社側が「これが当社の会社の年間の収支のデータです」と提出されたものを「信用した上で」、税理士の立場で想像できうる限りのチェックを念のためした上で、税金計算や申告手続きなどをしてくれる立場の方です。それとは別に、オプションとして「請求書や領収書や通帳明細のデータを送っていただけたら追加料金をいただければ代行入力もできますよ」というサービスをやっていらっしゃる先生がいらっしゃる、というだけのことで、本来は、そこは経理社員のやるべき業務範囲です。だから世の中の税理士全ての方がそれをやるわけではありませんし、仕訳内容のチェックも、そこは本来経理社員の業務範囲ですので、自発的にチェックしてくださる先生もいればそうでない先生もいらっしゃるということです。
その部分の作業を、追加料金を支払い税理士の先生にお願いをしてももちろんいいのですが、その代わり、その中に私物や架空の領収書や請求書などがあったとしても、経理社員がいればそれを発見し、不審に思い社長に相談、報告して不正を防ぐことができる場合も、税理士の先生は、社内の細かい事情を知りませんので基本的には「正しい証憑」として認識します。「多少の不正は仕方なしとして経理社員を採用せず振込などの処理以外は全て税理士に外注する」のか、それとも「経理社員を採用した上で税理士と連携をとってもらい生産性、健全性の高い体制を築く」のか。社長の経営判断、自己責任でお決め頂ければと思います。
筆者プロフィール
前田 康二郎(まえだ こうじろう)
流創株式会社代表取締役。エイベックスなど数社で管理業務全般に従事し、サニーサイドアップでは経理部長として株式上場を達成。その後中国・深センでの駐在業務の後、独立。現在は利益改善、コンプライアンス改善、社風改善の社員研修、コンサルティング、講演、執筆活動などを行っている。著書に『メンターになる人、老害になる人。』(クロスメディア・パブリッシング)、『社長になる人のための経理とお金のキホン』(日経BP 日本経済新聞出版)、他多数。
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